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ミゾレヌマエビ色々(簡単なのに難解なエビ)
淡水エビの中でも、ミゾレヌマエビは、市民レベルで見分ける文化自体が希薄な印象の種類です。
琉球列島から九州、四国、関東南部、日本海側は新潟県付近まで分布しますが、
一つの種類として認識されるのは九州までで、本州に入った途端に、見分け文化は消滅する印象です。
ミゾレヌマエビの識別は、比較的簡単なので、もっと気安く見比べてみると良いと思います。
このように強調できる模様が入りますから、特に他種と混同する事はありません。
(以前の記事はこちら)
ミゾレヌマエビは個体ごとに色調が違うことが多い種類です。
淡水エビでは、よく「個体変異」、「色彩変異」という言葉が使われます。
同定の場合の“色柄は使えない”という勘違いとごちゃごちゃにされて、
「色柄を見ると間違えてしまうので、色彩や模様は見てはいけない」という因習が形成されています。
同定と種類の区別が混ざってしまい、さらに個体差や雌雄差や成長差での色柄の違い等が混ざって、
針が“あきらめる”という方向へ振れてしまっているようです。
「変異」なんていう言葉を使うと、法則性のないぐちゃぐちゃな模様なのだと思われてしまいそうに感じます。
しかし、よく見れば、実際には、高い法則性の上に、色合いの違いがある程度です。
模様の規則性が探せれば、種類の区別は簡単です。
産卵期以外だと雌もこんな感じ。涙模様が薄っすらと。
これくらいな感じの個体が多いかもしれません。
「ただのヌマエビ」と呼ばれそうな地味な感じ。
基本的な模様。
やや白っぽい個体。
ミナミヌマエビと思われそうな色合い。
模様がはっきり。
胸の横の「V」。抱卵部分の「〜〜〜〜」。薄いですが。
自然下ではもっと山吹色の個体もいました。
模様が部分的に抜けている個体。
額角が短い。模様はミゾレ。
額角が長い老齢大型個体。ヒメヌマエビとは模様も額角も違う。
レンガ色。
赤味の強弱は体調や水質かもしれません。
赤紫色もあります。
色調は違っても、模様・斑紋の位置は一定です。
「個体変異」や「色彩変異」というほど大げさなものではなく、
成長に伴う変化や、水温水質、体調による変化という程度。
同一個体でも色々な色合いになります。
全てを断片的に同時に見ると、驚いてしまうのでしょうけれども、
一匹ずつは緩やかに変化しているだけです。
変異ではなく変化ですね。
小卵型は、海に下ったゾエアが、再び自分の川に遡上できるとも限らず、
海で、あちこちの川生まれのゾエアが混ざってしまいます。
ですから、地域変異や水系ごとの独自性は生まれ難いと判断できます。
実際に、ヤマトヌマエビに個性を感じるのはなかなか難しいですし、
“ミゾレヌマエビ”という値札でおなじみのヌマエビも然りです。
このミゾレヌマエビは、幼生時期の付着力が強いことが知られていて、
あまり、自分の河川からの流出はしないかもしれません。
実際、新潟産と九州産では、色柄的に北の方が地味な感じは受けました。
ただ、ゆるやかに混ざるので、池や湖の陸封種のような相違は出難いと思います。
ヤマトヌマエビ、ヌマエビ、ミゾレヌマエビ等の小卵型は、
色斑が安定しているので、識別点として足る物だと考えて良いと思います。
単純に、この模様配列を確認すれば良いだけ。
◆ヤマトヌマエビに限らず、全種類の模様は重視しなければ、逆にムリ
「ヤマトヌマエビだけは模様を見て識別して良い」といった、
もともと無意味な制限を、ヤマトヌマエビのみが唯一解除されている事があります。
1.大きくて模様がよく見えるから
2.ヤマトヌマエビを自分自身がよく知っているから
という理由程度であって、
ミゾレヌマエビやヌマエビに模様を見てはいけないという制限の理由はありません。
逆にヤマトヌマエビだけを例外に指定するには、
なぜ例外にし得るかという膨大な説得力が必要ですが、
元々が勘違いなので、ある筈がありません。
(色彩や模様が滅茶苦茶で使いものにならないという意味ではなく、
標本や論文との同定では、褪色して消えている&記述がないので使えないだけです。
生きた別種のエビ同士を見分けるのに使えないということではありません)
◆ヌマエビ(旧ヌマエビ南部群)も模様は安定している
←模様を強調してあります。
ヌマエビはヤマトヌマエビに次ぐほどに、色斑が安定した種類と思います。
小卵型の代表選手。
「ヌマエビ」なのに、沼に棲まないですし、
汚らしい深緑や茶色を連想するような種名なのに、実際は綺麗なので、
なぜかこっちが“ミゾレヌマエビ”で有名。
観賞魚雑誌や飼育書などでは、“ヌマエビ”として、
上にあるような地味なミゾレヌマエビの写真が載っている事がほとんど。
種類の入れ違いが常識になってしまっています。
種名と、生時の色彩や模様と、標本や論文の記述に一貫性が薄い世界ならではの現象。
◆額角だけでは、見分けの足腰や体幹が弱過ぎ
ミゾレヌマエビは、模様が安定しているにも係わらず、
有名な観賞魚雑誌や飼育書、そして信頼の高かったWebサイトでも、
別種の名が付いている事が普通なくらい、非常に体幹の弱いエビです。
・ヌマエビを“ミゾレヌマエビ”と呼んで販売するのは古くからの慣習
・ミゾレヌマエビを“ヌマエビ”として紹介するのが飼育書や雑誌の慣習
(このあたりは、ヌカエビとして登場したりもする)
・誰もが手放しで信じて疑わないサイトに“ミナミヌマエビ”として掲載されていた事もあります。
ミゾレヌマエビは、「どこからどう見てもミゾレヌマエビでしかない」という状態が簡単に成立します。
模様が安定しているからです。
「模様は見るな!色彩は使うな!」という大勘違いの影響で、
上のようなハッキリとミゾレヌマエビと分かる写真でも、額角の棘が詳細に見えない瞬間に、
「額角や棘を見なければ識別は不可能!」という別の勘違いに制御されるようです。
当然ですが、もし、本当に額角でしか見分けられず、模様は使えないのであれば、
“ヌマエビ科の一種”止まりにすべきでしょう。
しかし、写真には別種の種名と学名が付記されて、一般初心者の手に渡るのです。
この世界の腐りの深さ、勘違いの深さにはぞーっとしますけれども、
それが淡水エビ情報の日本標準です。
勘違いによる識別眼の劣化は、最近益々深刻な域に達している印象で、
・額角が折れているヌカエビの写真をトゲナシヌマエビとし、
ヌマエビとこんなに模様が似ているので、やっぱり模様を見てはいけない、
額角を見るしかない、と説いてあったり、
・スジエビの模様も一切役に立たない部分だという前提にし、
消化管が明らかに太く、毛束を持ち、透明で腰の起伏があり、眼が離れたエビを、
ハサミ脚が四本とも欠落し、スジ模様が完全に消えたスジエビと断定する、
という例なども見られるようになって来ました。
ここまで来ると、
・大規模な池干しをする
・枯れ込みや腐りのない部分までの極端な切り戻しを行なう
くらいなつもりがないと、今後の更なる混沌は避けられないのは明らかに思います。
◆額角が似た4種類からミゾレヌマエビは簡単に抜き出せます
本土産テナガエビ科4種類、ヌマエビ科7種類の中で、
見分ける必要があるのは、額角が長く、頭までギザギザが並ぶ4種類、
・ヌマエビ-------商品名“ミゾレヌマエビ”で有名。旧ヌマエビ南部群。旧ヌマエビ小卵型
・ヌカエビ(西日本産)---旧ヌマエビ大卵型。西日本のヌカエビは額角上の鋸歯が頭にも続く
・ミゾレヌマエビ
・ミナミヌマエビ(最近は西日本でも半数以上が中国大陸産シナヌマエビらしい)
だけだと思います。
ヌマエビの見分け方は、この僅か四種類の見分け方だと思ってよいくらいです。
ヌマエビとヌカエビは同じヌマエビ属で、模様の派生が似ています。
そして、ヌカエビとミナミヌマエビも、属は違いますが、慣れないと難しいです。
しかし、ミゾレヌマエビは、一種だけ簡単です。
属もヒメヌマエビ属で、模様も他の3種と全然違います。
ホルマリンで標本になって、長年アルコールに浸かって褪色した個体ならいざ知らず、
採集したてのホカホカの模様クッキリ個体を、額角や棘だけ見て、
「困難酷似不可能」と唱えて、トンチンカンな種名を付ける難解さが存在しているとは全く思えません。
四種の模様。模様が出ていれば、なんら問題なく見分けは容易。
「透明度が高いほど慎重に」という程度です。
特にミゾレヌマエビとヌマエビは、属も違いますし、模様も重なりません。
ヌマエビ属・・・外肢が生えている。眼上棘がある。
・ヌマエビ
・ヌカエビ
ヒメヌマエビ属・・・外肢は生えていない。眼上棘もない。前側角部も棘にならない。
・ミゾレヌマエビ
カワリヌマエビ属・・・外肢は生えていない。眼上棘もない。前側角部は棘になる。
・ミナミヌマエビ(シナヌマエビ類各亜種含む)
これら四種は、外肢の有無の確認と、前側角部を見ておくと揺るぎ無いです。
◆ミゾレヌマエビの霙模様は消え易い
ミゾレヌマエビの名前の由来となったであろう霙状の細かい白点は、
採集当日こそ美しいですが、水槽内では数日で消えてしまうのが普通です。
この写真でも、白点の奥に、独特の「V」模様が見えています。
飼っていると、これや「〜〜〜〜」が主役となって目立ってきます。
◆「ヌマエビは綺麗」なのですが・・・
白点や金点が大きくて消え難いのがヌマエビ。
「ヌマエビ」と聞くと、なんか深緑や茶色の薄汚れた色のエビを連想されるようなのですが、
ヌマエビは綺麗なのです。(ヌマエビじゃ綺麗な感じがしない商品名なので“ミゾレ”を付けたのでしょう)
歩く脚の付け根に、ひょろひょろっと小さくて細い脚が生えているので、
この脚(外肢)を確認すると、それが無いミゾレヌマエビではないことが簡単に解かります。
100円ルーペでも充分に見られると思いますので、
水槽の前面に餌で集めて、確認して見ると良いと思います。
ミゾレヌマエビを正しく知るには、この確認は、ある意味、必須かもしれません。
(「ミゾレヌマエビという名前には2種類ある」)
◆幻の地味なヌマエビ
初心者向けのエビの飼育書あたりだと、こういう模様の薄いミゾレヌマエビをヌマエビと称して紹介してあります。
アクアリストはヌマエビを“ミゾレヌマエビ”として見ている確率は高いので、
“ヌマエビ”という名前から来るイメージには、特徴がなく鑑賞価値のない地味なエビを連想します。
「商品名のミゾレヌマエビ以下」という意識が根付かされています。
しかし、実際には地味なヌマエビは幻であって、各ヌマエビ類のたまたま地味な個体が当てはめられる程度です。
・個体差がなく安定した色調で綺麗なほうがヌマエビ
・地味な色合いで紹介されるのは、撮影時に偶然地味だったミゾレヌマエビ。
というのがアクアリウム系情報の標準のようです。
真実ではヌマエビは綺麗で、地味だったり透明だったりする方がミゾレヌマエビである確率が高い訳ですが、
名前からの連想と、入れ違えた情報量と販売の慣習、そして常識と化した一般の意識で、
“ヌマエビ”は地味で汚い感じと思い込まされている、あるいは思い込んでいる訳です。
「ミゾレ模様が綺麗なのはヌマエビ」
「ヌマエビは綺麗なのです」
そう思い直さないと、ミゾレヌマエビが「ミゾレヌマエビ」と呼ばれる日は来ないことでしょう。
それ以前に、
・淡水エビの種類の区別に模様は参考にならない使えない
・透明で、腰が曲がっていたらスジエビ
といった因習の数々、そして、
・このページのような色調の変化を一種類と思えるかどうか
という障壁があります。
「簡単だけど大変」なのがミゾレヌマエビ。
殊更に難しい部分はないのですが、取り巻く情報が勝手に難解さを増している訳です。
(その大変さを一発で解決するのが模様なのですけれどね。模様の位置は変化しないので)
※ミゾレヌマエビっぽいエビには、九州南部だと、ツノナガヌマエビの可能性もあるかもしれませんし、
南方の諸国には、ミゾレヌマエビと全く同じ模様の大卵型や近似種も多いようです。
そこから先はDNA比較までしないと難しいかもしれません。
参照⇒【ミゾレヌマエビの見分け方】
参照⇒【ミゾレヌマエビの七変化】
2011/01/19 岩
2011/01/20 更新