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ヌカエビの見分け方


ヌカエビは「特徴がないのが特徴」といった感じの地味なエビです。
格段に透明度が高いわけでもなく、
種類を主張するような独特の模様も目立たない事が多いです。
大きさは水槽で育てると3cmくらいです。


なぜ「ヌカエビ」なのかは分かりません。糠に集まるからという説があるようです。
“ぬか”には細かくて価値が低いといった意味があるので、
個人的にはそんな感じも含まれていそうに思います。
色合いも糠のような色。体じゅうにも細かい糠をまぶしたような模様があります。


ヌカエビは背中や腰が曲がっているので、よくスジエビと間違えられます。
ヌカエビはヌマエビ科なので、このようにハサミ脚が短いです。
一番前にあるのは顎脚(あごあし)で、この顎脚よりも内側の短いハサミでツマツマと餌を食べます。
スジエビはテナガエビ科ですから、ハサミ脚が長いです。

スジエビ。「ハ」を逆さにしたような模様が胸の横にあります。手も長い。


メスの若い個体。
ヌマエビ科はビーシュリンプやヤマトヌマエビとも一緒の科。
一日中、忙しそうにコケ取り行動をしています。
ヌカエビは東北関東限定のエビ、あるいは東海北陸の一部にも生息するなどと言われていましたが、
頭にギザギザのあるヌカエビがヌマエビ大卵型だと思われただけで、
現在は、そのヌマエビ大卵型も含めてヌカエビとされているようです。
山陰地方、琵琶湖周囲にまで広く分布します。
東日本限定のエビという認識は誤りとなります。
今までのように、額角上のギザギザが眼の前までか頭までかでは二種を分けられません。
ヌマエビとヌカエビは亜種とされていましたが、
遺伝子の比較で、2つのグループ
・ヌマエビ南部群
・ヌマエビ北部−中部群
に分け直され、2つは別種。亜種ではなくなりました。

水色がヌカエビの生息範囲、オレンジ色がヌマエビの生息範囲となりました。
2つは別種。ヌマエビ大卵型は頭に棘が多いヌカエビだったので、無くなった様です。
※あくまで、生息範囲のイメージです。
※近年、密放流によってか、ヌマエビが北海道の河川で発見されるそうです。


額角上に眼窩以降にも棘があるのがヌマエビ、頭に棘が無いのがヌカエビとされていた時代の分布図と、
頭の棘の有無では種類の違いは分けられない事が解かった現在の分布図。
西日本ではヌマエビの産卵形態違い、種内分化と呼ばれていましたが、
頭に棘があるヌカエビです。ヌマエビとヌカエビは別種。産卵形態が全く違う別種なだけです。

 


別種のヌマエビは“ミゾレヌマエビ”という商品名で有名です。
数十年来の慣習で、そう呼ばれて売られています。
眼が真横、眼上棘がある、外肢があるなどを確認すると簡単にヌマエビ属と確認できます。
本当のミゾレヌマエビは、眼が斜め前、眼上棘無し、外肢無しです。ヒメヌマエビ属です。

こちらは本物のミゾレヌマエビの雌雄。模様も全然違います。

ヌマエビの模様

↑ヌマエビの模様。生きた実際の両種は見た目にも元々別種。

↓ヌカエビの模様の傾向。

ヌカエビの模様

ヌマエビとヌカエビは同属ではありますから、若干模様が似ていますが、

観賞用としての販売名“ミゾレヌマエビ”がヌマエビですから、ヌマエビはヌカエビに比べて派手です。

黄点や白点が多く、赤茶色の色彩である事が多く、
胸の横に「ミ」のような模様があり、「UFO墜落」のような模様があります。
ヌカエビは商品名“ミゾレヌマエビ”とは呼ばれませんから、
元々、この二種は普通に区別されているように思います。
ヌマエビは小卵型で淡水の水槽内では殖えません。
(水槽内でも殖えるヌマエビは旧ヌマエビ大卵型で現在はヌカエビです)
※ヌマエビは過去アクアリストだった指導員や研究者の卵、飼育員だと、
商品名の“ミゾレヌマエビ”として疑いなく憶えてしまっている場合も多く、そのまま教える事が多いのが問題です。
つまり、ヌマエビを見て「ヌマエビ!」とならず、「ミゾレヌマエビ!」となるのが情報量では標準です。
市民の中で誤情報がぐるぐる継承される文化となっています。


ヌカエビは目玉が真横に180度開きます。
そして、目玉の付く柄が長いので、左右の目が離れています。
ここでもテナガエビ科のスジエビと混同される事が多いです。
(ヌマエビも真横ですが、幾分、柄が短く、離れ眼な感じが少なめに感じます)
左が♂。右が♀です。
雌には白い点や、背中を通る明色の縦筋、胸の横の模様などが多く、
透明度に欠けます。
雄は逆にやや透明度が高いです。
白い輸精管や貯精嚢といった物が見える事も多いです。


ヌカエビの顔。
眼は横へ出っ張っていて、離れ眼です。
ハサミは短く、この白い先の部分は、毛束と呼ばれるブラシ状の毛の束です。
ヌカエビの脚の爪は、薄いヘラ状になっています。
ヌマエビ類は顎脚(あごあし)が発達していて、
餌を食べる時などに、よく地面に着けて歩きます。
コケを引き抜く作業の反動をこれで吸収します。
ハサミの手前、真ん中にあるやや短い二本の脚が顎脚。


これはスジエビの顔。スジエビも離れ眼。
顎脚はやや貧弱で、地面に着けて歩きません。顎脚で餌を抱え込むのは共通です。

テナガエビ科スジエビ(定番の間違われ相手)

スジエビは肉食性が強く、ヌカエビと性格は真逆。小魚なら捕まえて食べる事もあります。
ヌカエビにとっては脱皮時に捕食される危険が大きい相手。
【共通点】
1.眼が飛び出して、左右に離れている。
2.背中や腰が曲がっている。
3.体がやや透明。
4.中卵型陸封種(河川下流域産は別種に近い降海型らしい)。
【相違点】
1.スジ模様だらけ。
2.ハサミ脚が長い。
3.手脚の関節が黄色い。
4.ほとんどツマツマしない。餌を手でさすりながら探す。
5.喧嘩好き。仲間と触れる事を嫌い、ハサミ脚で小突き合って距離を取る。
6.餌を与えた時の反応が素早い。餌を食べると胃が餌色になり、うにょうにょ動く。
7.外肢なし
8.眼上棘なし
9.顎脚を地面に着けない
などなど。


ヌカエビのカップル。
どちらがオスかメスか分かりますね。
オスには輸精管が見えています。
メスは模様が多く不透明。
ヌカエビは脱皮直後に交接して、その後、メスが単独で産卵します。
脱皮をひかえたメスには、このようにオスがまとわり付く事が多いです。
目玉が電球の様で、柄の付け根が細いです。

 


ヌカエビは灰色や薄茶色の地味な色が普通ですが、
たまに青くなります。
これは個体差ということでもなく、体調に近いかもしれません。
この個体も別の日には普通の色になっていました。
ヌカエビの卵は“中卵型”と考えると便利です。
このように、目玉よりは小さい卵を、数え切れないと言うほどではない、頑張れば数えられるくらい産みます。
小卵型のようにゾエアが海に下る必要はなく、浮遊幼生は淡水中で育ちます。
大卵型のようにすぐ着底する個体群もあるようですが、若干フワフワ浮いている時期があると考えるのが妥当です。
このあたりは陸封種独特で、水系・氾濫原ごとに卵の大きさや孵化するゾエアの大きさが違う様です。
とにかく海水は要らないので、孵化したゾエアを汽水に入れないように淡水のまま見守ってあげて下さい。
浮遊幼生なので、強力な上部濾過や外部濾過だと吸い込まれてしまいます。

頭を下にして浮いている浮遊幼生。まだ長い脚が生えていません。


この頃から眼が離れています。


フローラプライド等の液体肥料を添加して、茶ゴケを増やすと、特に餌を与えずとも稚エビになり、
どんどん殖えて、いつの間にかこんな感じになります。
眼の離れた地味なエビさん達が大量です。
喧嘩も過剰交接も共食いも無い平和なエビです。極めて世話要らず。
(北方系だからか若干暑さに弱い気もしますが)

 

『模様』

雌の大型個体は色が濃くなり、胸の横の模様がはっきり見える個体が多いです。
ヌマエビの仲間は雌の大型個体が一番模様が濃く、
若エビや雄エビは薄いです。
ただ、全然ない訳ではなく、この模様が薄く配置されています。
ですから、良く見れば、模様だけでもヌカエビと分かるものです。


胸の横に独特の模様があります。この図形を持つエビは他に居ないので、
この濃い部分の図形の配置を憶えておくと、ヌカエビを見分けるのに重宝します。
図形の周りはかなり広く淡い色で抜けているので、より図形はハッキリします。


色が薄くても、なんとなく模様は見えます。
別種かと思うほど色の濃さが違いますが、
ヌマエビの仲間はこんなものです。
色合いや濃淡は変わりますが、図形の形は変わりません。


雄は透明度が高め。それでも粉をまぶしたような感じです。
背中の白いのが精巣。斜め下に輸精管が伸びているのが透けて見えます。
姿形はスジエビに似ていますが、スジ模様が無く、ハサミ脚も短いです。
透明で、腰が曲がっていて、眼も飛び出していますがスジエビではありませんので注意してください。

 

ヌカエビの胸の横には濃い単純な模様が見える事が多いです(特にメス)。
下は近年ヌカエビの生息を脅かしていると思われる外来種のシナヌマエビ類ですが、
←ヌカエビ
←商品名“ミナミヌマエビ”
このように比較すると、シナヌマエビ類は模様がかなり複雑です。
上のヌカエビの単純さとは随分と違うものです。
この個体は卵を持っていますが、卵の大きさも大卵型で、目玉と同じくらいあります。

シナヌマエビやコウライヌマエビ等のカワリヌマエビ属の外来亜種群は、
背中の起伏が少なく、目玉が斜め前を向いているのが普通です。
←シナヌマエビ類の模様も見慣れると便利です
←老齢化して背中が白くなったシナヌマエビ類の♀
シナヌマエビ類は老齢化してくると、やや眼が横に開き、胸の横の複雑だった模様が埋まってきます。
一方、ヌカエビは老齢化しても、胸の横の模様は単純なままのようです。
・背中の起伏
・眼の生える角度、眼の長さ、目の太さの違い
・模様の違い
を見れば、間違える事はないと思います。
シナヌマエビ類は“ミナミヌマエビ”という商品名でペットショップ、
ブツエビ・タエビという名で釣り餌屋さんで売っていて、北海道から本州、九州など、
人口密集地を中心に密放流されて増殖中の外来エビです。
関東や東北ではヌカエビと混同される事が多いようです。
西日本ではミナミヌマエビとの交雑も確認されているようです。


左はヌカエビの胸の横に見られる単純な模様。右はシナヌマエビ類の複雑な模様。
メスには濃く、オスや若い個体だとやや不鮮明です。

抱卵メスのシルエット。こんな体形と模様の位置です。


やや斜め上から。離れ眼が分かります。模様も分かります。


ちなみに、シナヌマエビ類(商品名ミナミヌマエビ)の雄は、
このような模様です。
これは模様が一番濃い状態。(模様の薄く透明度のある時や個体も多いです)
シナヌマエビ類の特に雄は、目玉が前向きに生えている傾向がより強いので、
真上から見たほうが簡単です。

商品名“ミナミヌマエビ”の眼。斜め前向きの傾向が強い。柄も付け根まで太いです。
ヌカエビは真横離れ眼なので差が大きい。ヌカエビの眼の柄は付け根に向かって細いです。
眼だけで分かってしまうほどに違います。
採集したバケツを上から見ただけでも分かるかもしれません。

 

『外肢』

ヌカエビには外肢という小さな肢が、歩く脚全ての付け根に生えています。
歩く時に邪魔そうに見えます。
この外肢が生えているのはヌマエビとヌカエビだけなので、確認すると確実です。
前述の“ミナミヌマエビ”には生えていません。
スジエビにも生えていません。
しかし、他のエビでも、腹肢の外肢が一本生えているので、
これと見間違える事があります。
必ず、各歩脚にたくさん生えている事を確認します。
もちろん、小さいので簡単には見えません。倍率の高いルーペで見ると簡単です(100円ので充分)。

『眼上棘』

外肢の他に眼上棘という棘も生えています。
眼の納まる窪みの部分に、目玉に突き刺さってしまいそうに生えているのが眼上棘。
これもヌマエビとヌカエビにしかない棘のようなので、調べておくと確実です。
ただ、相当に小さい棘なので、外肢が見えれば充分と思います。

眼上棘。これを見るのは至難の技です。


本州のほぼ全域に生息する陸封種の大勢力ですから、
見かける率は高いと思います。(九州北西部でも発見されています)
ヌマエビは幼生が海へ下って、再び上がって来れる川にしか棲めませんが、
ヌカエビは陸封淡水繁殖ですから、池や沼、小川などにも生息できます。もちろん川にも居ます。

※もっと詳しく知りたい場合は、エビギャラリーのヌカエビの項目を御覧下さい。

 

参照⇒【スジエビとヌカエビ
透明・離れ眼・背中の湾曲が共通なので、有名なスジエビのほうに同化される率が高いです。
模様やハサミ脚の長さを比べると簡単に区別できます。

 

2010/07/23 


2010/07/29 更新


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