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滋賀県のヌマエビParatya compressaが絶滅危惧?

滋賀県のヌマエビが準絶滅危惧種、あるいは希少種となっているようですが、
ここには学名変更過渡期ならではと思える部分があります。
http://www.pref.shiga.jp/d/shizenkankyo/rdb/list/musekitui.html(2008/12/11更新)
http://www.jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=110902030052083(地図)
危惧以前の図が無いので、ここの地図が役に立った憶えが無いです。(参加する県が少な過ぎ)
http://www.jpnrdb.com/search.php?mode=rank&q=4&k=11&t=f&cd=11090203005
茨城県のヌカエビはParatya compressa improvisaですから、
Paratya compressaとして、旧来のヌマエビ・ヌカエビ両亜種を統合したという意味かもしれません。
いずれにしても、古いし、説明不足。

個人的な推測ですが、滋賀県で絶滅が危惧されているのは、
旧来のParatya compressa compressa(large egg type)
なのではないかと思います。
つまり、現在のヌカエビParatya improvisa琵琶湖型。
現在のヌマエビParatya compressaが希少だという事ではない気がします。


独特の波裏富士(北斎の神奈川沖波裏)模様と、歩脚の付け根に生える外肢で見分けは容易なヌカエビ。
ヌカエビは額角の棘の数に変動が大きい種類なので、
額角上の棘の量は、ヌマエビとヌカエビの識別ポイントにはなりません。
ヌカエビの中にヌマエビと同じ額角の個体を探す行為、
つまり、同種を2つに分けてしまう事が多いので要注意です。
この場合、当然ですが、「困難・酷似・不可能」なはずです。同種ですから。
ヌマエビとヌカエビは生態も模様も違う、全くの別種です。
顕微鏡より、見た目が正解です。

御存知の通りで、ヌマエビとヌカエビは亜種ではなく別種になりました。
琵琶湖のヌマエビParatya compressa compressa(large egg type)は、
ヌカエビに含まれて、Paratya improvisaになりました。

琵琶湖には居ないと思われる降海型のParatya compressa compressa(small egg type)が、
Paratya compressaになって一件落着。(御存知の通り、商品名ミゾレヌマエビ)

これがヌマエビだという事を知っている人口は相当に少ないようです。(正解するのは九州沖縄限定の域)

字面的には、標準和名はそのままに、学名のみが短縮したのですが、
Paratya compressa compressa(large egg type)の所属移動を行なわずに、
旧来の学名を短縮しただけになっているのが、上記のレッドデータの情報に思えます。

西日本の多くの地域では、Paratya compressa compressaには2種類含まれていて、
生息調査は、やり直しとなるはずです。
(最近では、九州にもヌカエビが存在するような情報もある感じです)
中卵型〜大卵型のモヒカン・ヌマエビと、
小卵型のモヒカン・ヌマエビは同一のモノだと思われて、
Paratya compressa compressaとなっていたものが、実は別種と判明。
中卵型〜大卵型のモヒカン・ヌマエビは、実はモヒカン・ヌカエビでした。
小卵型モヒカン・ヌマエビとは別種となりました。

ヌカエビはスキンヘッドだけと思われていたのが、モヒカンも居たという事です。
西日本ではモヒカンのヌマエビとヌカエビが居て、髪型では判別不可能という状態。
※色柄や生態、性格、眼の出っ張りからすれば、全く別々の種だと思います。
水槽で飼って観察すると、ヌマエビとヌカエビが混乱されていたというのは不思議な感じ。
ヌマエビは“ミゾレヌマエビ”として購入して飼った人も多いはずで、
その人達がヌカエビと混同するという感じはありません。
派手さや地味さが違い過ぎますし、離れ眼の感じも違います。
標本化されてしまった場合にのみ混乱した様です。
分布調査で、採集するそばからホルマリンに入れて、次々と標本化し、
後々、研究室でゆっくり顕微鏡を用いて同定するという手法だった場合、
当然、色柄や性格の違い等は反映されません。
ですから、額角が同じヌマエビ、ヌカエビ(西日本)が同種の地域変異、産卵形態変異と思われたと思います。
・小卵型のヌマエビ⇒ヌマエビ小卵型
・大卵型のヌカエビ⇒ヌマエビ大卵型
・琵琶湖のヌカエビ⇒ヌマエビ中卵型
となってしまい、全てが同種内の分化と捉えられてしまったように思えます。

 

単純になったヌマエビとヌカエビ(元々、単純なはずに思うレベル)

ヌマエビParatya compressa

“ミゾレヌマエビ”として古くから商品化されているほどの容姿。
小卵型で繁殖には海水が必要。
ヤマトヌマエビとほぼ同一の環境を好む傾向があるよう。
ヌマエビという名前でありながら、沼や湖には生息できない。
「湖沼に多く生息するからヌマエビと名付けられた」は、後述のヌカエビとの混乱。
額角の棘が眼を越えて頭部にまで生えていたヌカエビの個体群をヌマエビと誤認したもの。
胸の横を「ミ」の形に斜めに走る線や、商品名の由来となった大きな金点・白点がポイント。
雄はUFOが墜落する軌跡にも見える模様を持つ。
外肢があるので、ミゾレヌマエビとの区別を確認するのは容易。
眼は真横に出るのが基本。ヌカエビほどには離れない。

ヌカエビParatya improvisa

本州ほぼ全域か、あるいは四国や九州にまで分布している可能性が高いエビ。
頭に棘がある個体群がヌマエビの種内分化とされていた為、今後の発見が楽しみ。
特に西日本では「頭の後ろにまで棘があるからヌマエビ」とされてしまう例が今後も続くと思いますが、
このポイントは、現在では両種の混乱源なので要注意です。
中卵型〜大卵型で、各地で卵サイズやゾエアの孵化する段階が違う印象。
やや浮遊生活が残るものの、純粋な淡水繁殖種。沼や湖の代表的種類。
胸の横に「神奈川沖波裏」を彷彿とさせる模様がある。
ヌマエビよりはかなり地味。無紋に近い個体も多い。
眼がかなり離れているので、ヌマエビとの比較は眼でも出来るほど。
むしろ、「スジエビの子供」とされてしまうことが多い。
どんな時にも、外肢を見れば、基本的にエビの混乱は消えます

日本の本土には、ヌマエビ属はこの2種類のみなので、どちらかでしかありません。
卵の大きさや生息環境、胸の横の模様、眼の離れ具合、
地味さ派手さあたりを総合して見分ければ充分だと思います。
妙に難しく考えて専門家の手法に沿うと、同じ誤まりになってしまう印象。

 

 

小卵型・両側回遊種に嫌われている琵琶湖

WEB上には、琵琶湖に生息する淡水エビは、
テナガエビ、スジエビ、ヌマエビ、ミナミヌマエビと書かれていますが、
このヌマエビは上記のように、淡水繁殖のヌカエビで間違いないと思います。
ミナミヌマエビは、在来種は一回絶滅したようで、100年近く発見されず、
その後に中国原産の近似の亜種群が放されて増えているようです。
テナガエビ、スジエビ、ヌカエビ、シナヌマエビは、
どれも淡水繁殖のエビ。
琵琶湖には淡水繁殖が出来る種類しか居ない事になります。

ヤマトヌマエビやトゲナシヌマエビ、ヒメヌマエビ、
そして、ヌマエビに名前を取られているミゾレヌマエビ。
これら、ヒメヌマエビ属は一種も入っていません。
典型的な両側回遊のミナミテナガエビやヒラテテナガエビも入らない。
小卵型のメンバーからは、完全に嫌われているのが、琵琶湖という環境のようです。
巨大な湖底にヤマトヌマエビがびっしりと広がって採餌していたらスゴイ光景ですが、
どうもそういう事にはならないようです。
これは1915年という古い調査でも確認されているようで、
昔から琵琶湖には小卵型は居なかったようです。

そんな、小卵型に徹底的に嫌われている湖に、
典型的な小卵型のヌマエビParatya compressaだけは入って来るという事はないはずで、
他の小卵型のメンバー同様に琵琶湖を嫌っていると考えるのが自然な考え方です。

ここに、琵琶湖水系の丁度良い図がありますから、
見せていただくと良いかもしれません。
http://www.inagawa.kkr.mlit.go.jp/seibi/
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/contents_img/yodogawa/yodogawa-030301-no472.html
滋賀県の河川は、ほとんどが琵琶湖流入河川。
小卵型が居ない琵琶湖へ流れ込んでいる河川に、
小卵型の各メンバーが常時上がっているとは考えられません。
湖内で発見されないのですから、遡上ルートとしても湖を使っていないと考えられます。
琵琶湖流入河川には小卵型のエビ達は居ないと連想できます。
唯一、大戸川が、琵琶湖からの流出河川の支流になっています。
つまり、琵琶湖を経由しないで上流に行ける川です。
しかし、大戸川のヌマエビの情報を調べても、
“止水性のプランクトンのステージを持つ”
と書かれているので、ヌカエビだという事が解かります。

琵琶湖は海から隔絶された湖ではないです。
淀川から、いくらでも上がれそうです。
ここ↓にも登場するように、ヌマエビは淡路島には居ますし、
http://uni2008.web.fc2.com/htm/ebi.tansui.html
兵庫県淡路島のヌマエビP.compressa
大阪湾の河川で撮影されている例は何度か見ました。
ですから、大戸川に小卵型のヌマエビParatya compressaが、
一匹たりとも居ないと断定も出来ませんが、
目立つ数が常時暮らしているという感じとは思えません。
その常時暮らしていたヌマエビが急に減って「絶滅しそうだ!」となったとは思えません。

ちなみに、ヌマエビParatya compressaとは、
こちら[A]のエビ。
これは、個人的に勝手に作って付けた名前です。
そんな気分になるくらいに、世の中での混乱が酷過ぎて、使う気がしない標準和名です。
この容姿のエビは、ヤマトヌマエビと兄弟のように同じ場所で採れるそうで、
上流が好きなことが分かっています。
水槽からの脱走率が高めなのも、遡上好きな事を示しています。
(そんな上流好きなのに、下流にしか居ないミゾレヌマエビと共に、
“ミゾレヌマエビ”として片付けられてしまうのがヌマエビの悲しいところ)

もし自分が、そんな上流好きのヌマエビだとしたら、この下の図で、
http://www.kkr.mlit.go.jp/daido/know/koiki.html
わざわざ、琵琶湖までの水路で、他の綺麗そうな水の誘惑を無視して、
琵琶湖本体や大戸川まで行くかというと、まずしません。
河口から左の猪名川へ行くのが普通ですし、
淀川を上がったとしても、右の木津川へ上ります。
あるいは同じ地点から左の京都方面の川ヘ行きます。

小卵型の若エビが、どのように川を選ぶかは、
単純に「水の薄さ」ではないかと思います。
より純度が高い綺麗な水を目指すだけ。
琵琶湖からは、そういう良い水が流れて来ないのではないかと思います。
周囲の川からの水に比べて、「より下流っぽい感じ」を察知してしまうのではないかと思います。
普通に、「ああ、こっちが下流か」と引き返してしまう可能性が高いと思えます。
小卵型の淡水エビ達は、
・琵琶湖内には居ない
・当然、琵琶湖流入河川にも居ない
・琵琶湖流出河川の支流・大戸川にも居ない
そう考えると、滋賀県には、両側回遊型のエビは居ないと判断したほうが自然に思えます。
西日本でありながら、琵琶湖という、小卵型には巨大過ぎる障壁があるので、
小卵型がほぼ存在できず、エビの種類が極めて貧相なのではないかと想像できます。

上記のレッドデータでは、京都府のヌマエビも、滋賀県同様に絶滅が心配されていますが、
京都で心配されているのも淡水繁殖のヌカエビParatya improvisaだと思います。
http://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/bio/db/cru0003.html
ここには、Paratya compressa compressaと書かれていますが、
深泥池などが採集地ですから、ヌマエビ大卵型と思われていたヌカエビです。
やはり、所属の変更がされずに、学名の真ん中だけを取り除かれた感じです。
Paratya compressa compressa⇒Paratya improvisaとなるべきが、
Paratya compressa compressa⇒Paratya compressaとなってしまったようです。
どちらの所属になるのかを考えるまで、旧来の学名は短縮しては駄目だと思いますが、
まるで、精査されて確認されたかのように記述されてしまっています。

京都や滋賀で絶滅が心配されているのはモヒカン・ヌカエビ。
頭に棘が生えているヌカエビの地域個体群達と考えるのが自然な感覚に思えます。
絶滅を危惧されるからには、「昔はたくさん居た」という前提が必要です。
誰にでも獲れて、糧となったくらい居たのに、居なくなったから危機を感じる訳です。
最初から居る筈もない種類、あるいは、極めて限られた箇所に、ごく稀に迷い込む種類には、
絶滅の危惧を感じるという事はないと考えるのが普通です。
現在、ヌカエビ琵琶湖型の情報というものは、極めて少ないと思います。
これは見掛ける事がほとんどない状態だと考えられます。
例えば、ヌカエビ琵琶湖型が減っていない事が明らかで、うじゃうじゃ居るのであれば、
滋賀県に稀に居るかもしれない小卵型のヌマエビParatya compressa側が、
希少種や準絶滅危惧種となっても不思議はないですが、
やはり、減っているのはヌカエビ側で、
ヌマエビは元々居ないと考えるほうがしっくり来ます。
京都では、氷河期からある池で生き残って来た個体群の消滅という形。
滋賀県では、琵琶湖型という、特異な環境に合った個体群の危惧。
どちらも、海から上がって来るParatya compressaではなく、
消えたら終わりのParatya improvisaでしょう。

この、種類の所属を確認せずに、学名だけ短くする誤まりが、
気安く起こる可能性は大いにありそうです。
旧来のヌマエビの一部はヌカエビに所属変更されたという部分こそが大事なのですが、
「ヌマエビの学名はParatya compressaになったそうです」
「ああ、そうなんだ」
といった感じで、ホイホイ変更される可能性はありそうに思います。

この場合、さらに厄介なのが、
学名は亜種が存在しない固有の短いものになりながら、
中身の理解や変更には全く手が付けられずに、
旧来の混乱された生態が引き継がれる事になり兼ねない事です。
つまり、
・ヌマエビは地域によって卵サイズが異なり、
小卵型〜大卵型まで、各個体群で種内分化が見られる

と書かれるまま、学名だけがParatya compressaになるという、
最悪のパターンになる可能性はやや高めと思います。
下手をすると、
・ヌカエビとは額角上の棘で見分けられ、
眼窩後方まで棘があるのがヌマエビで、前までならヌカエビである

なんて事まで、踏襲され続けるかもしれません。
さらに、
・ヌマエビとヌカエビは酷似しており、色斑での識別は不可能
という、毎度のグレーゾーンのおまけも一緒に付くかもしれません。
つまり、別種になった分、さらに一段厄介な混乱が生まれる可能性があります。

この例では、同じ標準和名を使い続けるには、余程の注意が必要なのですが、
一般的な感覚だと、単純に短くなったのだと思われてしまうほうが普通です。
上記のような「新しい誤まり」と、以前からの「常識的誤まり」が、
「正しい情報」と並列して、今後も生き続けると思っておいて損はなさそうに思います。
参照標準和名を使わなければ理解は早い(ドロドロを知ると使えなくなります)
半永久的に混乱し続ける事が予想される世界とは、どこかで見切りを付けるのも庶民の知恵。

 

おすすめリンク

●日本産ヌマエビの地理的分布と種内分化に関する遺伝学的研究(1994年)
http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/handle/10097/16879
http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/16879/1/A2H060505.pdf
琵琶湖のヌカエビは、他所のヌカエビよりも卵が小さいそうで、
これは同じく最小の卵の琵琶湖産スジエビと共通のように感じます。
スジエビも、流出河川には、卵がやや大きい個体群が居るそうですが、
琵琶湖には入って来ないし、交接もあまり起こらないようです。
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4.htm
ここに書いてあるスジエビ同様に、
琵琶湖内のヌカエビも、流入河川や流出河川産とは、
生殖行動に到らない可能性は高そうに思えます。
このページの情報から、ヌカエビ琵琶湖型の生態を想像してみるのも面白いです。

●両側回遊型ヌマエビにおける日本列島集団と琉球列島集団間の遺伝的分化(2009年3月)
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/F2-05.html
日本の情報環境だと、ヌマエビを“ミゾレヌマエビ”と覚え込まされるのが定番なので、
一般がヌマエビを正しく理解することは相当に困難。
ヌマエビとヌカエビの混乱の影響や、「模様は使えない」等の勘違いがプラスされて、
三重苦、四重苦を抱えているのも普通です。
生涯、ヌマエビを「ヌマエビ」と呼べないのは、この国ではごく普通の事です。

 

2011/05/04

※あくまでも、淡水エビの常識的な生態から考えた推測です。


 


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