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河口域系テナガエビのゾエア
水槽のガラスに付着した幼生



エビジャコやボラの子、汽水性のハゼ類(アベハゼが綺麗で格好よくて困る)などがたくさん居るような下流の環境。
そんな感潮域のテナガエビ達から生まれた幼生です。
これ、頭を下にして浮遊しているわけではなく、前面のガラスに付着しています。
孵化して丸一日後の姿です。
同じ環境に棲むミゾレヌマエビ(本物)も、ガラスに付着する行動が見られましたが、⇒【ミゾレヌマエビ(本物)・ゾエア
まさかテナガエビの幼生までが同じ行動をするとは思いませんでした。


手脚はきちんと生えています。
水流に逆らうように頭を向けています。
下流域のヌカエビのゾエアが意外なほど大きくて驚いた事がありますが、⇒【下流域産のヌカエビのゾエア
実は下流域に棲む個体群ほど、海へ流されない為の策が講じられていて、
むしろ、ゾエアが大きかったり、付着する能力が高かったりする場合がありそうに思えます。


真ん中に写っているのはケンミジンコ。
左上の個体は浮遊しています。
ガラスに触れると、そのまま付着します。
淡水域で採集したテナガエビのゾエアはガラスに付着した事がありませんでした。
以前、マテナガのゾエアを汽水に入れた方が良いと思い、
食用の粗塩を投入したら、投入最中に次々白くなって死亡、全滅したことがありますから、
感潮域暮らしといえど、濃い塩分には対応していない種類なのかもしれないとも思いました。
(海水になってしまうほど濃い塩水を足した覚えはなかったのですが。60%程度に計算した上での投入)
そう考えると、この付着する性質は頷けます。
この水槽でも、水流のない場所のゾエアは皆、普通に浮いています。
そして、流れの強い場所では、このような付着する行動が見られます。
「海に出て濃い塩分に触れたら死んでしまう」という事から生まれた性質と考えるのが素直に思えます。
潮が止まっている時はフワフワ浮いて積極的な採餌をし、潮が大きく動く時は、
このように流されるのを回避するような行動をとっているような感じを覚えます。

テナガエビは両側回遊だと書かれる事が結構多いエビです。
川で生まれて海へ下り、そして再び川へ帰ってくるとされている事が多くあります。
しかし、本州産テナガエビ科4種類のうち両側回遊なのはミナミテナガエビとヒラテテナガエビだけだそうです。
「テナガエビ類」という括りで語られると、その代表であるマテナガも両側回遊だという認識にされてしまいがちになります。
ところが、マテナガは両側回遊をしないというのが正しいとされているようです。
つまり、親エビが卵を孵化させた周囲でゾエアは育つだけ。
淡水の湖沼生まれであれば淡水で育ち、汽水湖であれば汽水で育つ。
河川の静水域であればその川の中で育つだけのようです。
海に下らないですし、遡上もして来ないというのが専門的には常識のようです。
(研究者全員の意見かは知りません。淡水エビに関しては少数派が正しいのは普通だったりする)
個人的にも、指節が細くて貧弱ですから、その通りなのではないかと思います。
水上の網の上を歩けませんし、水流に興味を持って遡上しようという意識を感じません。
ただ、浮遊幼生ではありますから、流されるのは当然で、その流下した距離をどう取り戻すのかは疑問でもあります。
この取り戻しや、水質悪化を回避する移動、そして生息密度を下げる為の拡散が、遡上とどう区別されるのかは知りません。


ケンミジンコがすぐそばに居ますが、捕獲する事はないようです。
泳いでいる時にしか食事は出来ないのではないかと思います。
感潮域に棲む個体群は、常に満潮と干潮という大きな水量差のある環境で暮らすので、
このような付着する性質が発達しても不思議はなさそうですが、
孵化後一日で着底しているかのようで、なんか妙です。
しかも、このゾエア達、わざわざ大潮の頃に生まれています。
この両親の交接前がまた面白い行動でして、
雌の脱皮に気付いて雄を同居させたところ、
雌は雄を回避して逃げました。
テナガエビは産卵前後に雄が雌を保護するという話で有名ですが、
行きずりの場合、雌の脱皮からの経過時間によってその行動はずいぶんと変わります。
参照⇒【脱皮直前の雌に対する反応
参照⇒【雄が積極的で雌は逃げる
参照⇒【出会った途端に交接
参照⇒【雌がとても積極的
参照⇒【雌は積極的なのに交尾されず
参照⇒【産卵するまで仲良し
脱皮した雌に余裕が有るか無いかで変わるように思えます。
今回は、雄が積極的で雌が逃げるパターンでした。
腕の長い雄が、泳いで懸命に雌を追尾する姿は、やや滑稽でもあります。
テナガエビの追尾行動です。
ヌマエビ類の“抱卵の舞い”と一緒です。
普段はまず泳がない大きな雄が重い体で泳ぎ回って雌を追います。
しかし、雌はひょいひょいと身をかわしてしまいます。
それでも何度か覆い被さる頻度が上がっていきます。
そして最後に雌が身を委ね、くるんと仰向けになって交接。
僅か一秒程度です。
そして、ぴったり二週間後に生まれたのが、このゾエア達です。
大潮で干満が激しい時期を逆算して、きちんと生んでいるとしか思えません。
干満が少ない時期のほうがゾエアには優しい気もするのですが、
干満が激しい時期のほうが、餌となる生き物の産卵なども多くて、
そちらが選択されているのかもしれません。


残念ながら、親の生きている水槽でそのまま育つかといえば、それは不可能のようです。
一匹くらい残ってくれても良さそうなものですが、いつも残らず死んでしまいます。
濾過し続けている水ですから、当然、満足な食べ物は浮いていません。
かといって、濾過を止めると水質の悪化や酸欠が死因に入ってしまいそうですし、
ある程度の塩分も必要なのかもしれないといった説まで浮上します。
淡水域で捕獲した個体のゾエアは一週間以上生存していた個体もあるので、⇒【テナガエビ・ゾエア
淡水系では恐らく「餌」の問題なのだろうと思います。(この場合は、何かしら胃に入っている形跡はありました)
せっかく付着する能力があるのですから、
そのまま、ガラス面の苔でも食べてくれればよいのですが、
そういう行動はしないようです。

 

 

日本産(本州周辺産)淡水エビの繁殖形態

現在知っている範囲では、以下のような感じのようです。
テナガエビは淡水繁殖といえど、難易度は高そうです。(Web上にも具体的な成功例は無さそう)

◆テナガエビ科テナガエビ属
テナガエビ・・・・・・・・河川静水域産と湖沼産⇒淡水繁殖 汽水湖産・河口域産⇒回遊はしない(やや塩分は要るよう)
ミナミテナガエビ⇒小卵型・両側回遊
ヒラテテナガエビ⇒小卵型・両側回遊
◆テナガエビ科スジエビ属
スジエビ・・・・・・・・・・上流域産と湖沼産⇒淡水繁殖 下流域産(別種に近い存在)⇒両側回遊
◆ヌマエビ科ヌマエビ属
ヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型=商品名“ミゾレヌマエビ”)⇒小卵型・両側回遊
ヌマエビ北部〜中部群(旧ヌカエビと旧ヌマエビ大卵型)⇒中卵型・陸封種
◆ヌマエビ科ヒメヌマエビ属
ヤマトヌマエビ⇒小卵型・両側回遊
ヒメヌマエビ⇒小卵型・両側回遊
トゲナシヌマエビ⇒小卵型・両側回遊
ミゾレヌマエビ(観賞魚としての“ミゾレヌマエビ”はヌマエビ南部群)⇒小卵型・両側回遊
◆ヌマエビ科カワリヌマエビ属
ミナミヌマエビ⇒大卵型・直接発生
外来種シナヌマエビ類(ミナミヌマエビとの交雑が確認されているようです)⇒大卵型・直接発生

※淡水型テナガエビには「大卵型が存在する」という噂ですが、抱卵している写真や繁殖成功例などを知りません。
※ただの「ヌマエビ」は現在存在しません。

 

 

おすすめリンク

川エビ雑話
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/kawaebizatuwa.html

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm

琉球淡水エビ
http://www.h2.dion.ne.jp/~karo/
琉球列島にはたくさんの種類のテナガエビが居ます。

趣味のページ
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/

 

2009/09/26


2009/09/27 更新


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