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額角こそ酷似している


ヌマエビ類を識別するための情報の多くには、識別には額角が重要で、
さも、そこさえ見れば種類識別は容易かのような錯覚を誘う紹介をされている事が多いです。
額角が極端に短いトゲナシヌマエビやヤマトヌマエビ、そしてかなり背中まで歯が生えているヒメヌマエビを間に挟んで、
額角の違いが強調されるような配置で見せるレイアウトを使っていたりします。
トゲナシヌマエビやヤマトヌマエビ、ヒメヌマエビは、額角も独特ですが、それ以前に模様や体形が独特なので、
実は、額角を確認する必要はほとんどないと思います。
その額角を見るまでもない3種類を外すと、本当の額角での見分けとはどういうものなのかが見えて来ます。
下に4種類のエビの横顔を並べてみました。額角を見るだけで種類は分かりますでしょうか?

巷には「額角の違いこそがエビの種類の違いである」かのような情報が多いですが、
そんなに各種が明瞭な違いを持つ額角でしょうか?
特に、大事なエビにダメージを与えないように、水槽の外から見る、という一般飼育者目線であれば、
ホルマリン固定のアルコール漬け標本にしてから額角を見ることはまずありません。
第一触角柄部に額角の先端が挟まった上記のような状態で見るのが普通です。
見るまでもない3種以外は、どれも一緒に見えてしまうものだと思います。

尤も、額角って、こんな小ささですから、
ルーペやマクロ撮影でしか見られませんが・・・・・。
逆に一般の人は見ないという事を見越して、
好き放題に語られているという側面もあると思います。

本州周辺のヌマエビ類8種のうち、額角を見るまでもない3種を除いた残り5種は、
どれも額角が長いです。
そして、ヌカエビの西日本型である旧ヌマエビ大卵型を含めた5種は、
どれも額角のギザギザが頭の後ろまであります。
1.ミゾレヌマエビ
2.ヌマエビ(南部群)
3.旧ヌマエビ大卵型(東海・近畿・山陰方面の新ヌカエビ)
4.ミナミヌマエビ
5.シナヌマエビ、コウライヌマエビ等の外来亜種群(商品名“ミナミヌマエビ”)
この5種類は非常に良く似た額角を持っています。

このページで紹介した4種は、
1.ミゾレヌマエビ
2.ヌマエビ(南部群)
3.新ヌカエビ(頭に棘がないタイプ)
4.シナヌマエビ、コウライヌマエビ等の外来亜種群ミックス(商品名“ミナミヌマエビ”)
です。
本当のミナミヌマエビは、ここのシナヌマエビ類よりももっと額角が長いため、より他の種類と似ます。
西日本のヌカエビである旧ヌマエビ大卵型は、ヌカエビの頭にギザギザを生やしたエビで、
これも額角が長くギザギザが頭まである点が、旧ヌカエビよりもさらに他種と似ます。
つまり、どちらもここで紹介した種類以上に他種と額角が似る訳です。
似ていると言うより、“酷似”を使いたい、そんな似方だと思います。
その2種が居ない状態でも、これだけ額角は似ています。
ここにその2種が加わった事を考えると、もう御手上げです。見て比べようと思いません。

8種類を、およその額角の違いで分けてみると、

1.極端に額角が短い
・トゲナシヌマエビ
・ヤマトヌマエビ

2.額角のギザギザが眼を支点として前後に等間隔に生える印象。かなり背中まで生える。額角は長め。
・ヒメヌマエビ

3.額角の眼より後ろにギザギザが無い個体群。つるつるハゲ頭。額角は長い。
・旧ヌカエビ(旧ヌマエビ大卵型と同種)

4.額角が長く、ギザギザが頭の後ろまで並ぶ
・ミゾレヌマエビ
・ヌマエビ(南部群)
・旧ヌマエビ大卵型(西日本産ヌカエビ)
・ミナミヌマエビ
・シナヌマエビ、コウライヌマエビ等の外来亜種群(商品名“ミナミヌマエビ”)

ヒメヌマエビも含め、ほとんどが額角が長くて、鋸状のギザギザが頭まで並びます。
つまり、圧倒的に額角が似ている種類が多いのです。
額角が極端に短く、詳細に比べるまでもない種類は、額角以前に模様や体形で見分けられてしまい、
体付きや見た目が似ている種類は、種類数が多く、額角もよく似ていて、
最終的には額角では見分けられない2種まであります。
まるで『額角さえ見ればパラダイス』のような宣伝とは明らかな矛盾が見て取れます。

額角が長い種類の中で、額角が特徴的なのは旧ヌカエビのみです。
頭がツルツルなのですぐ分かります。
しかし、このヌカエビも、東海地方から西へ向かうと徐々に頭に棘が増えて行きます。
それらは旧ヌマエビ大卵型と呼ばれる個体や個体群となり、
額角では見分けられない「最強の困難種」と化します。

 

↓こんなヤマトヌマエビやトゲナシヌマエビを間に挟めば、
さも額角はみんな違うかのように見えますが、
そう思い込ませようとする巧みな戦略と捉えることも可能です。

極端に違う種類を挟まれると、頭が一旦リセットされます。
そうすると、全部が違うように見え、
「なるほど、ヌマエビ類は額角を見れば識別出来るんだ」
と思い込まされるわけです。⇒【額角が種類の識別に重要と思わせる配置例
一種の「眼くらましの手法」を使われていると判断しておいた方が無難のように感じます。
額角の短いものから順番に並べずに、バラバラに巧みに配置されます。
それら、間の3種を除いて、似たものだけを並べると上のようになります。
実際にはこれよりも、もっと酷似した2種が加わるのです。

『ヌマエビ類は額角を顕微鏡で見なければ種類の識別は不可能』
という風にどこにでも書かれていて、額角で見分ける事はヌマエビの一般常識とされ、
額角を見ない奴は馬鹿か、余程の常識知らずといった勢いです。
そんな勢いに圧倒されてか、誰も突っ込まないで素直に受け入れられている印象ですが、
上のように、どう見ても『額角での種類の識別は酷似していて困難』が普通の感想です。
これら誤まった常識は、因習まみれの簡易同定の世界から発せられた歪んだ情報のようです。
(簡易同定の世界⇒分類学者の研究成果や手法を独自に解釈して、自虐的規制や縛りを作り上げた奇妙な世界。
一般市民が親しみ易い色彩や模様を極度に毛嫌いし、額角偏重を植えつける。
分類学者よりも市民に接する機会が多い為、その悪影響は侮れない。淡水エビの情報の歪みはここ以前には無い)

「額角」は各所の熱狂的な崇拝者によって、実体から掛け離れたとんでもない高みに奉られてしまっていて、
そんな所からの情報には、額角の重要性を殊更に強調するような仕掛けが巧みに組み込まれているものです。
でも、実際にエビの額角を見比べてみると、どれも似ていて、とてもではないですが「便利」とは言えない代物です。

『額角は酷似していて見分けは困難』
そういう素直な感想しか持てません。ここに見分けの神は宿っていないでしょう。

参照⇒【額角は似ている

 

2010/08/04 


2010/08/05 更新


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