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四種類ある淡水エビ情報(その簡単な見分け方)

淡水エビの情報には、おおまかに四つの種類があります
1.アクアリスト向けの販売促進カタログのような感じの情報
2.簡易同定の世界に偏った、「額角のみだ!」「色模様は使うな!」という情報
3.エビが好きで、研究もしていた方による、額角も棘も色彩も模様も体形も全部見る情報
4.標本瓶の標本のみの分類学者の情報

1.商品という視点の、全体的な印象のみの情報
1は、最も見掛ける率が高い情報です。
観賞魚の世界では、“ビーシュリンプ”という商品名で何種類もの縞々エビが見られたり、
“レッドテールグリーンシュリンプ”という名でも3種類くらいあったりするのと同様に、
日本のエビの和名を使ってはいますが、
“ミナミヌマエビ”という商品名で販売できるエビを総称して”ミナミヌマエビ”と呼んだり、
“ミゾレヌマエビ”という名が綺麗で売れるのでヌマエビをミゾレヌマエビとして売る、というのがごく普通です。
つまり、種名ではなく商品名です。
このタイプの情報の見分け方は簡単です。
ミゾレヌマエビの項目が、まずこのようになっています。
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ミゾレヌマエビ
学名:Caridina leucosticta
分布:本州中部以南
特徴:透明な体にみぞれのような模様が散りばめられた美しいエビ。
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これはヌマエビ属ヌマエビParatya compressaの写真なのですが、
数十年来、観賞魚の世界では、これが“ミゾレヌマエビ”です。
本物は名前負けしているので、取って代わって入っています。
これがずれると、ヌマエビの場所にヌカエビが入ったり、
ヌカエビに本物のミゾレヌマエビの写真が入ったりと滅茶苦茶です。
ヌマエビが“ミゾレヌマエビ”の位置にあるのは不動です。
ですから、これを見れば1のタイプの情報と判ります。
観賞用という視点ですから、見た目重視の情報です。
額角の詳細が写っている写真は使いません。
“ミゾレヌマエビ”に外肢が見えたり、
“ミナミヌマエビ”の額角が第一触角柄部より明らかに短いと都合が悪くなります。
これはあくまでカタログなのだと思って見れば面白いですが、
これで、日本の淡水エビを勉強しようと思うと問題です。

ヌマエビとミゾレヌマエビを逆に販売したり、掲載したりするのは、
この国の“間違い文化”と考えたほうが良いです。
習慣であり、常識であり、文化です。専門家抜きで回る国民的まちがい文化。
ヌマエビの項目に多い例は、以下のようなミゾレヌマエビの無色に近い個体を使った紹介です。

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ヌマエビ
学名:Paratya compressa compressa
分布:本州中部以南
特徴:池や沼に多く生息する事からヌマエビと呼ばれる。ヌカエビとは亜種。
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この間違いを載せた本は、ごく普通に販売されています。
手に取ると間違えを憶える本です。
(採集した個人で見分けるのは容易です⇒透明なエビを見分けてみる

このタイプの情報では、商品名“ミナミヌマエビ”の商品価値を上げる為か、
「ミナミヌマエビは淡水エビでは珍しい唯一の淡水繁殖種」だといった誤まった紹介もしばしば。
淡水繁殖種ヌカエビ叩きも激しく、「海水が必要!繁殖は困難!」とし、つまらないエビとされます。
種名だけでなく、生態も歪まされた情報が多いです。

●生きたエビの熟知・・・・・・★☆☆☆☆
●標本や論文の知識・・・・・☆☆☆☆☆
●種類の識別の参考・・・・・☆☆☆☆☆マイナスです。種類間違いの元凶。
●生態の参考・・・・・・・・・・・☆☆☆☆☆マイナスです。誤解の温床。

 

 

2.標本瓶の中のエビしか見ていない?奇妙な情報
2は、かなり問題ありです。
博物館監修だったりしますが、この『簡易同定』の世界は因習の巣窟です。
分類の事情を勘違いして、色彩や模様を一切見ないで種類を判定するという芸当をこなしますから、
当然、属を越えた種類間違い、額角の見えない小さな写真の判定ミスが多いです。
なのに威圧は高いですし、信用をバックに不遜な印象だったりで、
まだエビがよく分からない一般やエビ初心者には大変に厄介な存在だと思います。
「エビの額角」というミジンコ位の部品だけを見ています。
エビ本体はほとんど見ていません。

このタイプの情報の見分け方は簡単です。
額角を「御神体」という感じで異常なまでに崇めていて、
他の情報は、けちょんけちょんに貶しています。
特に色彩と模様への敵意が激しいです。対立軸として置き、ことさらに蔑みます。
額角しか見ていないのですから当然なのですが、
「不可能」とか「酷似」、「困難」という言葉が文中に頻繁に登場します。
一般に対して難しさを強調する事で、おそらく箔を付けたいのだと思いますが、
「出来ない」という事が箔に繋がると考えているとすると、ちょっと滑稽だったりもします。
それでいて「これが科学だ!」と言わんばかりに仰け反っています。断定口調も酷いです。
なんとも奇妙な世界ですが、日本の淡水エビの情報では、このタイプが主流で、有り難がられて居るのが現状です。
ヌマエビ類は種類が多くて見分けは難解だと思われているのは、この2による擦り込みの影響です。
純粋に「エビを見る」という行為を制限された一般市民が、
あらゆる種類のエビを「透明度・腰の曲がり・眼の出っ張り」のみで見て、
ほぼ全てを「スジエビ!」と判断する例も常態化しています。
これも、この奇妙な世界からの悪影響の一つと考えられます。
「額角だけだ!模様は使うな!」が徹底されていますから、この情報は見分けは簡単と思います。

このタイプは、分類学の事情の表面的な部分の、
孫引き、又聞き、思い込み、勘違いといったもので構成されているのがわかります。
内輪では便利に使っている正しい手法のつもりと思いますが、
傍から見ると、あきれるばかりの因習の世界で、どこを見ても科学的な整合性がありません。
エビに興味を持った子供や初心者の方から、興味の芽を奪い取る悪影響も計り知れません。


『エビとは、色彩のない、真横から拡大した額角の事である』
という視点でしかエビを見ません。


こんな額角が細かく見えない時点で、「種類の分からないエビの一種」になってしまいます。
色彩や模様は参考にならない、使ってはならないと思い込んでしまっていますから、
捕獲して顕微鏡の上に縛り付けて、「額角!額角!」です。
この世界だと、この生き物はエビではなくガッカクという生き物のようになります。
この大きな体の部分はガッカクの付属品か寄生虫扱いです。

博物館という世界は、基本的に「論文の虫」「標本の虫」だと思います。
机の上で、色彩の表記のない論文を読み、
標本瓶の中のアルコール浸けの真っ白に褪色したエビを見ているだけ。
ですから、ここの世界から出てくるエビの情報は生きていません。

自然の中のエビも、こんな感じと思っていると言って過言ではありません。
標本瓶の中のエビを、むりやり自然のエビに当てはめようとして、
「模様は使うな!」「額角だけだ!」と強引に自分らの手法に引きずり込もうとして来ます。
生きたエビを採集・飼育・観察する上では、ここから得るものはないばかりか、マイナスです。

●生きたエビの熟知・・・・・・★☆☆☆☆
●標本や論文の知識・・・・・★★☆☆☆ 額角しか見ないに等しい(額角の比較は同定ではない)
●種類の識別の参考・・・・・★☆☆☆☆ 当然、額角が見えない写真はあたふた。マイナスの場合も
●生態の参考・・・・・・・・・・・★☆☆☆☆

※額角の比較は「額角の比較」であって同定ではないですし、
額角の見えない小さな写真だと模様を使えないと思っているので、種類が滅茶苦茶で全く見分けられていません。
でも、一般の上に立って「教える」という立場のつもり。本当に存在の意味が不明です。
淡水エビの世界の種類間違い情報や、訳の分からない迷信は、100%このあたりから出ています。
「模様は見るな!額角だけだ!」と言いながら、「困難・酷似・不可能」と言います。この行動がすでに意味不明。

 

 

3.額角に限らず、棘や色彩、模様に至るまでをトータルに熟知した情報
3が丁度良い湯加減です。
額角はもちろん、棘や外肢、眼上棘、前側角部棘も確認済み。
その上で、模様や色彩、体形の違いまで熟知された情報です。
色彩だけから判断しませんし、標本瓶の中のエビだけでもありません。エビが生きている情報です。
模様や指節の長さでの見分けなど、独自の方法まで紹介されていて目から鱗でしょう。
ただ、このタイプは世の中にほとんどありません。
『川エビ雑話』
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/kawaebizatuwa.html
この『川エビ雑話』にはヌマエビの項目が残念ながら消えているのですが、
推測して掘ってみたところ、画像だけは存在しました。
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebigazou/Pc1.jpg
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/ebigazou/Pc2.jpg
「Pc」はヌマエビの学名Paratya compressaの略です。

『水際喫茶室』
http://mizugiwa.sakura.ne.jp/
こちらも研究室出身の方。情報に偏りがないです。
色彩や模様が使えないのは、標本や論文の世界の話である事を、
わかりやすく四コマ漫画にしてくださっているので、一度読んでおくと良いと思います。
日本では、この「使えない」の意味を勘違いして、エビから色柄を引き剥がして、
極端な敵意と侮蔑で見る習慣が根強いですが、全くの無意味と解かります。

エビは専門ではないと明記されていますが、
こちらの『番匠おさかな館の図鑑・エビ』も、系統としては一緒で安心です。
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
模様色彩をきちんと見極めて掲載されていますから間違いが見当たりません。
生きた生き物に親しんでもらいたいという水族館ならではの職業意識なのだろうと思います。
標本瓶が並んでいるだけの博物館監修だとエビの識別法も“机上の空論”になりますが、
水族館の情報は一味も二味も違って、生き生きしています。

このタイプの見分け方は、「偏りの無さ」そのままです。
金や因習による情報の歪みが一切ありません。
生き物を生き物としてストレートに見て、そこに裏技や詳細が加わっています。
エビの写真を拡大縮小しても、ぶれずにずばり種名が分かるタイプです。
本来の王道ですが、邪道が幅を利かせている日本の淡水エビ情報では極めて貴重な情報です。

●生きたエビの熟知・・・・・・★★★★★
●標本や論文の知識・・・・・★★★★★
●種類の識別の参考・・・・・★★★★★
●生態の参考・・・・・・・・・・・★★★★☆

 

4.ホルマリン固定された標本(褪色した死骸)を見分ける為の情報
4は、こんな本の世界です。
http://aquabiology.m78.com/publications/books/EbiHayashi.html
たぶん、色彩、模様情報は皆無でしょう(載っているのかもしれませんけれど)。
脚の外肢とか、突起とか、棘や毛の詳細な図説が並ぶ本で、ちんぷんかんぷんだと思います。
この辺りの情報は、アルコールに浸かった標本や論文を見て比較する際に見る本ではないかと思います。
もちろん顕微鏡必須です。
一般飼育者からすれば「死骸の詳細な見分け方」みたいなもので、
得るものは少ないのではないかと思います。
(得ようと思えれば得るものありと思いますが、得ようと思えてから見たら良いかと)
見分け方は「ちんぷんかんぷん」です(^^)。
●生きたエビの熟知・・・・・・★★★☆☆?
●標本や論文の知識・・・・・★★★★★
●種類の識別の参考・・・・・★★☆☆☆? 顕微鏡のない一般の人が応用できるかは疑問
●生態の参考・・・・・・・・・・・★★☆☆☆?

 

川や池で採集したエビに興味を持って、調べてみようと思った人の周囲には、
上記の「1」で、種類と種名を誤まって憶えさせられるという罠が待ち、
博物館などの、標本にしか縁のない「2」の世界からは、
色彩や模様は使えない!額角だけだ!という巨大な因習の洗脳が待ち構えています。
「3」に到達できる人はほとんど居ないようで、大多数が途中でほぼ撃沈。
撃沈したままの人が他の人をまた撃沈するという悪循環があります。

日本産の淡水エビを等身大から詳細まで正しく学ぶには、「3」を選んで入るしかありません。
「4」から入っても良いかもしれませんが、ちょっと生きたエビからは遠そうです。
「1」や、「2」から入るのは論外です。種類間違いの記憶の修正や、
根拠の無い因習からの脱却などで無駄なエネルギーを使います。
それ以上に、新しくエビに興味を持った人にウソを教える人になってしまいます。

 

エビ情報の見分け方

◆国民的誤認である、ヌマエビ(旧ヌマエビ小卵型、旧ヌマエビ南部群)とミゾレヌマエビを正しく区別してある事。
ヌマエビを“ミゾレヌマエビ”と呼ぶ間違いを助長していない事。

ヌマエビ(左)とミゾレヌマエビ。

◆標本瓶のエビしか見ていない方面発信の因習によって、国民的誤解にまでなってしまった、
「模様は使えない・参考にならない」、「識別は額角を顕微鏡で見なければ不可能」に一切染まっておらず、
模様・色彩への無用な敵意や、額角への偏りが文面や手法に見られないことをきちんと確認する。
「不可能・酷似・困難」を要所要所で気安く使っていないかを確認する。

この二点を確認すれば、エビの情報の良し悪しを見極める事が可能です。
見分け方は上記のように簡単ですから、きちんと区別して学んで下されば良いと思います。

 

参照⇒【グレーゾーンに要注意

 

2010/07/26 


2010/08/07 更新
2010/12/18 更新


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