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ミナミテナガエビ(若い個体)
〜採餌行動に見る、テナガエビとの違い〜



やや寄り眼で、手が太く、行動が敏捷なミナミテナガエビ(formosense)と思われる若エビ。
ただのテナガエビ(nipponense)とは、餌取りの行動が違う印象がします。
基本的には、歩き回って、手脚(主に第一胸脚)に触れた生き物をつまんで食べるという、
マテナガやスジエビと一緒の行動ですが、
餌が乏しいと思われるやや上流域にも暮らすところからか、
それ以上に積極性が高い行動が見られます。


『石を転がして歩く』
非常に面白いと思ったのは、
頻繁に石を蹴り転がして歩くことです。
ちょっとでも、地面より出ているような石が脚に触れると、
第三胸脚と第四胸脚(歩脚の1本目と2本目)で斜め後ろへ蹴り転がします。
おそらく、その裏に潜む虫があわてて泳ぎ出すのを捕まえる為と思います。
写真の「石」はソイルという土を固めた底床材ですが、
これを後ろへ転がしながら歩いて行きます。
埋まっている石も、脚を差し込んで強引に掘り上げて転がします。
スジエビやマテナガも似たような環境や大磯砂利の底面濾過で飼っていますが、
こういう行動は見た事がありません。

『やたらと穴を掘る』
とにかく、穴をよく掘ります。
前述の歩脚の1本目・2本目を左右で同時に使い、
ざくざくと砂利を胸に掻き上げるように掘ります。
そして、その砂利を腹の下へ移動させます。
これを何度か繰り返し、目の前に穴を作ります。
穴を作ると同時に、第一・第二胸脚(ハサミの付いた4本の手)で穴の中を探り、
なにやら捕まえて食べています。
穴を掘る時に、腹肢を猛烈に漕ぎ、
後ろへ細かい砂利を吹き飛ばす事もあります。

ここまで積極的に餌を探そうとする行動は、
マテナガやスジエビでは見られませんでした。
水が清く、あまり餌の量が豊富ではない世界の住人という感じが強い行動です。
水が濁っていて、餌が豊富な下流域のエビでは、見た事がない行動でした。
ミナミテナガエビは、マテナガよりは明らかに手脚が太く、力強いです。
そして、爪が短く太いです。
この特徴は、急流を登る事に関しても有効に働くと思いますが、
日常の採餌行動にも大きく関わっている感じです。
ガシガシと砂利を掘りますから、
手脚は太く短く、力がなければなりません。
遡上は四六時中するわけではないですから、
むしろ、採餌行動のほうに適応した長さや太さなのかもしれません。
力強くザクザクと掘る姿からは、そんな感じを強く受けました。


『執着心が強い』
掘った穴から何かをつまんで口に運んでいるところです。
穴を掘った後、そこに何かを発見すると、
そこを延々と攻め続ける行動が見られました。
石と石の隙間に手を入れ、何かを盛んに掘り出そうとしています。
体の向きや角度を変えて、その一点に執着します。
ちょっと探せば他に餌がいくらでもある環境のエビではないというのが、
ここでも分かります。
努力を惜しまずに、最後まで捕獲を達成しようとする傾向が強いです。
労力を掛けて掘った以上は、何か収穫を是が非でも見付けようという
意識が強いです。


しつこく、粘り強いです。
この場合、彼の右腕の先に何かがあったようです。
その腕は動かさず、それを中心に、
他の腕を使って、周りから追い込むような形で、
そのなにかを捕まえようとしています。
集中力が高くて、それが持続する時間も長いという特性がある気がします。
スジエビやマテナガでは、表面だけを探して行く傾向が強く、
せいぜい、石の間に細いハサミを突っ込むくらいで、
移り気な性格ですが、
このミナミテナガエビは、石をひっくり返し、
砂利を掘って穴をあけ、そこを丹念に探索します。
表面を探って歩く程度では、餌となる生き物に出会えない環境に棲んでいる事が、
想像できる行動です。
ミナミテナガエビは、マテナガが生息しない地域であれば、
上流域から下流域のほうまで、幅広く生息するそうですが、
この精力的な餌探し行動が、より上流までの分布を可能にしている印象を持ちます。


絶体絶命のピンチにあるサカマキガイ。
テナガエビやスジエビも、こんな巻貝をはがして食べると思いますが、
ミナミテナガは、ガラス壁を登るのが得意なので、
貝にとっては、それらよりもさらに強敵という印象です。
写真のように、指節が短く、
これで何も無さそうなガラス面の出っ張りに爪を掛けて登ってしまいます。
そして貝に体重を掛けてしがみ付き、
手脚を使って、左右からこちょこちょとくすぐって、貝をはがして食べます。
口で直接、貝に齧りついてしまうこともあります。
スネール退治には活躍してくれそうですが、
巻貝も大事な場合は要注意です。

姿形がそっくりで、あまりテナガエビと比較されてなく、
どうせ、性格も大差ないのではないかと思っていましたが、
なかなかどうして、個性的で面白い行動をするエビであることが分かりました。
「餌が少ない」という環境が育んだ性格なのだろうと思いますが、
ややおっとりドン臭い感じのテナガエビとは似ても似つかない、
活発で、敏捷で、積極的な種類でした。
ここまで良く似た姿なのに、ここまで違う性格だとは・・・・・
まだまだ、不思議な事ってあるものです。

 

参照⇒【テナガエビの指節
ミナミテナガエビとよく似ているテナガエビ。
テナガエビは指節が長いので、見分けは容易です。

 

 

おすすめリンク

ミナミテナガエビ
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebisyurui/M.formosense.html
形態や生態などがたいへん詳しく書かれています。
ページの更新はされていませんが、色褪せない魅力があります。KENKEN’S HP】 

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
額角に頓着せず、「見た目」に重点を置いた掲載方式です。
淡水エビの「種類の違い」というものが、より身近に感じられる事は間違いなしです。
掲載されている写真と種名も一致しています。
(淡水エビは一致していない情報が多いジャンルです)。
ここは安心してお薦めできます。
「淡水エビは額角でしか見分けられない」なんてことはありません。
種類も10種類程度しかありませんから、
「名もないエビ」が存在する余地はないでしょう。(他のジャンルから笑われます)
こちらのサイトを参考にして、臆せずに、どんどん見分けると良いと思います。

 

2008/10/09


参照⇒【ミナミテナガエビの隠遁の術
ミナミテナガエビを、大きな水草水槽に入れる時は要注意です。
穴を掘ってしまったり、隠れて捕まらなかったりで大変です。
(餌で誘えば簡単に捕獲できるかもしれませんが)


 


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