総合目次に戻る】>【淡水エビの種類の見分け方・目次へ戻る


外肢を見る効用(その2)

前のページでは、3つのよくある間違いに有効と書きましたが、
もうひとつ、よくある間違いがありました。
シナヌマエビ類(商品名ミナミヌマエビ)と旧ヌマエビ小卵型(現在はヌマエビ南部群)です。

多くの外来亜種を含んだ「広義のミナミヌマエビ」と、旧ヌマエビ(小卵型)は、
どちらも額角上に、眼の上を越えて頭にまで棘が並びます。
本来、関東の河川には“ミナミヌマエビ”は存在しないですから、
この額角の共通点のみの確認で、安易に“ヌマエビ”と紹介されている事があります。
旧ヌマエビ小卵型は日本固有種ですから、その希少性まで説明されていますが、
写真自体はどう見てもシナヌマエビ類だったりします。
シナヌマエビ類は国外から移入された外来種達ですから、日本固有ではないです。
(そこまで川の浄化が進んだという事を強調したかったのだと思いますが・・・・・)


そもそも、旧ヌマエビ小卵型は、観賞魚業界では“ミゾレヌマエビ”として有名。
赤茶色の模様と、白点、もしくは黄点の目立つ綺麗なエビで、
実物レベルでは見分けは容易です。
頬の下の3つの斑点(一つはUFOのような形)。その後ろに「ミ」のような斜め線が走ります。

シナヌマエビ類は、これも観賞魚業界で“ミナミヌマエビ”として定着しています。
雄はこのような感じです。

雌は大きな卵を産むので、卵の大きさを見れば「小卵型」とはなりません。
胸の横にはやや複雑な模様を持つので、旧ヌマエビ小卵型の単純さとは掛け離れます。

大型化した雌はやや黒化し、背中が明色な帯になります。
こうなると、胸の横の白い抜け部分が目立ち、より分かり易くなります。
ヌマエビ南部群の持つ派手さとはまったく違いますから、
見た目からの混同はほぼ無いのではないかと思います。

つまり、観賞魚的に“ミゾレヌマエビ”が旧ヌマエビ(=ヌマエビ小卵型=ヌマエビ南部群)で、
観賞魚的に“ミナミヌマエビ”がシナヌマエビ類。
“ミゾレ”と“ミナミ”ですから、見た目には見分けは容易なのですが、
「額角」という偏重した部分のみで判断すると混同が生まれるようです。
この偏重から生まれる混同は、外肢を見ることで簡単に鎮める事が出来ます。

ヌマエビ(南部群)には外肢が生えている

頭の後ろにまで棘が並んでいるヌマエビ南部群。
白い矢印が外肢。いっぱい生えています。
よく、「眼上棘の有無」でヌマエビ属は見分けるのだと説かれている事が多いのですが、
個人的には眼上棘は見難いので、使う必要はほとんど無いと思っています。
以前にも記しましたが、眼上棘の有無と外肢の有無は重なりますから、
より見易い外肢のほうで代用するのが利口です。
眼上棘の場合、本来絶対にあるはずの個体にも探せないことが多いです。
ルーペだけだった場合はまず不可能でしょう。
参照⇒【シナヌマエビ類に眼上棘を探してみる】もちろん、確認できたら確認したほうが良いです。
一方、外肢はこの写真のように、比較的よく見えます。
額角は折れる場合がありますが、外肢が全部抜け落ちる事はまず考えられません。
ヌマエビ類には必ず確認するほうが良いです。
種類を間違う事を極めて効率よく防いでくれます。
(この網を通さないで判断してしまうというのは個人的には考えられない水準な気がする)

外来種シナヌマエビ類には外肢が生えていない

“商品名ミナミヌマエビ”の子孫の中の個体。
眼の上を越えて頭にまで額角のギザギザが並びます。
額角の棘だけでは上記の旧ヌマエビと一緒です。
しかし、外肢が生えていないのでヌマエビ属ではないことが簡単に分かります。
模様が複雑なのも一目で分かります。
シナヌマエビ類の模様には一定の共通性があるので、
模様で見分けるのに特に困りません。

黄色の丸で囲った部分に、濃い模様を挟むように白い模様が存在します。
このパターンが基本になっています。
上の大きな写真でも、濃い部分と抜けの部分に、同じ共通性があります。


やや大型化したシナヌマエビ類。
模様の隙間が詰まってきます。背中は明色になります。
眼の後ろにまでギザギザが並んでいますが、外肢が有りません。
この個体には前側角部が棘になっているのがよく分かります。
合わせて確認しても良いと思います。
この上の大きな写真のシナヌマエビ類には前側角部棘は見られません、
レッドチェリーシュリンプにもほとんどありません。
シナヌマエビの仲間には、前側角部に棘が無い個体群と有る個体群が存在することになります。
(“ミナミヌマエビ”として輸入される可能性のあるシナヌマエビ類は20種類以上もあるという話です)
そして、旧ヌマエビ(ヌマエビ南部群)には前側角部棘はありません。
ですから、額角の特徴が似ている事と、前側角部に棘が無いことまでが共通する場合があります。
眼を越して、頭の上にまでギザギザが並び、
なおかつ前側角部棘が無いという事だけでなく、必ず外肢の確認をしないと間違う率は高いと思います。

シナヌマエビ類の前側角部
こういう「額角の暴走」を止める部分の確認は大切。
エビの見分けの世界には古くから「額角至上主義」とでもいうべき異常なパワーバランスが存在します。
額角への比重が異様に高く、バランスが完全に崩れています。
その偏重ぶりは、自然科学ではなく、もはや「信仰」の域。
合理性を欠いたり、矛盾していたり、種類を間違えていても御構いなしの妄信ぶりです。
「額角神」が存在するのではないかと思うほど崇められていて驚きます。
便宜性、利便性、確実性といった部分を大幅に削っていると思うのですが、
「額角様に逆らってはならんっ!」といった感じです。
「並び立つものは斬る!」という勢いです。
エビの体の一部に過ぎない箇所を、
なんでそこまで確実性や信頼を賭して崇めているのか理解出来ませんが、
実際に例として多いですから、一般を取り巻く簡易的識別の世界は大変な事態になっています。
「どこに行っちゃうのだろう」という暴走ぶりです。
額角は、「ただの見分け箇所の一つに過ぎない」ですし、
実際に、模様や他の見分け箇所を見ない事による種類の取り違い情報は呆れる多さです。
エビに限らず、どんな事柄も、一本の物差しだけで測ってはダメ。
必ずぶつかり合う要素を持った三本は必須です。
余裕を持って、最低でも五本は欲しいところです。

http://osampo1.hp.infoseek.co.jp/4coma/01_02_03.html【水際喫茶室】
研究室の様子が少し垣間見れておもしろい漫画です。
(もっとラフでいいですから連載して欲しい)
当然ですが、ヌマエビ類の分類の専門家は額角だけで識別しません。
脚の各節の長さや、毛の一本一本の有無まで比べます。(物差しの数が桁違いに多い)
しかし、模様を参考にして来なかったのは事実のようです。
これは同定もとの標本に色柄が残っていない、
そして、原記載に模様の特徴は書かれていない、
だから、同定に模様は使っていない(あるいは使おうとしても使えない)だけだそうです。(おさんぽさん談)
真の分類学者ではない二次的な利用者が、生きたエビでも「模様は使えない」と誤解し、
簡易的な識別チャートの中から、額角のページ部分だけを見て比べるようになり、
「模様は参考にならない、額角でしか見分けられない、コンナン、コンナン・・・・・・」
といった現在の「額角信仰」のようなものが生まれたように思えます。
本当の分類学者ではない二次的利用者の誤解から生じた教義ですから、
根拠も実用性も大きく欠落していて当然かもしれません。
物差しは多いに越した事はないと思います(本当の分類の専門家ほど多くは無理ですが)。
特に、エビの体の一箇所だけを殊更に崇めて、異常なほどすがるのはやめたほうが賢明と思います。
(酷似しているのであれば、尚更、多角的に見て慎重な検討をするのが筋)

 

旧ヌマエビ大卵型との見分け方は?

現在、正式には「ヌマエビ」、そして「ヌカエビ」というエビは存在しません。
“ヌマエビとヌカエビは亜種で見分けは困難。ヌマエビには大卵型と小卵型が存在する”

こんな文章が繰り返し繰り返し使い回されていますが、
現在は、
旧ヌマエビ小卵型が⇒[ヌマエビ南部群]として一種(琉球産とはやや違いがある)
旧ヌカエビと旧ヌマエビ大卵型が⇒[ヌマエビ北部−中部群]として一種(各地で比較的大きな違いがある)
となっています。⇒【ヌマエビ属の新分類
以前に、「ヌマエビ大卵型とはなんぞや?」と情報を探したことがありましたが、
写真一枚すら発見できません。
簡単な話で、「そんなものは居ない」という結論です。
旧ヌマエビ大卵型は、旧ヌカエビの頭に棘が生えていた個体、あるいは個体群なだけ。
世の中に、旧ヌマエビ小卵型と旧ヌカエビの写真はあっても、
旧ヌマエビ大卵型の写真があるはずがないのは当然でした。
旧ヌマエビ大卵型は旧ヌカエビの姿でしかないからです。
見分け方はトータルで「ヌカエビ」だと思っていれば良いのだと思います。
眼の出っ張り具合、色彩、模様の違いで判断すれば問題ないと思います。
(模様その他を参考にしない場合はどうするのでしょう?一般人はDNAを比べられないですからね)
“旧ヌマエビ小卵型と旧ヌカエビは別種で見分けは容易。
旧ヌマエビ大卵型は旧ヌカエビの頭に棘がある個体あるいは個体群である”

個人的にはこんな感じで良いと思います。

※しかし、ヌマエビ属の新分類に関する論文にも不思議な部分があります。
交配実験を行なった的な部分がありますが、
旧ヌマエビ大卵型と旧ヌマエビ小卵型をどう見分けて実験に用いたのか。
尻尾の肉を取って遺伝子を比較した個体を個別に隔離して養生させ、
体力や傷が回復した上で実験に用いたという事なのでしょうか?
肉を取られたエビがその後も生きているというのはちょっと考えにくく(肉の量にもよると思いますが)、
実際には“見た目”で判断できる事が分かっている上で、
肉などを取っていない健全な個体を交配実験に用いたのではないかと想像しています。
つまり、最初から見分けられている範囲の生き物なのではないかと想像するしかないのです。
なんにしろ、「写真がない」というのがこの世界の不思議。
南部群の写真も、北部−中部群の写真も、旧ヌマエビ大卵型の写真も1枚も無し。
(他に別できちんと持っているのかもしれませんがココには無い)
内容は個人的にピーンと来ますが、
第三者への説得力がこの部分で大幅に欠けます。


参照⇒【ヌマエビ(南部群)の外肢
そもそもこのエビを旧「ヌマエビ」だと思っている人が少ない。
“ミゾレヌマエビ”として形状記憶されている方が多いと思います。
淡水エビの情報(ヌマエビ分類の専門家以外の)は、
とにかく姿から詳細までが一貫していない事が多いです。
顕微鏡でしか見ない額角や棘の世界と、
実物の模様や色彩の特徴が合わさっていないバラバラの世界。
種類も少ないですし、個性も豊かなのに、
「額角でしか見分けられない」
「模様は参考にならない」
「どれも酷似していて見分けは困難」
といった不可能節が踊っているため、
種類としてのトータル情報が遅れきっているジャンルです。
姿かたちから詳細までが通しで間違い無く語られる事がまずないという珍しい世界です。
もっともっとトータルで判断していかないと、誤情報ばかりが次々と増えて収拾がつきません。

[ヌマエビ科]
ヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えている
・ヌマエビ(ヌマエビ南部群) 誤認率100%に近い。商品名“ミゾレヌマエビ”。
・ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群) 「関東だからヌカエビ」と、シナヌマエビとの混同が多い。
ヒメヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えていない
・ヒメヌマエビ まず間違えられません。
・ヤマトヌマエビ 間違い様がありません。
・トゲナシヌマエビ 存在を知っていれば誤認なし(知らない場合は“ミナミ”とされる)。
・ミゾレヌマエビ 名前をヌマエビ南部群に盗られて“謎のエビ”“ただのヌマエビ”状態。
カワリヌマエビ属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外肢が生えていない
・ミナミヌマエビ 本物ミゾレとの混同が案外多いです。参照⇒【ミゾレヌマエビの模様
・シナヌマエビ類(外来ミナミヌマエビ) 「関東だからヌカエビ」あるいは「ヌマエビ」と確認なしでの紹介が多い

つまり、『外肢』を見るだけで、

1.旧ヌマエビ(ヌマエビ南部群)とミゾレヌマエビの混同
古くから“商品名ミゾレヌマエビ”でおなじみのエビが本物のミゾレヌマエビではないことが分かる。

2.旧ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)と“広義のミナミヌマエビ(シナヌマエビ類)”の混同
共に地味目な旧ヌカエビとシナヌマエビ類。陸封淡水繁殖なのも共通。関東では特に混同が著しい。

3.スジエビと旧ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)の混同
透明で、眼が飛び出していて、腰が曲がっている両種。性格は真逆ですが同種扱いが多い。

4.旧ヌマエビ(ヌマエビ南部群)とシナヌマエビ類(商品名ミナミヌマエビ)の混同
外来問題を知らないと、額角上の棘が共通だというだけで同種にされる事が多い。

この4つが簡単に防げるわけです。
淡水エビの種類間違いの95%(雰囲気)は解消できてしまうのではないかと思います。
単純に「有るか無いか」を見るだけという簡単な作業で、
こんなに効果のあるものは、そう滅多にありません。有効に使うと良いと思います。
もちろん、「生えてない」と思って見るのと、「生えているはず」と思って見るのでは、
結果が変わってしまうほどの大きさですから、しっかり確認し切る必要はあります。
額角や眼上棘の確認よりは圧倒的に容易ですから、
これくらいはきっちり見ておいて損はありません。

 

2009/04/29 


2009/04/30 ※追記


総合目次に戻る】>【淡水エビの種類の見分け方・目次へ戻る

inserted by FC2 system