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スジエビ 交接失敗から無精卵の脱卵まで



スジエビのメス。
スジエビのメスには、卵(外子)を抱く部分に
ノハ\
こういう模様があるので、オスとは容易に区別が付きます。
この模様の部分が大きく膨らんで、この中に卵を抱える空間があります。
ただ、後述しますが、これは抱卵メスと抱卵していたメスは、オスと区別が簡単というだけで、
抱卵前のメスや、一度も卵を産んでいないメス達とオスの区別は意外と達成されない印象が強いです。


スジエビのオス。
腹節下部に「・・・・・」しかありません。
「スジエビの雄」というのは、腹節の下側、袴(はかま)部分に、
ノハ\
こういう模様が確実に無い事を確認しないとなりません。
この模様が少しでも並んでいたら、それは雌です。
雄っぽいスマートな体形で、そこそこ大きな個体でも、
ここにこの模様の一部でもあれば、何回かの脱皮後には、
大きな抱卵室を持つ雌になります。
産卵前の若い雌は、卵を抱く部分が極めて細く、
雄の成体のように見えるものなので、
スジエビは「スマートだから雄」とは行きません。

スジエビの成体サイズには、
1.腹節下に「ノハ\」模様がなく「・・・・」が並んでいるだけのオスの成体。
2.スマートで一見オスっぽいが、よく見ると腹節下部に「ノハ\」模様が細かく並んでいる産卵準備段階の若いメス。
3.腹節に「ノハ\」が確実にある抱卵メス、あるいは抱卵経験のあるメス。
という3つの形態があります。
淡水エビの本には、2がオスのスジエビとして紹介されている事がありますが、
個人的には2がオスに成った経験はありません。
腹節の下側が凹んでいるほどにスマートであって、見た感じではオスっぽくても、
ノハ\
この模様が微塵でも並んでいれば、全てメスでした。

スジエビのメスには、この亜成体と呼べるような時期があります。
もちろん、他の種類のエビ達にも、オスだかメスだか分からない時期はあるのですが、
スジエビは特に体形だけでは分かりにくいです。
中には体が抱卵メスより巨大なのに、抱卵経験がなく、亜成体体形のメスもいます。
スジエビのオスは小さいので、ここまで大きければ明らかにメスですが、
スマートで、腹部も細いので、「オスの成体」と思われなくもないです。


スジエビの雌の亜成体。
このページで産卵をしている個体と同一個体です。
腹節下部に点々「・・・・・」が並んでいるようにしか見えませんが、
よく見ると、「ノ」←こんな模様や、「\」←こんな模様が破線状になった模様が混ざっています。
一見、雄に見えますが、雌になります。
大きさは、もうすでに雄を遥かに越えていて、雌の成体と同様です。
スマートで卵を抱く部分が無いので、雄と思われる可能性が高いです。
一回の脱皮で雄が雌になったかのような変身を遂げます。

上記の「1.本当の雄」が含まれていれば、雌が産卵した場合に受精させて、
繁殖が確認できると思いますが、
「2.雌の亜成体」を雄と思って雌と同居させても、脱皮した雌がダメージを受けたり、
受精できませんから脱卵し、繁殖は成功できません。
1.本当の雄
2.雌の亜成体
繁殖させたい場合には、この2つの区別は大事になります。
(共食い、手脚の損傷など無しで、安全で確実な交配をしたい場合です。
ごちゃごちゃと大小織り交ぜて飼っていれば繁殖だけならする確率は高いとは思います。
ただ、スジエビには雄集団・雌集団といった偏りが見られる事が多いので確認したほうがより確実です)
雌の亜成体自体は、若い雌なので、雄がきちんと居れば、いずれ繁殖行動をとります。

体形的にはオスだかメスだか分かりにくいメスの亜成体ですが、
ノハ\」←この模様が小さくでもあれば、それはメスという極めて簡単な識別が可能です。
スジエビの雌雄は体形だけで見分けない事が肝心です。


メスの亜成体に見られる腹節下部の模様は小さいです。
これがあると、雄体形でも、やがて「でっぷり雌」に変貌します。
(体形を無視すれば、雌雄の判別は簡単ということです)
スジエビについて興味深いのは、
獲る場所によって、雌雄の比率が著しく偏る印象がある事。
雌雄の力関係が雌が勝り、雄は餌にされかねないほど弱いので、
棲み分けたり、周囲に点在したりといった位置関係があるのかもしれません。
これはスジエビの販売水槽でも見られる現象で、
水槽内がほとんど雄で、雌を発見出来なかったり、
逆に雌ばかりで、雄の影が一つもないといった事があります。
スジエビ独特の現象なので、なにか生態上の理由で、
雌の集団との距離関係を保ちながら、雄の集団が動いているとかがあるのかもしれません。
日本の淡水エビの中で、
雌雄の力関係が、スジエビは独特です。
ヌマエビ類は、雄が雌に食べられる事はありませんから、
大きな雌と一緒に生活していてもなんら問題ありません。
テナガエビも脱皮時以外は、雄のほうが圧倒的に強いですから、
通常の一緒の生活に不利はありません。
しかし、スジエビは脱皮時以外も、全部が小さな雄に不利。
一緒に居ると小突かれてしまいますし、脱皮すれば躊躇なく食べられてしまいますしで、
一緒に居る利点は無いです。
唯一、雌の集団の周りに居て、
脱皮をする為に雌の集団から離れた雌と交尾するくらいの距離に居るのが適当と感じます。
テナガエビほど雄が強くなく、雌を囲う事も出来ず、
かといって、ヌマエビ類のように、傍らで暮らすと重圧と身の危険があるという、
どうにも居場所が無いスジエビの雄。
自然の河川の中での位置関係にも、そんな構造があるのではないかと想像しています。


そんなスジエビなので、雌雄は別々で飼っています。
雌の脱皮を発見したので、雄を入れてみようと思いましたが、
かなり脱皮から時間が経過してしまっている様でした。
1、雌は単独でも産卵し脱卵する
を確認するほうが適当かと思いましたが、
そちらは、たぶんそうだろうという事で、
スジエビの交接行動を観察してみるほうに賭けました。

雄が水槽に放されましたが、その雄を最初に発見したのは雌でした。
雄の前に回り込んで自分の存在をアピールします。
このあたりは、脱皮から時間が経ってしまったテナガエビの雌と共通の行動。⇒【テナガエビ交接失敗
とにかく交接してもらわないと、一回の産卵周期を無駄にしてしまいますし、
溜め込んだ内子も無駄になります。
エビは、明日は餌になっているかもしれない生き物ですから、このあたりは必死です。
雄を追って何度も前に回り込みますが、
やはりフェロモンが残り少ない様で、薄いようです。
それでも、一度、雄がマウンティングまではしました。それがこの写真です。
そのまま交接すればよいのですが、
雌の性なのか、一度拒否しました。
その後は、雄は雌に興味を示さず、結局、交接は時間切れ失敗でした。

オスにとっても、精液は只ではないので、
他の確実に自分の子孫を残せる個体に使いたいという判断と思われます。
現実には、そういう難しい判断をしているわけではなく、
単純に性行動を完結させるまでのフェロモン量ではなかったという事でしょう。
脱皮から時間が経ち過ぎていた為、
雄の行動が一定の興奮に達せず、発動しなかったのでしょう。

参照⇒【テナガエビの交尾観察
メスの強引とも思える精包奪取行動。
テナガエビの産卵前後の行動は雌雄の濃密な美学で語られる事が多いですが、
事情によっては案外あっさり合理的。

 


交尾が完結してもらえなかったメスですが、
数時間後に無精卵を産んでいました。
背中をかがめて普通に生み出し、腹肢に付けて抱卵します。
ところが、自分でも有精卵ではない事は知って居るかのように、
僅かな時間の抱卵でしかなく、
大きく揺すったり、ハサミでつまんだりして、外し始めました。
胃の中には自分の卵が入っているようです。
眼の間の後方が白くなっていますから、
無駄にせずに一部は食べているようです。


生み出された無精卵。
雄からの精包の受け取りが叶わなくても、
生み出してしまうのはテナガエビ科に共通なのかもしれません。
ヌマエビ類だと、卵巣は内子の状態で次の脱皮まで持ち越しますが、
スジエビ、テナガエビはメス単独でも生んでしまい、
また卵巣を育てなおします。
卵の大きさは数を数えられる程度あるようです。


腹肢を煽って卵を飛ばしています。
床に転がっている白や灰色の玉が卵。
目玉よりは小さいですが、けっこう大きく、遠目にも転がっている事が分かります。
テナガエビだと、落とされた卵には全く気付きませんが、スジエビのは気付きます。
純淡水型の繁殖をする個体群だと思って良さそうです。

スジエビの卵の大きさは全国各水系で違います。
各産地のスジエビの平均卵容積
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4-2.htm

各産地のスジエビの平均 卵容積と平均相対抱卵数の関係
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4-3.htm


メダカの卵くらいの大きさはありそうに思えます。
白いのは、殻を破かれて白化したもののようです。


ノハ\
の模様の中に抱かれている卵。
エビを魚と混泳すると、この卵を狙う魚がけっこう多いです。
ここを狙われ続け、結局メス親自体も大きなダメージを受けて死ぬ事すらあります。
卵を抱いているメスは、まともに泳げないですし、体も重いですから、
逃げるのが難しくなります。
この模様は、卵を抱いている事を、魚に悟られないという効果がありそうに思えます。
黒い線を配し、殻の縁にも白い点を散りばめてあります。
テナガエビやヌマエビ南部群なども、同じような効果を持ちそうな模様を配置します。
甲羅の表面の目立つ模様だけを魚が見れば、
無駄に硬い甲羅をつつく事は無くなります。

エビの卵を狙う魚としては、ヨシノボリ、熱帯魚のピグミーグラミーなどがあります。
小さくて頭の良さそうな肉食傾向の種類です。
ヤマトヌマエビなども産卵するとよく卵を狙われています。

それにしてもテナガエビとの卵の大きさが顕著に違います。
参照⇒【テナガエビの無精卵産卵
テナガエビも淡水湖や淡水静水域産は淡水繁殖だそうですが、
目立って卵が大きい個体群の情報を見た事がありません。
汽水域群にしろ、淡水域群にしろ、卵は小さく、浮遊幼生も小さいのかもしれません。
卵を抱く部分の模様の配置や色合いはスジエビとよく似ています。
魚に対して、同じような効果があると考えて良さそうです。


白い卵は殻が破けているようです。
メス親がハサミで取り除く作業の最中ですから、これに命は宿っていません。

次の産卵は有精卵で行きたいところですが、
雄の身が卵の元に成り兼ねないので、
同居させ続けられるかどうかが悩み所。

 

参照⇒【スジエビの見分け方

参照⇒【スジエビの雄雌の見分け方

参照⇒【スジエビの範囲
スジエビという一言には、色々な意味で、多くの「スジエビ」が含まれます。
ここで紹介した現象以外が生じる事もあると思います。

参照⇒【マジックシュリンプ
スジエビの概念が壊されるような「ツマツマするスジエビ」。
外国産のスジエビだという噂です。

 

2010/06/08


 


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