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テナガエビの見分け方 -日本の本土に生息する3種類-

テナガエビの仲間で、本州、四国、九州で見られるのは、
3種類だけといってよいようです。
●テナガエビ(淡水湖群・汽水湖群・河口域群)
●ミナミテナガエビ
●ヒラテテナガエビ(別名ヤマトテナガエビ)
※たまに、琉球産種が黒潮で流れ着く場合も。琉球産テナガはこちらが詳しいです⇒琉球淡水エビ

こちらのサイト等を参考に⇒【テナガエビの見分け方の参考画像リンク集
できるだけ一瞬で分かる事を目標にした
簡単なテナガエビの見分け方を探ってみました。

3種類だけですから、見分けは簡単です。
ヒラテテナガエビは、淡水エビの中でも一番独特な容姿なので、
無理に間違えようとしなければ間違いませんし、
“テナガエビ”として一緒に扱われているテナガエビとミナミテナガエビにしても、
姿形は似てはいますが、コツを押さえれば意外と容易です。

テナガエビの仔エビ時代がスジエビと混同されるというのは
よくあると思いますが、これも模様を良く見れば間違えることはないでしょう。


まずは胸の横を見ます

「m」模様で見分ける

エビの顔と胸にあたる部分をつくる大きな甲羅を頭胸甲と呼びますが、
その頭胸甲の側面の模様を見ます。
簡単に云うと胸の横の模様です。

テナガエビの若エビ。mの文字に似た模様がクッキリあります。

胸横に「m」の文字に似た模様があるかどうかを見ます。
これがあれば、テナガエビかミナミテナガエビになります。
細い横線や迷路模様ならヒラテテナガエビです。
「逆さハの字」であればスジエビです。
※テナガエビは薄くなっていたり、崩れていたりする場合も多いので注意です。
しかし、薄くなっている場合でも、mの後ろ側、弧を描いて下へ落ちる線は健在。

正直な所、この胸の横の模様のみでも見分けは成立してしまいました。
これに額角の長さや、各種が持つ独特の部分を加味する程度で充分と思います。


テナガエビ


テナガエビは、胸横に、はっきりしない「m」模様があります。
細い鉛筆で書いたような、ちょっと崩れたm模様です。
小さな個体ではややクッキリしています。
大きな個体になると細く、薄く、崩れていきます。
崩れ方としては、弧を描くmの後縁の部分が残り、
mの縦の線の部分が消える感じです。
それに対して、
ミナミテナガエビでは体が大きくなっても「m」は細くなったり消えたりしません。
ここから、体が大きくて「m」が消えていたら、テナガエビ!という判断も出来ます。

最大級に大きくなった♂の個体。
m模様の周囲にも模様が出てmが不鮮明です。
不鮮明で大型のテナガエビは「テナガエビ!」とも云えます。

テナガエビは額角がとても長く、
下側の第二触角鱗片(ヒゲのそばに生えている二枚の大きな板)
との差があまりありません。
この部分も加味すると見分け確率アップです。


汚い川にいる個体は、しばしばこんな色になっていて
m模様が見えにくい場合も多いです。(透けては見えますが)
そんな場合は、他の見分け方でも確認します。
・額角が長い
・腰の一番出っ張った部分に黒帯がない
m模様が薄く、腰に黒帯がなく、額角が長いのでテナガエビです。


テナガエビの特徴の一つが、
ハサミの部分に生えているたくさんの毛。
♂の大型個体の長い腕の先にあるハサミには、
こんな短い毛がびっしり生えています。
ミナミテナガエビには目立つほど生えていないようですから
ここでも区別できます。
ただ、♀や若い個体に生えているのかは確認していませんし、
ハサミが小さいので、確認する事自体が難しいかもしれません。


テナガエビの若エビはスジエビと混同される事が多いと思いますが、
・胸横にm模様がある。(スジエビは「逆さハの字」模様)
・腰の一番出っ張った部分に、腹側まで通る黒帯がない。(スジエビにはある)
・m模様以外に目立つスジや模様がない。(スジエビはスジだらけ)
・額角の上側の棘が細かい。(スジエビは粗い)
・第一触角の上側二本が白くない。(スジエビの場合は白い
などで見分けられます。
m模様か逆さハの字か、だけでも充分ですが、
これらを足していくとより確率が高くなると思います。

追記2008・10・11
そして、テナガエビの駄目押しが指節の長さです。
脚の先の爪が、他の二種類に比べて、あきらかに長く、細く、そしてやや横倒しです。
細長い脚の爪を、内側に折り曲げて、その爪の背の部分で歩くような印象なら、
まず間違いなくテナガエビです。
他の二種は、川の流れの速い場所にも適応し、
遡上をする性質がありますから、脚も太く、爪も太く短いですが、
このテナガエビは、流れが比較的苦手で遡上もしないようですから、
そのあたりで、脚の爪に大きな違いが生まれているようです。
参照⇒【テナガエビの指節

 


ミナミテナガエビ


ミナミテナガエビには、胸横に、太くクッキリとした「m」模様があります。
太くクッキリしているのに、さらにmの回りの色が抜けています。
文字の回りをぐるっとmに沿って消しゴムでなぞったかのようです。
これによって、mの文字が更に際立ちます。
大きな個体でも「m」模様は太くて、くっきりしています。


大型のテナガエビ(左)の画像に悪戯書きをして、
ミナミテナガエビ(右)にしてみました(笑)。
太くよく目立つm模様が、さらに淡い色で縁取りされて浮き出ます。
ミナミテナガエビは大型個体でもm模様が崩れません。
この部分がテナガエビとの大きな違いです。

小さな個体の場合は、“m”というよりも“(1)”あるいは“川”に近い模様かもしれません。
mの上の部分が繋がっている感じが少ないようです。

額角の長さは、テナガエビとヒラテテナガエビの、ちょうど中間くらいです。
長くもなく、短くもない。それが特徴とも云えます。

♂の大型の個体では、長い腕の先端のハサミの部分に、
毛が生えていないのが特徴のようです。
上のテナガエビには、剛毛がブラシのように生えていますが、
ミナミテナガエビには生えていません。
つるつるとした印象の指先になっています。
しかし、♀や若い個体では確認するのは難しいかもしれません。

 

「m」模様の濃さと、爪の短さを見れば簡単!

以前からこちらのサイトに書かれているように、
テナガエビとミナミテナガエビの決定的な違いで、
しかも簡単に見分けられる部分は、指節の長さです。
これは本当にハッキリと分かります。
一瞬で見分けが完了するほどです。
上の写真のように、歩脚(歩くための脚)の爪が小さくて短いのです。
一方のテナガエビでは、これが長く、
しかも、爪の外側で歩くような印象です。⇒【テナガエビの指節
長い爪で、しかもその外側で歩くので、くじいてしまいそうな印象の歩き方です。
ミナミテナガエビは、そのような心配の要らない、
上の写真のような、ごく普通の爪といった感じです。
この爪で、ちょっとした壁面は平気で登って歩きます。
テナガエビよりもさらに上流部にまで分布し、
仔エビが遡上する性質があるミナミテナガエビには、
このような遡上に向いた脚の形質が備わっています。
河川の最下流部や、湖沼、汽水域などに生息し、
ほとんど遡上とは縁のないテナガエビは、
急流の壁を登るような太短くて力強い爪ではなく、
華奢で細い脚に、長い爪です。
※テナガエビとミナミテナガエビの見分け方としては、
ハサミに毛が生えているか・いないかで語られる事が多いですが、
それだと、若い個体やメスに関しては使えません。
こちらの「指節の長さ」で判断したほうがより簡単で便利です。
指節の比較であれば、メスや小さな個体にも適用できます。
指節(脚の爪)の長さを比較することを見分けの主流にしたほうが、
あきらかに利が大きいと思います。

追記(2008・10・01)
ミナミテナガエビを採集しました。
1.m模様の違い
2.指節の長さの違い
3.性質の違い
などが分かりました。
参照⇒ミナミテナガエビの若エビ
参照⇒ミナミテナガエビの指節

●テナガエビの長い指節の写真はこちら。
比較参照⇒テナガエビの指節
比較参照⇒テナガエビの手脚

●性格の違いも顕著なので、見慣れると、
行動を見るだけでも分かるかもしれません(子エビ)。
参考⇒ミナミテナガエビの採餌行動
参考⇒ミナミテナガエビの隠遁の術

 


ヒラテテナガエビ
存在感自体が他のエビと一線を隔しているので
あえて違いを書きたてる程のものでもないかもしれませんが、
雌の個体が混同される事はあるようです。

◆「m」模様がない!

ヒラテテナガエビは、胸横に「m」模様がありません。
若いエビの場合は、
前から後ろへ水平に流れる線が数本走っている場合が多いです。
同じ個体でも大きくなると細かい迷路状の模様になる場合もあります。
大型個体になると、ほとんど模様らしいものが無くなっていく傾向にあります。

「m」模様が片鱗すらないので、テナガエビ&ミナミテナガエビとの見分けは容易です。
目から後ろに水平に走る細い線と、
その線の間に迷路のような模様をつくる細かい線が特徴です。
額角が短く、第二触角鱗片との差が大きいです。
(目から先の長さ全体が短いとも云えます)

◆ヒラテテナガエビの独特な特徴

1.頭胸甲の側面にm模様がない。
m模様がまったくありません。

2.腰の出っ張った部分に黒い帯がある。
黒だけではなく、よく見ると黄白色の帯も並んで入っています。
テナガエビ3種の中で、この黒帯があるのはヒラテテナガエビだけ。
これは大きな見分けポイントです。
スジエビにも、この部分に黒いスジが入りますが、
スジエビの場合は、腹側にまで達します。
ヒラテテナガエビは半分程度までです。

3.ひじ前後の節が同じ長さ。
人間で云うと「ひじ」に相当する間節の前後の節が
同じ長さ、同じ太さ、同じ形状です。
写真でいうと、体に近い側が「長節」、その隣りが「腕節」という名称なようです。
テナガエビやミナミテナガエビでは、この2つの節の長さは同じではありません。
長さが違うために、手の置き位置が「三角」や「おにぎり」を連想させるような位置になります。
それに対し、ヒラテテナガエビは、頭の上で「○」をつくるジェスチャーのような感じになることが多いです。
まったく同じ円筒型の節が、ひじの両側に並んでいるので見分けは楽です。

比較として、テナガエビの場合。
テナガエビは「ひじ」の間節の前後の節が
全く違う長さです。

4.額角が短い。
比較の問題ですが、テナガエビ>ミナミテナガエビ>ヒラテテナガエビです。
慣れると顔の違いとして認識できるほどに短いです。
額角の形状がややミナミテナガエビと似ているので、
見慣れないと混同し易いかもしれません。
どの見分けポイントもそうですが、一箇所だけを見て同定してしまうのは避けたほうが良いと思います。
参照⇒【ヒラテテナガエビの額角

5.腕が異様に太い。
上の写真は、まだ成体ではないので細めですが、
おとなの特に♂の大型個体は異常なまでに腕が太いです。
そして、その腕がザラザラした質感を持っています。

◆若い個体

ヒラテテナガエビの若い個体は、独特の色彩をしています。
なんとなくアシナガバチを連想してしまいました。
胸横に「m」模様がなく、白黒の「シベリア」模様があります。
間節がオレンジ色で、良く目立ちます。参照⇒【ヒラテテナガエビ若エビ】【腕の再生
この間節のオレンジ色は、意外と大きな個体にも残っているようです。
ハサミの先がオレンジ色なのも、このエビの特徴です。
(大きくなるほど、ほんの先の部分になっていきます)
他のテナガエビも、子供の時期は関節は橙色ですが、
大人になるとなくなってしまうようです。
※スジエビは大きくなっても(あまり大きくなりませんが)関節は黄色。

◆子エビ時代

小さな個体では、胸の横に、斜め後ろに流れる細い線が三本見えます。
m模様は無く、この三本線です。
この三本線が、やがて迷路模様となっていきます。
(最大級の個体だと迷路模様もぼやけて行く傾向があるようです)
腰の部分には、細いですが、しっかりと線が入っています。

◆幼エビ時代

もっと小さな時期は透明なだけに近いですが、
ハサミ脚の間接の黄色味が強い、
目が大きい、
すでに腰に線が巻いている、
などで、見当がつきます。
ルーペで確認すれば、斜め線が入っていますし、
m模様はありません。


「逆さハの字」模様の場合はスジエビ


スジエビには墨で筆書きしたような黒い筋がたくさんあります。
中でも胸の横の「逆さハの字」はよく目立つ特徴です。
地域的な差からか、線の色が茶色がかったり、
筋の位置が微妙にずれたり、細かったりもしますが、
概ね、こんな感じの模様です。

◆スジエビの見分けポイント

1.胸の横に「逆さハの字」模様があります。【スジエビの模様
2.腰の一番出っ張った部分に、一本の黒いスジが腹側まで通っています。【スジエビの模様
3.その他にもあちこち黒いスジが入っています。(テナガエビにはm模様のみ)
4.第一触角(鼻先にある4本)の上側2本が白い場合が多いです。参照⇒【スジエビの触角
5.額角は長い個体が多く、上側の棘が5本くらいで粗く数えられる程度です。
先のほうは急に細くなります。細くなった部分には棘はありません。

スジエビの額角。
ギザギザの数が少なく、テナガエビのように高さや広さがありません。
先端付近が急に細くなって、ピノキオ状態。
ちいさなギザギザが多数あるテナガエビとは違います。

このスジエビは随分と額角が短い個体です。
テナガエビもそうですが、額角は反り具合や厚みなども個性が強いですから、
ここだけでの同定というのも、かえって難しい場合がある気もします。
標本からの判別ではないですから、
模様なども含めた総合的な特徴が、より多く一致するかどうかで
判断したほうが賢明です。
この部分に限らずですが、一箇所や二箇所のポイントで判断するのは早急過ぎるので、
避けたほうが良いと思います。

◆スジエビはテナガエビ科ですが、
大きさが小さい事からヌマエビ類ともよく間違われています。
スジエビとヌマエビ類の見分け方⇒【スジエビの見分け方

◆テナガエビには「肝上棘」という独特の棘が生えています。
⇒【テナガエビの肝上棘
スジエビには生えていないという事でしたが・・・・・・↓

鰓前棘に要注意!
よく、スジエビとテナガエビの違いとして、
“テナガエビには肝上棘があり、スジエビには肝上棘が無い”
と書かれているのを見掛けますが、
“スジエビには肝上棘の代わりに、すぐそばに鰓前棘が生えている”
ということわり書きが書かれているのは少ないです。
この棘の有無で見分けようとする場合は、
両方の棘の位置を正確に暗記してから挑まないと誤認の嵐になりそうです。
参照⇒【スジエビの鰓前棘
似たような位置に似たような棘が生えています。
上や下から見ただけではほとんど同じ棘でしょう。
(よほど詳しくない限りは見分けに使わないほうが賢明と思います)

 

以上のような点を見れば、テナガエビ科4種の見分けは
かなり簡単に出来るのではないかと思います。
専門的な見分け方が有っても、見分ける気がしない方法では、無いのと一緒ですから、
間違いが許されない専門的な見分けでもない限りは、
このような感じで見分けるだけでも、随分と種類は絞れてくると思います。
(絞れてから専門的な確認をするほうが能率的ですし)

 

2007/04/10


もう一度、こちらを参考にさせて頂くと良いと思います⇒【テナガエビの見分け方の参考画像リンク集
もっと別の有効な識別点が見付かるかもしれません。


2008/10/01 ミナミテナガエビの項目に追記
2008/10/11 テナガエビの指節リンク追加
2008/10/30 ミナミテナガの指節などへリンク追加

 


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