ヌマエビ類の交雑について



共通性の高いフェロモン

ヌマエビ類の♀の産卵前脱皮の際に発せられる♂を呼び寄せるフェロモンには、
種を超えた共通性が高い場合が多いようで、
他種の雌のフェロモンにも反応して水槽中の他種の雄が興奮状態になるのは、しばしば目撃されます。
過去に、東南アジア産ロックシュリンプの脱皮に際し、ヤマトヌマエビの雄が群がる、
あるいは、ヤマトヌマエビの♀の脱皮に際し、ミナミヌマエビの雄が群がる、
さらにはヌカエビの脱皮に際してCRSが狂喜乱舞する、という現象を見たことがあります。


※大量にミナミヌマエビのオスが居る水槽では、ヤマトヌマエビのメスが脱皮すると、
一斉にミナミの雄が交接行動をとろうとして群がり、ヤマトのメスが死んでしまうこともあるそうです。
ミナミヌマエビのメスが交接過剰で殺されるのと同じ状況になってしまうようですから、
精力の強いこのミナミヌマエビの雄が大量に居る水槽での他種との混育には注意が必要だと思います。
河川でもミナミヌマエビが多い同一箇所には、他のエビがあまり居ないという話を聞きました。
この相手間違いの行動は、ミナミヌマエビの勢力拡大に一役買っている可能性もありますね。


種は一種類から地域的に分かれて、独特の進化を遂げて分化するというパターンが多いと思います。
分化途中で混ざり合う可能性があったもの、生息地域が重なっているものについては、
毎度の脱皮の際にいちいち他種に反応する・されるの状態は、お互いに無駄なエネルギーを費やす事になるため、
他種の脱皮であることをその他種に知らせるなんらかの忌避物質や忌避信号を同時に発していると思います。
(というか、忌避物質を発しない、あるいは忌避信号のような動きをとらない種類は、
無駄なエネルギーを消費し、それらの行動をとる種類との競合に対して不利な為に衰退する率が高い)
一方、完全に隔離された種は、他種と同種を区別する必要が無かった為、匂いの種類を変える必要が無く、
太古に一種類だった時のままのフェロモンを使い続けている事になります。
さらに、仮に忌避物質・忌避信号があるとしても、同じ地域に住んでいないエビに対しては、
その忌避物質や忌避信号の意味は当然理解されないわけで、雌が産卵前脱皮の際に発するフェロモンが
「共通フェロモン+同地域の他種に対する忌避物質」程度であるとするならば、
全く出会った事の無かった他種は、太古からの「共通フェロモン」のみに反応して交接に至ろうとするでしょう。

水槽の中で初めて出会った外人エビさんとの間では、お互いを他種と判断してきた歴史など無いわけですから、
互いの忌避物質や忌避信号の意味など分かる筈も無く、
他種の雌のフェロモンを嗅いで他種の雄が交接行動に及ぶのは、極めて自然な行為であると思えます。

そこで、同じカワリヌマエビ属である、ビーシュリンプ(クリスタルレッドシュリンプ)と、
ミナミヌマエビを混ぜれば、案外簡単に交雑するのではないかと思い、混泳させてみました。
ヌマエビ類は、脱皮直後のふにゃふにゃな雌に雄が交接するため、
動きの不自由な雌側の選択権が乏しい事から、雄側がフェロモンに反応しさえすれば、
交配は比較的簡単なのでは?という予測を立てて観察開始です。


交雑実験−ミナミヌマエビ♀Xクリスタルレッドシュリンプ♂(ビーシュリンプ♂一匹含む)

卵巣と腹節の側板が良く発達していて、まず雄と見間違うはずが無く、
当然ながら抱卵していないミナミヌマエビの♀50匹を選別しました。
そこにビーシュリンプの♂1匹を入れ、ハーレム状態を作りました。
ミナミのオスが入っていると、この精力抜群の同種のオスに交接されてしまうでしょうから、
交配を確実にさせる為、この実験では同種の異性は全て除いた状態にしてみました。
しかし結果は全く抱卵せずでした。
ミナミヌマエビの♀は卵巣を維持したまま脱皮を繰り返し、体がどんどん大きくなっていくだけでした。
見た事も無いくらいに大きくなり、どの個体にもメス独特の模様が出ました。
初春から春真っ只中という季節的にも産卵に好適な時期を過ごさせましたが、脱卵した形跡も無いようでした。

さすがにビーシュリンプの♂1匹では無理かと思い、CRSの♂を24匹追加投入。
CRS水槽で元気に追尾行動をしている若い♂を片っ端から投入してみました。
これだけ居ると、ミナミヌマエビの産卵前脱皮に反応して追尾行動をする様子がしばしば観察されました。
水草の中をかいくぐって盛んに脱皮後のミナミヌマエビの雌を追います。
しかし何度大きな産卵周期(満月の大潮の頃にやや多い)が来ても、抱卵しているミナミの♀は皆無でした。

観察開始から3ヶ月を過ぎましたが、
隣りのオスメスが普通に居るミナミヌマエビの水槽では抱卵個体や稚エビが溢れているのに対し、
実験水槽では、卵巣を大きく発達させたまま、体が巨大化していくミナミヌマエビの雌と、
若かったCRSの雄が大きくなり、仲良く餌に群がっているだけの状態が続きます。
抱卵の確認のみをしようという手抜きな実験だったので、交接や受精嚢の観察はしていなかったのですが、
実験を終了しようと、CRSを一時的に全て取り出す作業中、ふとミナミの♀を見ると、
二匹の受精嚢と思われる部分に白い影を確認することができました(参考⇒CRSの受精嚢)。
同じくベアタンクの底面にも、カビて白くなった丸い卵とおぼしき物体を数個確認。
その後、注意して見るようにしたところ、受精嚢に精包らしき白い影は何度も確認できました。
どうも、交接は頻繁で、産卵もしている個体もあるようなのですが、卵の発生には至っていないようです。
しかし、抱卵には至らないものの、精包の授受は行なわれているらしい事はわかりました。


※この受精嚢と思われる部分の白い影ですが、脱皮直後の雌には共通して見られるっぽいです。
CRSでは、やや小さめですが交接前でも見られました。
この観察のミナミの雌の白い影も「明確」とまではいかないので、
交接していた可能性は薄いかもしれません。
さらなる観察を検討しているところです。(2003・10・01)


さらに数週間が経ちましたが、ミナミヌマエビの♀に抱卵は皆無でした。
結局、この交配実験は失敗だった様です。
完全に実験を終了しようと思い、記録的な長期避妊状態だったミナミヌマエビの♀の集団の中に、
同種の♂を入れてみるとどうなるかと思い、ミナミ水槽から元気の良さそうな♂を一匹投入してみました。
急に投入されたその♂はスポンジフィルターの裏にスーっと泳いでいきました。
裏を覗いてみましたが、久しぶりの男性の登場にも、ミナミの雌達が興奮することはありませんでした。
数分後、ここまでの長期の実験に名残惜しさを感じ、再びそのミナミの♂は取り出しました。

そして底掃除をしていると、なんとミナミの♀が一匹産卵をしているではないですか。
しかも次の日も、その次の日も、その卵は脱卵せずに抱き続けられています。
網で追い回され、水合わせもせずに投入されたミナミの♂が数分の間に平気で交接するとも思えないので、
「ついにミナビーの誕生か!」と期待に胸を膨らませていましたが、
産卵から18日後に生まれてきた稚エビ達には、ビーっぽい模様は微塵もなく、無色透明。
稚エビなのに人工飼料に貪欲に齧り付き、ビーの子供の様に底に落ち着かず、やたらと泳ぎ回る・・・
どうも、やはり、彼の子供のようでした。
ほとんど目の前と言ってもいい状況での、ものすごい早業!
さすが同種同士!と感心する以上に、このミナミ君の精力の方に感服です。

台湾や中国大陸周辺にはミナミヌマエビの近縁種(シナヌマエビなど)が多いらしいことから、
ミナミヌマエビの近似種と香港出身と言われるビーシュリンプとは、生息域が重なっている可能性もあって、
どうもこの2種類は、しっかり種類として分化しているようです。

白線も黒線もありません
「ミナビー」誕生かと思いましたが、どう見ても、ただのミナミの子
実験終了後に入れたCRSの♀は抱卵したので、この♂黒ビーの生殖能力は確認されたのですが・・・

大卵型のカワリヌマエビ属は、姿形やサイズがほぼ一緒であることに加え、
共通性の高いフェロモンを使って繁殖を行なっている可能性が強い事から、
交接・精包の授受は比較的簡単に行なわれるものと思います。
次々と新しい種類のエビが輸入されていますから、
出会った事の無い種類同士であれば、交雑する可能性はじゅうぶんにあると思います。



2003・08・13 

 



2003/08/25 UP


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