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ヌカエビはヌカエビ

ヌカエビは、近年、「ヌマエビ北部‐中部群」と呼ぶ論文が出ましたが、⇒【ヌマエビ属の新分類
その論文のまとめは、地域集団としての保護を強調するようなものに感じます。
種類ではなく、地域個体群というほうに主眼を置かせようという趣旨の為、
亜種といわれていたヌマエビ小卵型を一緒にして、ヌマエビ属2種を「ヌマエビ」と呼び、
各生息地域によって、南部群、北部群、中部群、といった地域名を付けるという方向を願ったようです。

しかし、ヌマエビとヌカエビは別種である事が確定した事も同時に載っていて、
「別種を同じ名前で呼ぶの?」という疑問が出て来てしまいます。
ヌカエビは陸封種ですから地域変異が多いのは当然で、
各地の個体群をメダカ同様に保護して行くという事は普通に理解できます。
ヌカエビの一地域個体群で、同種である事も判明したヌマエビ大卵型と共に、
ヌカエビの各地域個体群としての保護の方向を追求すれば良いと思います。

「ヌカエビ」として、各地域型をさらに詳細に調べて行き、
各地域ごとの保護活動などに活かす方向なら、なんら疑問はないのですが、
わざわざ、ある程度の知名度のある「ヌカエビ」という名を廃し、
なぜ、「ヌマエビ」に統一してしまうのかが納得に達しません。
学問的な決まりごとなのかもしれませんが、
「ヌカエビ」を「ヌマエビ北部−中部群」に変える意味がよく解かりません。

『小卵で海水が必要な両側回遊種と、中卵で海水が不要な淡水繁殖種という、
まるっきり別種の生き物に同一の名を使用し、まるで地域変異かの様な誤解を生む名で呼ぶ』
これでは、
「ヌマエビは淡水で繁殖するよ」
「いや、するわけないよ」
といった会話も予想されます。
実際、休耕田を利用したヌカエビの養殖を行ない、
その出荷する商品名は「ヌマエビ」なのだそうです。
新聞の記事には“ヌマエビ(ヌカエビ)”という二重の表記。
このカッコの部分が消えてしまったらたいへんです。
カッコの部分が付けられている今ならまだマシですが、
いずれ、このような面倒な表記は外され、「ヌマエビ」のみになってしまうでしょう。
こうなると分類の後退になります。
エビの属や種がまだ何も解からなかった時代へ逆戻りでしょう。

種類として別種であることが判明。
そして、各同種の中でも、各地域個体群が独自のDNAを持って暮らしている。
これが解かったのに、
最終的なまとめが後世に混乱と後退をもたらすだけ?
これでは、せっかくの研究結果が活きません。

ヌマエビ属に関しては、パッと情報を見渡しただけでも、
とても周知のレベルではないという印象が強いです。
ヌマエビ南部群は、数十年来「ミゾレヌマエビ」という商品名で売られています。
このエビが旧来のただの「ヌマエビ」なのですが、
すでにこの事自体がほとんど知られていません。
ヌカエビが淡水繁殖種である事もあまりよく知られておらず、
数十年来「小卵型で海水が必要」と書き続けるライターも居るため、
むしろ、淡水では繁殖不可能という誤解のほうがアクアリストには定着しています。
つまり、旧両亜種どちらとも、まともに知られていないのです。
そこへ、その両者を一緒にして、さも生息する地域差程度の違いかのような呼び方で呼ぶ。
これではさらなる後退と混乱、無理解が先に待っているだけです。

ただ、両亜種(現在は別種)の見分けに関しては、
アクアリストは誰も混乱しておらず、
ヌマエビは“商品名ミゾレヌマエビ”として周知されており、
ヌカエビはヌカエビとして判断されています。
(ミナミヌマエビやスジエビと誤認されるのは別次元なのでここでは省略)
つまり、最初から、誰も両種の見分けは難しいとは思っておらず、
普通に別種と判断できるほどの違いを持ったエビだった事が解かります。

その、見分けも出来るし、産卵形態も違うし、交配もしないという、
明らかに別種な種類同士を「ヌマエビ」に統一する。
この部分が、一般エビ好き的にはどう考えても不自然です。理解出来ません。

しかも、地域個体群が多いのは陸封のヌカエビのほうです。
ヌマエビ(南部群)のほうは降海型で各河川のゾエアが海で混ざる為、
本州型と琉球列島型といったくらいの差しか見られない程度。
これは他の降海型のヒメヌマエビ属とも変わりのない傾向です。
つまり、地域変異個体群の主役は「ヌカエビ」のほうです。
地域個体群を強調したいのであれば、
「ヌカエビ」という名前を強化するほうが良いくらいです。
しかし、なぜか、その主役の名前が消滅する方向に行き、
地域変異がないヌマエビ側に統一されているのですから違和感が膨らみます。

別種は別種ですから、別種ごとの個体群として守ったら良いと思うのです。
『ヌカエビという淡水繁殖のエビの各地域個体群』として守るのであれば、
繁殖形態からして解かり易いと思うのですが、
「海水が必要な降海型の別種も含んだヌマエビの中の、
さらに淡水型で海水が要らない一地域個体群であるヌマエビ?」となると訳が解からないでしょう。
物事を良く理解するには、混ぜて良いものと混ぜてはいけない物があるわけで、
せっかく、混ぜるわけにはいかない物が明確になったのに、
「なんで、また混ぜるの?」
という疑問が、どう考えても引っ掛かり、個人的に賛同できません。

例えば、ヒメヌマエビ属のヤマトヌマエビ、トゲナシヌマエビ、
ミゾレヌマエビ、ヒメヌマエビを、一度、全部一種に戻して「ヒメヌマエビ」と呼び、
上流域側に生息するヤマトヌマエビとトゲナシヌマエビを『ヒメヌマエビ中-上流域群』、
下流域や感潮域側に生息するミゾレヌマエビとヒメヌマエビを、
『ヒメヌマエビ下流域群』と呼ぶのと大差ない気がします。
これでは不便ですし、意味がありません。
「ヤマトヌマエビはヒメヌマエビ中-上流域群になりました」なんて勝手に言われても、
使えた物ではありません。

別種は別種。
「種類」は地域個体群ではないですから、ごっちゃにするのはおかしいとしか思えません。
ヌマエビとヌカエビは一般素人レベルでも解かるように、
きっちりと別種として分けるべきだと思います。
その上で、各種の地域的な個体群をさらに詳細に比較して、
「ヌマエビ(○○型)」とか「ヌカエビ(○○型)」とするのがふつうでしょう。

個人的には、この論文をプラスに活かす部分は、
●ヌマエビ大卵型はヌカエビの一地域個体群だった。
●ヌマエビとヌカエビは別種だった。
だと思います。
これは素晴らしい報告で、
「ヌマエビには大卵型と小卵型があり・・・・・」といった額角偏重から来る誤認も壊れました。
ヌマエビ小卵型が亜種ではなく、完全な別種として切り離される。これも優れた研究です。
まとめの部分で、地域個体群を強調したいが為に、
種という括りを弱めて、全部をまた一種に戻すような方向性になってしまう部分を除けば、
利益が大きい研究です。
●ヌマエビ大卵型は居なかった。ヌカエビの一地域個体群だった。
●ヌマエビとヌカエビは亜種ではなく別種だった。
そして、ヌカエビにはメダカのように地域型が多いので、
「ヌカエビ」という種の概念のみで守るのではなく、地域個体群として守ろう。
という事で良いかと思います。

もっと簡単に言うと、「ヌマエビ大卵型はヌカエビだった」というだけの話。
「頭にも棘が生えたヌカエビが居た」という事実が解かったというだけ。
後には、今まで通りのヌマエビとヌカエビの2種が、
よりスッキリとした形で残るだけ。
ヌカエビという名前を消して新たな混乱を作る必要は微塵も感じません。
小混乱を解決した事で、新たな大混乱を呼び込んでいては永久に埒が開かないと思います。

【ヌマエビ大卵型】
ヌマエビ大卵型は、単純にヌカエビの頭にも棘があった個体の事。
同じ地域の同じ場所でも、頭に棘が有ったり無かったりするそうですから、
見た目には、どう考えても「ヌカエビ」そのもので、
その棘さえ見なければ、ヌカエビと同種としか考えられないと思います。

|大卵型と呼ばれるほどに卵が大きく淡水繁殖。ヌカエビの卵のより大きな系統かも。
|眼も離れていそう。180°真横に飛び出していそうです。
|おそらく、独特な模様もヌカエビと一緒。南部群とは簡単に区別がつくはず。

だけど、眼窟よりも後ろの頭の上に棘(歯)があった⇒「ヌマエビだ!しかも大卵型だ!」
たった一本の微小な棘が、全てを覆してしまうというおかしさ。
そんなちっぽけな棘に、それほどの力があるとは到底思えないのが普通です。
この普通の発想を覆すには、余程の根拠が無いとなりませんが、
「額角の違い=別種」という根拠は一切無し。
それなのに、この棘に「力」を与えてしまう、淡水エビ学の世界。
総合的な判断からして、どう見てもヌカエビの個体的、地域的な違い程度に納まる事柄を、
別亜種の大卵型にまで浮上させるという、額角偏重パワーです。

この辺りも、
淡水エビに模様や色彩などの総合判断を用いなかった歴史が深く陰を落としていると思います。
たった一本の微塵な棘だけで、簡単に種類すら変えられてしまう程に、
他の見分けポイントの評価が脆弱なのです。
「額角の暴走」を阻めなかったわけです。

つまり、「ヌマエビ大卵型」は、淡水エビの額角にしか興味のない専門家が作ったエビ。
ふつうの一般飼育者や採集好きの方は、
ふつうに「ヌカエビ」として飼ったり獲ったりしていたと思います。
少し調べるだけでも、額角の暴走によって、
「ヌマエビには大卵型と小卵型の産卵形態を持つ地域集団があり・・・・」
といった文章に行き着くほどに、ヌマエビ大卵型は有名です。
私も以前、「そんなエビが居るのか!」と胸を躍らせたものですが、
どう探しても、その画像には御目に掛かれませんでした。
ヌマエビの紹介記事には確実に載っているほど有名なのに、
その姿を拝む事はありません。
“ミゾレヌマエビ”でおなじみのヌマエビ南部群が大卵を抱いていたら、
水槽内で殖える人気の淡水エビになると思いますが、
そのようなエビの報告は聞いた事がありませんし、
もし、そんなものが居たら、もうとっくに人気者になっていたはずです。
ヌマエビ大卵型はヌカエビだったわけですから、
最初から、そんな写真などある訳がないのです。

実体はないのに名前だけが広く知れ渡ってしまったヌマエビ大卵型。
これも、模様をスケッチするような習慣があったら、
作られなかった間違いなのではないかと思います。
総合的な判断からしたら、どう見てもヌカエビなはずなので、
一般に誤報が広まる前に、内部で処理しておいて欲しいレベルです。
しかし、額角が神様ですから、それを封じられなかったわけです。
(DNAを比べる技術が無かったら、永久に名前だけ存在し続けたことになります)

“ヌマエビ北部−中部群”という呼び方ですが、
「ヌカエビ」を廃して、この呼び名にするメリットとデメリットはどちらが大きいのかを考えると、
個人的には、デメリットだらけと思います。
今までも、ヌカエビはあまり知られたエビではなかったですが、
ヌマエビの亜種として(現在は別種)、曲がりなりにも肩を並べていたわけです。
肩を並べる相手も、“ミゾレヌマエビ”と呼ばれているまともな相手ではないですが、
それでも、現在では別種となった同士、互いに別種に近い表舞台に立っていたわけです。
ところが、今回、別種であったことが明らかになったにも係わらず、
亜種の座から遥か下に転落。
「ヌマエビの一地域変異」としか思えない名称へ引きずり下ろされています。
別種なのに、亜種より遥か下の地域型の一つのように呼ばれるという訳の分からなさです。

“ヌマエビ南部群”
“ヌマエビ北部−中部群”
こう書かれた2つを別種と思う人はまず居ません。
どちらにも、それぞれ別種としての姿と生きざまがある訳ですが、
この表記の中に、それらを思い描く事はまず考えられません。
「ヌマエビという一種類のエビの、生息地の違い程度」としか感じないと思います。
※それどころか、ヌマエビ属の話なのに、ヌマエビ科全体(ヒメヌマエビ属やカワリヌマエビ属も)が、
北部、中部、南部に分けられただけと思ってしまっている例も見掛けます。

それでなくとも、誤解や誤認、大間違い情報だらけのヌカエビ。
さらに名前すら無くなって、そんな生き物居ないかの如くになってしまいます。
(かなり以前の論文なのですが、読んだのは最近なので、
個人的には、「なんて事をしてくれるんだ!」という印象がしました。
深い谷底の泥沼の中から引き上げようとしている細いロープを、
途中で、横からプッツリ切られた感じ。(^^;)

という訳で、ヌカエビに対して
“ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)”という表記をして来ましたが、
「ヌカエビはヌマエビではない」ので、
ヌマエビという文字列は出来るだけ含まないように留意したいと思います。
昔のまま“ヌカエビ”で呼ぶほうが圧倒的にヌカエビというエビを知る事、
それと同時に、他の種類との混乱を防ぐ事、
そしてそれが淡水エビ全体を間違いなく知っていく事に極めて有効だと思いますので、
今後は単にヌカエビと呼ぶことを基本にします。

ヌマエビに関しては、ヌマエビ科全体の総称との混同があるので、
“ヌマエビ南部群”や、“ヌマエビ(南部群)”といった表記のほうが良さそうです。
こちらはそのまま続けます。
(個人的にはさっさと“ホンヌマエビ”にして欲しいのですが・・・。
「南部群」や「ただのヌマエビ」といった、誤解を避ける表記をするのは面倒臭いです。
便宜上、勝手にマヌマエビなどとも呼んだりしてしまうかもしれません)

後世の人が混乱しない為にも、
「ヌマエビはヌマエビ、ヌカエビはヌカエビでありたい」
個人的には、そう強く願います。

 

2008/11/19


『ヌカエビ写真集』
その他、【蝦ギャラリー】にも多数あります。


何の変哲も無いのが信条です。
卵は大きめ。
浮遊ゾエアですが、汽水は要りません。
しばらく水槽内を漂い続け、大きくなって着底します。


目が真横に飛び出しています。ここからスジエビとよく間違われます。
頭胸甲の背面に「八の字」を縦に伸ばしたような模様が見えます。
これが目立つ場合も多いです。
両目の上にある、ややピンク色のものが眼上棘です。


淡水で繁殖します。
(よく、「小卵型で海水が必要」と讒言されています)
大卵型よりは卵数が多いですから、
環境が合うとあきれるほど殖えます。
右下に稚エビが居ますが、
こんな小さな頃から離れ目です。


頭はつるつるハゲ頭。棘があるもの(旧ヌマエビ大卵型)も居る様ですが、
だからといって、いきなりヌマエビ側ではありません。
前側角部に棘は無いです。
写真右側で、各歩脚の付け根から前に向いて小さな脚が生えています。
これが外肢というもので、ヌマエビ属のヌマエビとヌカエビに共通の特徴です。
本当のミゾレヌマエビはヒメヌマエビ属なので、
外肢はありません
ハサミが丸くて短いのも分かります。
テナガエビ科のスジエビとは大違いです。


といっても、ハサミが無いわけではありません。
先に毛の生えた毛筆のようなハサミです。
ハサミがないのではなく、ハサミの付いた長い腕はない、という省略で、
ハサミはないとされる事はあります。
たまに「ヌカエビは魚を襲う」という記述があるのですが、
100%ありえないと断言して構わないくらいと思います。
こういう間違いは、スジエビとの混同が100%だと思います。
離れ目で、腰の曲がりが強いのが共通なので、よく間違われます。
ヌカエビが「何エビでしょう?」と質問の場に登場すると、
ほぼ間違いなく「スジエビ!」で決着してしまいます。


目を水平に保とうとして、面白い顔になっています。
眼柄が長いヌカエビならではの芸当かもしれません。


模様が良く見える個体や、模様がよく見える時には、
胸の横に、山型の独特な模様が入ります。
外肢も生えているので見分けは簡単です。

模様は、こんな感じになります。
白い抜けの部分に囲まれているので、
比較的簡単に見付かると思います。
(雄は薄いですが)


こちらは、元亜種だったヌマエビ(南部群)。
ヌカエビとは別種です。
“ミゾレヌマエビ”として超有名ですが、
本当のミゾレヌマエビとは属を越えた別種です。
(こっちもこっちで大変なエビです)


 


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