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ミナミテナガエビの隠遁の術

採集したミナミテナガエビとヒラテテナガエビの幼エビ・若エビ
底床にソイル(土を粒状に固めた底床材)を使用した水草水槽に臨時で入れていたのですが、
共食い防止も考え、そろそろ移動を行なおうと覗いてみると、最も大きな個体の姿がありません。

よく見ると、隅にあるダブルブリラント(スポンジフィルター)の下の部分が、
底が剥き出しになっている箇所がありました。
しばらく見ていると、そこからその個体が出てきました。
しっかりと巣を作って生活しています。
周囲の水草も、かなり根が浮いています。
餌取りでもミナミテナガエビが砂を掘るのは分かりましたが、
巣もしっかり掘って安全を確保して暮らす種類のようです。

そして、この個体の捕獲に取り掛かろうと思ったのですが、
当然ながら、この巣穴に逃げ込んでしまいました。
他の巣穴を持たない個体は、網に興味を持って乗っかって来ましたので、
その後の捕獲は簡単でしたが、
この大型個体は、逃走モードに入ってしまいました。
スポンジフィルターをどけると、ヒュンと逃げます。
そして水草の根元の中へ。
棒でこちょこちょして追い出そうとしますが、
どこに行ってしまったのか全然わかりません。
居そうな所を中心に突付きますが出て来ません。
丹念に探ってみますが、ヒラテテナガエビがちょこちょこ出て来るだけで、
肝心のミナミテナガエビが見付かりません。(ヒラテは案外無警戒)

水槽の中を三周も四周も、しらみつぶしに根元を漁りますが、
それでも発見出来ません。
疲れて諦めかけた時に、最初に探し始めた場所に居ました。
そこは彼自身がソイルを掘って水草を浮かせた部分でした。
水草は浮いてしまってますから、捕獲は簡単な場所です。
これは良かったと、早速、棒を網に持ち換え、網を近付けてもう少しで入るという時、
足し水の為に置いてあった容器を倒して、水がザバー。
それを拭いて再び覗くと、もうそこには居ません。
またしらみつぶしのやりなおしです。
ミナミテナガエビは、このような自分が狙われた状態になると、
泳ぎ出さずに、こっそりこっそりと根元を渡り歩く逃げ方をするようです。
スジエビやテナガエビ(以降マテナガと呼びます)では、まず水中にぷかぷか浮いて、
水槽の角あたりを泳ぐので捕まえるのは簡単ですが、
このあたりの逃げ方が全然違います。

振り出しに戻って、また根元を突付いて回ります。
今回は比較的早くみつかりました。
水草の根元で、ハンの実が三つ四つ転がる中にじっとしています。
頭隠して尻隠さず状態ですが、
体が比較的透明なので、これではなかなか発見出来ないのも分かります。
しかも棒で突付いても飛び出す事をしません。
じっと我慢しています。
下手に動くと見付かることを知っています。
スジエビやマテナガではこういう技術は見た事がありません。
エビは大体、近くの物を動かすだけであわてふためいて飛び出すものです。
網を置いておいて、ちょこちょこっと擦れば、自分からピョンと網に入ってしまうほどです。
ところがどっこい。
このミナミテナガエビは、少しくらい触られても我慢する術を知っています。
相手が探すのを諦めるのを待てるのです。
これは驚きでした。
マテナガと似たような感じだと思って攻めたのがそもそもの敗因です。

隠れている体を掘り出すように持ち上げるとさすがに逃げました。
すかさず網で捕まえようとしますが、
網を持ち上げようとする一瞬の隙をついて、網とガラスの間から逃げ出します。
そしてまた隠遁の術。

しかし、もう術は見破られているので、簡単に発見。
ところが、網に入っても、また一瞬の隙を逃さずに逃げおおせます。
網の中の水の流れの強さを敏感に察知するようで、
一番流れが大きい方へ、スルッと逃げ出します。
ミナミテナガエビを捕まえる網は網目が粗いものが良さそうです。
水上に上げた後も、網の中で跳ねまくりです。
あわてて容器に移しました。
最後まで往生際の悪いこと悪いこと。

ちなみに、この水草水槽は36cmです。(本人は5cm)
36cmでこれですから、90cmになど入れたら・・・・・です。
アルジーイーターとドジョウは大きな水草水槽に入れてはいけませんが、
それと同じくらいに、後々厄介な事になる生き物です。
「臨時に」とか「とりあえず」が大変な苦労になってしまいます。

肉食生物の餌用に捕獲して入れておいたミナミテナガエビが、
食べられる事なく大きくなって産卵までしてしまうという話もありますが、
この性格なら充分に頷けます。
巣穴も掘りますし、逃げ足も素早く、そして隠遁の術を持っています。。
跳ねて逃げまわってしまうとか、水中に浮かび上がってしまうという事がないので、
水草等がたくさん生えていれば、相当に捕獲され難いエビだと思います。

『ミナミテナガエビは大きな水草水槽には入れてはいけない』
という教訓を今回学びました。
60cm水槽だとしても、流木などで複雑に入り組んでいたら・・・・・・・・
遠くに「リセット」という文字が見えます。
36cmで良かったです。

このミナミテナガエビ。好奇心と食欲は旺盛なので、
もし取り出したい時は、餌でおびき出すのが良いと思います。
スジエビやマテナガとは逃げっぷりが明らかに違うので、
視点を変えた別の方法を使ったほうが賢明です。
彼らに身の危険を感じさせない方法を取れば、
あきれるほど簡単に捕まるかもしれません。
水草水槽に入れてはいけないのではなく、「追ってはいけない」だけかも。
逃走モードに入ってしまったら、しばらく放置して、
また、そっと、餌で釣って掬ったほうが良さそうです。

テナガエビとミナミテナガエビ。
近似種、酷似種などと呼ばれますが、
ひとつひとつの性格がまるで違うので、
飼ってみれば、違いはすぐに分かると思います。
テナガエビ科四種の中での、おおまかな性格の近さで云えば、
『テナガエビ=スジエビ』
『ミナミテナガエビ=ヒラテテナガエビ(ヤマトテナガエビ)』
といった印象で、ミナミテナガエビは、
姿があまり似ていないヒラテテナガエビと性格的に似た部分が多く、
見分けは困難とされているテナガエビとの共通点はあまり感じません。

ミナミテナガエビとヒラテテナガエビは、
目の立ち具合や、指節の短さなど、
性格と直結しそうな細かなパーツは、かなり良く似ています。
ハチのような、高等な昆虫っぽいと云ったら解かり易いかもしれませんが、
目の良さや敏捷さや好奇心の旺盛さなども、両種で良く似ています。
巣を掘る感じもジガバチのような印象です。


写真を撮っていると、こちらを確かめるように、
ヒゲをふりふりして近付いて来ます。
好奇心と恐怖心が葛藤していておもしろい部分です。
このあたりもヒラテテナガエビと良く似ています。
素早い身のこなしと隠遁の術があるからこそ、
このような好奇心が余裕で生まれているのかもしれません。

 

2008/10/23


 


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