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ヌカエビ
“ヌマエビ北部-中部群”という暫定名称(?)になったエビ
2007年にヌマエビ大卵型と共に再びヌカエビに戻ったようです


ヌカエビの情報には、種類の取り違えや、生態の誤解などが非常に多いです。
一つの生き物としての『像』が成立していないくらいの滅茶苦茶ぶりです。
個人的に検証しなおして整理しましたので、新たに知りたい方には好都合かと思います。
長文なのは、この種類の誤情報の多さや混乱の深さそのものです。(端折り様がないので仕方ありません)


情報が錯綜している原因として考えられるのは、以下のような感じと思われます。
1.淡水エビ研究の中心地は九州・沖縄な為、そこに生息しないヌカエビは蚊帳の外。
九州のエビ好きな管理人さんのサイトでは、エビの種類間違いは見たことがないほどで、
地域の人とエビの結びつきが濃いのだろうなという想像がつきます。
しかし、九州・沖縄にはヌカエビが生息しないので、
九州・沖縄発で出版される本があっても、ヌカエビが載りません。
同じく九州・沖縄発のサイトがあってもヌカエビの情報はありません。
その時点で情報量として大きく遅れを取ります。
2.ヌマエビの亜種とされていた事
ヌマエビ属のエビ。頭に棘が有るか無いかで、ヌマエビとヌカエビに分けていました。
その分け方だと、ヌマエビには大卵型と小卵型がある事になりました。
しかし、遺伝子を比べたところ、ヌマエビの大卵型はヌカエビでした。
ヌマエビ小卵型と、ヌカエビ+ヌマエビ大卵型は別種だったのです。
ヌマエビの亜種とされていましたので、
生態や体形も大差ないだろうといった扱いを受けているように思えます。
現在は明確な別種ですが、過去に受けた“軽い扱い”が現在にも響いている印象です。

 

■ヌカエビの特徴■

◆『出眼』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヌカエビを初めて見た方の感想で見掛ける事が多いのが『出眼』。
目が真横に広がって生えているのです。
目玉をつなぐ柄の部分が長いようです。
おそらく、日本の主なヌマエビの種類の中では一番離れ目だと思います。
この眼だけを見て「スジエビだ!」とされてしまうことも多く、
「魚を襲う」といった冤罪を被っている例も多く見かけます。
逆に、「おとなしいスジエビ」として飼われている事も多いようです。
テナガエビ科のスジエビと違い、ヌカエビはヌマエビ科。
写真でも、手(第一・第二胸脚。ハサミのある二対)が短いのが解かると思います。

参考画像『スジエビ』

テナガエビ科のスジエビ。
関節が黄色い長い手脚と、黒いスジ模様のあるエビ。
胸の横に「ハ」を逆さにした模様を持ちます。
肉食性が強く、
脱皮したてのヌマエビ類は、彼等のよい餌となってしまいます。

 

◆『波裏富士』のような模様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヌカエビの胸の横には、北斎の浮世絵『波裏富士』を連想できそうな模様があります。
周囲が白く抜けた胸の横に、黒く独特な形の模様が浮かびます。
若いエビや雄エビでは薄いですが、模様の位置自体は一緒です。


大波と富士山に見たててみるのも面白いです。
この模様の有無で、他種との見分けが随分と楽になります。
ヌカエビの多くは目立たない薄い飴色で、ぬかをまぶしたような細かい模様です。
その細かい模様が、この部分に集まり、独特の模様を形成します。
ただ、エビ全般に云える事ですが、
子エビ、若エビ、そして雄では模様が薄い、あるいは少ない傾向になります。
逆に大型の雌は模様が濃くなります。
色彩が深緑色やこげ茶色、濃紺や黒にまでなる個体もあるようです。
しかし、色は違っても模様の特徴は同一方向です。
小型の個体や雄は透明感がやや高いですが、ヌカエビは全体的に濁った印象があります。

緑色の濃い大型♀。
額角が見えない小さな画像でも、
独特の模様を持つので、見分けは容易。

 

◆『性格は温和そのもの』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヌカエビの性格は温和そのものです。
喧嘩や攻撃性とほぼ無縁です。
ヌマエビ科ですから、レッドビーシュリンプとも一緒に飼えます。
ビーシュリンプは喧嘩好きなヌマエビ類ですから、
体が大きくても、ヌカエビは簡単に負けてしまいます。
負けてしまうと云うよりも喧嘩をする気がありません。
簡単に場所を譲ります。

スジエビの見分け方(?)として、よく、
『透明で、腰が曲がっていて、眼が出っ張っているならスジエビ』という文章を見かけます。
こんな見分け方では、ミゾレヌマエビやヌマエビ(南部群)、
そしてヌカエビはスジエビになってしまいます。
特にヌカエビは他種に比べ、眼が出っ張っているという特徴まで一致してしまいます。
テナガエビ科とヌマエビ科は、『手の長さ』を最初に見なければ意味がありません。
しかもスジエビというくらいですから、スジエビのスジは濃くて太くて長いです。
テナガエビ科は、絶えず仲間の攻撃を警戒して、近寄る仲間とは仲が悪いです。
ハサミが届かない一定の距離を常に保ちます。
一方、ヌマエビ類は、餌にワーッと集まり、互いの体が触れたり重なったりする事に、
大きなストレスはないようです。
他の個体と仲良く寄り添ってツマツマと食べ続けます。


こちらはスジエビ。
早食いで、餌を抱え込んで、どんどんと胃に送り込みます。
このような目立つ色の餌を与えると、
頭の後ろの胃がうねうねと動いて面白いです。
ヌカエビの胃は動きません。

 

◆『淡水で繁殖します』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヌカエビ(ヌマエビ北部-中部群)は、どの地域の個体群も淡水繁殖のエビです。
「大卵型」ではないですが、この写真のような大きめの卵を産み、
孵化したゾエア(写真で、親の尻尾の先で下向きの子エビ)は、
しばらく浮遊生活をした後、親と同じ着底生活になります。
『中卵型』と呼ぶのが相応しい生活で、繁殖に海水は要りません。
巷の雑誌やサイト等では、「ソエア=海水必要」という発想からか、
よく「小卵型である」と断言されているのを見掛けます。
淡水エビの繁殖形態は小卵型と大卵型の二つしかないかのような情報が圧倒的ですが、
このヌカエビや純淡水型スジエビなどは、どちらにも含まれない『中卵型』です。
生息各地で、亜種になり得るほどの違いもある事が確かめられています。
陸封種特有の現象で、小卵型のように海でゾエアが均一化されない証明です。
浮遊生活をする期間は地域や水系で違う印象です。
かなり小さなゾエアが長期間舞う個体群もあれば、
卵が孵って、いきなり着底してしまう個体群もあるようです。
極めて近い地域でも、水系が違うと、ゾエア期間に大きな差があります。
川の上流か下流かでも差があるかもしれません。
それほどに各地で分化が進んでいる最中の生き物です。
参照⇒【ヌカエビの繁殖
参照⇒【渓流域産のゾエア
参照⇒【渓流域産のゾエア後期
参照⇒【感潮域産のゾエア
参照⇒【レッドビー水槽で繁殖

 

◆『外肢』が生えています。⇒詳しくは【ヌカエビの外肢】と【ヌカエビの外肢2

上の写真で、左の歩脚3本の付け根付近に、透明な小さな細い脚があります。
これが外肢と呼ばれるもので、ヌマエビ属(ヌマエビ・ヌカエビ)にある特徴です。
ヒメヌマエビ属のヤマトヌマエビやミゾレヌマエビにはありません。
カワリヌマエビ属のミナミヌマエビやシナヌマエビにも生えていません。
テナガエビ科のスジエビにも生えていません。
外肢は安いルーペ(実質3倍以上は欲しい)でも見易いです。肉眼でも見えるかもしれません。

 

外肢は必ず確認!
ヌカエビは他種との混同や種類の取り違いが非常に多いエビです。
1.シナヌマエビ類(外来のミナミヌマエビの近縁種)との混同。
近年、急速に日本各地で殖えているシナヌマエビ類。
“ミナミヌマエビ”、“ブツエビ”、“タエビ”として販売されているものが野外に放されたもののようです。
関東や東北地方には元々ミナミヌマエビが生息しなかったため、
「関東で採れたからヌカエビ」という安易な判断で紹介されている例が多いです。
ヌカエビ以上に水槽でも簡単に殖えるため、
採集したシナヌマエビ類を純国産のヌカエビとして飼っている方は多い。
参照⇒【シナヌマエビ(販売名ミナミヌマエビ)とヌカエビの見分け方

2.スジエビとの混同。
前述したように、テナガエビ科のスジエビとの混同は非常に多いです。
参照⇒【スジエビの見分け方

これらの種類間違いを簡単に防いでくれるのが『外肢の確認』です。
虫眼鏡で、脚の付け根を見るだけ。
大きな個体なら肉眼でも見えるかもしれません。
デジカメでマクロ撮影したら、嫌でも写ると思います。
ここをちょちょいと見るだけで、世のエビの混同は九割り解消できるのではないかと思います。
「エビを捕ったら、まず外肢」くらいなつもりで見ると良いと思います。
参照⇒【額角より外肢!外肢を見る効用
どのエビに対しても必ず見ると良いです。まず間違えずに済みます。

 

◆眼上棘が生えています。⇒詳しくは【ヌカエビの眼上棘】、【ヌカエビ(感潮域産)の眼上棘

眼の真上。額角の付け根の部分との隙間に前を向いた棘が生えています。
これが眼上棘と呼ばれるものです。
ヌマエビ属(ヌマエビ・ヌカエビ)にだけある特徴です。
角度によっては、かなり見にくいです。肉眼ではまず無理でしょう。
外肢の有無と眼上棘の有無は重なりますから、
見易い外肢を見れば、特に出番はありませんが、
顔のアップなどでは威力を発揮します。

 

ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)の見分け方

以下のような順番で見て行くと見分け易いと思います。
1.全体のシルエット⇒【ヌカエビとミナミヌマエビの見分け方】体のうねうね具合が随分と強いです。
2.目の出っ張り具合や角度⇒【ヌカエビの顔クロ−ズアップ】や【感潮域のヌカエビ
3.独特の斑紋の配列⇒【ヌカエビの模様の特徴
4.外肢⇒【ヌカエビの外肢1】と【ヌカエビの外肢2
5.つるつるハゲ頭⇒【ヌカエビの横から見た頭部】や【ヌカエビの顔周辺
※ヌカエビの地域変異「旧ヌマエビ大卵型」には棘があります。
6.眼上棘⇒【ヌカエビ(中流域産)の眼上棘】と【ヌカエビ(感潮域産)の眼上棘
外肢まではぎりぎり肉眼でも見えるかもしれません。
倍率の高い100均のルーペはあって損ないです⇒【100円でエビの世界に入れます
デジカメでマクロ撮影してもOKです。

※「体が透明」、「目が出ている」、「腰が曲がっている」などはエビの共通点なので、
見分け方法としては使えません。
(翼があって、茶色くて、ピーピー鳴くから「スズメ」と云っているようなもの)
エビに見慣れて、小さな違いが解かるなら足しにはなるかも?くらいです。
そこだけで、見分けが完了する事はまずありません。
ほかにも、他種との共通性が高い為、エビの見分けに使えない部分は、
・背中を真っ直ぐに通る明るい縦線(背骨のような模様も)
・腹節の出っ張った部分(腰)の部分に入る鞍状の輪っか、です。
このあたりは、どのエビにも有ることが多いです。
(もちろん、濃さや配置の特徴まで見れば、参考の一つにはなります。
共通性を越えるまで比較し尽くせば、特徴として使えるとは思います)

 

 

古〜い情報や誤情報に要注意

ヌカエビは、淡水エビ学の中心地である沖縄や九州からは程遠い地域に生息する為か、
非常に研究が遅れている印象のあるエビです。
この種に対するイイカゲン情報は物凄く多いので、
覚悟した上で独自にしっかり勉強したほうが良いと思います。
(当然、ここの情報も“他人”の情報ですので、自己判断してください)
個人的に現在分かっている、古い情報や巷の誤情報との対比は以下の通り。

×小卵型で、繁殖には汽水が必要・・・・・・「ゾエア=汽水・海に下る」ではないです
「中卵型」という表現が認識し易いと思います。
やや小さめの卵を産み、浮遊幼生(総じてゾエアと呼ばれます)として孵化しますが、
淡水中でそのまま稚エビとなります。海には下りませんから、海水は要りません。
完全な陸封種で、各地に亜種レベルくらいまでの地域個体群がいくつも存在します。
よく、「淡水で繁殖できるエビはミナミヌマエビだけ」という記述を見ますが、
ヌカエビ(+旧ヌマエビ大卵型)は、ミナミヌマエビを凌ぐ淡水繁殖の一大勢力です。

産まれてすぐは、頭を下にして浮遊している事から、
「浮遊幼生=小卵型=海水が必要」という誤解を受け易いエビです。
水質を良好に保ち、やや珪藻(茶ゴケ)が生え易い環境にすると、
淡水中で勝手に稚エビになっています。
地域や水系の違いで、いきなり着底する個体群や、
本当に小さなゾエアだったりと、様々な成長段階で孵化するようです。


中卵型なので、卵の数は多めですから、殖え出すと一気に殖えます。

 

×ヌマエビとヌカエビは亜種関係・・・・・・額角に拘りすぎた大間違い
よく見る定番の表現ですが、
ヌカエビとヌマエビは別種であることが分かっています。
額角上の棘が眼の後方にまであるのがヌマエビ。
額角上の棘が眼の前方までなのがヌカエビ。
とされてきましたが、
これだと、眼の後方まで棘がある陸封個体群が存在してしまい、
それがヌマエビ大卵型と呼ばれていました。
しかし、これは遺伝子的にヌカエビの一種である事が分かり、
ヌカエビと共に「ヌマエビ北部−中部群」という暫定名称にされています。
それに対して小卵型で繁殖に汽水が必要なタイプが、
ヌマエビ南部群と呼ばれています(商品名“ミゾレヌマエビ”でお馴染みです)。

つまり、額角上のちっぽけな棘の差で、ヌマエビにはヌマエビ小卵型と、ヌマエビ大卵型が居るとされ、
ヌカエビヌマエビ大卵型とは交配する事からヌマエビとヌカエビは亜種とされたようですが、
遺伝子的な比較でヌマエビ大卵型は、実はヌカエビの棘が少し多いだけだったという事が判明。
ヌマエビ小卵型⇒ヌマエビ南部群
ヌカエビヌマエビ大卵型⇒ヌマエビ北部−中部群
の二つに組み直されました。
この両種は別種であることが交配実験で確認されています。
そもそも「棘の違いは絶対に種類の違いだ!」という根拠はないはずです。
その事が証明された一例でもあります。⇒【ヌマエビ・ヌカエビの新事情

以前の分類
ヌマエビ

Paratya compressa compressa (small egg type)(ヌマエビ小卵型)
Paratya compressa compressa (large egg type)(ヌマエビ大卵型)
ヌカエビ
Paratya compressa improvisa

            

現在の分類
ヌマエビ南部群

Paratya compressa compressa (small egg type)(旧ヌマエビ小卵型)
ヌマエビ北部−中部群
Paratya compressa improvisa(旧ヌカエビ)
Paratya compressa compressa (large egg type)(旧ヌマエビ大卵型)

※このままの学名では、まだ亜種を意味してしまうので、
いずれ学名は変わると思います。
※ヌカエビとヌマエビ大卵型は、同種を別の名で呼んで来ていたわけですが、
新たに今度は別種を同じ名で呼ぶという混乱必至の呼び方になりました。
混乱を避ける為、当ページではヌカエビとヌマエビ大卵型でヌカエビと呼び、
ヌマエビ小卵型をヌマエビ、あるいはヌマエビ南部群と呼ぶことにします。

 

個人的にも、ヌマエビ(南部群)が採れる河川でヌカエビも採集した事があります。
亜種関係であれば太古から交雑していて、中卵よりも小さい卵サイズで均一化されていそうですが、
両種の交雑個体と思しき中間的な模様の個体を捕獲した事はないですし、
卵の大きさもヌカエビは大きいものばかりでした。
額角にも中間的な個体は居らず、ヌカエビの頭はツルツルなだけ。
ヌマエビはギザギザなだけでした。
大昔から黒潮に運ばれてヌマエビのゾエアがヌカエビの棲む川へ供給され続けているのに、
ヌカエビには額角の変化も卵径の変化も色柄の変化も生じない。
つまり、
「ヌマエビ(南部群・小卵型)とヌカエビは別種です」

ということになります。
“ヌマエビ大卵型”という発想を持つと、まるでヌマエビがヌカエビと交雑するかのように見えただけで、
ヌマエビ大卵型はヌカエビの頭に棘が多かった個体や個体群であり、ヌカエビと同種ですから、
交配して繁殖するのは当たり前です(同地域のただの棘の個体差を亜種として分けていたりもした)。
亜種間の交雑ではなく、同種のふつうの繁殖。
つまり、頭の後ろまで棘のあるヌカエビと頭には棘が無かったヌカエビの生殖行動でした。
ヌマエビ(南部群・小卵型)はヌマエビとだけしか繁殖しませんし、
ヌカエビ(+ヌマエビ大卵型)もヌカエビ同士で繁殖するだけ。
つまり、ヌマエビとヌカエビはそれぞれ独立した別種です。
「ヌマエビにもヌカエビにも亜種は居ません」
となります。

 

×ヌマエビとヌカエビの見分け方は額角上の棘が眼の後方まであるかないか・・・・・・頭に棘のある個体も
ヌマエビとヌカエビの見分け方として古くから使われていた方法、
額角上の棘が、眼の上を越えて頭部後方まで有るか無いかは、
上記のような理由で、現在は使用しても意味ないですし、同定を誤まる事になります。
同一地域内の個体差でも棘が有るか無いかがあるらしいです。
(同腹の兄弟をヌマエビとヌカエビに分ける事になる程度の精度)
ヌマエビとヌカエビを区別する手法として極めて有名ですが、とても使えません。

写真は、額角上のギザギザが目の前までしかないヌカエビ。
目玉と目玉の間にある透明な角にノコギリ状のギザギザが見えますが、
これが眼よりも後ろには無く、頭はツルツルです。
旧ヌマエビ大卵型はヌカエビと同種であることが判明しましたが、
以前ヌマエビとされただけあって、眼の後ろにもギザギザがあるそうです。
つまり、ヌカエビには、目の前までしか棘がないものと、
眼の後ろにまで棘があるものが存在します。
頭がつるつるハゲ頭とは限らないという事です。

日本産の淡水エビ情報には、額角の棘のみに固執し、
模様や生態などを見ないで種類を決めるという悪い習慣が根強い印象があります。
額角のみが尊大で、他は鼻くそ扱い。
識別ポイントのバランスを欠いてしまい、真実から程遠い判別結果を生んでいるのに、
極めて危うい、たった一つの識別方法に、いまだにすがっているという感じがあります。
(額角が折れているヌカエビが途端にトゲナシヌマエビにされていたり、
種類特有の模様を顕著に表わしているにも関わらず他種の名前が掲載される出版物・情報源が多数)

最初から、模様や色彩、繁殖形態など、数多くの類似点・相違点を比較していれば、
たとえ眼窟後縁よりも後方の頭部に棘を持つヌカエビが発見されても、
「ヌカエビには頭の後方にも棘を持つ個体が居る」という程度で踏みとどまる事が出来たはずで、
“ヌマエビ大卵型”という発想は生まれずに済んだのではないかと思います。
そうであったなら、色柄も繁殖形態も違うヌマエビとヌカエビが、
額角偏重から生まれた架空の存在“ヌマエビ大卵型”に仲介されて、
無理に亜種関係にされる事もなかったように思います。
生きた両種の特徴を多角的に積み上げていれば、少々の事ではびくともせず、
“ヌマエビとヌカエビは亜種である”というお馴染みの迷文句は生まれなかったはずと思えます。
たった一本の棘の有る無しで、ひょいひょいと種類が移動するような、
単一で脆弱な識別方法だけでは、真実に合致しなかったのは至極当然という気がします。
模様や生態を突き詰めて行って、九割九分「ヌカエビ」と判断されていても、
僅か一分、棘が眼の上を越えていただけで、コロッとヌマエビになる。
おかしな世界としか言い様がありません。
(DNAを比較しなければ覆らないというのも問題。
額角でなければDNA!では飛躍し過ぎで、どちらも一般にはむずかしい手法)

 

×ヌマエビとヌカエビは酷似していて見分けは困難・・・・・・普通に見分けられます
ヌマエビ大卵型とヌカエビの見分けが困難なのは当然です。
同種なのですから、酷似しているのは当たり前です。
非常に恥ずかしい印象を持つ表記ですが、普通によく見掛けます。
ヌマエビ(ヌマエビ南部群)とヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)の両種の見分けは簡単です。
ヌマエビは観賞魚店や通販で“ミゾレヌマエビ”と呼ばれて売られています。
あの黄色い点がたくさんあるやや綺麗なエビがヌマエビ(ヌマエビ南部群)です。
ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)は地味で、眼が横に出っ張っています。
・ヌマエビ(南部群)は、100%近く“ミゾレヌマエビ”として誤認され続けている。
・アクアリストが、その“誤認のミゾレヌマエビ”とヌカエビを混同している事はない。
ということからも、両種は酷似していないですし、見分けは簡単である事が分かります。
参照⇒【ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)の模様の特徴
参照⇒【ヌマエビ(ヌマエビ南部群)の模様の特徴
ヌカエビとヌマエビは模様が全く違いますし、
眼の出っ張り具合も違います。
アルコール漬けの標本の場合には、色素が抜けてしまい、
互いの差が極めて微量になってしまうという事で、
ヌマエビとヌカエビの見分けは困難という“常識”が成り立っているのだろうと思いますが、
これは模様や色彩を見ない研究者が書く本の上でのお話と思います。
色のある生きている状態では、まず見た目のみで区別できると思います。

 

×亜種のヌマエビには小卵型と大卵型の個体群がある・・・・・・ヌマエビ大卵型は居ません
ヌマエビには小卵型と大卵型があるとされていましたが、
ヌマエビ大卵型はヌカエビの一地域個体群であることが確認されています。
「ヌマエビの大卵型」ではなく、
「ヌカエビの眼の後方まで棘が生えていた個体や個体群」です。
ヌマエビ小卵型は旧来通り、ヌマエビ=ヌマエビ南部群=商品名ミゾレヌマエビです。
このヌマエビ南部群は琉球列島産と本州産では若干DNAに距離があるそうですが、
小卵型であるため、各河川で放出されたゾエアが海に下って混ざり、
再び遡上するという生活史なので、地域差がほとんど存在しないようです。

ヌカエビは中卵型という表記がしっくりくる浮遊ゾエアで孵化しますが、
海へは下らず、そのまま淡水で稚エビになるタイプです。
ヌマエビ大卵型はヌカエビと同種ですから、
ヌカエビと同じ生活史と考えて良いものと思います。

「大卵型」という定義はけっこうあやふやなのかもしれません。
「小卵でなければ大卵」といった使われ方にも思えます。
よく、本や雑誌などに、古くから繰り返し繰り返し、
「淡水エビには小卵型と大卵型の2種類の産卵形態がある」と書かれますが、
それでは現在分かっている淡水エビの実態にはそぐわないです。
産卵形態は3種類あると判断したほうがより分かり易いと思います。
2種類にしか分けていない説明ばかりなので、
スジエビやヌカエビ、淡水型のテナガエビなどへの理解が進まないわけです。
・小卵型⇒小さな卵をたくさん産み、ゾエアは海へ下って成長、稚エビが川を遡上する。
・中卵型⇒やや大きな卵を産み、浮遊ゾエアで孵化、そのまま淡水中で稚エビとなる。海水不要。
・大卵型⇒大きな卵を少数産み、稚エビで孵化する。海水不要。
ヌカエビは“中卵型”という表記が一番ピッタリです。

 

×関東や東北にだけ生息・・・・・・西日本にも広く分布します
山陰地方や琵琶湖などにも生息する、
いわゆる「ヌマエビ大卵型」もヌカエビの地域型であることが
遺伝子レベルで判明したようです。
よく云われる関東や東北限定のエビではないです。
関東や東北、東海、山陰、琵琶湖周辺などに広く分布する事になります。


以前の分布図(額角で分けていた時代)と、現在の分布図(詳細に調べられれば、もっと広がる可能性があります)

愛知県知多半島以東や、新潟県村上市以東・以北といった、
明確な生息の境がある訳でもない事になります。
額角の棘のみで分けた場合には、このような分布が見られたという事であり、
分布の境とされた地域には、額角上の頭部後方にも棘が有ったヌカエビと、
棘が無かったヌカエビが混在していた(個性・個体差の範囲)という事になると思います。

逆に、この生息分布より以西・以南の地域では、
生息している甲殻類として「ヌマエビ」としか書かれていない情報に、
多くの旧ヌマエビ大卵型が含まれているはずです。
旧ヌマエビ大卵型=頭に棘のあるヌカエビですから、
今後、再確認が必要になると思いますが、
両種を見分ける手法が「棘の有無」の後が「DNAの差」にまで飛躍してしまうので、
中間的な手法を見出せなければ、調査は難しそうに思えます。
⇒【本州中部って?
⇒【ヌマエビ・ヌカエビの新事情

 

×肉食で魚を襲って食べる・・・・・・スジエビとの混同が原因
しばしば見掛ける誤まった情報です。
眼が同じように出っ張っていて腰の曲がっているスジエビとの混同が原因のようです。
参照⇒【スジエビとヌカエビの見分け方

 

×ヌマエビは田んぼで養殖できる・・・・・・淡水繁殖はヌカエビで、ヌマエビの繁殖には汽水が必要
以上のような経緯を全部知った上でなら解かると思いますが、
田んぼで養殖できるのはヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)です。
旧来からのただのヌマエビは淡水では繁殖できません。
同種をいつまでも「ヌマエビ」という一言を冠して呼んでいると、
こういう新たな混乱が生まれて来ます。
(出荷する商品名が“ヌマエビ”になるらしい)
せっかく事実が解かって来たのに、
その事実が、新しい混乱や間違いを生む事になっていくのでしょうか。
●ヌマエビ南部群
●ヌマエビ北部-中部群
こういう分け方を見て、ふつうこれを別種とは思いません。
南の方に住んでいるヌマエビ、北の方に住んでいるヌマエビ、
ただそう思うだけだと思います。
現在までに広く知られた“ヌカエビ”という種名を無くし、
“ヌマエビ”という別種2種が含まれた名前を冠するのは新たな混乱の元です。
分かったのは単純に「ヌマエビ大卵型はヌカエビだった」という事実だけです。
所属が移動しただけですから、
一般に広く良く知られた“ヌカエビ”という呼び方を個人的には続けます。
そうすれば、一方のヌマエビ南部群も“ヌマエビ”でOKなままで済みます。
この2種は別種ですから、
別種であることがハッキリと分かる別の名で呼ぶのが相応しいと思います。
(つまり、今まで通り「ヌマエビ」「ヌカエビ」で良いという事)

この大変に説明不足な状況は、ヌマエビ属以外のヒメヌマエビ属や、
カワリヌマエビ属も含めた全部のヌマエビ類が北部や南部といった生息地で分かれているだけという、
とんでもない誤解を、一般の方に対して生み出しています。
つまり、すべてのヌマエビ科の分類を白紙にしてしまったかのような誤解です。
「ヌマエビ」というヌマエビ類の総称としての意味も持つ名前が、
一種を指す種名としても使われ続けている事が、
誤解の原因として大きく加わっています。
一般への説明責任と、誤解を防ぐ努力が欠け過ぎているのを感じます。

個人的には、もっと違いを際立たせて、
ヌマエビ南部群は「ホンヌマエビ」くらいに呼んでしまって良さそうに思えます。
ヌマエビ全体の総称としての“ヌマエビ”からも切り離されて、名前の混用が防げます。
琉球列島付近の個体群は、若干、遺伝子が違うという事ですが、
亜種の「リュウキュウホンヌマエビ」と呼ぶほどではないのかもしれません。
「ヌカエビ」はそのままで良さそうです。
両種に関しては、以下のような感じにしたほうが混同がなく憶えやすいです。
(正式にも、もう少し解かり易くしても良さそうなものですが)

【ホンヌマエビ】ヌマエビ科ヌマエビ属
ヌマエビ=ヌマエビ小卵型=ヌマエビ南部群=観賞魚店での販売名“ミゾレヌマエビ”。
黒潮の当たる日本沿岸の河川に分布。
小卵型で淡水水槽内での繁殖は不可能です。(海水が必要)
ヌカエビとは亜種ではないことが確認されています。
模様や色彩も違い、行動パターンにも違いが大きいです。
一般には“ミゾレヌマエビ”の名前で知られていますが、
本当のミゾレヌマエビはヒメヌマエビ属なので、外肢や眼上棘が無いことで判別は容易です。
売られている“ミゾレヌマエビ”は外肢があり、眼上棘もあるヌマエビ属ホンヌマエビです。
両種は模様が全く違うので、見分けも容易です。
水槽内では3年前後生きることがあります。

ミゾレヌマエビでおなじみのホンヌマエビ。
明るい印象で、やや色彩も豊富。
ヌカエビよりも透明度が高い。
“ミゾレヌマエビ”として古くから販売されていますが、
全部の歩脚に外肢が生えているので簡単に誤まりである事が分かります。
色彩や模様しか見ないと、逆にこういう種類間違いが生じます。
この間違いを元にした出版物等の誤情報の量は深刻な状態にあり、
もはや国民的誤認の域に達していると言えます。
ヌマエビを見た多くの方が「ミゾレヌマエビ!」と即答するのではないかと思います。
エビの正しい種名を知るには、額角・模様に限らず、
一箇所だけで判断しては駄目ですね。

【ヌカエビ】ヌマエビ科ヌマエビ属
ヌカエビ=ヌマエビ北部-中部群=ヌマエビ大卵型
山陰、関東、東北、東海、琵琶湖周辺などに広く分布。
中卵型で、浮遊ゾエアで孵化し、そのまま淡水中で稚エビとなります。
淡水の水槽内でも繁殖は比較的容易です。(海水不要)
海との繋がりが要らず、池や沼、山間の小川などにも生息します。
陸封種なので生息各地で亜種相当の個体群があります。
隣り合う水系でも、孵化するゾエアの発達程度が違うほどです。
棘の有無でホンヌマエビの大卵型地域変異と思われていたヌマエビ大卵型は、
遺伝子の比較でヌカエビの地域個体群の一つであった事が判明しています。
これにより、ヌカエビはホンヌマエビとは亜種ではなく、晴れて別種となりました。
模様にも大きな違いがあり、
ホンヌマエビは“ミゾレヌマエビ”として観賞用に販売されるほど綺麗ですが、
ヌカエビは何の変哲も無い地味なエビです。
眼の離れ具合も広く、見分けは容易です。
性格もヌカエビのほうが、かなりのんびり・おっとりしています。
水槽内では3年以上生きることがあります。

和名を「デメヌマエビ」にしてしまうというのも混乱を避けるにはよいかもしれません(笑)。

 

沼には居ないヌマエビ

よく、「○○沼で採集されたヌマエビかヌカエビ」といったように、
亜種とされた両種の判断に困り、名前が並んで表記されているのを見かけますが、
溜め池や沼のような環境であればヌカエビである事になります。
ヌマエビは小卵型の降海種ですから、
流れが無い環境では、孵化した幼生が容易に海まで下れないので、
繁殖をし続ける事が出来ません。
ヌカエビは中卵型で、やや浮遊期を残すものの、淡水繁殖で、海には下りませんから、
海から隔てられた溜め池や沼でも世代交代ができます。
頭に生えた棘から見た場合にのみ、
ヌカエビの頭に棘が生えていた個体群が“ヌマエビの大卵型”という誤まった見方をされ、
溜め池や沼に生息する種類として「ヌマエビ」として登録されるという現象が、
西日本を中心に起きていたと考えられると思います。
しかし、ヌマエビ大卵型はヌマエビ小卵型の産卵形態の違いではなく、ヌカエビ側の所属。
つまり、ヌマエビとは別種で、ヌカエビと同種です。
生活スタイルや色柄からすれば、元々ヌカエビそのものと思います。
名前からすれば、沼に居るのがヌマエビという感じですが、
沼に居るのはヌカエビです。
ヌマエビは海まで下れる川にしか居ない事になります。
一方、ヌカエビは池や沼だけでなく、川にもふつうに生息します。
それでも、遺伝子に地域差が多い事から考えると、
ヌカエビの幼生は海にまで下ると死んでしまうと考えるのが妥当のようです。
海が必要なヌマエビと海が恐いヌカエビです。
“ヌマエビ大卵型”という発想が消えると、両種の生態的な違いがクッキリします。
「ヌマエビかヌカエビ」といった、まるで大差ないかのように、
すぐ横に続けて並ばされるような間柄ではないのが解かります。

 

ヌカエビと間違われやすい生き物

●『スジエビ』・・・・・・テナガエビ科 スジエビ属・・・・・・・
透明、腰が出っ張っている、眼が飛び出しているという共通部分のみが注目され、
ヌマエビ科のヌカエビやミゾレヌマエビと混同される事が多いです。
テナガエビ科なので、手(第一・第二胸脚、ハサミ脚)の長さを見るだけでも見分けは容易ですし、
模様も目立ちますから、相違部分に注目すれば混同する率は低い筈です。

1.体のあちこちを通る黒いスジ模様が目立つ。
2.そのスジ模様で、胸の横に「ハ」を逆さにしたような模様。
3.腰の一番出っ張った部分に、下まで通る目立つスジ。
4.テナガエビ科らしく、ハサミ脚が長い。
5.ハサミ脚や歩脚の間接が黄色い。
6.額角のギザギザが大きく、粗い。
7.外肢が生えていない。
8.頭を斜め上に向けていて、姿勢が良い。
9.餌を食べると、胃がうねうねと動く。
10.鼻先にある、上を向いた触角が白い場合が多い。
などなど、見分ける箇所は豊富です。⇒【スジエビの見分け方
スジエビは、どこからどう見てもスジエビでしかないエビです。

 

●『シナヌマエビ類(“ミナミヌマエビ”として販売される)』・・・・・
本来、静岡県焼津以東にはミナミヌマエビが生息しないため、
明らかにシナヌマエビ類なのに、「関東・東北で採れたのでヌカエビ」として紹介される事が多いエビです。
眼の向きや長さ、体形、外肢の有無の確認をするだけで、混同は簡単に防げます。
インターネット上では、このシナヌマエビ類とハッキリ分かる個体や個体群が、
「ヌカエビ」とされて紹介されている例がかなり多いです。
関東や東北の河川で採集してもヌカエビである可能性のほうがむしろ少ない印象です。
剛健な外来種ですから、汚染の進んだ河川でも生息できるようです。
人口密集地に近い河川で捕れたら、「まずシナヌマエビ!」と疑った方が正解かもしれません。
(今後、日本各地でその傾向は強くなる一方と思います。現在は東北、北海道にまで及ぶ)

1.眼が、斜め前を向いて生えている。(根元も太く、あまり離れていない)
2.外肢が生えていない。(眼上棘もない)
(↑この外肢くらいは必ず見ましょう。模様を一切見ない孫引き誤情報と同列になってしまいます)

3.額角に、頭の上にまで、ギザギザがある。
4.前側角部に棘がある個体が多い(日本在来種ミナミヌマエビには必ず生えている)。
5.体形に起伏が少ない。(特に外来シナヌマエビ類は背中の起伏が少ない)
6.大卵型で大きな卵。
7.腰の一番出っ張った部分に、真上から見て「ハ」の字の斑点が入る場合が多い。
8.胸の横の模様配列が違う。(↓ヌカエビ

最低でも、眼の出っ張り具合と、生えている方向を真上から確認。
そして、外肢の有無を必ず確認しておくと良いと思います。
⇒【シナヌマエビ(販売名ミナミヌマエビ)とヌカエビの見分け方

 

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シナヌマエビ類との比較


2008・04・20 更新
2008・09・22 更新
2008・10・25 抱卵写真追加&書き足し
2009・02・27 更新
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