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ヌカエビの模様は、北斎の『波裏富士』


何かに似ているなと思いながらも、何に似ているのかが、いま一つ思い浮かばなかったヌカエビの模様
やっと、葛飾北斎の『富嶽三十六景・神奈川沖浪裏』だということに気が付きました。
大きな波の向こうに富士山が見える、外国人にも人気の浮世絵です。

「ベルをつまんだような模様」とか、「パワーショベル」、「鼻ヒゲ」などと表現していましたが、
どれもしっくりせず、何かもっと良い喩えがあると思っていたのですが、
これでやっと、落ちついた気がします。

左側から富士山に押し寄せるような大波。
通称『波裏富士』と云うそうです。


こんな感じです。
後方の大きな斑紋が波。前方の小さな斑紋が富士山。


この個体の富士山は裾野が広がっていて、なかなか格好が良いです。
波の背に沿って、白い線が斜めに入っています。
この線が斜めである事は、
似た部分に白い模様が真横に入るシナヌマエビ類との混同を防ぐのに有効です。
白線が斜めのヌカエビ、白線が真横のシナヌマエビ。
盛り上がる波の背に沿っていますから、ヌカエビの場合は斜めなのだと憶えると楽で良いです。


胸の横の白い線が水平⇒シナヌマエビ


胸の横の白い線が斜め下に下がる⇒ヌカエビ

 


大波と富士山の周りは色が抜けているので、
波型と、富士だけがクッキリ。


ただ、雄の場合は、波の先端部分と、山の頂上しかない模様になってしまいます。
波の根の部分はほとんど消えていますが、片鱗はあります。


雌の大きめの個体には、まずあります。
時と周囲の環境によっては薄くなったりはしますが、
模様の配列自体が変わる事はありません
薄い体色の個体にも存在します。


模様の濃い大型の雌なら、
虫眼鏡やルーペを覗かなくとも確認できるかもしれません。
模様の周りが白く抜けているので分かり易い。


●180°に開いて飛び出している離れ眼。
●その離れ眼の付け根に刺さりそうな眼上棘。
●歩脚の付け根から分岐して生えている外肢。
●つるつるハゲ頭(「ヌマエビ大卵型」とされていた個体群には棘が存在するようです)。
●そして、『波裏富士』模様。
5つ確認すれば、シナヌマエビとの混同は、まずないと思います。
(●前側角部棘がないことを確認するのも有効。本物ミナミヌマエビやシナヌマエビの一部に生えます)
1つでも、2つでも確認すれば、それだけでも随分と違うはずです。
ヌマエビ類の見分けでは、最低でも外肢は確認すると良いです。
外肢の有無の確認だけで、八割以上の種類混同が消えるのではないかと思います。
参照⇒【額角より外肢!外肢を見る効用


模様が薄い雌の個体。『波裏富士』は有るには有りますが、
こういう個体に発見するのは難しいです。
全体的には細かいヌカをまぶしたような模様です。
卵巣は発達していますが、腹節下部の甲羅の膨らみが低いので、
初産卵前の雌だと思います。
若いヌカエビには、こういった何の変哲もない個体も多いです。
『富士』を発見するのは比較的容易です。その後方に盛り上がった『波』が見えます。
つるつるハゲ頭で、歩脚に外肢が生えています。
眼の上に有るピンク色の部分が眼上棘。


模様がやや濃い雌個体。これくらいに濃いと『波裏富士』が簡単に分かります。
腹節下部の膨らみが大きいので、産卵経験個体。


模様が濃い雌の『波裏富士』。模様が単純です。

比較参照画像・・・・・・・・・・・・・・・・・・

シナヌマエビ類(商品名“ミナミヌマエビ”)の雌の模様

シナヌマエビ類は、なんとも言い表し様のない複雑な模様です。
これはこれで何かに喩えられるかもしれません。
“ミナミヌマエビ”で御なじみのシナヌマエビ類には、
このように各歩脚に外肢が生えていないので、
そこを見ても簡単にヌカエビではないことは解かります。
しかし、ヌカエビでも外肢はなかなか見難い場合もあります。
その点、模様は良く目立ちますから、
見当を付けたい場合や、小さな写真だった場合には重宝します。
「模様が濃いのに、富士山も大波もなければ、シナヌマエビの方だ」
と軽く判断しておくことが可能です。
●『波裏富士』模様がなく、模様が複雑。(雄はやや違った趣⇒こちら
●眼が斜め前向きに生えている(上から見ると簡単に分かる)。
●その眼の穴の縁に眼上棘がない。
●額角に、眼の上や眼の後ろ(頭)にもギザギザが並んでいる。
●各歩脚に外肢がない。
前側角部が棘状になる事が多い。(本ミナミは全て有り。“アルジーライム”も有り。チェリーには痕跡)
『模様の違い』と『外肢が無い』、『眼の角度』あたりだけでも確認すれば、
ヌカエビとの混同は簡単に防げます。


模様が濃くなって行くと、さらに『波裏富士』とは無縁の模様になります。
シナヌマエビ類は、大きくなるに従い、模様の抜けていた部分が埋まって行きます。
しかし、頭胸甲の後方の白い横線は残ります。
ヌカエビでは、白い線が波の背に沿うため、斜めになりますが、
シナヌマエビの仲間では、この線が地面に対して水平になります。
腹節との境目近くに、黒く濃い部分を囲むようにある白くて短い線。
甲羅部分と蛇腹部分をつなぐ「くさび」のような感じです。
この線が真横であれば、シナヌマエビ類と判断できます。
●頭胸甲の後端に、ロケットのような、あるいはライフルの弾のような形の白い水平の線が入る。

↑ヌカエビでは斜め下に下がります。(そそり立つ波の背に沿うため)
小さな写真の場合でも、ここだけで区別できるほど便利な部分。
模様の濃い雌個体だと非常に重宝です。


シナヌマエビ類の模様の特徴は、レッドチェリーシュリンプも共通。
この位置関係を憶えておくと、他種との見分けに便利です。
参照⇒【シナヌマエビ類の模様の特徴
日本在来のミナミヌマエビでもほぼ共通の模様のようです。
『波裏富士』を見出す事はないので安心して使えます。

Web上の「ヌカエビ」とされている情報には、多くのシナヌマエビ類が含まれています。
エビに外来種問題が生じているなどとは思ってもみない場合に発信されるようです。
特に、「関東で採集した=ヌカエビ」という発想で、
一箇所も特徴を確認しなかった故の誤情報が多い印象です。
ヌカエビとシナヌマエビ(商品名ミナミヌマエビ)には、見た目から細部まで、
多くの違いが有ります。
自分に合った使い易い方法で、ひとつでもふたつでも確認して見ると良いと思います。
『模様』や『眼の角度』、『外肢』は、特に簡単に見る事が出来る部分ですから、
最低でも確認する事をお薦めします。

 

■冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏リンク集
http://plaza.bunka.go.jp/museum/archives/artribute/2004/eshi/hokusai2.php
http://www.muian.com/muian08/08fugaku.html
http://www.wallpaperlink.com/bin/0706/03448.html
http://tokyo.cool.ne.jp/sherlockalon/kanagawaokinamiura.htm
http://www.wanoa.com/articles/1729/
http://www.miyachou.com/xoops/modules/myalbum/photo.php?lid=486
http://kids.gakken.co.jp/rekishi/rekisibattle/21/
眼より後ろの頭に棘が生えていても、胸の横が、この模様ならヌカエビ。
うす〜くでも出ていれば、判断材料として有効です。
・真横の離れ眼
・外肢あり
・北斎の『神奈川沖波裏』

 

2009/02/07 


2009/02/09 更新
2011/04/28 更新


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