ビーシュリンプ(CRS)の白線のお話


褪色と欠落

ビーシュリンプやCRSを飼っていると、白い模様の部分が薄れてしまったり、
分割されて細くなってきてしまうという傾向が多く見られます。
この白線の減少については、環境的な要因による「褪色」と、成長に伴う「欠落」の2つがあると思います。

「褪色」は赤い部分よりも白い部分の方がひどい場合が多く、白い部分がほとんど透明になる場合もあります。
しかしこの場合は赤い部分も通常より薄れているのが普通です。
購入したてのビニール袋に入っている状態も褪色のひとつでしょうね。この場合の原因はストレスでしょうか。
同一環境でも薄い個体と濃い個体が混ざることもあります。
発色の濃度には個体差があり、その個体の持つ最高レベルの発色はだいたい決まっていて、
いくら良い環境を与えても、その最高レベル以上に発色させる事は難しいようです。


「Sグレードのような若いCRS」

白線の「欠落」についても、白い模様が少なく生まれた個体に、白い部分が増えることはないようです。
5mm程度の個体で、すでに欠けた部分がある個体は、そのままの状態で成長していきます。
飼育環境の改善によって白線の復活が有り得る「褪色」と違って、
白の発色が欠けた部分に白色が出現する事は今のところありません。
さらに、成長に伴って消えた部分にも、やはり白色は戻らないようです。

環境による褪色としては、照明が暗いと薄くなりますし、底床の色が明る過ぎるとやはり薄れます。
これは、天敵から自分を目立ちにくくするために周囲の輝度にあわせる一種の保護色的なものでしょう。
水質の悪化などによって体力が落ちた場合も薄くなります。
この理由には、色素細胞を発色状態で維持するのには体力が必要ということがあるかもしれません。
餌にも関係があるでしょう。色素の成分の摂取が不足すれば当然発色は落ちるからです。
ちなみに弱アルカリ性から中性あるいは弱酸性に移すと体色は濃くなるそうです。
おそらく生息地の環境がその水質で、ストレスなく発色できるからでしょう。
我が家の水槽では、底面ガラスむき出しのベアタンクで褪色傾向がみられたため、
ソイルを5mm程度の厚さで少量、水槽の片側前面の部分に投入してみたところ、
数日でかなり発色が改善された事があります。
ガラスむきだし部分に居る場合も発色は薄れなかったので、底床の色に左右されての褪色ではなかったようです。
この場合は極めて短期間での変化だったのと、CRSがソイル部分に集まり、さかんにソイルをついばむ行動が
見られた事から、何らかの微量成分の補給が行なわれた可能性が大きいです。
他にもソイルには水質を弱酸性に保つ効果や、バクテリアの繁殖が活発になるなどの効果もあるようです。

様々な要因が重なっている場合が多く、今のところ褪色を防ぐ完璧な対策は見付かっていないようです。
概ね体色が鮮やかな方が個体の調子は良いようですので、
上記のような原因を探って健康な状態を維持する事が対策の基本となるでしょう。
二年に満たない短い命ですから、常にその個体が持つ最高の発色で過ごさせたいところです。


次に、赤白の発色はクッキリ良いのに、白い部分の模様が減っていく・・・という、
成長に伴う白線部分の「欠落」について少し考えてみました。


白線の由来

生物の体色、特にビーシュリンプなどの、自然界で他の生物の餌となる率の高い生き物の体色は、
まず「保護色」と考えて良いと思います。
バッタが草のように緑色だったり、アブラゼミが木の皮のような色模様だったりという感じです。
自分の体の色や柄が背景に溶け込む事によって、天敵に発見されにくくなるわけです。
この観点からすると、ビーシュリンプの特徴的な白黒模様は、見事な迷彩服に見えます。
白や黒のパーツに分けられてしまうと「エビ」という認識がなくなるため、
「エビ」という形に反応して捕食行動をする敵の脳の形状認識から外れるという効果があるのでしょう。
あれだけくっきり白黒に分けられると白や黒のみが浮かびあがり、
エビという一つの生き物という認識に結びつかなくなるわけです。
白黒の各パーツは背景に似たような白黒の混ざった砂利などがあると、モザイクのように溶け込んで、
更に「エビ」と分かりにくくなりますね。
この体色は彼等が住む川床の砂利の色そのものなのではないかとさえ思えます。


「白黒ハッキリなビーシュリンプの仔エビ」

白線を持つ生き物は身近に結構居るものです。代表的なのはゴキブリの子供。畑に行くとエンマコオロギの幼虫。
滅多に見れないでしょうけど、猪の子供(瓜坊)や子鹿なんかにも白点や白線がありますね。
白い模様には天敵の捕食を免れる迷彩効果があり、逃げ足の遅い幼体にはかなり役立っているのでしょう。
こう考えると稚エビに白い模様がくっきりな理由も見えてきます。


稚エビから親エビへ

ビーシュリンプ(CRS)の稚エビ、特に5ミリから1cmくらいの個体は、共通して白バンドがくっきりです。
このまま大きくなってくれれば、さぞや綺麗だろうと期待してしまいます。
CRSの場合、「ついにSグレードの誕生か!」と大喜びするのですが、
その期待もむなしく、1.5cmくらいから白線は崩れ、細く薄れてしまいます。
ただ生き物は必要のない物にはエネルギーを使わないのが筋ですから、
この傾向を自然な現象と捉えるならば、
「白線は個体が大きくなるほど必要がなくなる」と思って良いのではないでしょうか。
親エビより稚エビに白黒模様がハッキリしているのは、
小さいぶん敵が多く、逃げ足も遅いため、より天敵に狙われ食べられる確率が高いからでしょう。
大きくなるにつれて意味が薄れるか、
稚エビと同じ比率のまま白バンドも黒バンドも大きくなってしまうと面積がとても大きくなり、
今度は逆に目立ち過ぎて、保護色のつもりが逆効果になってしまう可能性も大きいです。
白という色は元来目立つ色でもありますから、背景から浮くほど大き過ぎては意味がないですね。
人間から見たら、育ったところで2.5cm程度の生き物ですが、
3ミリの稚エビからそこまでに育つ間に遭遇する確率のある天敵の種類や数は相当多いはずで、
この白線によって現在まで命がつながってきた事は確かと云えるはずです。
白線が薄れる頃には彼等的には一応安心サイズなのでしょう。(まだまだ敵は多いでしょうけれども)
そこで大きくなるにしたがい、目立ちすぎない細さに崩れたり、薄くなったりするのではないでしょうか。
白線が減っていくのは、本来の「自然な流れ」と言っても良いのかもしれません。


抱卵♀の白線の減少

白線の減少はオスメス共に見られるものですが、特にメスの抱卵個体は著しく減少する場合が多いです。
白バンドがくっきりで、かなりグレードが高いなと思っていた仔エビがメスの個体であることがわかり、
初めての産卵をした途端、白線に抜けが生じ始め、その後、脱皮して抱卵を繰り返すたびに白部分が落ち続け、
半年近く経つと、見事なほどに無くなってしまったというのをよく経験します。
この抱卵♀の白線の減少が著しい理由も「保護色」に関連するものと思われます。
ご存知の通り、メスエビは腹肢に卵を産み付けて1ヶ月近くもの長期にわたり保護するわけですが、
この腹肢は別名「遊泳脚」とも呼ばれるものですから、移動手段などに大いに活躍する器官でもあるわけです。
ここに重たい卵が40個前後も付くわけですから、運動能力に大きな制限が生じてしまうわけですね。


「抱卵したメスのクリスタルレッドの典型的な色彩パターン」

運動能力に制限が生じた個体は逃げ足が遅いという事になり、天敵に捕食されやすくなります。
オスや抱卵していない若いエビ達と同じ行動をしてはいられないわけです。
この抱卵をしているメスは極めて人影に敏感です。
そーっとガラス面に近付いて卵の状態を観察しようとするのですが、
さかんにこちら側にヒゲを振り、そろりそろりと流木の下などに逃げ込んでしまいます。
こんな感じですから、おのずと天敵に見付かりにくい暗い場所や夜間に行動する事が多くなるでしょうが、
暗い所で白は良く目立ってしまいます。
そこで天敵の形状認識を惑わす機能の最低限度まで白を減らすことになったと考えて良いのではないでしょうか。
抱卵したメスの基本的な色彩パターンである、腰の部分に細い白線が2本ある程度、というスタイルは、
こうした理由から発生したものではないでしょうか(というか、こうしたパターンを示すものが生き残った)。

これに対し、オスの白線の減少はそれほど激しくありません。
かなり大きくなっても白いバンドが太いものが見られます。
やはり、運動能力に制限が出ることの無い身軽さからでしょうか。
CRSは殖えるという事に目が行きがちで、メス、特に抱卵個体が珍重されがちですが、
観賞という観点からすれば、圧倒的に雄エビが有利です。
白線も太く綺麗で、形もスマートで格好良く、絵になります。その綺麗な姿で活発に良く泳ぎまわります。
ディスプレイ水槽には「オス」でしょう。


観賞用に由来は意味なし


「白い部分が多めの雌

さて、ビーシュリンプ(CRS)の白線は稚エビの迷彩効果が由来で、
大きくなるにしたがい減少していくのは自然な流れではないかという話でしたが、
これは彼等が自然界で生き残るためには重要なものであっても、食物連鎖から切り離された観賞用の状態では、
特に意味を持たないことになりますね。
金魚に代表されるように観賞用の生き物は単純に人間にとって綺麗だったり面白ければ良いのです。
「ランチュウ」や「頂点眼」などはとても自然界では生きていけませんがそれでいいんですね。
同じ赤白の観賞用の生き物であるCRSの場合も、白線が減少する流れは、観賞的には、むしろマイナスです。
上記の考え方は、Sだと勝手に思っていた個体のグレードが、成長と共に落ちてきた時に、
「自然の流れさ」と自分を慰める為に使うと効果的ですが、それ以外のプラス面はありません。
実際、この白線の落ち具合、残り具合は千差万別なようです。
選別に選別を重ね、抱卵♀でも白線が崩れないSS級の個体も作出されているようです。
CRS飼育は「自然な流れ」に対抗して自分好みの色柄の作出を目指せるところにも魅力がありますね。

2003・04・04 


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