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淡水エビの種類が見分けられなくなる三大疾病

エビの種類を知ろうとすると、必ず遭遇すると思われる、見分けの足を引っ張るような情報。
それらに触れると、見分けるのを最初からあきらめたり、途中でやめてテキトウに呼んでしまったり、
間違った種名で憶えてしまったり、それをまた他の人に教えてしまったりと良い事一つもありません。
伝染性の高い病気のように、淡水エビの世界を覆っている被害甚大な因習の数々。
中でも、代表的な3つを紹介します。これらの感染を回避できれば、エビの種類は随分と身近なものになります。
逆に、3つとも罹ったら重度のエビ認知症(笑)です。
免疫や抵抗力のない脳みそにはスーッと入り込まれますから、ここで免疫をつけておくと良いと思います。

 

一、「識別に模様は使えない・額角でしか見分けられない」症候群

論文や標本にはエビの色彩や模様の情報が無いので、これらのみを扱う世界から出た因習が原因。
生きたエビも見ている分類学者や研究者ではなく、標本瓶のみに囲まれた博物館が主な発生源と思われる。
(生体展示中心の水族館にもそのような発信例が見られない事からも標本瓶起源の情報であることは明確)

これに罹ると、生きたエビの体表の模様も無価値や無意味に見えるという。
重度になると、どれも似ているので見ると間違えるから模様を見てはいけないとまで口走るようになる。
最期には「額角でしか見分けられない」「棘を見なければ識別出来ない」となり、
それらがよく写っていない普通の生きたエビの全身写真では全く種類が分からなくなってしまう。

他の症状としては、淡水エビに関連する全てを「困難・不可能」に繋げ、難しさを強調するようになる。
「淡水エビは種類が多くて識別は困難」←世界中の種類との識別の話で、日本本土産は少ない。
「色彩や模様は参考にならないし使えない。模様での識別は不可能」←褪色した標本では無理なだけ。
「額角を顕微鏡で見なければ識別出来ない」←そもそも分類学者が額角だけで同定することはない。
この、なんでも「難しい」に繋げて考える発想は、標本のみならず生きたエビにも及び、
「個々の個体に色彩の変異があるから色彩は使えない」「模様に個性があるから模様は使えない」
といったように、少しでもマイナスがあると何でも「使えない」に繋げて行くようになる。
その裏で誇大に額角の重要性を強調して行き、「エビ本体は無価値であり額角こそがエビである」に達する。
論理の全てが額角の重要性を上げる事に繋がり、対比として色彩や模様への敵意・卑下が著しい。
しかし、前述のように、分類学者が額角のみで同定はしない事からも、
発生源は分類学者が著した研究成果の二次利用者の“勘違い”である事が分かる。
額角への極端な偏重が見られ、バランスが崩れ過ぎて、「生き物」を語れる限度を超えてしまうのが通例。
生きたエビという実体からの乖離が著しく、肉眼で生きたエビを見ても種類が分からない重症でありながら、
もはや自ら律して止める事が出来ない「暴走」の領域にまで達してしまっている症例が多い。
「困難・酷似・不可能・使えない・参考にならない」といった後ろ向きな言葉ばかりが並ぶので発見は簡単。


せっかく模様や色彩で簡単に見分けられる個体も、わざわざ全部こうしてから「ムズカシイ」と悩むという奇病。
世界じゅうのエビの論文や標本と比較して、当のエビの詳細を明らかにする分類学者の「同定」作業と、
川や沼で捕ってきたエビが何エビかを相違点を比べて見分ける事とは別世界と考えるのが妥当。
この2つをごちゃごちゃにする所から妙な疾病が発生して来ます。


論文には模様について書かれない事が慣例であり、
アルコール浸けの標本では褪色して模様は使えないし、参考にできないというだけを、
生きたエビにも過大解釈してはいけません。「使えない」や「困難」の、意味や世界が違います。
額角は見分けたい種類ほどよく似ています。最終的にはヌカエビとヌマエビを区別できなかった部品でもあります。

生きたエビでは使う意味は長さ程度。しかも、個体によって、長さもまちまちだったり。
この額角が折れて再生途中の個体が、トゲナシヌマエビと誤認される事もあり、過信は禁物です。
写真のように、体表に種類ごとの特徴的な模様が出ていたら、ほぼ出番なしです。

鑑定結果
http://homepage1.nifty.com/~ayuayu/topics0528.html
一般の人には模様で見分けると簡単だと教えている先生。

水際喫茶室 4コマ漫画
http://mizugiwa.sakura.ne.jp/4coma/co_0.html
エビの研究室での分類過程が分かる4コマ漫画。
淡水エビの世界で常識のように語られる無意味な規制は、分類上の事情の勘違い。
小さな事実が誇大な規制に生まれ変わっていますから、おそろしい。

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
生体に親しんでもらいたいといった感じの水族館発信だと、情報は生き生きします。

川エビ雑話
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/kawaebizatuwa.html
こちらも研究室出身の方。
色柄から額角、棘、行動まで全てを見ていて、情報に偏重がないので安心。

 

 

二、「透明で、腰が曲がっていて、目が飛び出していたらスジエビ!」症候群

模様は使えないと言われ、顕微鏡も無いので額角も見られない一般の苦肉の策からの発生と思われる。
色柄以外の、透明度や腰の曲がり、眼の出っ張りだけを見て、主にスジエビを識別しようとしたもの。
エビをある程度以上知っている人間同士が便宜上用いたものが起源と思われるが、
ヌマエビ類にも共通性が高い種類が多く居るので、現在では事実上「見間違い方」である。
これに罹ると、ほとんどの種類が「スジエビ」にしか見えなくなってしまう。
ヌカエビやミゾレヌマエビを見ても、両腕が取れて、スジ模様が消えたスジエビにしか見えなくなる。
重症だと、透明度が高く縞模様が多いシナヌマエビ類のオスもスジエビとする例が多く見られる。
透明で、眼が出っ張っていて、腰が曲がっていたら「スジエビっ!」と言わないと気が済まない症状となる。
これは、上記の「模様は使えない症候群」の二次感染とも云うべき関係にある。
一般は、「模様では見分けられない」「模様を見ると間違える」という捉え方をしており、
模様を種類判別の手法として一切取り入れていない(ヤマトヌマエビのみを“例外”と考えているほど)。
その上で、重要性が強調されている額角は最初から見る事はない。
機器が無いし、見たところでどう違うのかの比較に用いる情報源も持たないからである。
額角も見ないし模様も見ないのに、外肢の有無や胸脚の長さだけは見るという事にはならず、
エビに対しては「何も見ない」という認識のし方が完成される。
ヌマエビ類についても、外肢や模様の特徴などの顕微鏡の要らない根拠すら見ない事に繋がり、
種名判断の根拠の確認や提示を一切しないまま、
「○○ヌマエビ!」と雰囲気や気分で断定することが常態化することになる。 


ありとあらゆるエビが「スジエビ!」

●本土産12種類のうちのほとんどをスジエビにしてしまう信じ難い因習⇒【スジエビの範囲
●全てが共通なヌカエビは一瞬で「スジエビ!」という判定を受けるほど深刻⇒【スジエビとヌカエビ
●【透明で、腰が曲がっていて、眼が出っ張っているエビ達

 

 

三、罹患率100%に近い「ミゾレヌマエビはしか」

ヌマエビを商品名の“ミゾレヌマエビ”と憶え込まされる。
これに罹ると本当のミゾレヌマエビがヌマエビになったり、ヌカエビになったりで、
頭の中をごちゃごちゃにされてしまう。
アクアリウム系情報から淡水エビに入ると100%近い罹患率。

観賞用エビ類の販売では、「ビーシュリンプ」という値札で毎回違う縞模様のエビが売られるのは普通。
レッドテールグリーンシュリンプなども同様。あくまで商品名であって、種名ではない。
「ミナミヌマエビ」という値札でシナヌマエビやコウライヌマエビなどが売られるのも同じ理由。
商品名のミゾレヌマエビも同じで、そういう名前がたまたま標準和名にも居ただけ。
名前も美しいし、透明度と白点が本物より合致した為である。
観賞魚店の値札の名前は種名ではないと思っていれば問題ない。
問題なのは、書籍としてもCaridina leucostictaというミゾレヌマエビの学名表記で出版されていたり、
各地の自然観察会の当事者にもこの誤認が広がっており、一般参加者に説明してしまっていたり、
民間の動物園の展示でも納入業者の商品名のまま展示される例まである事。国民的誤認である。


もはや国民的誤認の水準であるヌマエビ(1994年までヌマエビ小卵型・2007年までヌマエビ南部群)。
ヌマエビという種名は知っていても、「そういえば、どういう姿かは知らないなあ」と思ったり、
本当のミゾレヌマエビを見ても「見たこともないエビだなあ」と思ったら、もう罹っています。
情報量からして罹患するのはごく普通の事です。治る機会がないのも普通ですから厄介です。

●外肢が生えているので、簡単にヌマエビ属だと分かります。⇒【ヌマエビの外肢

●虫ナビ
http://mushinavi.com/navi-ebi/data-numa_nanbu.htm
外肢の写った写真もあります。

●ヌマエビ類−3
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi3.html
リンク先の標本の外肢も必見です。

●同属の海外種とそっくりなのも当然です。⇒【ヌマエビの同属海外種

 

2010/09/30 


2010/10/01 更新


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