ボラの子供が生息するような、感潮帯に居た雄個体です。
「m模様」が比較的はっきりした個体で、ミナミテナガエビかと思わせましたが、
額角は見事に長く、つま先(指節)も長く、ハサミは毛だらけでした。
ミナミテナガエビは短足なので、体と足のバランスがやや可笑しい印象がします。
マテナガのこのようなバランスの取れたシルエットにはならない感じです。
歩脚がここまでしっかり長いと、もうそれだけでもマテナガと思って良さそうです。
(成熟個体の場合ですが)
テナガエビは、湖沼に棲む個体群と、河川河口域に暮らす個体群などに分けられているようです。
しかし、その湖沼から流れ出す中流的な部分にも生息していたりして、
その区別がよく分かりません。
エビ本人たちも、何を基準に配偶相手を選別するのか、
あるいは選別せずに繁殖してしまっているのか、
雑種になった場合は、どんな性格になってしまうのか、
色々と謎があります。
(湖沼産の個体群は過去に放流されたものの子孫である可能性も高そうです)
テナガエビの「m模様」。
毛筆で書いたようなmの文字が胸の横にあります。
テナガエビとミナミテナガエビにあり、
ヒラテテナガエビにはありません。
テナガエビの子供や若エビを採集すると、
目が大きくて、m模様の片鱗すら無い個体がたまに捕れます。
それはまずヒラテテナガエビ(別名ヤマトテナガエビ)の子供です。
(ヒラテテナガエビは、飼育すると、とても面白いので、
個人的にペットとしてお薦めな種類です)
まだそれほど大きな個体ではありません。(大中小の中に相当するような個体)
ハサミも、邪魔に見えるほどの長さではないです。
テナガエビは、3cm程度のまだまだ小さな雄個体でも、充分に生殖能力は持つ様です。
参照⇒【無精卵を産卵した雌】の追記
腕が長くなるほど、子孫を残せる確率が高かったのは、
結果からしてその通りだと思いますが、
雌側が、雄の腕の長さに「こだわり」を持って選択しているのかは謎です。
ロックシュリンプ同様、単純に、雌は脱皮をして交接をして産卵するだけ。
その背中の上で、勝手に争って最後に残った雄と交接しているだけという予想が出来ます。
腕の形状を判別・比較する素振りがあるのか、
両腕が無くとも、あるいは雌よりとても小さな個体でも、
全然平気で交接してしまうのか、
雄の大きさを色々と変えて、そのあたりを見てみるのも面白そうです。
雄の寿命は3年以上のような印象
テナガエビの寿命は1〜2年、あるいは1〜3年などが情報の主流のようです。
しかし、推定や雰囲気といった印象も強いです。
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023521(広島県芦田川下流産テナガエビ)
こちらに拠ると、雄の薄命は3年1.5ヶ月〜3年3.5ヶ月のようです。
個人的にも、採集した場合に、大・中・小という個体が、同時期に居ますから、
3年以上、2年、1年がそれぞれ存在する印象です。
↑の情報を読んだ時に、このあたりに違和感はありませんでした。
雄の大型個体は三歳以上だと思えます。
寿命が1、2年という説は個人的にはちょっと違う感じがします。(地域差もあるとは思いますが)
この個体は額角の先端から尾肢の末端までで9cmを越えている雄です。
片腕、片目、片足という姿です。
恐らく側面からの捕食に遭い、それらを失いながら生き延びたものと思います。
手前の長い手も、先端がありません。
さすがにここまで大きな個体だと、その成長スピードとの計算が合わないと思いますので、
1〜2年ではなく、おそらく3年かそれ以上は経っているのではないかと思いますが、
水槽での成長は、餌の回数や量がかなり少なめに制限されますから、
自然界との成長具合と単純に比較できません。
ですから、自然下だと、もしかしたら2年目で
ここまで大きくなってしまうものなのかもしれません。
私が2年目と思っている個体は、
1年目の成長の良いものか、3年目の成長の遅いものである可能性もあります。
(ウチダザリガニ、アメリカザリガニ、ロックシュリンプ、ドンキーシュリンプなども、
呆れるほどあっさりと大きくなりますから、エビの急成長はそんなに不思議ではないです。
・・・・・・それでも、ちょっと2年では無理そうな印象)
この個体、今年死ぬにしては食欲が旺盛です。
キョ―リン・ザリガニの餌を躊躇なくそのまま胃に送り込みます。
噛み砕くという作業がありません。
何個も何個も与えるだけ胃が機械のように吸い込んでいきます。
脱皮して手足が再生して行く過程が見られると良いのですが、
その前に寿命が尽きるかもしれません。
こちらは先に登場した両腕のある個体。
つま先(指節)が長いのがよく分かります。
額角も長く、第二触角鱗片とほとんど同じ長さ。
ミナミテナガエビとの比較はこちら↓が便利です。
参照⇒【番匠おさかな館の図鑑】
ハサミの先も毛だらけです。
つるつるハサミのミナミテナガエビとは大きく異なる印象がします。
毛の生え方は、虫眼鏡程度で充分に確認できます。
指節の長さと共に、両種を見分けるのに重宝です。
雌のハサミの先よりも圧倒的に毛が濃いです。
参照⇒【雌のハサミの先】
奥に写っている白っぽい小さなハサミが第一胸脚です。
こちらは雌と大きな違いは感じません。
大きな腕がなくとも、この小さな手があれば、日常生活自体は困りません。
これだけの毛が内側にも密生していると、
餌の捕獲などにも大きな損失にも思えます。
逆に、逃がさない機能として役立っているのかもしれませんが、
それにしては、ちょっと生え過ぎな印象です。
何の為に生えているのか不思議な部分ではあります。
追記(2008・07・06)
さて、テナガエビとミナミテナガエビ。
手に毛がたくさん生えているのはどっちだっけ?
と迷うこともあるかと思いますが、
名前に憶えるヒントがあります。
ミナミテナガエビの“ミナミ”は“南”だと思います。
毛皮の手袋をはめる必要があるのは、寒い北の方。
南に住むエビには必要ありません。
・ミナミテナガエビ→手袋いらない
・テナガエビ→手袋いる
こう憶えると簡単です。
2008/06/27 岩
参照⇒【湖沼産テナガエビの♂】