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長い腕を失っているテナガエビ類とヌマエビ類の見分け方


長い手がとれたテナガエビ科とヌマエビ科の見分け方は?

Web上の画像掲示板等で、しばしば目撃する情報として、
ヌマエビ科のエビの写真に対して、
「テナガエビ科のエビの腕が取れてしまった個体ではないか」といったものがあります。
一般の多くの方は、なぜか、透明なエビを見ると全部「スジエビにしてしまおう」とする傾向が強い印象です。
参照⇒【スジエビの範囲
●テナガエビ達の子供・若エビ
●旧ヌカエビ及び旧ヌマエビ大卵型(どちらも現在は“ヌマエビ北部−中部群”として同種)
●ミゾレヌマエビ(本物)の透明度の高い個体
これらが特に混同が多い種類です。

黒いスジ模様の入り方を憶えておけば、まず混同する事はないと思うスジエビ。
きわめて見分け易い種類ですが、透明度(?)とか腰の出っ張り具合(?)とか眼の離れ具合(?)といった見当違いの着眼点で、
多くの他種が「スジエビ」に含まれている事が多い印象です。
「模様が薄くなったスジエビではないか」
「ハサミ脚が欠落したスジエビなのではないか」
と、とにかくなんでもスジエビにしてホッとしてしまうという面白い習慣があるようです。
スジエビは見分け易いエビですから、一瞬で分からなければ、多分そのエビはスジエビではないでしょう。
一瞬でスジエビと判断できないエビが、スジエビである確率は、六分の一以下だと思います。

腰の曲がりや透明度が共通のスジエビと旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型、あるいはミゾレヌマエビ(本物)が多く混同されますが、
この、「両腕が取れてしまったテナガエビ科のエビ」とヌマエビ類との見分け方は、
第一胸脚を見れば問題ありません。
テナガエビ科の仲間は、しばしば腕(長いハサミ脚・第二胸脚)が取れてしまう事があります。
脱皮時の共食いや敵に襲われた時の自切等が原因と思います。
後ろへ逃げるエビの場合、敵の前に棚引くのが第二胸脚になりますから、
どうしても取れ易いのだと思います。
片腕の場合はなんら見分けに問題なしですが、両腕が無いと難しいのでは?と思われるかもしれません。
しかし、全然心配は要りません。

長い第二胸脚を失っているテナガエビの若エビ。
しかし、第一胸脚も長いので、ヌマエビ類との区別に困る事はありません。

テナガエビ科のエビには第一胸脚という、細いハサミ脚が別に一対あります。
餌を探したり、口へ持って行ったり、体の掃除をしたりと、細かな動きでエビの生命や健康を支えている脚です。
「手」という表現にピッタリな、器用な細腕です。
大事な脚ですから、テナガエビ科はこれを真ん中で二つに折って口元にきっちりと付けて保護します。
ケンカの時などでもこの脚が取れてしまうことはまずないと思います。
どんなに脚をもがれても、これだけは残っています。
これが残っていれば、また餌を食べ、他の脚は再生が可能です。
この第一胸脚は意外と長いです。
ヌマエビ類の豚足のような第一胸脚とは比べ物にならない長さです。
つまり、第一胸脚もテナガエビ科は長いのです。
先に小さなハサミが付いた細長い第一胸脚があれば、テナガエビ科です。
(ヌマエビ科の第一胸脚にも当然ハサミは付いています。が、長さが短く太いので一目瞭然です)
参照⇒【スジエビの見分け方

ヒラテテナガエビ『テナガエビ科』

テナガエビ科で注目されるのは長い第二胸脚ですが、
小さな第一胸脚も長いです。
ヌマエビ類と混同され易いスジエビもテナガエビ科。
同じような細長い器用な第一胸脚を持っていますので、
万が一両腕が落ちてしまっている個体でも見分けられます。
(模様その他を一切使わない場合の話ですが。普通はそこまで見なくても模様で充分)
参照⇒【ヒラテテナガエビのハサミ

ヒラテテナガエビ『テナガエビ科』

テナガエビ科のエビは、第一胸脚を折り畳んでいる事も多いです。
これは先が取れているわけではなく、内側に折り畳んでいる状態です。
このように保護することが出来るので、
第一胸脚の欠落はほとんど見たことがありません。(おそらく記憶ゼロ)
これが両方無くなるという確率は考える必要がないほどではないかと思います。
(ここまで取れていたら、それはおそらく死骸レベルかと思います)
それと、テナガエビ科は顎脚を地面に着けません。
ヌマエビ類は歩脚のような使い方で顎脚を使いますが、
テナガエビ科は顎脚が短く、通常の姿勢では地面には届きません。
第一胸脚が両方無い場合は、顎脚の長さを見ても見分けは付きます。
(顎脚も無い場合は、もはや肉片レベルでしょう)
写真を見て頂けると解かると思いますが、
太い第二胸脚よりも、第一胸脚は前に生えています。一個前です。
エビの各パーツは前から数えるようです。
ですから、よく目立つ太い腕なのに、そちらが第二胸脚です。
触角も同じで、よく動く長くて太いほうが第二触角。
体の先端についている二又に分かれているほうが第一触角。
どちらも、一番目立つほうが二番。

スジエビ『テナガエビ科』

旧ヌカエビや旧ヌマエビ大卵型、そしてミゾレヌマエビがよく混同されてスジエビとされることが多いですが、
スジエビはテナガエビ科なので、手の特徴は他のテナガエビと一緒です。
第二胸脚がやや大きくて長く、よく目立ちます。攻撃的な行動によく使います。
そして、細くて器用な第一胸脚。
餌の探知に使われると思われる短い毛が横向きに生えていて、
主に、この手で、餌を食べます。
眼の周りや体のあちこちの掃除にも使いますから、
観察していれば見られます。
スジエビも第一胸脚を折り畳んでいる事があるので、餌を与えた時に見ると良いかもしれません。
これら4本が全部欠落している個体というのは、
考える必要が無いほど確率が低いのではないかと思います。
この長い手がどれか一本でもあれば“手長”エビ科です。ヌマエビ科ではないです。
参照⇒【スジエビの離れ眼、長いハサミ脚
透明で、体形がカクカクと曲がっていると、なぜか全部「スジエビ」とされてしまうことが多いようです。
透明度?や、曲がり具合?ではまず無理です。眼の出っ張り具合?もまず無理でしょう。
参照⇒【スジエビの範囲
これら多くの種類が「スジエビ」となっている事が多いです。
手の長さと胸の横の模様に注目すると、大幅に混同は防げます。

旧ヌカエビ『ヌマエビ科』

スジエビと誤認される事のほうが多いのではないかと思うほどの旧ヌカエビ。
第一胸脚は太く短く、その前にある顎脚のほうが、はるかに長いです。
第二胸脚も、他の歩脚より短いです。
ビーシュリンプなどとも共通な、小型ヌマエビ類全般の特徴です。

スジエビ『テナガエビ科』の額角のギザギザは粗くて大きい

スジエビの額角(眼の上の大きなツノ)には粗く5個程度のノコギリのようなギザギザがあります。
ここまで粗く少ないエビはあまり居ないので、憶えておくと便利かもしれません。
●テナガエビ『テナガエビ科』・・・・10個以上の細かいギザギザがあります。
●旧ヌカエビ『ヌマエビ科』・・・・・額角にほとんどギザギザがありません。
●ミゾレヌマエビ『ヌマエビ科』・・・・非常に細かいギザギザが数え切れないほどたくさんあります。
虫眼鏡やルーペが必要かもしれませんが、模様や手脚の長さでも、どうしても分からない場合は、
見てみると良いかもしれません。(額角が折れている場合もありますが)

※そもそも、スジエビという名の、スジ模様に特徴のあるエビでさえも「模様を使わない」で、
余白の透明度や眼の出っ張り具合、腰の盛り上がり具合ばかりで見分けようとする事自体が、
淡水エビを覆う「因習」に大きく支配されている証。
無意識のうちに、生きた淡水エビにさえも本当に模様を見なくなっている恐ろしさ。
知らず知らずのうちに、ある種の洗脳が行なわれていて、
「模様は使えないものなのだ」と言い聞かされてしまっている事が多い印象です。
模様が使えないのは、白化してしまっている標本や模様の記述のない原記載論文等との比較の場合のみ。
完全に誤解されて、生きたエビの見分けにも「模様は使えない」と思われている事が、逆にもはや常識となってしまっています。
模様が良く出ている生きたエビまで、わざわざ模様が無いかのように不便な方向に合わせる必要は一切ありません。


スジエビは一瞬で分かる、きわめて見分け易い種類です。
迷ったり悩んだりという要素はほとんどありません。
スジエビはスジエビなのです。
スジエビなのかどうかで少しでも迷ったのであれば、
別の種類であると考えたほうが確率は高いと思います。⇒【スジエビの範囲

 

参照⇒【テナガエビ科の第一胸脚は折り畳み式

 

おすすめリンク

【川エビ雑話】
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebisyurui/M.japonicum.html
川エビの体のつくりを非常に分かり易く説明して下さっているので、
勉強させてもらうと良いと思います。

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
模様を軽視していないので、生きたエビの見分け方として参考になると思います。
(水族館という役割ならではという感じ。生きた水生生物に親しんでもらいたいという願いと思います)
川エビの種類は、模様を見ないとまず見分けを失敗すると思ったほうが正解です。
「模様を見ない」という因習の影響が根強い淡水エビ情報には種類間違いがあるのが常でしたが、
ここには、個人的に違和感や種類間違いを発見できなかった記憶があります。

 

2009/08/04


2009/08/04 更新


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