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アメリカザリガニ
子ザリを抱えた母ザリガニ



アメリカザリガニの面白いところは、孵化した子エビが一旦親から離れても、
また腹肢に戻ってくるところです。
産んだ卵を腹肢に抱える「抱卵」という状況まではヌマエビ類と一緒ですが、
卵の殻が取れ、丸い頭の子ザリガニになっても腹肢にそのまま付いています。
そして、歩けるようになって、しばらく母ザリの周囲をヨチヨチ出歩いた後に、
再び母親の腹肢に戻って、ぎっしりとしがみ付いています。
これはヌマエビ類やテナガエビ類などには無い習性です。
小卵型のヌマエビ類はゾエアを流れに放出して「はい、さようなら」ですし、
大卵型であっても、一度腹肢から飛び出した稚エビが再び腹節の下に戻る事はありません。
孵化してからもしばらくの間、子供の面倒を見ることによって、
ザリガニの子供の生存率は大幅に上がる事になっていると思います。


母ザリガニを脅かして、飛び退かせてしまったりすると、
子ザリガニが数匹、勢いで跳び出し、迷子になってしまう事があります。
10匹近くも母ザリガニから離れてヨチヨチ歩いている事がありますが、
しばらくして見てみると、また母親の腹肢にちゃんと戻っています。

どのように戻るのか観察してみると、
地面に落ちて取り残された子ザリガニは、
母ザリガニの巨大な影に臆する事なく手を上げて近寄って行きます。
まるで小さな子が手を上げて
「ママー、ボクここだよー」とでも言っているような光景です。
母親のそばまで来るのは比較的容易ですが、
歩いている母ザリガニを登って、腹肢の部分に辿り着くのは容易ではありません。
巨大なハサミに乗ったり、歩いている脚にしがみついたりしますが、
振り回されたり、すべって落ちたり、
自ら小さくバックジャンプしてしまい、また親から離れてしまったりと、簡単には戻れません。

しかし、うまく出来たもので、ハサミや脚に無理にしがみ付かずとも、
もう少し待っていると、まるで救命用ロープのようなものが稚ザリの目の前に垂れ下がって来ます。
上の写真にも見えますが、稚ザリがいっぱい付いている部分に、
薄くてやや幅のある紐のような物が何本かあります。
これがその救命用ロープです。
母ザリガニの腹肢の先端部分なのですが、
歩いている母ザリガニから、ちょうど手を上げた稚エビの目の前くらいに垂れ下がる長さがあります。
しかも小さなハサミでも掴み易い様に細かい毛がいっぱい生えています。
稚ザリガニは、この腹肢の先端のヒラヒラした長い部分にしがみつき、
少しよじ登って、無事に元の場所に納まります。

こんな光景は、微笑ましい、親子の絆を感じるような部分ですが、
子ザリガニにとって、母ザリガニは必ずしも自分の母親である必要はないようで、
通りかかった子守り中の雌ザリガニなら誰でも良いようです。
と言うのも、数匹の子守り中の雌ザリガニを同じ水槽に飼うと、
そのお腹の下には、あきらかにその兄弟とは大きさの違う子ザリガニが混ざってしがみ付いていたりします。
1.5倍から2倍はあるであろう、どう考えても隣のウチの子が一緒にくっ付いて揺られています。

迷子になっている稚ザリガニが、通り掛かった雌ザリガニに回収されていけば、
御互いの子供が迷子になって天敵に捕食されてしまう確率が随分と違ってくるはずで、
厳密さの薄い親子関係が、彼らの生息数の拡大にも大きく関わっている気がします。
こんな持ちつ持たれつな関係が、彼らの生息地でも日常的だとすると
ちょっと面白い感じがします。

そして、最も不思議なのは、母ザリガニから離れている時は
餌を奪い合ったり近付く兄弟に突然襲い掛かったりもする子ザリ達が、
母親の腹の下では、全く喧嘩をする素振りがなく、
他の親の子も含め、仲良くおとなしく丸まって揺られていることです。
共食いも辞さない状態と、体が密着してしまっているのに平気な状態という、
極端な行動を分けるものは何なのか・・・
今一つ分からないものがあります。

 

2006/12/08


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