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ヤマトヌマエビの眼
角度や短さ



我が家の長寿王。もう7〜8年は生きています。
熱帯魚水槽の場合、10年を越えることもあるようです。
季節感が無いので、龍宮城に居る感じなのかもしれません。
ヤマトヌマエビは水草に嵌まっていた頃から何匹も飼いましたが、
記憶としては、彼等の眼の角度は、“斜め前”でした。
こんな姿勢のヤマトは基本的に、そんな感じの眼です。
ヤマトの眼は柄が短いので、とび出し角度をとやかく言う必要もないと思っていましたが、
一応見てみましたら、結構面白い現象に気がつきました。


上を向いて流木を歩いているヤマトさんです。
横を向いている時よりも、随分と眼が前を向いています。
明らかに眼が前向きです。
水平とは思いません。


それが下を向くと、ほぼ真横に開いて見えます。


頭を下向きにしている時は、若干上を見るような感じになり、
眼が水平に近い開き角度になっています。
エビは、下向きに留まっていると落ち付くのか、
頭を下にして逆立ち状態でいる種類が多いです。
そんな時に、眼の角度は見易いのですが、
このあたりは少し注意が必要そうです。


それでも、やや前向きである事には変わりはないようです。
このエビの姿勢による眼の角度の変化は、
ヤマトヌマエビより眼柄の長いミゾレヌマエビ(本物)だと、もっと顕著で、
下向きに留まっているミゾレを一瞬「ヌマ?ヌカ?」と思う事があります。
胸横の模様が全然違いますから、横を向いたらすぐ分かりますし、
そもそも、眼の飛び出し具合が違いますが、
一瞬だと意外と似ています。⇒【ミゾレヌマエビの眼の角度
下向きのエビを肉眼で見る場合には、
この傾向は加味したほうが良さそうです。
同じくらいに小さな種類ですから、高倍率の拡大鏡くらいは覗いたほうが間違いないです。
いずれにしても、その生き物の体の一箇所のみで種類を判断するなんていう早まった考えには注意です。
エビも一本の物差しで容易く判断できません。これは肝に銘じて置いて良いと思います。
エビを額角だけで安易に種類判断して誤認している例は山のようにあります。
巷のエビ情報には、模様や眼の角度、外肢の有無をチェックしないで、
研究者(?)が額角の雰囲気でトンチンカンな種名を付けて勝手に呼んでいる例が多いです。
眼の角度も、額角の長さも、他の箇所と同様、総合判断の一つの要素になるだけです。
真の分類学者が行なう高度な同定とは違う見分け箇所ですが、(死骸や標本は、ほぼ全種、眼が前に畳まれていると思います)
真の分類学者と同じく、できるだけ多くの箇所を見ることで種類間違いはぐっと減ります。
淡水エビの世界に蔓延している「額角偏重の簡易同定」では、種類間違いは増える一方、
あるいは誤認に気付かないままである事が多いと思います。
(それら巷の“額角頼み”情報でもヤマトヌマエビだけは模様を見て判断しても良い事になっているようです(笑)。
「額角だけだ!模様は見るな!」という教えで、特に額角が長いヌマエビ類各種の情報は、かなり乱されていますが、
模様のおかげでヤマトヌマエビだけは全く乱されなくて済んでいるという、逆説的状態にあります。
なぜか一種類だけ模様を見ることが解放されている事によって、種類間違いがきちんと防がれているのです。
「模様は使えない・参考にならない」は言葉の誤解から生まれた因習である公算が極めて高いですから、
他の種類もどんどん模様を活用すれば、どんどん種類間違いは減ります)


それにしても、眼柄が短いです。
眼球と柄の部分の比率が1対1くらいです。
これでは角度が付いていても、ちょっと分かりません。


眼上棘が無いです。(と余計な所にも目が行きます)
額角が非常に短いのも分かります。
急流を主な生活場所にしている、あるいは急流を登るのが得意な種類は額角が短く、
その額角上にギザギザの歯が無くなる方向に進化している様に思えます。
トゲナシヌマエビなどは、額角上にギザギザが全く無いそうですし、
ロックシュリンプもツルツルです。
ヤマトヌマエビもこんな額角。
急流に押し戻されないように、
そして、ゴミなどが流れてきて額角に引っ掛からないようになっているものと思います。
(アオミドロなどが引っ掛かって難儀した個体が淘汰された結果)
急流の小さなエビにとっては髪の毛一本程度の草の繊維が引っ掛かっただけで、
物凄い抵抗だと思います。
それを日々受けて暮らしたらエネルギーの消耗は激しいです。
額角が短くてギザギザが少ない個体が有利に子孫を残して行ったものと思います。


急流・激流とは無縁ならではの立派な額角、テナガエビ。
この前向きのギザギザで激流を登ったら、ゴミが引っ掛かって大変でしょう。
あらゆるアオミドロ、藁クズを引っ掛ける事になりそうです。
ちょっとでも上を向いたら、額角下面に激流が当たり、一瞬で仰け反らされて真っ逆さま。


こちらも急流と無縁のミゾレヌマエビ。
ヌマエビ類随一級の額角長を誇り、ギザギザの数もノコギリ級。
激流に耐えて登っている時に、このギザギザにちょっとした落ち葉のかけらでも当たったら、
小さなエビですから、一瞬で滝壷へ転落するのではないでしょうか。
テナガエビもミゾレヌマエビも脚が細いですから、
そのような冒険はほとんどしないとは思いますが。(若エビは結構頑張って登るようです)


この眼柄の短さも、急流対応である可能性が最も大きいと思います。
トゲナシの短さ、ロックの短さもやはり共通しています。
真正面から受ける水流がすぐに逃げるように短いのだと推測できます。
ヌカエビやスジエビのように眼が飛び出して長かったら、急流域での日々の生活には大きなマイナスです。
眼の付け根が痛くて急流に向いていられないかもしれません。
指節(脚の爪)の長さや太さと一緒で、額角も眼柄も、
激流の力に対抗できるように短かったり、太かったりしているのだと考えられそうです。
流れの強い場所にいる種類は、いろんな場所が太くて短くなっているようです。
(ただ、角度に関しては、急流系が皆、やや前向きなのは説明が付きません・・・・・。
後ろを向くわけにも行かないですし、常に激流にいる訳ではないですから、
長さだけが短くなっただけなのかもしれません)

ヤマトヌマエビに限らず、淡水エビの眼の角度と眼柄の長さは、
種類特定の重要な手掛かりにもなります。
色々な種類の眼の飛び出し方向、そして飛び出し具合を見てみるのも面白いと思います。
(死骸や標本でなく水中の生きたエビ。水上の網の上でも眼を畳んでしまうと思います)


出眼の代表スジエビ。テナガエビ科。
上流域の個体群と下流域の個体群は別種だそうです。
こんな眼でも、意外なほど上流にも居て、
水槽内からの逃亡も案外得意。


出眼で腰曲がりな為、スジエビと混同される事の多い旧ヌカエビ。ヌマエビ属。
小さなエビなので、拡大されて写らなければスジエビと混同される事はないと思います。
肉眼では本来気付かない「隠れ出眼」です。
こんな眼ですが、小さな滝の上に生息していたりもします。

 

2009/05/21


2009/05/22 更新
2009/05/24 スジ、ヌカ写真追加


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