総合目次に戻る】>【淡水エビの種類の見分け方・目次へ戻る


ミゾレヌマエビの見分け方


一般の多くの方にとっては、こんな姿のエビが“ミゾレヌマエビ”だと思います。
私も古くからそう親しんで買って飼っていました。
しかし、このエビは“ヌマエビ”でした。
正真正銘のヌマエビParatya compressaです。(ヌカエビの亜種だったエビ。現在は別種)
外肢あり、眼上棘ありなので、ルーペやマクロ撮影で確認は簡単です。
眼が真横に生えている事や、姿かたちも同属のヌカエビによく似ています。
“ヌマエビ”で情報を探しても本当のヌマエビが出て来ません。
それほどに商品確立が徹底された“商品”です。⇒【2種類ある“ミゾレヌマエビ”


本物のミゾレヌマエビCaridina leucostictaは鼻先が長い、こんな地味な感じの個体が多いです。
あまり観賞用という感じがないので、商品名として通りの良い名前が取り上げられてしまったようです。
アクアリスト向け雑誌や書籍では、この本物の存在は隠蔽されているか、
あるいは“ヌマエビ”や“ヌカエビ”として入れ替えられて登場する事がある程度です。


こちらは採集直後の模様の状態。雌雄ともミゾレ模様がたくさん見られます。
ヌマエビよりも圧倒的に白点・金点が多くて綺麗ですが、水槽内で数日経つと消えてしまいます。
生息地の河口域にはハゼが多いので、それら捕食者との兼ね合いだと思います。
ミゾレヌマエビの生息地にはテナガエビも多いですが、テナガエビと同居していても食べられない確率が高い印象です。
スジエビと暮らしても同様です。
自然下でも捕食者の多い下流域で暮らしているので、身のかわし方が違うようです。
触角が群を抜いて長いのも、捕食回避に大きく役立っていると思います。
ヌマエビの方は、スジエビとの同居では脱皮時に次々と餌食になりました。


すっかり落ち着いてしまった雌雄です。メスには眼から斜め下に涙の跡のような模様が入り、
下へ達した所から斜め上へ撥ね上がるような模様が入ります。
卵を抱いている部分には「〜〜〜〜」こんな模様が4つ入ります。
「頭 \/三〜〜〜〜 尾」
こういう模様が入りますから、薄くでも模様が出ているメスの見分けは容易です。

ミゾレヌマエビを見分ける注意点は、
『殊更に霙(みぞれ)模様があると思わないこと』
この一点に尽きると思います。
ヌマエビ、ヌカエビ、スジエビ、テナガエビと色々なエビに白い点や金色の点は入ります。
それらはどの種類でも気紛れな存在です。
その気紛れさはミゾレヌマエビにも同様です。
なのに、このエビだけの特徴かのように名付けられてしまっています。
そして、残念な事に、ミゾレ模様はすぐに消えたり、
全くない個体のほうが圧倒的に多いです。
そういう名前になっているだけのエビと考えておくぐらいが妥当です。
参照⇒【各種のエビの体表に出現するミゾレ模様

ミゾレヌマエビは、雌雄差が大きい印象のエビで、オスは小型で透明度が高いエビです。

ヌマエビ類は脱皮した直後に交接しますが、交接できるオスは一匹のみというのが普通です。
ですから、脱皮する前の雌はモテます。上の方の写真でも複数の雄に囲まれている雌がいますが、
この雌も脱皮と産卵を控えた雌です。大きな背中が待つのに適しているのか、
オンブバッタのように乗っかっているのが見られます。
雌の背中には卵巣が詰まっています。雄には何も入っていないように見えます。



ミゾレヌマエビの雄は大変に透明度が高く、背中や腰の曲がりが強いです。
Web上では、「眼が飛び出していて、透明で、腰が曲がっていたらスジエビ」というのが常識なので、
ほとんどの場合、「スジエビ」という認識にされてしまいます。


スジエビの模様と同じように見える「逆さハの字」が胸の横にある個体も多いです。
1.スジエビはテナガエビ科。ハサミ脚が長く、常に前に伸ばして歩いたり泳いだりします。
他個体への攻撃、エサの確保などを長い“手”で行ないます。
2.スジエビは眼が真横に離れています。(ヌマエビ科ヌカエビも離れているので混同に注意)
ミゾレヌマエビは、やや斜め前に向いて眼が出ています。


スジエビの模様。“凶”という漢字に近い印象の個体群も多いです。
涙のような位置にはなりません。

 

スジエビの特徴


これはヌマエビ科ミゾレヌマエビ。
透明で、腰も曲がっていて、眼も飛び出していて、ハサミもあります。
ヌマエビ科は顎脚という脚があり、4本のハサミ脚よりも前で地面に着けて歩きます。
口元から生えていて、この写真でもハサミより前に2本揃えています。
この上のスジエビの見分け方では、スジエビの顎脚の位置と短さが解かると思います。

 
スジエビはテナガエビ科。ハサミそのものの手の先です(左)。
一方、ミゾレヌマエビのハサミの先には毛が生えています。
これで、付着生物などをつまみ取って食べます(右)。

スジエビの場合

スジエビのハサミ脚はかなり長いです。
より長くて黄色い関節が目立つのが第二胸脚。
その内側でさらに細かい作業に使われるハサミが第一胸脚。
スジエビの顎脚は地面に着けて歩くほどには長くありません。
この4本のハサミ脚を使って、地面の表面をさするように移動するのがスジエビの餌探しの特徴。
一方、ミゾレヌマエビなどのヌマエビ類は、一掴みずつ、何でも口に持って行くのが特徴です。
スジエビがあちこちに早足で移動するのに対し、
ヌマエビ類は一ヶ所に長く居て、しつこくツマツマつまみ続けるという特徴があります。


スジエビは泳ぐ時に、こんな感じにハサミを前に出して泳ぎます。


【眼の特徴】


ミゾレヌマエビの眼は、やや斜め前を向いています。
このエビの属するヒメヌマエビ属は、
・ヤマトヌマエビ
・トゲナシヌマエビ
・ヒメヌマエビ
という、眼柄が短くて、斜め前を向いて眼が生えているエビが占めますが、
このミゾレヌマエビは、その中ではやや眼が長めです。
それでも柄は太くて、ヌマエビ属の2種(新ヌマエビ・新ヌカエビ)とは違います。
新ヌマエビは真横、新ヌカエビも真横で、かなり眼が離れて出ています。
柄も付け根に向かって細いです。(スジエビとヌカエビの眼はよく似ています)

スジエビの眼
 

ヌカエビの眼
 


【眼上棘がない】

 
眼が生える殻の縁に眼上棘が生えていません。
ヌマエビ属のヌマエビとヌカエビには眼上棘が生えています。
ちなみに、鋸状のギザギザは額角上の棘です。

ヌカエビの眼上棘
 


【外肢がない】


歩く脚の付け根に外肢が生えていません。
左上の脚の、もう一本下の脚に外肢が見えますが、
これは腹節の中から伸びた腹肢の外肢です。
間違い易いと思うので要注意です。

ヌマエビの外肢

“商品名ミゾレヌマエビ”であるヌマエビの外肢。
白い矢印が各歩脚に生えている小さな外肢。
青い矢印は腹肢の外肢。これはどちらにもあります。


【前側角部に棘が無い】

シナヌマエビの前側角部の棘
 
“商品名ミナミヌマエビ”にあった前側角部の棘。
本物のミナミヌマエビには、もっと鋭い棘が生えるようです。
ミナミヌマエビの大型の雌とミゾレヌマエビの大型の雌は頻繁に混同されます。
1、生息地が河川下流域の緩やかな流れの場所
2.額角が長い
3.額角に頭までギザギザが連続する
4.眼上棘がない
5.外肢がない
6.抱卵個体の体形が似る
7.大型の♀の色彩が似る
8.眼が斜め前を向く
9.眼柄が太い
10.背中を縦走する明色の帯が共通
など、両種には共通点が多いので、前側角部の棘の有無と模様の違いは、
見分けに極めて有効ですし、逆に、それを見ないと混同率は当然上がります。


これはミゾレヌマエビの前側角部。丸いだけです。
ただ、外来種コウライヌマエビ、シナヌマエビの仲間には、ここに棘が無い個体群もあるようです。

 


【色の濃さが豊富】

ミゾレヌマエビは硝子のように透明な個体から、真っ黒に近い個体まで、様々な濃さがあります。
雄は透明なままで一生を終える印象ですが、
雌は大型になるほどに色が濃くなる確率が上がります。


奥の個体はミゾレヌマエビに特有の模様がクッキリ出ていますが、
手前のこの個体はクリーム色。
河川では黄色の個体も居てビックリします。


赤い個体。模様はミゾレヌマエビそのまま。でもそれが全部赤で出来ています。
琉球列島のミゾレヌマエビには、このような色の個体が多いようです。
本州産でもしばしば見かけます。


このような色彩の場合、ヒメヌマエビと混同される事が多いです。
でも、よく見るとミゾレヌマエビの模様が朱色で書いてあります。


ほぼ完全な赤。一時的なものである事が多く、
ずっとこの色のままではありませんでした。


こげ茶色の個体。黒い色の上に、ちゃんと赤茶色でミゾレヌマエビの模様が書いてあります。
初夏の抱卵時期にこのような色合いになる事が多い印象です。

 


【♀の体形の変化】


産卵前の若い雌は、雄とほぼ同じ体形。
背中には卵巣の発達の初期の状態が見えます。


産卵を繰り返した♀。
背中の卵巣部分の甲羅が、より多くの卵を作れるように盛り上がり、
起伏が埋まっています。


体のほぼ半分が卵といった感じ。
背中の起伏が比較的強い種類ではありますが、産卵期の雌には適用できない特徴です。
ミゾレヌマエビは小卵型ですから、このように眼玉と比べて明らかに小さい卵を大量に産みます。

ミゾレヌマエビの成長に伴う色彩の変化】へ続く

 

 

もっと詳しい説明や写真は【エビギャラリー】のミゾレヌマエビの項目をどうぞ。

 

2010/08/06 


2010/08/06 更新


総合目次に戻る】>【淡水エビの種類の見分け方・目次へ戻る

 

inserted by FC2 system