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外肢を見る効用 〜額角は見れなくとも、外肢の確認だけはぜひ〜

種類不明の“ヌマエビ”を採集したら、
最低でもチェックして欲しいのは外肢の有無です。

脚の付け根から、小さな脚が分かれて生えている。これが外肢。

本州近辺で見られるヌマエビ類は、多くても以下の8種ですが、
種類の誤認が多いのは、ヌマエビ属2種と、
ヒメヌマエビ属のミゾレヌマエビ、そして広義の“ミナミヌマエビ”だけです。

[ヌマエビ科]
ヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えている
ヌマエビ(ヌマエビ南部群) 誤認率100%に近い。商品名“ミゾレヌマエビ”。
ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群) 「関東だからヌカエビ」と、シナヌマエビとの混同が多い。
ヒメヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えていない
ヒメヌマエビ まず間違えられません。
ヤマトヌマエビ 間違い様がありません。
トゲナシヌマエビ 存在を知っていれば誤認なし(知らない場合は“ミナミ”とされる)。
ミゾレヌマエビ 名前をヌマエビ南部群に盗られて“謎のエビ”“ただのヌマエビ”状態。
カワリヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えていない
ミナミヌマエビ 本物ミゾレとの混同が案外多いです。参照⇒【ミゾレヌマエビの模様
シナヌマエビ類(外来ミナミヌマエビ) 「関東以北だからヌカエビ」と確認なしでの紹介が多い。

日本産淡水エビの種類が混同されている事例は、ほぼこの2つに集約されます。
1.ヌマエビ(ヌマエビ南部群)とミゾレヌマエビの混同
2.ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)と“広義のミナミヌマエビ(シナヌマエビ類)”の混同
これらの混同を防ぐのは簡単です。外肢を見るだけです。
どちらにもヌマエビ属が絡んでいるので簡単なのです。
「額角は解からない」という方でも、外肢を見る事は簡単です。
大型の個体なら肉眼でもなんとなく脚元がもやもやしています。
高倍率の虫眼鏡やルーペを覗けば、まず見えると思います。
(デジカメで歩脚の生え際をマクロ撮影すればより効果的です)
額角の棘の数?や眼上棘の有無?を見る前に、まず外肢です。
外肢は素人でも簡単に見ることが出来ます。
これが見えればヌマエビ属です。
カワリヌマエビ属やヒメヌマエビ属には生えていません。


手前の高倍率拡大鏡があると簡単です(100円)。
ガラス前面ぎりぎりに居るエビの、脚の付け根を見るだけです。
(餌で呼び集めるのが有効です)
外肢は、体に密着させている事が多く、
しかも、甲羅の縁の部分と重なっている事が多いですが、
餌を食べようとして脚を動かしていると分かり易いかもしれません。
色々な角度から見てみると良いと思います。


外肢を見る事の効用は絶大!

この外肢を確認するという作業。
簡単なのに、その効果は絶大です。
「最低でも外肢の有無は確認!」
これを心掛ければ、世のエビの混乱は、ほとんど消えてしまいます。

1.ミゾレヌマエビとヌマエビ南部群の混同が簡単に防げる


ヌマエビ・・・商品名のミゾレヌマエビです。


ミゾレヌマエビ・・・本当のミゾレヌマエビです。

ミゾレヌマエビの混乱情報は深刻な度合いで、
専門機関に属する情報でも取り違えがあるところまで来ているようです。
他ジャンルからの失笑は必至な、日本産淡水エビ情報の最大の恥部ではないかと思います。
情報としての土台まで浸食されていて、ほとんど成立していない状態ですが、
この外肢の有無を見れば、定着しきった情報が間違いである事は一目瞭然です。
“商品名ミゾレヌマエビ”のほうには外肢が生えています。
本物ミゾレヌマエビには外肢が生えていません。
つまり“商品名ミゾレヌマエビ”はヌマエビ属です。
大きな白い斑点で綺麗ですが、ヒメヌマエビ属のミゾレヌマエビではありません。


“ミゾレヌマエビ”という販売名で数十年来の地位を築いているヌマエビ。
ヌカエビの亜種相手だった「ただのヌマエビ」です。(現在ヌマエビとヌカエビは別種)
白い班点が綺麗なので、本物のミゾレヌマエビと入れ替わり、
観賞魚愛好家にすっかり馴染んでしまっています。
各歩脚の付け根から小さな脚が分岐して生えています(白い矢印)。
つまり、ヌマエビ属です。
(青い矢印は腹肢の外肢。これはどのエビにもあります。勘違いに注意です)
参照⇒【ヌマエビ(南部群)の外肢


本当のミゾレヌマエビの胸脚の付け根付近。
シンプルに脚が生えているだけで、ごちゃごちゃした感じがありません。
ミゾレヌマエビは、ヌマエビ南部群に名前を盗られている為、
採集されても「ただのヌマエビ」や「謎のヌマエビ」とされてしまうことが多いエビです。
(模様の濃い大型の雌はミナミヌマエビにされ、
透明で腰の曲がった雄や若エビはスジエビにされる事も多い。
誤認の被害は、もはや尋常な水準ではないです)

採集当初はこのような雪の降りしきる感じの模様が多く見られます。
しかし、基本的には地味なエビです。
生息数も多いので、珍重されないようです。
参照⇒【ミゾレヌマエビの外肢探し1】【ミゾレヌマエビの外肢探し2】【ミゾレヌマエビの外肢探し3

このヌマエビ(南部群。べつに南部に居るヌマエビという意味ではなく、種として一種)と、
本物のミゾレヌマエビの取り違いが、本当のミゾレヌマエビを闇に包み、
その影響がミゾレヌマエビとミナミヌマエビの混同などに波及していると言っても過言ではないと思います。
ヌマエビ科全体を「むずかしい」にしてしまっている元凶と言ってもよいかもしれません。
この歴史の長い強大な混乱も、外肢を見れば、簡単に無力になります。


ヌマエビ(ヌマエビ南部群)を、やや斜め後ろから見たところ。
青い矢印は腹肢の外肢。白い矢印が胸脚の外肢。
腹肢(泳ぐ脚)の外肢は、どの属のヌマエビ類も共通に持っているので参考になりません。
確認するのは胸脚(歩く脚)の外肢です。
この写真でも「眼上棘」を見ることは出来ませんが、
「外肢」は、このように比較的簡単に発見できます。
これが見付かればヌマエビ属なので、
混同しやすい相手との違いが決定的に分かります。
ルーペの一つも有れば、混同のしようは無いと思います。
こんな色彩と模様で、外肢が生えていたら、「ヌマエビ南部群」。

 


2.ヌカエビとシナヌマエビ類(商品名ミナミヌマエビ)の混同が簡単に防げる

「関東で採集したのでヌカエビ」として紹介される事が多い“商品名ミナミヌマエビ”。
外国から輸入され密放流されて増えている外来種シナヌマエビ類です。
静岡県焼津以東(日本坂トンネル以東)にはミナミヌマエビは生息しない、
つまり、関東以北には“ミナミヌマエビ”は生息しないと思い込み、
細部の確認を一切しない事が原因と思われます。
「関東で採れたのだからヌカエビに決まっている」は、現在全く通用しません。

観賞用の“ミナミヌマエビ”あるいは釣り餌の“ブツエビ”として輸入されているシナヌマエビ。
カワリヌマエビ属。
関東の河川に限らず、各地で急速に殖えているようです。
「ヌカエビ」として紹介されてしまっている例を多く見掛けます(テレビにも出演していた)。
フィールド図鑑や地域の生き物についてのパンフレット等に、
もう普通に「シナヌマエビ」として載せる時期が来ていると思います。


ヌカエビ。ヌマエビ属です。関東、東北、山陰、東海などに主に生息。
れっきとした淡水繁殖種で遺伝子的な地域変異が多いようです。

この2種の混同も、外肢を見れば簡単に防げます。
ヌマエビ属のヌカエビには外肢が生えています。
シナヌマエビ(商品名ミナミヌマエビ)には外肢が生えていません。


ヌマエビ属ヌカエビの胸脚の付け根付近。
各歩脚からやや小さな脚が分岐して生えています。
この写真でも眼上棘の有無は解かりにくいですが、
外肢は簡単に解かります。
歩くのに邪魔なのではないかと思うほど、
けっこう長い外肢が脚ごとに前向きに生えています。
参照⇒【ヌカエビの外肢】【ヌカエビの外肢2】【ヌカエビの外肢や眼上棘


商品名“ミナミヌマエビ”の胸脚の根元付近。
外肢は見当たりません。
各歩脚はシンプルそのもの。
歩きにくそうな外肢は全く生えていません。
腹節から一本伸びる腹肢の外肢が胸脚の外肢と間違われる可能性もありますが、
必ず、大きな脚の付け根から分離して生えている外肢のみを確認すれば勘違いせずに済みます。

どう見てもシナヌマエビ類としか思えない写真に、
「ヌカエビ」あるいは「ヌマエビ」という名前が付けられて紹介されている事が多いのですが、
そのような混同も、この外肢の有無を確認するだけで簡単に防げます。
額角も模様も解からない場合でも、外肢は「有るか無いか」ですから簡単です。
(もちろん、あきらかに有るか無いかが判断できる場合に限られますが)

 

現在あるエビの混同は上の2つが主です。
1.ヌマエビとミゾレヌマエビ
2.ヌカエビとシナヌマエビ(広義のミナミヌマエビ)
外肢を見るだけで2つとも消えます。
歴史が長く根深い混同と、今後広まって行く事がまちがいない新しい混同です。
この2つが解消されると、他には混同は特にないほどです。
混同の8割方は消えてしまうと思います。
1.甲の横に白い班点があって綺麗だからミゾレヌマエビ
⇒「外肢が生えているミゾレヌマエビ」は存在しません。
2.関東で採集したからヌカエビ
⇒「外肢が生えていないヌカエビ」は存在しません。

「淡水エビは額角でしか見分けられない」という文章はよく見掛けると思いますが、
一般の人は、額角なんて誰も見ないのではないかと思ってしまいます。
見たところで、比べる資料がなければ、それまで。
額角の長さやギザギザの数など憶えようがありませんから、
実質、有っても無きが如しでしょう。
その上で、「模様も参考にならない」と勝手に決まっています。
(実際は大きく役立ちます。むしろ、模様を見ないからこその混同が多い)
つまり、淡水エビは、種類を識別する手掛かりが何も渡されていないに等しいのです。
ですから、それらしいと思われる種名をテキトウに付けるという例が生まれがちなのだと思います。
その点、外肢は「ヌマエビ属に有る」というだけの単純なものです。
しかも大きくて見易い。
憶え易くて、大きくて見易い特徴が、
混同し易い種類に対して、必ず関わっているので、大いに役立つ訳です。
額角のトゲトゲの数など数えた事はほとんどありませんが、
外肢の有無は常に見る習慣にしたほうが良いと思います。
混同をバッサリ斬れます。

2009/01/29 


追記2009・02・21
間違いが多い例をもう一つ忘れていました。
3.スジエビとヌカエビ
透明で、腰が曲がっていて、眼が出っ張っている両種です。
「おとなしいスジエビ」という情報の多くを占めるのではないかと予想できる例です。
一般的なスジエビ情報の中には、
多くのヌマエビ類が間違われているものと思いますが、
特に、眼が横に飛び出しているヌカエビは、
ヌマエビ類中、最もスジエビとの混同が多いものと思います。
この両種の見分けも、『外肢の有無を確認する』だけで終了です。
ヌマエビ科ヌマエビ属ヌカエビには有り、
テナガエビ科スジエビ属スジエビには無し。


ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)。
眼が真横へ飛び出しているのは、スジエビの専売特許ではないのですが、
透明で、腰が曲がっていて、眼が出っ張っていると、全部スジエビになるという、
「スジエビで終結の法則」が淡水エビの世界には存在するようです。
1.短い手が口元にあるだけ(毛束が有る)。
2.顎脚が長い(歩脚のように地面につく)。
3.外肢が有る(眼上棘が有る)。
4.手脚の関節が、とくに黄色くない。
5.攻撃性とはほぼ無縁。
6.そもそも小さい。
7.模様が全然違う。(そもそもスジというほどの模様は無い)
8.餌を食べても胃がうねうね動かない。
などなど、違いのほうが多くて、混同のしようが無さそうに思えます。
『透明』、『腰曲がり』、『出眼』は、ほぼ全エビ共通。
比べる価値はありますが、「具合」の世界。⇒【スジエビの見分け方

横から見れば、間違えようは無いと思います。『離れ目』という共通点が消えます。
1.短い豚足のような手(第一第二胸脚、計4本)。先には毛束。
2.歩脚のように長い顎脚。
3.各歩脚に外肢がある。
4.胸の横に独特の紋様。⇒【ヌカエビの模様


こちらは、手の長いスジエビ。胸の横には「ハ」をひっくり返した模様。
なぜか、ヌマエビ科のヌカエビやミゾレヌマエビが、
このテナガエビ科のスジエビと混同されるという例は多いです。
個人的には、どうしてそうなってしまうのかがよく解からない、極めて見分け易いエビです。
(ヌマエビ北部−中部群の和名を“デメヌマエビ”にしてしまえば混同は消えるかも(笑)⇒【ヌマエビの混乱】)


手の長さや、模様や、関節の黄色などでは、
まったく見分けられないという場合には、外肢の確認はとっても有効です。
「有るか無いか」、1か0です。
スジエビには外肢が生えていません。

 

つまり、『外肢』を見るだけで、

1.ヌマエビ(ヌマエビ南部群)とミゾレヌマエビの混同
2.ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)と“広義のミナミヌマエビ(シナヌマエビ類)”の混同
3.スジエビとヌカエビの混同

この3つが防げるわけです。
淡水エビの種類間違いの90%は解消できてしまうのではないかと思います。
単純に「有るか無いか」を見るだけという簡単な作業で、
こんなに効果のあるものは、なかなかありません。

追記。もう一個ありました⇒こちら
この間違いも簡単に防げます。
(額角だけで識別するのは避けたほうが良いですね。ホント)


2009/02/22 更新
2009/03/03 更新
2009/04/29 追記リンク


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