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たくさんの普通のテナガエビの中に、
たまに眼が離れていない個体が混ざっていることがあります。
そういう個体はヒラテテナガエビである事が多いので、別容器に分けておきます。
この個体も、眼の離れ具合はテナガエビよりは寄り眼でした。
しかし、その胸の横にはm模様が存在しました。
特に気にせずに、普通のテナガエビと思っていましたが、
上から見た時に、腕が作る円に違和感がありました。
ヒラテテナガエビが作る円とそっくりでした。
あらためて確認してみると、歩脚の指節が短い事に気がつきました。
よく見ると、m模様も太く濃く、「m」というよりも「川」に近いです。
1.指節が短く太い
2.m模様が濃く太い
この特徴は、ミナミテナガエビの持つ特徴です。
(琉球列島には「m」模様の珍テナガは多数居ますが)
頭胸甲の側面の模様が明らかに太いです。
ミナミテナガエビはm模様ではないのが分かります。
「m」の上の部分が繋がっていません。
漢字の“川”といった模様です。
それがとても太く、くずれた印象ではありません。
テナガエビの場合、線が途切れたり、極めて細い部分があったり、
ひょろひょろと左右に乱れたりしますが、
この個体は、太い筆で一気に引いたような線が3本入っています。
個体の大きさとしては、まだまだ、小さな個体です。
スジエビよりも小さい程度です。
右下にカワコザラガイの殻がありますが、
それがかなり大きく写っています。
小さい割りに、第二胸脚(太い腕)が大変に太く、
全体の雰囲気に「子エビ」という感じがありません。
スジエビやテナガエビだと小さな個体には幼さがあるのですが、
このミナミテナガエビにはそれを感じません。
エビの形としての完成度が高く、普通に大人のエビを感じます。
テナガエビとの違いである「眼の離れ具合」。
そして、違和感を持った「腕が作る円」です。
ミナミテナガエビの幼エビは、掌節と腕節の間の関節がよく曲がる印象です。
掌節(ハサミを含む手のひら部分の節)がよく曲がるので、腕が作る円が○になるのです。
テナガエビの場合は、腕節と長節の間の関節(ひじ)でしか曲がらない印象が強く、
手で作る形が「おにぎり」のような感じになります。
バケツの中でバンザイをして泳いでいるテナガエビ類の中で、
最も眼が離れているのがスジエビで、これはすぐに分かります。
次いで離れているのがテナガエビ。
そしてミナミテナガエビとヒラテテナガエビです。
3cm前後の個体達は、どの種類も透明で、
黒い眼だけが目立ちます。
上から見るとほとんど一緒に見えますが、
見ているうちに、段々と違いが分かって来るようになります。
透明な体に黒い眼が2個ついたエビが、
目が回るほどグルグルとたくさん回っている容器ですが、
眼と眼の距離や、目の大きさなどが違うのです。
掌節の部分を曲げて餌を探しています。
この曲げ具合が、テナガエビと違います。太さも太いです。
性格は、極めてせわしないです。
餌を探す時の行動などは、たいへんに素早いです。
ヒラテテナガエビも敏捷性に優れたエビですが、
それとほぼ同等です。
スジエビやテナガエビよりは遥かに行動的で敏捷です。
ヒラテテナガエビの幼エビ。
眼が黒くて大きく、
胸の横に「m」模様がないので見分けは容易です。
このエビの敏捷さは飼っていて面白い部分です。
参照⇒【ヒラテテナガエビの若エビ1】
参照⇒【ヒラテテナガエビの幼エビ2-1】
参照⇒【ヒラテテナガエビの幼エビ2-2】
ヒラテテナガエビと若干違うのは、
ヒラテは植物食かと思うような、付着物を盛んに食べるツマツマ行動が見られるのに対し、
こちらは小動物を探す為に動き回るという感じが強い事です。
手や腕を広げて盛んに走り回って、
そこに触れた小動物を瞬間的に捕獲する事に長けている感じがします。
エビ水槽には様々な小生物が発生しますが、
ヌマエビ類はなかなかそれらを食べません。
ヌマエビ類を取り出した後に、ミナミテナガエビを入れてみたところ、
それらの生き物を次々と捕獲して食べている様子が観察できました。
たいへんに素早いので、何を捕まえているのかは分からないのですが、
4本の手の一本にでもそれらが触れると、瞬時に他の手も同時に捕獲に関わり、
瞬間的に包囲するような形で捕まえています。
(もちろん、スジエビやテナガエビで見掛ける“直接かじり”もします。
スポンジフィルターに生えている短い藻類を顎を直につけて齧ります)
ミナミテナガエビのその食欲は警戒心を越えているようで、
ガラスの苔取りをしようと、手を水槽に入れてガラスを磨いていると、
突然、飛びついてきてチクチクっとした痛みを与えてきます。
同じ大きさのテナガエビの場合は、ガラス掃除をしているほど動かしている手には、
警戒心を抱いて、近付くよりも跳び退く事のほうが多い印象です。
そーっと指を出せば指に留まり、ツンツンはして来ますが、
手も細いので痛いほどではありません。
ヒラテテナガエビも、水槽の外の手の影に敏感に反応して瞬時に跳び付いて来ますが、
それは脅かす意味合いが強い印象なのに対して、
ミナミテナガは普通に、手を大きな餌だと判断していました。
「ハンの実」程度の大きさの割りに、随分と度胸があるのには驚きました。(無鉄砲なだけ?)
他に気が付く、テナガエビと違う部分は、
このような垂直な壁をなんの苦労もなく歩いてしまうことです。
地面を歩くのと大差ない感じです。
テナガエビよりも短くしっかりとした指節で、
がっちり壁の凹凸を掴まえています。
テナガエビよりも上流部に棲むというのは、
このあたりからも良く解かります。
テナガエビのように、細くて長い指節でのバレリーナのような歩き方ではなく、
太い脚と、短い指節でしっかりと歩きます。
当然、脱走への警戒は怠る事が出来ません。
(採集時でも、掬い上げた網の中を歩いてしまうのはミナミテナガエビ。
横になったまま跳ねているだけなのはテナガエビです。
ミナミテナガエビは、指で何度ひっくり返しても立ち上がって歩きます)
あとは、やはり腕が太い事が目立ちます。
色も濃く、関節の黄色も大きな斑点になっています。
同じ大きさのテナガエビには、ここまで腕が太い個体は居ませんし、
関節の黄色い部分も、ここまで大きくなく、スジエビと同等程度です。
細くて、手首ではあまり曲げない腕に、小さなオレンジ色がちょんちょんとついています。
ミナミテナガエビは、普通に見るテナガエビと、姿形こそよく似ていますが、
性格はだいぶ違う印象です。
テナガエビよりも、むしろヒラテテナガエビに近い感じです。(仔エビに関して)
テナガエビの行動や仕草を見慣れている方なら、
その行動の違いだけでも別種と判断できるかもしれません。
スジエビとテナガエビは大きさの違い程度で、
それほどの性格の違いは感じませんが、
それに対して、ヒラテテナガエビは異色でした。
そして、このミナミテナガエビもかなり異色な存在です。
このエビ、テナガエビと混同させておくにはおしい種類です。
今回の「違和感」を確かめなかったら、ずっと、ただの仔テナガエビで処理していたと思います。
というか、過去に採集した中にも、かなりの数のミナミテナガエビが混ざっていただろうと思います。
こんな面白いエビと、とっくに出会っていたのに、全く気が付きませんでした。
ミナミテナガエビは典型的な両側回遊種だそうで、黒潮が通る沿岸の河川には、
琉球列島から関東にまで存在するようです。
(台湾、琉球列島、本州・九州の3グループがあるようです)
当然、“南”テナガエビですから、個体数は南に行くほど多く、
地域によってはテナガエビよりも優占種である場合も多いそうです。
しかし、種類としては“テナガエビ”として一括りだったりで、
あまり別の種類としては認識されていない事も多い印象です。
親エビは、かなり上流部に暮らすようですが、
幼エビは意外なほどの下流部にも居ました。(海から上がっていく途中です)
数少ない、せっかくの別種ですから、
早めに見分けて堪能したほうが良いことは間違いないです。
両種の性格や行動の違いなどを比較しながら飼ってみると、きっと面白いと思います。
2008/09/25 岩
採集時などに、上から見た幼エビの印象はこちらのような感じです。
参照⇒【ミナミテナガエビ(幼エビ)の上から見た状態】
見分けに便利な指節。
ミナミテナガエビに比べて、テナガエビは明らかに脚の爪が長いです。
ここを見比べれば、見分けは容易。
参照⇒【テナガエビの指節】
◆おすすめリンク
ミナミテナガエビ
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebisyurui/M.formosense.html
形態や生態などがたいへん詳しく書かれています。
ページの更新はされていませんが、色褪せない魅力があります。【KENKEN’S HP】
番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
額角に頓着せず、「見た目」に重点を置いた掲載方式です。
淡水エビの「種類の違い」というものが、より身近に感じられる事は間違いなしです。
種類も間違いなしと思います(個人的には違和感ゼロ)。ここは安心してお薦めできます。
「淡水エビは額角でしか見分けられない」なんてことはありません。
こちらのサイトを参考に、どんどん見分けると良いと思います。
※このサイトに感じた要注意点
1、あくまでも九州大分県に生息するエビの情報です。
2.ヌマエビと書かれているのは、現在のヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)。
3.ヌマエビ北部−中部群(旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型)は載っていません。
4.全国に定着しつつある外来シナヌマエビ類も載っていません。
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