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スジエビの指節


「スジエビはスジエビ」なので、
あまり細かく各部を見たことはなかったのですが、
テナガエビの指節を見たついでに、スジエビの指節も見てみました。


取れてしまいそうな程の出っ張り眼。
カクカクッとした腰の曲がり具合。
黒い筋模様だらけの体に、手脚の関節の黄色。
そして、テナガエビ科らしい、ハサミの付いた長い手。
典型的なスジエビと思って良さそうな個体です。参照⇒スジエビの見分け方
(純淡水型か両側回遊型かは分かりません)

スジエビの指節に関しては、
殊更に長いとか短いとか思ったことはありませんでしたから、
体のサイズからしても機能的なバランスを持った、ごく普通の長さなのだろうと思います。
上の写真の右側に歩脚の指節が写っていますが、
全体から比べても、長くもなく短くもなくといった印象です。
テナガエビよりは短く、ミナミテナガやヒラテテナガよりは長いです。
参照⇒テナガエビの指節


爪は、長過ぎず、短過ぎず、太過ぎず、細過ぎず、です。
テナガエビ科の五本の胸脚を解かり易く仮に(勝手に)、頭側から、
『小鋏脚』・・・細かい餌を探したり、体の掃除などに大活躍の小さなハサミのある脚。・・・第一胸脚
『大鋏脚』・・・テナガエビ科の長い腕。スジエビでも長め。喧嘩や捕獲で活躍するハサミ脚。・・・第二胸脚
『前脚』・・・まえあし。歩き専門の脚の1本目・・・・第三胸脚
『中脚』・・・なかあし。歩き専門の脚の2本目・・・・第四胸脚
『後脚』・・・うしろあし。歩き専門の脚の3本目・・・・第五胸脚
と呼ぶとすると、
この写真の爪は、『前脚』と『中脚』です。


前脚の爪はやや短い印象です。
左が前脚ですが、
その隣りの中脚の爪よりも短いです。
太さもやや太いです。(一番右の太い脚は大鋏脚)
この前脚の爪は、餌を食べる時、いろいろな事に使っています。


大きな餌を抱えて齧っている所です。
スジエビは小さな餌は顎脚のみで抱えますが、
餌が大きくなると、2本のハサミ脚と共に、この前脚も使って
抱え込むようです。
顎脚、小鋏脚、大鋏脚、前脚の8本を使って、
やや大きめの獲物でも捕縛する事が可能になるのではないかと思います。
脱皮したてのヌマエビ類を剥きエビ状態で口元に抱えていたり、
あらゆる鰭を齧り取られた魚を咥えていたりと、
なかなかの狩人ぶりを発揮するスジエビですが、
こういった狩りの武器としても、当然使っている脚だと思います。
一番目の歩脚(前脚)は、このように地面から浮かしている事も多いです。
ハサミ脚と、歩行専用の脚達との中間に位置する一本なので、
臨機応変にどちら側の役割でも働くようです。
このような働きを持つので、やや太くて短い、力強さを兼ね備えている爪といった感じです。


こちらは、スネールが粘るので食べようかどうしようか悩んでいるところです。
このような時にも、この前脚を使って、獲物の位置を保持したり、
ダメージを与えるような働きをしているのが解かります。
ガラス面にくっついている貝を剥がす時にも使っているようです。
この場合は、ひっくり返した貝を上向きに固定する働きをしているようです。
上向きにした貝の身に大鋏脚を刺し込んでいます。
やや短くて太い爪ですが、爪の先は鋭い棘ですから、
獲物を料理する時に、そこそこのダメージは与えられるものと思います。

二番目の歩行専用の中脚は、まさに歩行用といった感じです。
体をしっかり支える役割です。主に左右へのバランスを保つ働きと思います。
三番目の後脚は、やや爪が長く、関節で内側に曲がっている角度が強いです。

この後脚の爪は、水草等に逆さに留まった時などに、
体をぶら下げるフックとして使われますから、
角度が強いのは当然かもしれません。
登山時のピッケルのような感じです。
頭を下にして降りて行く時の命綱です。
テナガエビでは、この爪がさらに長く、曲がりも更に強いです。


こちらは、かなり以前に採集したものです。
上の個体よりは、かなり、指節が長い印象がします。
前脚の爪が短いのは一緒です。
それよりは随分と長い中脚の爪。
そして、内向きにさらに長い、後脚の爪です。
この一番後ろの爪はテナガエビに迫るほど長い印象です。
今のところ、指節の長さでは歴代一位の個体かもしれません。


こちらは、かなり以前に、脱走して干からびてしまった個体。
別の水系で採集した個体でした。
左にあるのが後脚の爪。やや長めです。
中央付近のは束になっていますが、それより右に離れている一本が前脚。
どれも長くもなく短くもなくです。
スジエビは、濾過器の排出口を遡ろうとする行動を見る事があります。
パイプの上に上ってしまい、その上が無いのを残念そうにしている状態も見ます。
体が完全に水上に出ている状態でも歩けるエビです。
テナガエビの仲間は、爪がさほど長くない事と遡上のし易さは密接な気がします。
スジエビもこの長さなら、そこそこ脱走はこなす種類と判断できます。
水質の善し悪しを敏感に察知して、いつでも遡上できる性質を有していますから、
スポンジでの穴封じは必須な種類です。
参照⇒スポンジ1】ロックシュリンプでは必須に近いアイテム。
参照⇒スポンジ2】シナヌマエビやヌカエビではあまり必要には思えませんが、あれば万全です。

落ち付かずに泳ぎ回っていたら脱走のサインです。
『常に万全な水質の心掛け+万が一のスポンジ』で、脱走は、まず100%防げます。
(勿論、水の中で死なれたら一緒ですから、水換えや濾材の洗浄は当然しなければなりません)
「バカだなあ」で済まされがちな生き物ですが、脱走乾燥死はエビのせいではないです。
彼らの川での暮らしでは普通の移動手段のひとつであって、そうすることによって生き残って来ているわけです。
水質が悪化してきた小さな水溜りから、本流や大きな水溜りへ移動しようとしただけ。
登り切った一歩先が、まさか水気が一滴もない異常な世界だとは思っていません。
そういう性質を有しているという事を認識していない側の責任、
あるいは認識しているのに対策をしなかった側の責任ですね。
水生昆虫やザリガニと違って、エビは簡単に「脱走=乾燥死」になってしまいます。
エビの飼育容器は、完全封鎖を基本にしたほうが賢明です。
(後悔を重ねると自然にそうなるとは思いますが・・・・・。
逆に、後悔しないうちからスポンジを常に付けるというのも面倒かもしれませんね。
後悔が面倒を上回らないと、なかなか人の行動は変化しません。
“知る”と“思い知る”の違いですね)


こちらも別水系の個体。
古い写真でピントもずれていますが、指節を長いとは感じない印象です。
どちらかというと短い印象ですが、ちょっと分かりづらいです。
スジエビも現在は河川上流域などに棲む純淡水型と、
河川下流域や汽水域付近に棲む塩分が必要な両側回遊型の二系統(ほぼ別種)が
存在するといった研究がされていますから、
2系統のスジエビの指節の長さが違う可能性は充分に有りそうな気もします。
(両系統が指節だけで簡単に見分けられれば最高ですが)

石ころだらけの清流域や、砂や泥の下流域・汽水域、そして湖沼などで、
指節の長さが一緒というほうが無理がある印象も持ちます。
川の流れへの対抗や、餌探しなどで、
環境に応じた長さや太さの指節を持つスジエビに、各所で分かれていても不思議はない感じもします。
それ以外にも、卵サイズや最大サイズ、腕の太さや筋模様の違いなど、
スジエビは同じ陸封種のヌカエビ(ヌマエビ北部-中部群)以上に変異に富んでいる印象です。
ほとんど別種に思えるほどの模様の濃さや、狩りの上手・下手などもあります。
(餌が乏しいからか、上流域産のほうが狩りが上手く、獰猛な印象があります)
生息の規模はヌカエビ以上に広いですから、
この指節一本に関しても、いろいろな変異がありそうに思えます。
スジエビの爪など、今まであまり気にもしませんでしたが、
採集できる機会があったら、いろいろと比べてみたいところです。

 

参照⇒スジエビは2種類だった

参照⇒スジエビの鰓前棘
テナガエビとスジエビの違いとしてよく登場する「肝上棘」の有無。
しかし、スジエビには代わりに鰓前棘が生えているという断り書きは少ないです。
ほとんど同じ場所に似たような棘が生えていますから要注意です。
よほど位置を暗記できていない限り、
上から見たら「肝上棘あり。テナガエビ!」になってしまうと思います。

参照⇒スジエビの混泳を考える
スジエビは「水中の小さなカラス」です。
魚やヌマエビ類と混泳させる時は、
それらが「食べられてもいい」という覚悟は必要です。
捕食や傷害事件が起きても、スジエビの責任ではなく、飼い主の責任です。
甲殻類は、たった一晩で、巨大に変身します。
前日までは狩れなかった相手を、
一回の脱皮をしただけで、簡単に捕獲できる体へ変貌します。
ある日を境に急に魚の数が減ったり、死骸が増えたりします。
特に、雌は、突然、腰太の肝っ玉母さんに変身。
まさに「産む機械」と化しますので要注意です。
あらゆる生き物を自分の卵に換えるべく盛大に食べます。

 

◆おすすめ参考リンク◆

KENKEN’S HP
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebisyurui/P.pausidens.html

オウミア6
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4.htm
スジエビの卵サイズのバリエーション。
スジエビは「スジエビ」と一言で語ることが無理なエビに思えます。
水系ごとに別種と考えて良いくらいかと思います。
テナガエビも負けるほどの巨大スジエビや、
毎晩のように魚や仲間を食べるキラーマシーン、
そして、腕のか細いかわいいマスコット級のもの、
“ミゾレスジエビ”と呼びたい白星や金粉の綺麗なものまで様々です。
※観賞魚コーナーで売っているスジエビは、
混泳魚をあまり食べないようなサイズで、
なおかつ、魚にもあまり食べられないような絶妙なサイズを置いてある印象です。
腕が太い危険な個体群なども売っていない印象です。
(共食いをする感じも薄い)
商売ですから、クレームを受けにくい大きさや性格の個体群を売っているのでしょう。
かなり吟味した上で販売している感じが強いですから、
これだけを「スジエビの常識」と思い込まないほうが賢明です。
自然採集には規格外のスゴイのが居ます。

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
ここにあるスジエビの爪は比べると短い印象です。
川違いの筋の濃く太い個体も載っています。
(一番下の個体は腕も太く、ハサミも大きい)
汽水域にはユビナガスジエビ、スジエビモドキなど、
スジエビと良く似た種類もあります。
ここにはそれらの近縁種も載っていますので、
模様の違いを比較しておくと良いと思います。
※このサイトに感じた要注意点
1、あくまでも九州大分県に生息するエビの情報です。
2.ヌマエビと書かれているのは、現在のヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)。
3.ヌマエビ北部−中部群(旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型)は載っていません。
4.全国に定着しつつある外来シナヌマエビ類も載っていません。

 

スジエビ・リンク集

http://homepage3.nifty.com/tamafish/sujiebi.html
指節は、長くもなく、短くもなく

http://tansuinoikimono.blog101.fc2.com/blog-entry-142.html
真横に離れた目
額角が鋭い理由が分かります。

http://www.zukan-bouz.com/ebi/tenagaebi/sujiebi.html
腕が太いスジエビ。
ウグイが棲むような渓流域の、スジが薄く、腕が太いタイプは「殺し屋」でした。
こんな雰囲気の個体でした。

http://www3.ocn.ne.jp/~kmitoh/kani/isosuji/isosuji.html
スジエビの近縁種3種
有り難い事に、どれも“凶”模様を持たない

http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023485
スジエビの寿命は一年のようです。
地域変異もあるかもしれませんが。

http://wisdom96.exblog.jp/8047209/
流木のコケ?に直接齧りついている瞬間。
ヌマエビ類が食べない房ゴケ・ヒゲゴケを齧ってくれたりします。

http://www.geocities.co.jp/Outdoors-River/1691/Bass-4.htm
ブラックバスやブルーギルの餌。
大きなテナガエビも丸のまま飲まれています。
スジエビは主食のようです。

http://www.spmnh.jp/news/news16/new16cet.htm
“凶”模様とは異なる外来のスジエビ(胸の内部が白い)と思われる集団は、
もう定着して繁殖している印象があります。
大卵型で簡単に繁殖できるようです。
(釣具屋さんのスジエビにはいろんなテナガ系やヌマエビ系が混ざっています。
見に行くだけでも面白いです)

http://f.hatena.ne.jp/soishida/20060914164150
エビノコバン

http://homepage.mac.com/bergkatze2001/iblog/C2131760408/E20060917212134/index.html
金粉スジエビ

http://www5f.biglobe.ne.jp/~sapporo-fishing-support/kenkyupart7.htm
海水でも平気なスジエビ

http://www7a.biglobe.ne.jp/~magokorogai/sujiebimodoki.html
湾内でも採集されている。

http://tansuigyoclub.art.coocan.jp/sub29E.html
「逆さカマキリ」な浮遊幼生の写真が見られます。
着底まで完了されています。
指節は短くもなく長くもなく。

 

2008/10/23


2008/12/04 更新


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