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額角は似ている


勘違い起源の因習によって、身近な生き物でありながら、
最もグレーな生き物にされてしまっているのがヌマエビ類です。
本州周辺には最大でも8種類しかヌマエビ科は居ません。種類は少ないです。
その少ない種類の中で、額角を見るまでもない種類が以下の3種類と思います。

額角を見なくとも判るエビ
●ヤマトヌマエビ・・・・誰でも分かります。
●トゲナシヌマエビ・・・名前通りで顕微鏡も要らない。体も太く寸胴。
●ヒメヌマエビ・・・・・縦縞型・横縞型ともに模様で判断されている。

この3種類は額角も個性的ですが、それ以上に色模様や体形が独特なので、
褪色した死骸の標本でもない限り、額角を見る必要はないと思います。
「額角だけだ!模様は見るな!」という勘違い因習好きの簡易同定系情報でも、
ヤマトヌマエビだけは模様で見分けて良いとされていたりします。
トゲナシヌマエビも余程の事がない限り、額角が折れた各種と混同する事はありません。
コテラヒメヌマエビを見分けたいという事でもなければ、ヒメヌマエビも見る必要を感じません。
(コテラヒメヌマエビが額角の相違で分けられているのかは知りませんが)

残る5種類ですが、こちらは逆に、額角のみを見たら、似ていて大変でしょう。
1.どれも額角が長い。鼻先に突き抜けるほど長い場合が多い。
2.どれも頭の後ろまでギザギザが続いている。
額角の特徴がほぼ一緒なのです。

額角だけを見たら判らなくなるエビ
●ミゾレヌマエビ
●ヌマエビ(南部群)
●旧ヌマエビ大卵型(西日本の新ヌカエビ)
●ミナミヌマエビ
●シナヌマエビ、コウライヌマエビ等、カワリヌマエビ属の外来亜種群

この中で最悪だったのが、旧ヌマエビ大卵型とヌマエビ(南部群)です。
額角が一緒だったので、別種なのに同種の卵の大きさ違いと思われていました。
「額角を見なければ、ヌカエビとヌマエビ大卵型を一緒にするところだった、あぶないあぶない」
なんていう事もあったろうと思いますが、こちらは逆で、同種でした。
つまり、額角では種類を見分けられていなかった事実があり、その歴史は長いのです。
額角を見る効用として、いまだに得意げに語られる、
『ヌマエビは額角上に眼を越えて後方まで歯が並び、ヌカエビは眼の前までである』
といった記述は、ヌカエビの頭に棘が少ない場合が多い東日本で役に立つ程度。
西日本では別種を同種にし、兄弟程度を亜種にしていた悪しき手法です。(額角神話の崩壊)
むしろ、
●ヌマエビ(南部群)
●旧ヌマエビ大卵型(頭に棘のある西日本のヌカエビ)
の2種には、「額角だけを使って見分けてはならない」くらいの注意書きが必要です。
西日本の生息調査の「ヌマエビ」には新ヌマエビと新ヌカエビの別種2種が含まれていますから、
黙っていても再確認が課されている事になると思います。
同種の産卵形態違いではなく別種ですから、一から調査し直しになると思います。

残り3種ですが、
抱卵体形のミゾレヌマエビとミナミヌマエビが簡易同定系情報で間違われるのは普通のようです。
模様は一切参考にしませんし、前側角部の棘までは見ずに、雰囲気で判断されたら、
どちらも額角が長くて頭までギザギザですから間違えないほうが不思議なくらいです。
観賞魚ショップ出身の“ミナミシュリンプ”は、額角が短いことが多いですが、
ミナミヌマエビは突き抜けるほど長いのが普通のようです。
同じく長過ぎるミゾレヌマエビとの混同率は高いと思います。

そのミゾレヌマエビが、新ヌマエビや西日本の新ヌカエビと区別されないのも普通に思います。
西日本の情報で、なんの言及もなく「ヌマエビ」となっている情報には、
新ヌマエビ、新ヌカエビ、ミゾレヌマエビが含まれている可能性が高いと思います。
ミゾレヌマエビが分離されていても、新ヌマエビと新ヌカエビは区別されていない率は高そうです。
どれも額角が長く、ギザギザが頭まで続くエビです。

シナヌマエビ類とミナミヌマエビについては、
庶民レベルでは、長さで判断し易いですが、実際には微妙な長さの個体もあります。
「形体的な特徴での見分けは不可能」とまで断言され、遺伝子比較されているので、
最先端部分では、これらの見分けにも額角は使っていないのでしょう。

これらから考えても、額角をあえて顕微鏡で見る必要は感じません。
長さくらいは有効に使いますが、眼を見て、外肢を見て、模様を見た方が精度が断然高いです。
眼上棘の有無は外肢の有無と所持者・非所持者が重なりますから、
わざわざ小さくて見辛い眼上棘を見る必要もゼロ。見易い外肢で足ります。

ミゾレヌマエビとミナミヌマエビは前側角部棘を見れば確実と思いますが、
種類特有の模様が良く出ている個体なら、これも必要ない作業に思います。
(種類特有の模様がクッキリ出ているにもかかわらず、種類間違いが多いのがこの2種です。
逆に考えると、前側角部の棘を確認されていない事が多いことを表わしています。
ミゾレヌマエビは額角の先端が二又や三又になっているので、実は額角を精細に見れば判ります。
これを怠って、前側角部も見ないで、模様も見なければ間違えて当然だと思います)

新ヌカエビの近畿・山陰・東海産と新ヌマエビは離れ眼・模様が重要です。
この2種は額角、眼上棘、外肢が一緒です。でも別種です。
遺伝子を比較出来ない以上は、庶民は離れ眼や模様で見分けるしかありません。
しかありませんと言うより、模様で見分ければ簡単と思います。
(そもそも模様と生態が全然別なのに同種とされて来た事が個人的には異常に感じます)

淡水エビの世界で殊更に重要性を強調される額角。
まるで額角さえ顕微鏡で見たら誰にでも一目瞭然かのように便利さや確実性が謳われますが、
そこには現実に別種を見分けられていなかったという大きな落とし穴がありました。
そして、現在も8種類中5種類が長くて頭までギザギザというそっくりの額角を持っています。
どれも酷似していますから、素人が真似て見比べて判るものとは思えません。
しかも小さなエビの、更に小さなおでこのツノの、さらにそこに生えた歯の数とか位置です。
そんな機材と時間と労力を使うなら、個人的には模様を見てしまいます。
生きたエビを見分ける場合の、実用的な額角の重要性なんて、模様の足元にも及びません。

たとえば、ヤマトヌマエビと、旧ヌカエビと、ミゾレヌマエビの額角を並べたら、
そりゃ、全部が見事に違います。違いが明らかですからね。⇒こちら
こういう部分だけを強調して額角の重要性を語るのは詭弁です。
そうではなく、似ている5種類の中から、最も似た個体の額角を並べて、
「ここまで似ている事があるので要注意です」とするのが正当です。(例えば⇒こちら
額角を見るまでもない3種の額角を混ぜて、額角の違いや有効性を強調する道具に使うのではなく、
似ている種類のみを並べて詳細な比較をすれば良いのです。
特に、同種としていた旧ヌマエビ小卵型と、旧ヌマエビ大卵型の額角の比較は欠かせない筈です。
ここに触れずに、額角の利便性や重要性のみを語るのはナンセンスです。

額角を見る必要のない3種と、見ても額角が似ている5種。
その似ている5種のうち2種は額角を見ても識別できないばかりか間違えますから、
使わない方が良いか、使えないくらいです。
8種類のうち5種が似ていますから、普通に考えて「額角では見分けにくい」のが正解。
なのに、その似ている種類の間に額角を使うまでもない3種(ヤマト・トゲナシ・ヒメ)を混ぜて、
さも「こんなに違うでしょ」と強調してあるのが、よくあるパターンです。

『ヌマエビの仲間は種類が少なく、独特の模様を有する種類が多い為、模様で見分けるのが有効。
額角は酷似している種類が多く、種類の識別には使えない』
生きたエビの実体で言えばこちらの方が正解に近いでしょう。“因習起源の常識”とほぼ逆です。

額角は「各種が全く違うのだ」という方向からしか語られません。
「額角は似ている」という視点から語られる事はまずありません。
長短や形状の違う種類を強調し、似ているものはできるだけ離して置き、
類似点に触れられないように巧みな情報操作をされていると考えて良いと思います。
まるでエビは額角以外に種類を識別できる部分は一つもないかのように語っている以上、
似ていて見分けられない額角を持った種類同士の存在は、有って欲しくないのでしょう。
しかし、残念ながら、事実上の額角は、
種類が区別できなかった2種も含め、よく似ていて間違いを誘発し易い小部品に過ぎません。
額角はその小ささと比例する程度の重要性しか持たないと考えるのが自然だと思います。

 

2010/08/04 


2010/08/04 更新


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