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ミナミヌマエビとシナヌマエビの識別ポイント

観賞魚店の商品名“ミナミヌマエビ”。釣り餌名“ブツエビ”。安価なこれらは、
ミナミヌマエビに近縁な、中国産や韓国産のカワリヌマエビ属の亜種群です(総称としてシナヌマエビと呼ばれます)。

余った釣り餌の遺棄や蓄養、殖え過ぎたペットの密放流などで、急速に生息域を拡大していて、
身近なヌマエビ=シナヌマエビという状況になって来ました。
本来ミナミヌマエビが生息しない関東、特にタマゾン川では、当初ヌカエビと誤認されることが多かったですが、
最近は、普通に「ミナミヌマエビ」と呼ばれてザックザク採れるようです。(東北や北海道にも生息範囲が及んでいます)
西日本の元々の生息域でも、採集しても半分以上の確率でシナヌマエビだそうです。
ヌカエビとの識別は簡単⇒こちら

そんな、ミナミヌマエビとシナヌマエビの識別ポイントをまとめてみました。


◆採集地で区別する

http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/19310150

予想されるミナミヌマエビの分布。南ヌマエビというくらいですから、日本の南部生息のエビです。
静岡県・焼津(日本坂を越えられない)〜琵琶湖以南ということですが、琵琶湖に現在居るのは外来種らしいです。
(琵琶湖では100年近く発見されていなかったのに、急に増えた)
日本海側がはっきりしませんが、京都府には居るようです。福井県には居ないようです。
北海道や関東で採れる種類は外来種だったという遺伝子の分析結果があります⇒こちら
流通の常識的に、本物は売っていないはずで、実際に遺伝子解析でも、その傾向は証明されています。
つまり、
従来の本物ミナミヌマエビの生息域以外で採集したら・・・・・まず間違いなくシナヌマエビ。


◆上記の理由から、「買ったらシナヌマエビ」

たとえば、“100%天然採集純日本産個体”と書かれていても、
中国の自然の中で採集したものを輸入して日本で産ませて育てれば、表記上にウソはありません。
中国にも自然はあるので、「100%自然採集個体」も同様の意味。
国産ウナギと同様で、種苗の種類が日本固有亜種である必要はない表記です。
国産ピーマンとか国産キャベツと一緒で、元々は外来でも国の中で生産すれば純国産です。
「国産」と表記してよい育成期間の基準があるとも思えませんから、数日蓄養すれば「国産」かもしれません。
たとえば「○○県北部産」とあっても、シナヌマエビを産ませて育てた場所であって、採集地とは限りません。
自然採集を印象づける、スジエビが混ざっていることが多いように思います(スジエビの模様が全然違う)。
どこを見渡しても、安く買えたら中国産の現在。普通に考えて安かったらシナヌマエビでしょう。
そう思って、値札や商品解説に、抜け穴を探すのも面白いです。

言葉遊びに近いですが、抜け道の可能性がない表記は、
「日本固有種」「日本固有亜種」
「日本在来種」「日本在来亜種」
あたりになるかと思います。
“○○県、100%自然採集純日本産個体”のほうが、本物っぽいですが、言葉遊びとしては抜け穴だらけです。
中国の自然から採集して、輸入して、餌を与えて一回でも脱皮すれば新しい体は「国産」かもしれません。
(誤解した人が安心して放す可能性が高いので、そういう意味でも問題な表記)
遺伝子解析で、北海道や東日本の密放流された個体群が外来種である事が分かっていますから、
生息域外にも、生息域内にもシナヌマエビを販売しているという、単純な事実に思えます。
購入したら全部シナヌマエビ。買ったら外来種でしょう。
本当のミナミヌマエビは絶滅危惧種に指定されつつあります。


◆採ってもシナヌマエビになりつつある

遺伝子解析結果など
上記のように、西日本でも半分以上の確率でシナヌマエビ。
雑種になる可能性も高いので、東日本よりも相当に厄介です。
準絶滅危惧種に指定する自治体が出て来ています。
滋賀県・・・絶滅危惧1類
愛媛県・・・準絶滅危惧種
兵庫県・・・地域個体群を危惧しているよう
鹿児島県・・・準絶滅危惧種

実際に保護活動もあるようです。
http://kaken.nii.ac.jp/en/p/18922035/2006/1/ja
メダカほどは盛り上がらないようで。
「額角でしか見分けられない」なんて言ってれば、人々の心は「エビの識別」から離れて当然。
本当に肉眼で見分けらないなら、どうやって保護するつもりなのでしょうね。不思議です。

シナヌマエビの採集報告は、いくらでも探せます。今後どんどん増えると思います。
http://blogs.yahoo.co.jp/gattsurist/23667523.html(東北)
http://www.shigahochi.co.jp/info.php?type=article&id=A0000115(滋賀)
http://www.jca.apc.org/~non/species/ebi.html(京都、ヌマエビでもない)
http://www.sapporo-park.or.jp/blog_sake/index.php/2009/11/14/(札幌)
http://kuraunkoma.blog20.fc2.com/blog-entry-522.html(成田・千葉)
http://tansuinoikimono.blog101.fc2.com/blog-entry-857.html(印旛沼・千葉)
http://tansuinoikimono.blog101.fc2.com/blog-entry-1078.html(利根川)
http://nymphaea300.blog26.fc2.com/blog-entry-9.html(東京)
タマゾン川や、その支流の野川には尋常ではない量が生息するようです。
もはや全国各地で普通種、優占種ですが、外来種ハンドブック、外来生物図鑑などには載っていないそうです。

焼津・日本坂トンネル以東・以北の東日本では、まず100%シナヌマエビなだけですが、
西日本で採集したら、以下のようなポイントを見て見分けるしかなさそうです。


◆額角が短い

http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/80/bkjhOmia80.htm
ミナミヌマエビの額角は長くて、左右の触角の太い柄の部分を超えて突き出るほど。
シナヌマエビだと、超えるどころか、届かないことがほとんどです。
売っている“ミナミヌマエビ”の額角が、第一触角柄部先端を超えている個体というのは見たことがありません。
生息分布域以外が外来種だったという分析結果からも、これは同じ方向です。

 
簡単に言うと、鼻先を突き抜けるほどに「おでこのトゲ」が長ければ、ミナミヌマエビ。
届きもしないくらいならシナヌマエビです。
上の写真では、どちらも全然届きません。シナヌマエビです。

 
短い場合には、ここまで短いものも。長くても届かないのが普通です。


◆顔全体が短い

ミナミヌマエビはオオカミ顔です。目付きも鋭くて恐いです。
シナヌマエビは室内犬。
額角の長さだけでなく、額角を含めた顔(吻)全体が短いので、そういう印象になります。
参照⇒【本物ミナミヌマエビ・リンク集


シナヌマエビには精悍な感じがありません。


◆体形が寸胴で、起伏に欠ける

ミナミヌマエビはミゾレヌマエビと混同されるのが普通。
額角も長く、体形も伸びやかで、腰の曲がりも強いという共通点があります。
シナヌマエビはトゲナシヌマエビと混同されることが多いです。
額角が短く、寸胴で、腰の曲がりがほとんどないという共通点があります。
参照⇒【本物ミナミヌマエビ・リンク集


雄の背中もほぼ真っ直ぐ。
台湾産の「アルジー・ライム・シュリンプ」は特に寸詰まり体形がきついようです。
トロピカルシュリンプ、ノコギリヌマエビと同一種のようです。


◆前側角部に棘が無い場合がある

  
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebisyurui/N.denticulata.html
ミナミヌマエビには、前側角部に棘がありますが、シナヌマエビには無い場合もあります。
有っても、小さかったりします。
レッドチェリーだと痕跡程度です。
有るか無いかでは判断できませんが、シナヌマエビの鋭さはやや低い感じです。


◆雄の歩く脚の先のほうが曲がっている

http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/19310150
シナヌマエビの雄の脚が曲がっています。
ハサミ以外の歩く脚の、前から1本目と2本目のすね辺りが内側に湾曲しています。
中国の9集団中8集団の雄が、全て曲がっていたそうです。
1集団のみ曲がっていなかったということです。
我が家のシナヌマエビ類の雄はどれも曲がっていました。
100円のルーペで確認できます。
ミナミヌマエビがどれだけ真っ直ぐかは確認とれていませんが、
専門家が確認している部分なので、
まずミナミヌマエビの雄の脚は真っ直ぐと判断して良さそうです。
こちら


◆そもそも、見た目に違う

上にも書きましたが、ミナミヌマエビは、特に雌がミゾレヌマエビの雌と混同される事が多いです。
模様のみが違うというくらいで、額角の長さや体形がそっくりです。
知名度的にミゾレヌマエビの本物は周知されていませんので、ミナミヌマエビとされることが頻繁です。
参照⇒【本物ミナミヌマエビ・リンク集
おそらく、本物を見慣れている人なら、シナヌマエビには違和感を覚えると思います。
ミナミヌマエビは狐のような顔付き、ミゾレヌマエビにも思えるようなスタイルですから。

シナヌマエビがミゾレヌマエビと混同される可能性はほぼゼロ。
トゲナシヌマエビが誤認されることが増えました。それだけ体形が違う。

⇒専門家や、余程詳しい方以外、誰もミゾレヌマエビと思わない本物のミゾレヌマエビ
小卵を抱いているのにミナミヌマエビと呼ばれている事が多い、名前負けのエビ。
ちなみに、商品名“ミゾレヌマエビ”は、ただのヌマエビ。
(完全に入れ違っている雑誌や図鑑が多い⇒一種の国民病


◆ヤマトヌマエビを殺さなかったらシナヌマエビ?

ヤマトヌマエビの雌が脱皮すると、群がって交尾し、ヤマトヌマエビを殺すのはミナミヌマエビ。
2000年台初頭に採集ミナミヌマエビで観察された報告がありましたが、
個人的にも、世間的にも、現在はこの報告は聞いた事がなく「都市伝説化」しています。
シナヌマエビはヤマトヌマエビを殺さない可能性が高い印象です。

常にシナヌマエビ類多数と同居ですが、全く被害のないまま、9年も生きていますから
⇒【シナヌマエビはヤマトヌマエビを殺さない?】 群がっても殺せないのかもしれません(数にもよるとは思いますが)
ミナミヌマエビが河川で弱体化すると、ヤマトヌマエビやミゾレヌマエビが生息域を広げるかもしれません。

シナヌマエビの増加と共に聞かれる事がなくなった、ヤマトヌマエビ抱き殺し報告。
水槽でのヤマトヌマエビの長寿報告も増えている気がしますから、
このあたりは密接な因果関係がありそうです。


以上のようなポイントを総合的に判断すれば、およその区別は可能ではないかと思います。
「ミナミヌマエビであって欲しい」と思うのが人情ですが、常識的に考えてまずシナヌマエビですね。
採ってもシナヌマエビな時代に、買って本物である確率なんて皆無と考えるのが妥当でしょう。

 

2010/10/18 


2010/10/18 更新


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