総合目次へ戻る】>【エビギャラリー目次へ戻る】 


透明なエビ達
模様もなく透明なだけの個体達


日本産淡水エビの種類を見分ける手法に関しては、まるで、全てのエビに模様が全く無いか、
あるいは、有っても滅茶苦茶で一切参考にならないかのような刷り込みがある気がします。
その上で、一般素人の方がまず見ることのない額角のみが種類を識別できる唯一の箇所だと思い込まされている例が多い印象です。
この「模様は使えない・参考にならない」は、褪色しきった正基準標本や、色柄について記載の無い原記載論文等との比較での話。
分類学上の事情の勘違い、誤解から生まれた因習であることはほぼ間違いありません。
生きたエビの模様は使えるどころの騒ぎではありません。
むしろ、模様を見ない事による見分けの失敗例が呆れる量ですから、模様は絶対に確認すべき箇所です。
ただ、必ずしも、全ての種類の全個体に模様がクッキリしているかというと、そういう事でもないです。
特に、仔エビ・若エビ・雄エビでは、模様もなく透明なだけという事も多いです。
もっとも、淡水エビは、種類も少ないですし、どれも個性的なメンバー達ですので、
以下のような、模様も薄くて透明度も高い個体のみが、種類に悩めて楽しいのかもしれません。


大人のエビは真っ茶色で、およそ想像も出来ない姿ですが、
幼少期は極めて透明度が高いエビです。
こんな時期は胸の横に横線も無く、ほぼ透明なだけ。
ただ、腰の出っ張った部分に、黒と白の輪っかが並んでいるので、
もうそれで見当が付いてしまいます。
黒豆のような大きな眼も有効です。


異常に透明だったので、違和感を感じて、取っておいたテナガエビ系個体。
オオテナガエビの死滅回遊個体かと思いましたが、ちょっと違うようです。
よく似ているミナミテナガエビには、小さな時から太い「m模様」があり、
透明ではあっても種類が分かり易い種類です。
おなじくスジエビも透明ですが、「逆さハの字」、あるいは「凶模様」があるので、
これも「透明で模様も無い」という事には成り難いです。
この個体は、色素が薄いのか、ほとんど透明。
ただ、指節は長いです。


早春に居た2cmに満たない小さな個体。透明で、白い点だらけ。
エビの種類判別に利用する模様は、白い部分ではなく黒い模様。
背中の白いラインや、腰に入る白い鞍状の横筋、そして白い星模様はどれも共通な事が多いです。
(使おうとして、よく解析して一山越えれば、ものすごく使える可能性は否定しません⇒【エビの白点模様(ミゾレ模様)】)
この個体も、白い点々に隠れて黒い模様があります。


卵巣や消化管までくっきり。
この種類には独特の撥ね上がり模様があるので分かり易いですが、
この個体にはそれが薄いです。
1.額角が長く、眼の後ろまでギザギザが続く。
2.眼柄が太く、眼がやや斜め前向き。
3.大型の雌は、背中の出っ張り具合がさほど顕著ではない。
4.外肢が無い。
5.眼上棘が無い。
といったあたりが全部ミナミヌマエビ(本物)と共通な為か、間違えられる事も多い印象です。
1.大卵型ではないこと。
2.前側角部に棘が無いこと。
を確認すれば種類間違いは防げます。
模様が全然違うことを見れば、それが最も簡単ですが、
こういう透明な個体には、それはちょっと通じ難いです。


冬の個体。
よく見ると独特の模様が見えますが、全体的には何の特徴も無い透明・無模様エビ。
眼の角度が、若干前向きで、飛び出しも低めなので、
上から見ると、すぐに分かってしまいます。


せっかくの透明な個体も、ストロボを使うと筋肉組織が反射して白濁したように写ってしまいます。
上の方にある個体達も、本当はもっともっと透明で、
透明なガラス細工に内臓だけが浮いているだけかのようなのですが、
残念な撮影結果になっています。
この個体は透明感が上手く表現されたようです。
日本産淡水エビが全部こんなエビだったら「困難」だったでしょう。
このエビの雄は、淡水エビ中ナンバーワンの透明度で驚きます。


この個体は採集当初はヌマエビ南部群かもしれないと思っていた個体。
ヌマエビ南部群は、透明ですが、もっと派手で模様も特徴的なので、
透明・無模様という状態には成り難い印象です。
(“ミゾレヌマエビ”として売られるだけあって、もっと白点が多い)
この個体は、胸の横に特徴的な図形の片鱗があります。


これはかなり特徴の無い個体です。
この種類は“特徴の無さが特徴”ではないかと思うほどです。
スッキリと切れのある透明度でもなく、
パンチのある模様がバンと有るわけでもない。
細かい点々をまぶしたような印象。
あまりに透明な場合は、この種類でなく、本物のミゾレヌマエビである事が多いです。
眼の離れ具合や角度を比べてみると分かり易いと思います。


これも特徴の無い個体です。
頭がつるつるな部分くらいでしょうか。
旧ヌマエビ大卵型と呼ばれた個体群であれば、頭にも棘があるので、
さらに種類識別が難しくなりそうです。
よく見れば、胸の横に“波裏富士”が見えます。


糠をまぶしたような細かい斑点。
このエビには、こんな変哲の無い個体が多いです。
ここまで大きく写っていると、ツルツル頭と外肢で判断できます。
産卵を重ねた雌では、班点の集まりで胸の横に独特の図形を形成する事が多いので分かり易くなります。


この種類には20種類以上もの近縁種が居るそうで、
日本には数種類が入っているようです。
模様が薄い個体でも、腹節の下半分に「’」、「・」、「`」、「`」といった模様が4つ並びます。
歩脚の付け根に黒い縦線が短く入るのも特徴的。
額角の頭の上(眼の上を越して後ろまで)までギザギザが並んでいるのが見えます。
模様が出ている個体の見分けは簡単なのですが、
淡水エビは「模様を見ない」という因習の根強い世界ですから、
模様を一切見ないで、「ヌカエビ」とされたりする確率が極めて高いです。
(額角だけ見て「ヌマエビ」とされることも)
参照⇒【ヌカエビとシナヌマエビ類の模様を比べてみる
模様が出ていれば簡単。薄くても分かります。完全に透明という事があるのかは疑問です。


透明な場合、なかなか種類は分かり難いですが、
雄か雌かは分かり易くなります。
白い精巣や、白い輸精管、貯精嚢が見えます。


腹節の下に抱いた卵と、背中に黄色い卵巣が見えます。

 

日本産淡水エビは、基本的に透明度が高い生き物です。
それでも、完全透明、完全無模様という個体には遭遇し難いと思います。
全体的には透明であっても、種類特有の模様は黒くクッキリという場合がほとんど。
完全透明かと思っても、どこかしらに種類独自の模様の片鱗が残っていて、
そこだけでも種類が判明してしまいます。
スジエビ、ミナミテナガエビ、ヌマエビ南部群などがその典型例で、
透明ですが、模様がクッキリなので、ここへ載せる個体が見付かりません。
よほどの稚エビ・仔エビでもない以上は、種類判別に模様は使えてしまうのです。
使いたくないとしても、模様が種名を目に伝えて来てしまいます。


胸の横にドカンと「」の文字があるミナミテナガエビ。
これだけで、種類判別終了です。
淡水エビを捕まえたら、真っ先に胸の横の模様を確認する。
こういう習慣をつけておいて損はないと思います。
淡水エビの世界には、
「模様は使えない」
「模様は参考にならない」
という声が強い印象ですが、これらは根拠のない因習です。
得るものゼロで、損失莫大。
模様を見る事の効用は、
少々の間違いが起きる可能性を差し引いても比べ物にならない利益です。

参照ページ⇒ミナミヌマエビの標本写真
http://www.pref.ehime.jp/030kenminkankyou/080shizenhogo/00004541040311/detail/07_07_003520_6.html
こういう標本と実物を比べる場合には模様は使えませんし、参考にならないのは当たり前。
標本はアルコール浸けですから色素が溶け出てしまうので真っ白な場合が多い。
こういった標本と生きたエビとの比較に模様は“使えません”し、“参考に出来ません”。
ただそれだけなのですが、
なぜか、生きたエビ同士の種類を比較する場合にも“模様は使えない”、“模様は参考にならない”と言って、
一般の方の最も分かり易い識別方法に禁止に近い制限を加え、
尚且つ、本当に一切模様を見ずに、種類の識別を大間違いするという例が後を絶ちません。
言葉の意味の誤解・勘違いから生まれた、良くない習慣・因習です。
模様は見た方が良い、というよりも、模様を見ないとまず失敗すると思ったほうが正解です。

種類ごとの模様の傾向をきちんと比較していれば簡単に防げる誤同定は山のように見掛けます。
模様が良く出ている個体にまで「モヨウハツカエナイ・・・、モヨウハツカエナイ・・・」と唱えているのはかなり滑稽に写ります。
本当に使えない・使いようのない「完全透明・完全無模様の個体」にのみ適用する程度が賢明です。
個人的な観測では、模様が全く無く、完全に透明な個体に出合う確率は相当に少ないと思います。
むしろかなり希少な部類ではないかと思います。
どんなに透明でも、探すと必ず薄くだったり、切れ切れにだったりして模様が存在してしまいます。
特に大型になればなるほど種類特有の斑紋が現れる率が上がってしまいます。

「模様での識別が完全に不可能な個体」
「一片たりとも模様を持たない個体」
これはぜひとも見付けたいところです。
完全無模様、完全透明で、そして稚エビ仔エビではない成体。
大きな成体であれば、観賞的にもとても綺麗だと思います。


実物大では、かなり苦戦しそうな透明個体でしたが、
残念ながら、こうして良く見ると、独特の模様が胸の横に出てしまっています。
「エビには模様を見ない」という習慣は、自然に広まって守られているオモシロイ習慣です。
あちこちで繰り返し語られるので、
無意識のうちに模様には目が行かなくなっているのでしょう。
むしろ、透明感のほうにばかり拘っている例が多い印象です。
「透明だ」という特徴だけで種類を探そうとしても徒労だと思います。
水墨画の掛け軸の、余白の部分だけで誰の作品かを判断しようとするのと同じような気がします。

2009/06/01


2009/06/07 更新
2010/08/06 更新


総合目次へ戻る】>【エビギャラリー目次へ

inserted by FC2 system