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ヌマエビ・ヌカエビの新事情


※ヌマエビとヌカエビの混乱は決着したようです。
名前はそのままに、以前とは中身が違うので要注意です。
学名は亜種ではない事を示すよう変更されたようです。
想像はつきますが、個人的に確認はしていません⇒新ヌマエビ・新ヌカエビ2010/09/30

 

 

新しく二つに分類されたヌマエビ

ヌマエビには小卵型と大卵型があり、
ヌカエビという亜種が居て、
ヌマエビ南部群という一群も居るという
なんともスッキリしない感覚でしたが、
どうもこの辺りは専門筋的にはスッキリしていたようです。

写真はヌマエビ属ヌカエビとされていたもの。
ヌマエビ属ヌマエビとは亜種となっていましたが、
属内別種であることがほぼ確定。
そしてヌマエビ大卵型が、このヌカエビと、種としては同種であることが確認されました。

1994年には、とっくに発表になっていたようですが、
なかなか一般素人には情報が回って来ないものです。

あるきっかけで、
淡水エビ研究の有名な先生に質問できる機会がありました。
思いきって聞いてみると、
現状について快く答えて下さり、
この周辺についての資料まで戴くことになりました。

日本各地のヌマエビ属のDNAを調べたことから、
・ヌカエビとヌマエビ大卵型は、ほぼ同種に近い存在。⇒ヌマエビ北部−中部群。
・ヌマエビ小卵型は、ほぼ別種に近い存在。⇒ヌマエビ南部群
という大きく2つのグループに分けられているようです。

これまで額角のトゲの数や位置で分類されていたものが、
遺伝子を比べるという新しい手法を用いることによって、
ヌカエビとヌマエビ大卵型のトゲの違いは、
種内の地域変異や個体変異程度の差であることが分かったようです。
トゲの位置などが一緒だった為に、
ヌマエビ大卵型とヌマエビ小卵型は同種となっていたものが、
遺伝子レベルではほとんど別の種類となり、
逆にヌカエビとヌマエビ大卵型がトゲの数の垣根を越えてほぼ同種とされたわけです。

つまり観賞魚店で有名な“ミゾレヌマエビ”こそがヌマエビ小卵型だったわけです。
西日本や黒潮の当たる関東南岸あたり、そして移入されて北海道にも生息し始めた
当サイト的には既に“ヌマエビ南部群”だったエビが、旧名ヌマエビ小卵型で、
ヌマエビの主要な位置を占める基亜種だったようです。

“ミゾレヌマエビ”としておなじみのヌマエビ南部群
晴れて別種扱いに。

そして色彩的に似通っていたヌマエビ南部群以外のヌマエビと
ヌカエビが同種に近い存在になりました。
ヌマエビ南部群は“ミゾレヌマエビ”の名で親しまれている通り、
金色や黄色、赤などで飾られた透明で綺麗なエビです。
それ以外のヌマエビは美しいとは言い難い「地味一色」。
灰色・薄茶色といった感じです。
そしてヌカエビも同様で、色味や模様には乏しい集団でした。

特徴のないヌカエビ(ヌマエビ北部‐中部群)

・色合いからすると、この綺麗な透明度の高いタイプのヌマエビが⇒ヌマエビ南部群。
・特徴のない地味なヌカエビと透明感の少ない濁った色をしたヌマエビが⇒ヌマエビ北部-中部群。

世の中的な情報の強さから見ると、
・観賞魚店などで売られている“ミゾレヌマエビ”として有名なエビが⇒ヌマエビ南部群
・雑誌などで“ヌマエビ”とされているエビと“ヌカエビ”が⇒ヌマエビ北部-中部群
となります。
いずれは、それぞれに別種として新たな標準和名が付くのかもしれません。
(マヌマエビだったら笑ってしまいます)


“ミゾレヌマエビ”は「買ったらヌマエビ南部群」ですから、
店頭で本当のミゾレヌマエビに出会う事は少ないと思います。
(リュウキュウミゾレヌマエビというのが売られているそうですが←本物)
古くから南部群は“ミゾレヌマエビ”の呼称で定着しており、
web上の熱帯魚水槽に泳いでいるミゾレヌマエビは全て南部群という勢いです。
アクア的な情報からすると、
“ミゾレヌマエビ”⇒“ヌマエビ小卵型”⇒“ヌマエビ南部群”
という二段階の知識の変更が必要になります。
※まあ、巷の情報量からすると、
当サイトのほうが「何云ってるの?ここ大丈夫?」な感じになります(^^;
それくらいの浸透度。

 

遺伝子での分類と、飼育観が一致

個人的には、
ヌカエビとヌマエビ南部群は飼っていましたから、
その経験などから

・ヌマエビ大卵型は
エビ学の濃い日本の南西部からの写真や情報発信が一切ない事から、
おそらく日本の北東部のある地域に分布しているか、
ヌカエビ自身が混同されているのか、
あるいはヌカエビとかなり近い集団なのではないか。

・ヌマエビ南部群は
観賞魚店、熱帯魚店で“ミゾレヌマエビ”
あるいは“キャメルシュリンプ”として売られているエビで、
これは完全に小卵型。
黒潮が当たる日本の南岸に広く分布し、
形態的にも安定性が高く、地域変異を感じない一群。
ヌカエビに比べて、丈夫で長生き、色彩も豊かで目の離れも少ない。
性格も活発で、人影の察知も早いなどなど、
長く飼って来た印象からもヌカエビとは遠い、
あるいはほとんど「別種」としか思えない存在。

といった感覚を持っていましたから、
今回の情報はすごく納得のいくものでした。

生息地域の重なりからすれば、
ヌカエビと南部群が混ざって暮らしている河川は多いはずで、
混ざるのであれば、その地域には中間的な個体が五万と存在するはずですが
そんな情報は一度も見た事はありませんでした。

そして、アクア雑誌などには、
ヌマエビ南部群を“ミゾレヌマエビ”の写真とするのが通例で、
ヌマエビの部分が空欄となりかねない為か、
無理に苦労して探してきたような“ヌマエビ”の写真が載ります。
しかし個人的には、そのヌマエビの写真には“ヌカエビ”を感じてしまい、
この二系統は完全に「トゲのみ」の違いでの判別なんだなあ、
と思っていました。

ヌマエビ南部群(ヌマエビ小卵型)は、ほぼ別種に近い集団。
ヌカエビとヌマエビ大卵型は、ほぼ同種。
という判断になりましたから、
トゲ以外の全体的な印象からすれば、
印象通りの位置付けに落ちついた感じです。

額角の棘の数に関しては、
「まったくの別種なのに同じ数や形だったらどうするの?」
といった素朴な疑問を持つのは当然の事と思います。
ホルマリン漬けで色が抜けてしまっている標本での比較になってしまうからと思いますが、
そこには当然そういう落とし穴があるのは前提とも思えるのが額角での見分けです。

私的に一番悩んでいた部分が、
「これだけ色彩や行動、そして剛健さが違うエビが亜種レベルなんだろうか」
という部分でした。
色彩と行動に馴染んでいる飼育者の目線だと「別種」を感じざるを得ない状態でしたので、
今回のDNA目線が飼育者目線と一致したのは嬉しい事です。
遺伝子的な形質の違いが、色彩や行動を表現しているはずなので、
当たり前といえば当たり前なわけですが、
額角のトゲの違いを重視して、
他の特徴をほとんど重要視しない(ように感じる)以前の分類では
埋まらなかった部分が埋まってくれて、スッキリしました。
※交配実験もするつもりでしたが必要なさそうです。

淡水の水槽内でも比較的容易に殖えてしまう旧ヌカエビ(ヌマエビ北部-中部群)。
ほぼ同種である事が分かった旧ヌマエビ大卵型も当然容易に殖えることでしょう。
今まで二分されてきた額角の壁が崩され、
陸封型の一大勢力になったわけですが、
卵の大きさやトゲの有無など、地域的な変異は当然あります。
遺伝子的な違いからすると大きく9タイプになるそうです。
さらに分化して別の種になって行こうとしている途上なので、
混ぜてしまうことのないように見守りたいものです。


新しいヌマエビの分布を
分かり易く絵にするとこんな感じ(かなりイイカゲンです)
旧来のヌカエビは
幻?だったヌマエビ大卵型と共に
北部-中部群の中に含まれます。
(含まれますと云っても、遺伝子的に比較的似ているだけで、
それぞれが地域変異なのは変わらないとは思いますが)
ヌマエビ南部群は、旧ヌマエビ小卵型そのままの分布。

(北部‐中部を通り越して北海道にも移入されているようですが)

 

 

一般飼育者には縁のない見分け方

ただ、このDNAによる分類は、
一般飼育者には見分け方としては使えません。
DNAを比べる術がありませんから、
「なるほど、そうだったんだ」止まりです。

DNAという設計図から表現された形質(色彩や模様や行動など)で
判断するしかないのは変わらないようです。

飼育しているヌマエビ南部群を見た目だけで“ミゾレヌマエビ”と
しっかり同定している方がたくさんいらっしゃるように、
見た目(つまり模様や色彩、体の形)は、侮るには惜しい見分け情報です。
ヌマエビ南部群を“ミゾレヌマエビ”と見分けられているという事は、
本当の種名としては間違いではありますが、ある意味正解でもあり、
模様だけで見分けが出来ている証でもあります。

個人的には、
・DNAの比較をする術を持っていない。
・抜け殻は気付いたらフニャフニャになっている。あるいは食べられている。
・死んだエビは腐らないうちに埋葬(あるいは別の然るべき処置)をしてしまう。
・50倍の携帯用顕微鏡しか持っていない。←しかもほとんど使わないので行方不明。
・夜にホルマリンの標本が恐い。(ウソ)

という訳で、
今後も肉眼と、せいぜい虫眼鏡レベルでの見分け重視になります。
この領域は信頼性が低いという認識からか、
見捨てられて、あまり顧みられていない感じの場所ですが、
逆にたくさんの知られていない情報が残されている気がします。
ホルマリン標本には縁のない一般エビ好きの私などには、
むしろこちらのほうが重要です。
観賞魚店の水槽の中のエビや、採集地で網の中で跳ねているエビも
生きて模様を出して行動している訳ですから、
飼育者目線では、こちらを追及したほうが使い勝手が上がります。

 

追記(2007/07/18)

分類の見直しが行なわれそうなのは【ヌマエビ属】の部分です。
「ウマ」とか「ハト」という種類は普通居ないので、
「ヌマエビ」というとヌマエビの仲間全体を指しそうに思われがちですが、
ヌマエビという種類・標準和名のエビが存在するのです。
ヌマエビ類全体が南部と北部-中部の二つに単純に分けられてしまったという事ではありません(^^;
他の種類のヌマエビ達の分類は以前のままです。

【ヌマエビ属】←ここだけが変わります
・ヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型) ※ミゾレヌマエビの名で市販されています。
・ヌマエビ北部-中部群(旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型)

【ヒメヌマエビ属】
・ヤマトヌマエビ
・ヒメヌマエビ
・ミゾレヌマエビ
・トゲナシヌマエビ

【カワリヌマエビ属】
・ミナミヌマエビ

まぎらわしいので、これを機会に、
ヌマエビの前に何かつけて「○○ヌマエビ」にして欲しい気はしますね。
(いっそ、こっちをミゾレヌマエビにしてしまうとか(笑)


備考

この「ヌマエビ」に関する情報は
『海洋と生物123 Vol.21‐No.4 August1999』に載っているようです。
※そういえば、古くから開業している熱帯魚屋さんで
ずらっと並んでいるのを見掛けたような、、、、守備範囲外の雑誌でした(^^;


こちらのサイトに書かれている事がほぼ同じ内容です。

http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi2.html
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi3.html
ヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)に関しては、
私もあまり疑いもせず“ミゾレヌマエビ”だと思っていました。
脳みそに最初に擦り込まれた情報の強さを感じますし、
周囲にあるほとんど全てが誤情報という現状の恐さも感じますし、
異論が一切出ないというエビ飼育者の層の薄さも感じます。

http://www.geocities.jp/polo6nhs/AZ/waterfield.htm
「素朴な疑問」という、大きな一石を投じてくれたのはこちらの方。
※南部群が北海道に移入されている現実も見てしまいました。
ミナミヌマエビやシナヌマエビ類であれば、
一般飼育者が水槽で殖え過ぎて持て余し、
「放流は自然保護なんだ!」という自己欺瞞や善行欲が頭をもたげて
身勝手な放流へ行き着くというのは考え易いですが、
小卵型の南部群ではゾエアは水槽内で死滅しますから
殖え過ぎによる放流は考えにくい話です。
積極的に大量購入して放すか、
意識的にゾエアを回収して放すか、
釣り餌用のモエビの余りを放流する慣習があるのか、
日本の南部との交易船のバラスト水に大量のゾエアが含まれていているのか・・・
ペット遺棄以外の強い移入経路があるような気がします。

2007/03/18


◆全文載っているpdfがありました。
http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/16879/1/A2H060505.pdf
(2007・08・15)

追記(2008・11・09)
この方の希望は、「種類ではなく地域個体群を守ろうよ」という事です。
「種類」という分け方を薄くする為に、あえてヌマエビとヌカエビを「ヌマエビ」に統一し、
個体群の一つとする事に力点を置いています。
旧来のヌカエビ⇒ヌマエビ北部−中部群
旧来のヌマエビ⇒ヌマエビ南部群
旧来のヌマエビ大卵型⇒ヌマエビ北部−中部群

しかし、文中で、ヌマエビ北部−中部群と南部群は別種である事が確認されています。
その別種を同一の名で呼ぶ。これは個人的にはマイナスだと思います。
希望自体はたいへんに良く解かりますが、
旧来のヌカエビの存在や見分けすらおぼつかない現在の淡水エビの認知度からすると、
この発想は、DNAを見る事が出来る研究室内部での話として終了だと思います。
地域的な保全活動に繋がって広がって行くとはとても思えません。
むしろ、旧ヌカエビを休耕田で繁殖させて、販売名が「ヌマエビ」となるという、
マイナス面が登場しています。
ヌカエビとヌマエビとして、ある程度の産卵形態の違いが知られ始めている状態から、
「ヌマエビは淡水で殖えるよ」「いや、殖えないよ」と、ごっちゃになります。
ヌカエビの繁殖形態すら周知されていない現状からしたら、大きな「混乱源」としか思えません。
2種類を1種類の名前で、地域集団レベルに置くのは、個人的に違和感満載。
メダカ同様、陸封のヌカエビのみを地域集団として各地で守るというだけならかまわないですが、
その中に降海型の別種であるヌマエビも一地域集団的に混ぜるというのは理解し難いです。
ヌマエビはきちんと別種として置くべきでしょう。
種類よりも個体群を重視しようというところに、完全な別種を巻き添えにするのはおかしいと思います。

●ヌカエビはヌカエビ。
●ヌマエビはヌマエビ。
●ヌマエビ大卵型がヌカエビの一種だった。
ただそれだけと受け取っておくのが無難と思います。
認知度が低いヌカエビの問題点に関してはこちらにまとめてあります⇒ヌカエビ

二種類あるミゾレヌマエビ
ミゾレヌマエビとして販売されるヌマエビ(ヌマエビ南部群)。
こちらにも国民的混同という大問題があります。
ここに拍車が掛かってしまいます。

ヌカエビ、ヌマエビ。
どちらも正しく認知されていない段階なのに、
それをごちゃごちゃにしてしまうのは問題。
どちらに関しても時期尚早!
より混乱が大きくなります。
(ひどいものだと、ヌマエビ属以外のヌマエビ科全部が、
北部と中部と南部の生息地で分け直されたかのような誤解まであります)

という訳で、将来的に混乱を助長することが予想される呼び名を使う気にはなりませんので、
旧来のままヌカエビはヌカエビ、ヌマエビはヌマエビと呼んで行きます。
(旧ヌマエビ大卵型もヌカエビ。この所属が変わったのみです)
ただ、「ヌマエビ」はヌマエビ類全体の総称に使われる事も多いので、
臨機応変に、ヌマエビ(ヌマエビ南部群)と表記したりします。

関連ページ
ヌカエビはヌカエビでありたい


2008/11/09 追記

 


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