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テナガエビの交尾(交接) その二
河川下流域産


行きずり的な交接で抱卵していたメスですが、参照⇒【テナガエビの交接
連日30℃の水温な為か、二週間であっさり孵化させてしまったようです。
ゾエアの確認をしてみましたが、死滅してしまった後だったのか、
存在確認は出来ませんでした。

そんなメスが再び脱皮をしていました。
脱いだ抜け殻は、損傷なく残っている状態でした。
オスを探しているのか、さかんに水槽内をうろうろしています。
その為に、抜け殻への食欲は後回しになっているようです。
早速、オスの水槽へ投入してみることにします。

お相手のオスですが、前回と同じ損傷の激しいオスです。
自然下で左前方から肉食魚の捕食に遭ったようで、
左眼、第二胸脚、第三胸脚、第四胸脚がありません。
左側で残っているのは一番後ろの第五胸脚と、
餌を拾う為の第一胸脚のみ。
体の右側は、歩脚は全てありますが、
太い第二胸脚の前方はばっさり折り取られています。(下の写真)

基部から取れている左側第二胸脚と第四胸脚には再生肢が生えているのが見えます。
しかし、このような途中から折られた腕や脚には茶色いかさぶたがあるのみ。
基部から取れた場合と途中から折れた場合では再生に違いがあるようです。

 

オスを追うメス、追われるオス

このオスの水槽にメスをそっと放します。
オスを確認したメスは、極めて早いスピードでオスに近付きました。
前回の恐る恐る距離を測っていた行動とは違います。
メスの接近に気がついたオスは大慌てです。
突然、降って涌いた同種の大型個体に反撃態勢です。
それに対してメスがなんと応戦。
オスが飛び退くという事態です。
しかし、さらにメスはオスに積極的に近付きます。
慌て続けているオスは、先のない腕をふるって、なんとかメスの接近を防ごうと暴れています。
その暴れているオスの下で、今度はメスは手を前に伸ばし、
姿勢を低くする「へへー」という姿勢をしました。
これは明らかに交尾受け入れのポーズです。
(アメリカザリガニでも御馴染みのポーズ)
しかし、オスは慌てたままの状態です。
さらに近付くメス。
近付いたメスは、オスの反撃を食らうと「へへー」をします。
それでもまだオスの慌てはなかなか治まりません。
四度目ほどの接近を繰り返した後、
ようやくオスの混乱は治まりました。
「なんだ、そういうことだったのか」といった感じでしょうか。
メスの背中に乗り、ひっくり返そうとする行動に移りました。
一度は失敗しましたが、メスは特に前回のように移動してしまうこともなく、
その場に姿勢を低くしているだけ。
再びオスが背中に乗り、またオスが下側に入るような形で交接終了です。

終了したメスは、さっさとオスの元から飛び退きます。
オスが近付こうとしますが、もはや、全くオスに興味がありません。
「うるさいわねぇ〜」といった感じです。
オスのほうは守ろうとするつもりなのか何度かメスに近付こうとしますが、
メスはスポンジフィルターの裏側の上のほうへ移動。
オスからは手の届かない場所に行ってくつろいでいます。

そこでメスを取り出し、元の水槽に戻しました。
自分の殻を見つけたメスは、それをおいしそうに食べ始めました。

 

今回の観察では、
オスとメスの関係はメスの甲羅の硬化度に左右されるのではないか、
という事が分かります。
前回の場合は、まだメス側の甲羅が柔らかく、メス側が若干弱い立場であった事が推測できます。
ヒゲがややふにゃふにゃとした印象がありました。
今回のメスは、明らかに体が硬くなっていた行動と思えます。
互角に渡り合うどころか、なかば強引にオスの精包を奪い取ったとでもいう状態です。
産卵も、1時間30分後には終了していました。
これ以上遅くなると無精卵になってしまう」というメスの“あせり”が非常に良く分かる行動でした。
※このようなメスの“焦り”はヌマエビ類でも観察できます。
参照⇒【商品名“ミナミヌマエビ”の恋模様
今回のテナガエビに関しても、「雄を飽きる」というスイッチが何で入るのかが謎です。
交接時の振動や摩擦が一定値を過ぎると、「クリアー!」というサインが出るのだろうと思います。
それほど大きな振動や摩擦とも思えませんでしたが、今回も二秒程度でオスは飽きられました。

そして、もうひとつ解かるのが、
メスから出されていると思われるフェロモンの量の時間経過に伴う減少具合です。
前回では、オスは大変にメスに興味を示し、
積極的に近付いて行くのはオス側でした。
しかし、今回は、オスはメスが脱皮した状態で、交接を求めているのだと気がつくまでに
相当な時間を要しました。
侵入者か捕食者かといった対応を示していました。
これは、かなりメス側から発せられるフェロモンの量が少なくなっていたと推測できます。
オス側に交接を促す信号を送れなかった訳です。
メスが半ば強引に接近した理由はここにあるのかもしれません。

そしてさらにもうひとつ解かるのが、
メスはオスを認識できるという事です。
前回もそうでしたが、メスは欲する匂いである「オス」というものに対して敏感に反応し、
何度も接近を試みました。
これはオス側にもオス・フェロモンが放出されていると解釈できそうに思えます。
ロックシュリンプのメスもオスに対する反応と、
メスに対する反応は全く違うものでしたから、オスとメスをきちんと区別している事は解かりますが、
それと同様に、テナガエビのメスも、オスを判断する事は出来るようです。
脱皮して間もない状態で、同種のメスに対して「へへー」をするという事は考え難いことです。
そのまま捕食されてしまう可能性すらありますから、
メスを区別する能力も当然持ち合わせているのではないかと思いますが、
これは実験していませんので、推測です。

 

おすすめ参照ページ

テナガエビの産卵行動として有名な、
基本的な流れはこちらに書いてある通りだと思います。
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023423
しかし、現実にはわずか一年目と思われるオス個体達がメスに群がっているのを見ましたし、
今回や前回のように、メスがオスと出会えず単独で脱皮した後に交接という事も有り得ると思います。
必ずしも、こういう順番でなければならないという事でもなさそうです。
水槽内で多数の雌雄が居る中では、そういう順番になるのは想像するのに容易いです。
川の中でも生息数が多ければ同じ状況になるでしょうし、
生息数が少なければ臨機応変にこなしていると思います。
無精卵を産む羽目になるというのは、極めて無駄な行為ですから、
単独で脱皮を終了してしまったメスも、積極的にオスを探すのは当然と思えます。

参照⇒【ロックシュリンプの保護行動
参照⇒【ロックシュリンプの産卵行動
ロックシュリンプが行なう一連の産卵前後の行動とも趣旨はほとんど一緒。

参照⇒【スジエビの交尾失敗・脱卵

 

2008/07/19


 


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