感潮域で本当のミゾレヌマエビ(写真一番右奥)を採集した時に混ざって採れたエビです。
左のオス個体の腹節に透けて見える“紅白模様”の並びから、
最初「ヌマエビ南部群」と思いましたが、
胸横に「ミの字」模様が発見できず、頭を見たら、つるつるのハゲ頭でした。
右のメスの個体は眼柄が長く、目が水平に付き、斜視。
よく見れば見るほどヌカエビでした。
「ヌマエビ南部群」は“ミゾレヌマエビ”として御馴染みのエビで、
本当のミゾレヌマエビと同じく小卵型(ヌマエビ小卵型と呼ばれていた)です。
海との縁が切れないエビですから、
ミゾレヌマエビと一緒に居ても不思議はないと思い、
その部分でも「ヌマエビ南部群」と最初は思いました。
しかし、このエビはヌカエビでした。
淡水繁殖のヌカエビがミゾレヌマエビと一緒に居るのには少し違和感を覚えましたが、
オスメスが揃って採れたという事と、卵巣を充分に発達させていることから、
普通に感潮域ほどの下流でも生活しているようです。
我が家で増減を繰り返しているヌカエビとは尾根一つ隣りの河川域産です。
レッドビーシュリンプと一緒に繁殖していた個体群とは二つ隣りになります。
以前の二つはオイカワやホトケドジョウ、サワガニなどが棲む中上流域産です。
それに対し、こちらはボラの子供が大挙して泳ぎ、砂底はハゼの子やエビジャコだらけ、
土管の中には巨大なチチブが存在する世界です。
干潮時には小さな水溜りになってしまう干満に左右される場所産です。
腹節下部を縦走する“紅白模様”がよく目立つオスの成体。
胸横にはミゾレヌマエビの“撥ね上がり”のような模様が二本見られます。
こんな小さな写真でも頭がつるつるなのが分かります。
額角上にも棘が四つ程度まばらにあるだけでした。
メスの個体。大変に目が離れており、腰は出っ張っています。
眼上棘もありました。頭はつるつる。
このあたりの体型の特徴は旧ヌカエビそのものです。
体にまぶした黒コショウのような模様も一緒です。
しかし、体色は以前のものとは、かなりな違いがあり、
模様が濃く、赤い色素が多いです。
胸横に色の抜けや、点が集中して大きな斑紋を作っている部分も目立ちます。
特にオスの個体には、個人的な“ヌカエビ”の認識を外れるような感覚を持ちました。
ヌカエビは河川ごとに色彩が違う印象は強いのですが、
この一群はさらにその認識を強くするものでした。
もう一つ、他の個体群と違う印象を持ったのが、
この河口域の個体群の姿勢です。非常に前かがみなのです。
オスではそれ程でもないのですが、
メスは写真上のような姿勢でいる事が多いです。
抱卵していない状態だとメスの腹節の付け根付近にも、
オスと同様に“紅白模様”が縦走しているのが見えます。
卵は大き過ぎず小さ過ぎずのヌカエビサイズです。
とうぜん海水を必要としない淡水繁殖性ではあると思いますが
生息している場所からすると
ゾエアが下流に少し流されるだけで海ですから、
若干の塩分耐性があっても不思議はないかもしれません。
(他の川の河口まで、純海水の海を渡れるとは思えませんが)
追記2007/06/17
この予想とは完全に逆でした。
孵ったゾエアはとても大きく、
より海まで流されない方向に進化したタイプでした。⇒【ヌカエビ感潮域の一群のゾエア】
余談ですが、ミゾレヌマエビ、レッドチェリーのオス、タイガーシュリンプ
と混泳状態にあった一匹のヌカエビのメスが産卵した後に脱卵。
この水槽にはヌカエビのオスが居ないので、
卵巣を大きく発達させていたこのメスを、
オスの居る水槽に移そうと思っていた矢先の出来事です。
他種との交接まがいの状態になり産気付いてしまったのかもしれません。
相手がミゾレヌマエビのオスだとすると、
生息地でも繁殖の妨害があるような気もします。
実際、採集時にも、このヌカエビの数はミゾレヌマエビより極めて少数でした。
参照リンク
◆生田緑地の池にいる生き物
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ecofront/hotoke/zukan/nukaebi.html
斑紋の濃いヌカエビ・メス
◆身近の生き物
http://members.at.infoseek.co.jp/sabatsuri/igamasa/ikimono07.html
http://members.at.infoseek.co.jp/sabatsuri/igamasa/ikimono27.html
ヌカエビは眼が水平。あるいは斜視な場合も多い。
むしろスジエビより離れ目なのかも。
酒匂川中流部
http://www.ed.city.odawara.kanagawa.jp/odawara_sizen/sizen/kawara/3106.htm
離れ目
◆ヌマエビ属とヒメヌマエビ属の区別点
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi5.html
脱ぎたての脱皮殻があれば、
死なせずに専門的な同定が可能なようです。(顕微鏡があれば)
◆ヌカエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/nukaebi.html
ヌカエビは「ハゲ頭」。眼上棘が見えずともこれで容易。
◆ヌマエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/numa.html
ここに書いてある分布には悩まされましたが、
“本州中部以南”はヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)の分布。
“北海道を除く”はヌマエビ属全体の分布(旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型+旧ヌマエビ小卵型)。
で良さそうです。
現在は北海道にも南部群が移入中とのこと。
◆北海道のヌマエビ南部群
http://www.geocities.jp/polo6nhs/AZ/EBI01.html
完全に定着しているもよう。
ここまで大きな写真でも、眼上棘の確認は困難。
ゾエアの写真の中に、尾扇化を果たした稚エビらしきものが見えます。
ヌマエビ北部-中部群も含まれているのかも。
2007/06/11 岩
※『ヌカエビ』に関しては、遺伝学的な距離によって、
以前の分類が大きく変更されているようです。
ヌカエビを含むヌマエビ属全体が見直され、
・ヌマエビ小卵型⇒ヌマエビ南部群
・ヌマエビ大卵型⇒ヌマエビ北部-中部群
・ヌカエビ⇒ヌマエビ北部-中部群
となり、南部群と北部-中部群は別種とされる方向です。
長く親しんだ名称なので、ヌカエビと呼んでいますが、
ヌカエビは正しくは「ヌマエビ北部-中部群」の一地域個体群となると思います。
参照⇒【ヌマエビ・ヌカエビの新事情】
「感潮域のヌカエビ」について一部訂正です。
同一河川産と思っていた中上流域の個体群は尾根一つ向こうの河川産でした。
「同一河川の中上流域と感潮域では色彩が違う」という解釈は白紙に戻します。
(逆に、同一河川産は同一の色彩であるという事でもありませんが)
機会があったら、あらためて同一河川の上・中・下流域で採集して
いろいろと観察してみたいと思っています。(訂正2007/06/17)
ヌカエビの詳細は⇒こちら