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テナガエビの交尾(交接)河川下流域産
失敗例


前回前々回とは別の小さなメス個体が脱皮を終えていましたので、
この個体をいつものオスの水槽に入れて観察してみました。
メスの状態は、前回のメスよりもさらに脱皮から時間が経過しているようで、
抜け殻もかなりバラけている印象でした。
小さな瓶内に入っているので、
腹肢を揺らす行動で殻が舞い踊って崩れたのかもしれません。
それほど齧ったと言うほどの状態ではありませんでした。
オスの水槽内に這っているサカマキガイに触れた時には、
少し捕食しようと考えた時間がありましたから、
もう食欲は若干芽生えていたようです。

オスに比べて極めて小さなメスです。生後一年程度と思われます。
それでも卵巣は発達しています。
オスを見つけたメスは、やはり積極的な行動に出ました。
オスに自分の存在が明らかに分かる近さに接近します。
しかし、オス側にはメスを受け入れる気がありません。
急に接近された事に驚いて、前回の観察同様にメスを避け、
胸脚で攻撃して遠ざけます。
メス側は、オスに攻撃されると手を前にややクロスして伸ばし、
背中を向けるような行動をして、致命的な傷を負わない姿勢をとります。
オスの直下だと頭を低くした「へへー」といった土下座姿勢になります。
しかし、腹の下に潜り込んでも、オス側にその気がない事を感じて、
その直後には、そこから脱出します。
これを何度も繰り返していました。


小さな個体ですが果敢に挑戦します。
オスの喉元に保護される事を望むかのような接近が何度も見られました。
しかし、オスには全くそれを許す気配がありません。
メスからどんどん離れようとし、
後ずさりしたり、攻撃したりと、こちらも防御に大忙しです。
この攻防の中で、メスの行動に面白い一つのパターンが観察できました。
オスの目の前で、雄の顔側に尻尾を向け、
オスの攻撃を受けると、オスの体の方へはねて近付くというものです。
これは返しが付いているオスのテナガエビのハサミの先端からの負傷を防ぐのに
たいへんに有効な行動ではないかと思います。
逆に外側へ離れるようなジャンプをすると、
その爪の返しが引っ掛かる可能性が高いです。
猫に爪を立てられて、「痛い!」と手を引っ込めると、
見事に深い引っ掻き傷を負うのと一緒です。
爪の返しと同じ方向にジャンプしても爪は引っ掛からないですし、
オスの鼻先に近付く事も出来ます。
テナガエビには脱皮前から産卵までの保護行動は良く知られていますが、
それ以外でのオスとメスの駆け引きの部分にも、
様々な行動の進化があるのではないかと感じられる部分です。
※このオスには爪はありませんが、
メス側に(というかエビに)それを確認するほどの画像解析能力はないと思います。
メスは相手が健常者だと思っての行動と受け取って良いと思います。


オスの周りをぐるぐる回って接近の隙を窺がうメス。
まるで格闘技の1シーンのようです。
しかし、結局、オス側がメスのフェロモンに触発される事はなく、
メス側も諦めて、水槽のガラスをよじ登る行動になってしまったので、
観察を終了しました。

今回の観察では、
これ以上遅くなると無精卵になってしまう」というメスの願いは叶いませんでした。
オスを交尾へと駆り立てる匂いが出せていなかったと推測できます。
メスはさかんにオスに自分の匂いを嗅がせる行動に出ましたが、
オスを魅了して交接へ向かわせるスイッチを切り変える事はできなかったようです。
さすがに相手が大きいので、いかにしてオスの鼻先へ自分の体を持って行くかに苦心していましたが、
結局、自分が放出しているフェロモンが少ないという事で、
成就できなかったと見て良さそうです。
今までの知識からしても、テナガエビの仲間は、メスが小さいからといって、
交尾ができないという事はなさそうです。
小さなメスを一所懸命守っているオスの写真や映像は見る事が多いです。
念の為、オスが脱皮が近いのではないかという可能性もありますので、
直後に餌を与えてみましたが、見ているそばから完食でした。
今回の交接失敗の理由は、単純に、メスのフェロモン量の枯渇という印象です。

 

おすすめ参照ページ

テナガエビの産卵行動として有名な、
基本的な流れはこちらに書いてある通りだと思います。
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023423
しかし、現実にはわずか一年目と思われるオス個体達がメスに群がっているのを見ましたし、
今回や前回のように、メスがオスと出会えず単独で脱皮した後に交接という事も有り得ると思います。
必ずしも、こういう順番でなければならないという事でもなさそうです。
水槽内で多数の雌雄が居る中では、そういう順番になるのは想像するのに容易いです。
川の中でも生息数が多ければ同じ状況になるでしょうし、
生息数が少なければ臨機応変にこなしていると思います。
無精卵を産む羽目になるというのは、極めて無駄な行為ですから、
単独で脱皮を終了してしまったメスも、積極的にオスを探すのは当然と思えます。

参照⇒【ロックシュリンプの保護行動
参照⇒【ロックシュリンプの産卵行動
ロックシュリンプが行なう一連の産卵前後の行動とも趣旨はほとんど一緒。

参照⇒【スジエビの交尾失敗例

 

2008/07/28


 


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