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テナガエビ(河川下流域産)
脱皮前の護衛行動の観察


前回の記事で、メスに対して3度目の交接行動
(一回目は失敗ですので正確には2度目)を要求していたオス。
実は、その後、続けて、脱皮を直前に控えたメスも入れてみました。
メスが脱皮するのがいつになるのか分からないので、
脱皮や交接や産卵までは観察できませんでしたが、
脱皮を終えたメスとは明らかに違うオスの興味深い反応が見られました。

他のメスと交尾を終えた直後ですから、無反応である可能性もあると思いましたが、
実に見事な反応を示し、大きく手を広げて近付いて行きます。

と言っても、彼にまともな手は無い訳ですから、こんな感じです。
両手が揃っていたら、さぞや力強い姿勢であろう事は想像できます。
面白いのは、大きな第二胸脚だけではなく、
第一胸脚も広げている事です。
姿勢を高くし、精一杯に広げます。
目で相手が見えているタイプの生き物に対するディスプレイといった印象で、
クジャクに似ています。
メス側に雄の大きさを判断する画像解析能力があるのではないかと思ってしまいます。


メス側の行動は、驚くほど自由です。
雄が居る事は認識しているようです。
しかし、通常の仲間に対する警戒が全くありません。
平気でオスに近付き、その下をくぐって向こう側へ抜けたりします。
オスが自分を害するのではないかという警戒心が微塵も感じられないのです。
オスが自分に対して無害である事を最初から当然のように解かっている行動です。
通常の仲間関係からすれば信じられない光景です。
こんな状態であるならば、ハサミが両方揃っているオスであっても、
メスが攻撃や捕食を受けるという事はあり得ないと思って良さそうです。
オスはそのメスの自由な行動にひたすら着いて行きます。
完全に心を奪われています。


オス側に、メスを攻撃するような素振りは微塵もありません。
「愛しいものを守る」。ただそれだけです。
脱皮を終えたメスを入れた実験では、
その脱皮からの経過時間によって、オスの行動は随分と違いました。
興味を持って交接に及んだり攻撃しつつも最終的に交接
最初から交接最後まで交接せず攻撃し続ける、などなど。
しかし、この脱皮前のメスに対する興味は、
それら脱皮を終えたメスに対する興味とは全然種類が違います。
全く交接に及ぼうとしませんし、攻撃は一切しません。それなのに興味は強いです。
交接しても脱皮以前ですから無駄なのは当然なのですが、
完全にその性的衝動は抑えられています。
脱皮後のメスとの匂いの違いというものを感じます。
ヌマエビ類でも、脱皮前のメスに集まるオスはよく見られ、
当然、脱皮前のメスに交接は挑みません。
それとほぼ同様な印象です。
参照⇒【ヌカエビの場合
参照⇒【ミゾレヌマエビの場合


このオスのメスを保護する行動は、
解かり易く例えると、公園で好き勝手に歩き回る小さな子供を、
後ろから転んだりしないように着いて歩くママのような印象です。
こんな場所に登ってしまうのをハラハラ見ている、そんな感じです。
およそ、通常のテナガエビ同士の関係からは想像できない関係性です。
微笑ましい感じすらします。


この時のメスの匂いには、完全にオスから攻撃性を排除する物質が出ているのでしょう。
オスが手を広げる行動は、この匂いを嗅ぐとそうなるようです。
その効果が、小さな第一胸脚にも及んでいる為、第一胸脚も自然と上がってしまう、
そんな感じがします。
この胸脚が上に上がる行動は、
テナガエビとほとんど同じ産卵行動をとるロックシュリンプでも見られました。
彼らの胸脚(パラボラアンテナ)も上にあげてメスに接していました。
参照⇒【ロックシュリンプの求愛行動


メスはオスの存在は認識していますが、
特に「このオスに決めた!」といった印象にはならず、
ただただうろうろと歩いています。
自然下ではこんな間に、他のオスと接して雄同士が戦うという場面は想像できます。
メスにとっては、強い雄、大きな雄が、最終的に自分の上にあればよい訳で、
このあたりは余裕です。
自然下で他のオスと出会ったら、この雄はまずメスを奪われることでしょう。


小さな愛しいものを見る目線です。
触角を絶えずメスに付けています。
ヌマエビ類の第一触角は固定されていてあまり可動しませんが、
テナガエビの第一触角は第二触角同様によく動きます。
それを使って、雌の位置を常に確かめて、距離を保ちます。
それにしても、このオス。
ついさっき、他のメスと交接を終えたばかり。
それなのにこれですから、
川の中でもかなりの数のメスに対応できている様に思えます。

残念ながら観察はここまで。
いつ脱皮するか分からないので、最後までは付き合えませんでした。
翌朝には、メスは産卵を終えており、スポンジフィルターの上で、
卵を揺すっていました。
そのメスを棒で追って、オスに近付けてみました。
メスに接近されたオスは怒って、先の無い手で激しく攻撃します。
いつものテナガエビ同士のギスギスした関係に戻っていました。

 

おすすめ参照ページ

テナガエビの産卵行動として有名な、
基本的な流れはこちらに詳しく書かれています。
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023423

参照⇒【ロックシュリンプの保護行動
参照⇒【ロックシュリンプの産卵行動
ロックシュリンプが行なう一連の産卵前後の行動とも趣旨はほとんど一緒。

 

2008/08/03


 


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