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エビの放流について

●エビの放流に関しては、個人的には
「採集に行った同一氾濫原の同一箇所で採集して、
とりあえずバケツに入れておいた個体を、帰り際に、バケツから元居た場所に戻すまで」

が限度かと思っています。(これなら水合わせも気にしなくて済む)

エビにとっての国境は氾濫原のへりの山や尾根。
それを超えたら国内産同一種でも“外来”だと思っています。
氾濫原⇒http://www1.gsi.go.jp/geowww/Photo_reading/hanrangen.html

スジエビも川ごとに卵のサイズが違うなど、氾濫原ごとに独自の進化をしているわけです。
スジエビの卵サイズhttp://www.lbri.go.jp/omia/06/6-4-2.html特集・琵琶湖のスジエビ
ヌカエビも隣りの川なだけで、最大サイズや色合いが違います。

●一度でも水槽で飼ったエビは放流しないのが賢明と思います。
持ち帰って一度でも水槽に入れれば
「他種との交雑」「寄生虫や病原体の交換」は少なからず起こると思うからです。
エビ自体は隔離飼育していても、濾材・水・水草・流木などを他の水槽に流用したら、
それらも一緒に移動します。
稚エビが紛れたままの水草が移動されている事も多いですし、
水槽が隣接している場合、隣りの水槽から飛び出して入った種類が
いつの間にか平気で暮らしている場合もあります。

ヒルミミズやエビヤドリツノムシなどの交雑問題が発生するのも必至です。
http://www.cosmos.ne.jp/‾miyako-m/htm/news/040415.htm
宮古島が海中に没していたかどうかの考察に影を落としている可能性も。

採集して来て水槽で増えたエビを、捕った元の場所に帰すのもしないほうが良いと思います。
遺伝子が劣化した「もやしっ子」が大量に病気になれば、
現地のエビも巻き添えを食うでしょう。

エビは食物連鎖の下層の方に居る生き物なので、
良識的な範囲で数匹持ち帰る程度なら環境に大きなダメージはないと思います。
実際、ヌカエビを捕った滝の上の小さな沢に、その後何年か様子を見に行きましたが、
いつ見ても採集当時と変わらぬエビの楽園でした。

エビは、捕るダメージよりも放すダメージの方が大きいと思います。
下手に放流などしないほうが、
またいつでも捕れる健康なエビの楽園を守れると思います。

●採集に使うバケツや網も要注意でして、これらは、よく洗ってカリッカリに乾燥したものを使っています。
実際、バケツに残った小さじ一杯程度の水でも数日生きていたエビはありましたから(^^;
ぬれた網やバケツを使うと、知らず知らずのうちに他所に放流することになってしまいます。

以上は、現在のところ、私が感じている放流に対する考え方です。

 

※最近、恐ろしいのは「ビオトープ」。
ベランダに置く「なんちゃってビオトープ水鉢セット」ではなく、河川に繋がった形で作られるタイプ。
出身地不明の外来エビを大量に放した「外来エビ養殖池」が自然河川と繋げられている可能性はありそう。
(飽きたベランダビオトープも、「自然は自然に帰さないと・・・ザバーッ」だったら恐いですが(^^;。
外来生物・外来植物満載の器)
※ビオトープは生き物に「住んでもらう」「利用してもらう」ものであって、
無理やり「ここに住め!」ではない物だったと思いました。
(↑これをしたら、ただの屋外飼育水槽、屋外飼育池)
つまり、隣接河川に元々住んでいたエビが自然にビオトープ内に入って、
「お、ここ結構いいね!」と暮らす事が目的。放流とは無縁な筈だと思いました。
※ビオトープといえば=水棲生物、水棲生物といえば=ミナミヌマエビ、な流れも問題。
市販のミナミヌマエビ=ほぼシナヌマエビ、という認識が低いままの導入が多いものと思います。
(もっとも、本物ミナミヌマエビであっても、氾濫原以外の個体なら“外来”だと思いますけど)
「地球にやさしい事をしているんだ」「良い事をしているんだ」という陶酔もプラスされていますし、
そのために放流への敷居も低くなっている筈。厄介だと思います。

※河川の氾濫が少ない現在では、同一氾濫原内で、
本来なら数年に一度くらい洪水で混ざるはずだった遺伝子が混ざれずに孤立し、
遺伝子が劣化している可能性も当然あるでしょうけれど、これはまた別問題ですね。
放流は、最も詳しい方達が充分考慮した上で行なっても、
予期せぬ失敗、取り返しのつかない事態になる場合もある世界だと思います。

 

「エビ」と「放流」は“無縁”が吉です。

 

2006/02/04

 


減ったら放流は美談?

最近、Web上で見かけて、ゾッとしたのが、
テナガエビを大量にプールで育てて放流するという活動。
テナガエビが減ってきたので、数を取り戻す為に行なうのだそうですが、
これだけ悪食で、しかも川の食物連鎖のかなり上位に位置するエビが大量に放されたら、
その地域の生物層が相当なダメージを受けるのは必至です。
川が弱っているからテナガエビは減ったわけで、
そこにいきなり、ある意味「ズル」をして殖えたテナガエビが大量に放されれば、
弱っている生物層にとどめを刺しかねません。
その減った原因を究明することから始めないと、意味は無いどころか、
さらなる環境の悪化が想像できます。
「自分の好きな生き物一種類だけが増える環境」を作るのは無理だと思います。
その生き物を支える生き物や、数が増え過ぎるのを防ぐ生き物まで、
全ての生き物が揃ってこその回復を考えないと、
結局、達成出来ないのではないかと思います。
※大量のテナガエビの捕食にあって、
絶滅するような状態に追い込まれる生き物が居たらどうするのでしょう。
(追記 2008・08・13)


【日本甲殻類学会】
http://wwwsoc.nii.ac.jp/csj4/
見渡した限りでは、エビの放流へのガイドラインのようなものは見つからない。

日本魚類学会
「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」
http://www.fish-isj.jp/info/050406.html
保全をめざした魚類用ですが、意義は同じと思います。


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