ロックシュリンプの飼い方 〜付録

脱皮時に手(第一・第二胸脚)が全て取れてしまった場合



ロックシュリンプを飼っていた時、とんでもない事故が起きました。
その時の記録を元に・・・・・・



 ある日、いつものように水槽を覗くと、ドンキーシュリンプ(南米産ロックシュリンプ)の脱皮殻があった。
大食らいなだけあって、順調に育っているようである。
しかし、何か、こう、ドンキー君の口元が寂しい。
急にヒゲを剃ってしまった人に会ったような感じ・・・・・・「え?」
な、なんと、彼等、ロックシュリンプのシンボルとも云えるネットが無いではないか。
しかも、第一、第二胸脚4本とも全てである。
使わない時には畳んで口元に集めて「ナ〜ム〜」と拝む感じにしてあるフサフサの胸脚がないのだから、
変な印象を受けたのは当然だ。
どうやら、脱皮に失敗して、付け根部分から全て取れてしまったようだ。
取れた胸脚は脱皮殻の中に残されているようである。
体の他の部分に比べ、このロックシュリンプの胸脚は関節で複雑に構成されているため、
脱皮殻から抜き出すのは、見るからに難しそうではある。
しかも、毛が密生している。
ふと、きつめの革手袋を手から脱ぐのに苦労したことを思い出す。
指一本一本が手袋の内側に密着してしまい、もう片方の手で引っ張っても全然抜けない。
相当な摩擦が指全体を覆い、しばらくの間、窮屈な目にあった。
ロックシュリンプの手にも、殻と一本一本の毛の表面全てとの間に似たような摩擦が生まれるだろうから、
スルリと抜けられる方が不思議なほどだ。
この細工の細かい手の部分と、その表面を覆う脱皮殻との抵抗は、かなり多い筈なのだ。

餌取りに重要な役割を持つこの胸脚がとれてしまっては、この先こいつはどうやって生きていくのだろう。
言うなれば、カマキリのカマがとれてしまったようなもの。
一本や二本ならまだしも、全部取れてしまうなんて・・・・絶望的な予測が頭をよぎる。
当のドンキー君は少々間の抜けた顔をしながらも、べつだん気にする様子も無くたたずんでいる。
これから訪れる自分の運命を受け入れている様にすら見える。

その日はさすがに脱皮した当日であるため、特に大きな変化は見られなかったドンキー君だが、
次の日に観察すると、今までに見た事も無いような面白い行動をしている。
その水槽は当然ながらベアタンク(底面むき出し水槽)なのだが、その底の表面を口ですするが如く、
床に口を付けて、少しずつズリズリと前進しているのだ。
「こいつ、生きるつもりだ!」
そう、それはまぎれもなく餌を探しているのであった。
早速、底面にメダカの餌を撒いてみると、口器部分にある左右の顎を使って餌を口で直接食べ始めた。
元々御上品に餌を手でつまんで口に入れている生き物だから、口は地面からかなり離れた場所に付いている。
その口を床に付けるには、お尻を上に突き出し(腰の部分かな。正確には腹節ですが、そんな感じで)、
肢を左右に投げ出すという非常に不恰好な姿をさらす事になる。
しかし、背に腹は代えられないドンキー君は、その姿で餌を食べ続けたのであった。





水槽内では餓死する事も多いくらいですが、こういう「しぶとい面」も持ち合わせているんですね。
もし自然界で同じような状態になっても、泥をすすって生きていくのでしょう。
万が一の為のこういう行動が備わっていると云う事は、案外、あの細工の細かい部分を脱皮で失う事故は
自然状態でも一定の頻度で起きているのかもしれません。

幸い、水槽底面には自然環境のように様々な異物や凹凸はなく、餌しかないため(自分自身の糞はありますが)、
餌と異物を選り分ける苦労はなく、うまく餌だけを食べられている様でした。
しかし、手がある時よりも、はるかに餌を集める効率は悪いため、手がある時ほど「のんき」ではありません。
観察した時には、ほとんどズリズリと床を口ですすり続けていました。
手がある時と同じだけの量の餌を摂取するには、相当な努力が必要なようで、かなりな苦労が伝わってきました。
餌の量を増やしてあげたい所でしたが、水質の悪化も恐いので、手がある時より心持ち多めにする程度にしました。

数週間後、ドンキー君は無事に次の脱皮を迎えることが出来ました。
一回目の脱皮で、と〜っても小さな御手々が生えました。
さらに次の脱皮で、まずまず使える程度の大きさに回復。毛の長さも半分くらいになりました。
三度目の脱皮で、ほぼ普通の大きさの手になり、完全に以前の生活スタイルに戻りました。

しかし、この手がもげてしまった状態では、底床の敷いてある水槽では、まず生きていけなかったでしょうね。
手があっても底床がある水槽では飢えてしまうくらいですから尚更です。
底床の敷いてある水槽で無事に暮らせているロックシュリンプでも、
手が全て取れてしまったら、ベアタンクで飼ってあげた方が良いかもしれません。



2003・08・05 岩

 


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