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淡水でも育つゾエアを覆う「あきらめムード」


スジエビも覆う「御気楽あきらめムード」

同じくゾエアを放出するスジエビに関しても、ヌカエビと同じような状況。

一言で「スジエビ」と言っても、地域的な変異は多そうで、、
ショップでも筋の太いの、黄色が濃いのと千差万別な個体群があり、
その違いは二度と同じタイプに巡り合えないほど。
今でこそ、これは、川から海に降って混ざり合う事がない事の証明に成り得ると思うのですが、
そんなスジエビも「ゾエア=海水必須=淡水育成不可能」という、あきらめムードが覆っていました。
(あるいはまだ覆っているのかも)

スジエビ

私もスジエビは何度も飼いましたから、抱卵もしましたし、孵化もしました。
一度、孵化したゾエアをガラス容器に移し、しばらく飼った事がありました。
カマキリを逆さまにしたような形の、肉食性プランクトンの親玉みたいなゾエアは、
ふわふわと水中を漂っていました。
刻んだ糸ミミズなどを与えると上手にキャッチ。
しかし、そうなると、ここからが恐くなる。
どうせいずれ死んでしまうものに、世話をし続けて愛着が湧いてしまうと、
その先には、より大きな悲しみが待つ事になります。(ちょっとオーバーですが)
必然、世話はイイカゲンになります。
結果、ゾエアは居なくなってしまった訳ですが、その原因の納得のしかたは、
長い間「やはり海水が必要だったのだろう」で終わっていました。

今でこそ、無理に納得してしまった自分が悲しいやら情けないやらですが、
この頭の片隅にある「どうせ無理」という意識。
どこかで、立ち読みしたのか、あるいは人に聞いたのかは定かではないですが、
こういう最初に頭に入ってしまう情報って、まっさらな部分に入る訳ですから、
しみ込み易さが断然強いです。
ちょっと立ち読みしたレベルでも残るはず。
図鑑のようなものは、特にまっさらな頭を持つ子供達が手に取る確率は高そう。
シーモンキー(ブラインシュリンプ)やカブトエビなんかに大きな興味を抱く時期。
「ゾエア」なんていう言葉の響きにも大きな関心を持ちそう。
川と海とのつながりを学ぶのにも、非常に有効な生き物だと思いますが、
それが誤情報で埋まっていると、その影響もまともに受けてしまうでしょう。
川で珍しいエビを採った。本屋さんや図書館で名前を調べたら、ヌカエビあるいはスジエビのようだ、
でも、繁殖は無理。「な〜んだ」で終了。これは悲しい。
「不可能」とか「困難」「無理」といった虚脱な言い回しが消し去るものの大きさは計り知れない・・・
想像力が広がっていく可能性を入口の部分で潰してしまう。
しかも、それは正確な情報ではないのですから最悪です。

スジエビ同様に淡水で育つヌカエビのゾエア。
×「ゾエアなので、繁殖には海水が必要。育成は困難」
○「ゾエアとして生まれるが、淡水で比較的容易に繁殖が楽しめる」
たった一行ですが、その先に世界が開かれるか、閉ざされるかは大きな違い。

※気になったので、本屋さんで子供用の大きな図鑑を二つ、三つめくってみました。
ヌカエビ・ヌマエビの繁殖形態に関しては記述は無し。
しかし、通し回遊を説明する欄にスジエビとテナガエビが登場する図鑑がありました。
・スジエビは淡水繁殖。
・テナガエビは淡水型と汽水型の二型があり、通し回遊はしない。

というのが、今の段階では正しそうな情報ですので、
この2種は、通し回遊の説明にはまったく相応しくないメンバー。
全体的な印象では「淡水エビのゾエアは海で育つ!」と言いたくて仕方が無いといったムード。
川と海のつながりの不思議を説くのに都合が良く、
子供の興味を引く内容として定番になっている記述なのかもしれませんが、
これでは誤まった知識を与える事になってしまいますね。
無理やり、通し回遊性エビと一緒にされたテナガエビやスジエビも、
「俺らは海は苦手だよ〜」と泣いてるかも(^^;

Q:淡水の池等に繁殖しているテナガエビについて。
http://www.japan-net.ne.jp/next/red/red-gaiden.html
テナガエビには淡水型と汽水型の二型があるが、どちらも通し回遊をしないという記述。
淡水型は分かり易いと思いますが、汽水型も汽水のみで一生暮らすようだ。
つまり、テナガエビは“降る”とか“遡上する”とかに、まるで縁が薄いエビ。
淡水か汽水の流れのゆるい泥底に棲み、ゾエアも親の周囲で稚エビになるようです。
小卵型の両側回遊種の代表のように言われる場合も多いですが、大間違いですね。

小学校などでも普及してきているビオトープ。
ヌカエビやスジエビは、淡水で繁殖するエビとして、すでに定番になっている感じ。
http://www.jomon.ne.jp/~igamasa/ikimono88.html
見た目で諦めている人の情報よりも、
実践で確認している人達の情報の方が強いですので、
こういった方向から、いずれ訂正されていくとは思いますが・・・
でも、大きく広まった誤情報が正されるのには相当な時間が掛かりそう。
過去に失われた機会とゾエアが戻らないのも大きな損失。

※ちなみに、スジエビが淡水繁殖であることは専門書レベルだと常識でした。
一般アクアリスト向けの古い雑誌の特集や子供用の図鑑に見られる以外には、
特に海水が必要という記述は無さそうです。
しかし、スジエビのゾエアを覆う一般的なムードは「あきらめ系」が強い。
子供や一般向けに供された誤情報が根強く受け継がれている可能性もありますが、
スジエビのゾエアの“弱さ”にも原因がありそうです。
想像ですが、スジエビのゾエアの食性は肉食性が強く、
餌の面で育成が難しいからなのでは?と思っています。
ヌカエビのように珪藻を殖やした程度では育たず、
動物性のプランクトンが多めに必要なのではないかと思います。
細かく刻んだイトミミズを食べていたところからも、
肉食性ゾエアであるが為に餌不足で死亡している可能性は高そう。

※2010年現在では、スジエビには、河川上流域に暮らす純淡水繁殖個体群と、
河川下流域に暮らし、ゾエアの発育に海水が必要な降海型個体群が存在するようです。
⇒【スジエビは二種類だった


お肉大好き

※追記(2005・07・03)
【水際喫茶室】のおさんぽさんから、
スジエビのゾエアの飼育実験をされた時の情報を頂きました。
その時には、淡水、半海水、海水、全てにおいて、50%以上が稚エビになったそうです。
(餌は配合飼料とブライン)
つまり“100%の海水でも育つスジエビのゾエアは存在する”という事です。
淡水で再生産されるので非通し回遊種という事にかわりはないのでしょうけれども、
スジエビの剛健さには、あらためて驚かされました。

※おさんぽさんも
「日本の全ての群においてそうなると言い切れないのがスジエビです(TT)」
と仰られていました。、
スジエビは地域変異の王様ですから、
とうぜん全国すべての個体群で同じ結果は出ないと思いますが、
かなりの塩分耐性を持っている個体群も普通にありそうな気も。

※卵径が大きいほど塩分耐性は低いと想像できますが、
どうなんでしょう。(そんな実験も面白いかも)
氾濫の多い河川産であればあるほど塩分耐性の強い小粒っ子だったりして・・・。

※スジエビは同じ河川の上流の個体群と下流の個体群でも特徴が違うという話もあるくらい、
ほとんど通し回遊をせず、親の周辺で稚エビ化するエビなようです。
大水で海に降っても平気な個体群の場合は上流・下流で大きな変異差は生まれそうにないですが、
上流・下流で変異を持つ場合は、上流側のゾエアは汽水に達すると死滅?
あるいは上流側は卵径が大きく、ゾエアの遊泳力が高くて流され難いだけ?
変異が多いだけに謎も多そう。

 

2005/07/01

 

一般向けに広められる「誤情報」

ヌカエビの繁殖は難しい?

スジエビも覆う「御気楽あきらめムード」

幻?の大卵型ヌマエビ Paratya compressa compressa Large egg type


2005/07/03 追記&画像追加
2010/06/01 更新、リンク切れ処理


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