CRSの交尾(交接)


運良くCRSの脱皮から交尾(交接)に至る経過を観察できました。
交接に要する時間はたったの2、3秒でした。
しかし、残念ながら、その2、3秒はデジカメのファインダーの中にエビを捉えようとしていたため、
交接自体は見られなかった、というお粗末な結果でした。
(ミナミヌマエビの交接は何度も見ているので、ほぼ同じだろうと勝手に思っていますが。)


脱皮から交接への経過

脱皮一日前でもメスからは既にフェロモンがかすかに放出されているようで、
前日あたりから水槽内ではオスがやや活発な泳ぎをしていました。
脱皮殻を発見することもないのにです。
当日の脱皮直前頃はオスのメス探し行動は、すでにピークに近い状態です。
脱皮を控えたメスを触角で見つけると、脱皮前にも関わらず捕獲しようとする行動が見られます。
しかしメスはエビジャンプを繰り返し、捕まる様子はありません。
そして水面近くのマツモに掴まって脱皮。
その後、脱皮直後のメスは底に降りて、体を伸ばしたり、拭うような行動をとります。
これはオスもメスも、どんなエビでも共通の動きです。
そこへオスが接近。
オスが来たことを察知したメスは、オスに自分の居場所を気付かせるが如く目の前にフワッと浮きます。
それに気付いたオスは一瞬でメスの背中側から抱きつきます。
底に落ちて2、3秒。交接はファインダーを覗いて構図を合わせる暇もない程度の時間で終わりました。

メスは一匹目のオスを極めて容易に受け入れてしまいます。
普段、俗に云う「抱卵の舞」に気付いて水槽を覗き、脱皮から大分時間が経ち、
オスから逃げ回っているメスの姿しか見ていなかった目には信じがたい光景でもありました。
得意のエビジャンプ一つせず、全く逃げようとする気配が無かったのです。
今回、脱皮前から観察できたことは、たいへん貴重なものになりました。
これで疑問に思っていたことが解消されました。


メスにも存在する性欲(?)

ミナミヌマエビやヌカエビ、ヤマトヌマエビなどでも、
産卵前脱皮をしたメスの「逃げまわり行動」は良く見かけました。
この行動のみを見た場合、ヌマエビ類のメスには性欲的な部分は存在しないかの様にも見えます。
メスはフェロモンを出すだけで、本来交接は好まず、オスのみにその使命が託され、
たまたまオスに捕獲されたメスのみが交接をし、仕方なく産卵し抱卵をするかの様でした。
脱卵したメスが元気に餌を食べに出てくると、
「1ヶ月も重たい卵を抱えずに済んでせいせいしたわ」みたいに見えることもあります。
ですが、そんな生物が現在まで厳しい生存競争を生き抜いてくる訳もなく、
当たり前でしたが、メスはちゃんと受け入れるものは受け入れていたのでした。
ただ脱皮前からの観察に恵まれず、もっとも重要な最初の交接を確認していなかっただけの話でした。
餌を食べに出てくるのは、次の産卵の為に早く栄養を蓄えるための行動に他なりません。
実際、近縁のアメリカザリガニの場合に、長く隔離したオスメスを出合わせた時、
メスの方からオスに近付き、オスが掴み掛かる前からすでに硬直してしまい、
オスがメスが逃げるものと思って、それを見越したオーバーアクションをしすぎて
「あれ?」みたいに泡を食っているところを観察したこともありますから、
メス側に欲求(若干ニュアンス違いますが)が無い筈はなかったのですが・・・。
この場合、産卵が無駄になるぎりぎりまで隔離したことによって、メスの切迫感を最大限まで高まらせ、
メスの衝動を目覚めさせたということでしょうか。
(他種との交配にも良く使う手です)
【参照】⇒ミナミヌマエビの白濁♂との恋模様


交尾に思う進化

メスが欲しかったものは、自分を探し出して一番に駆けつけてきてくれるオスの遺伝子です。
そのような探索能力、精力、執着心の強いオスの子孫であれば、自分の産む子孫に含まれるオス達も、
同じ資質を備えた殖えやすいオスになり、自分の遺伝子も殖えやすいからなんですね。
フェロモンを出しながら暫く泳ぎまわり、周りにオスが居ない場所を見極めて脱皮するのも、
あまり性能の良くないオスを振り落とす為の行動に他ならないでしょう。
つまり、オス達を競争させる訳です。
一つの卵に向かって何億もの精子が競争をするのは有名ですが、
精子の競争は、メスの体外でも既に行なわれているということでしょうか。
こうして常にオスの遺伝子は、高い性能を維持するように鍛えられるわけですね。

もっとも、本当はそのようなオスメスの行動が生み出す「結果が結果をつくる」だけで、
これはDNAの見かけの動きですから、こういう説明は多用するのは慎まなければならないですね。
振り落としをせずに能力の低いオスと交接したメスの子孫は、当然能力が低いため競争に負け、殖え難くなります。
振り落とし行動をとるメスの子孫はオスの子供もメスの子供も能力が高く、殖え易くなります。
さらに、そのような行動をとるメスの子孫は同じ行動をし易いため殖えやすい、そしてその子供も殖えやすい・・・
というふうに、結果が結果を生むわけです。


「進化は結果」

それに関連して話を少し飛ばしますね。
木の葉に似た昆虫がよく「進化」の不思議として登場しますが、あれも「結果」です。
より木の葉に似ることが出来た個体が、あまり似なかった個体よりも生きられて、子孫を残せた。
今そこにある見事に木の葉に擬態した個体が存在する裏には、
膨大な数の似切れなかった個体の振り落としが存在するわけですね。
その擬態を見抜く能力を同時に進化させてくる天敵にたくさん食べられ、遺伝子が磨かれたわけです。

食べられたくない為に、木の葉に「似たかった」あるいは「似ようとした」という見かけの説明がされますが、
そうではなく、より似たのが残ったという結果の繰り返しで現在の姿をしているにすぎない訳です。
「進化」というと、如何にも意思を持って最先端を突き進んでいるようですが、
これは見かけの動きで、太陽や星が地球を回っているように見える「天動説」と同じようなものですね。
説明がしやすいので、進化も天動説のように解説されますが、当の昆虫達に「似たい!」という意思は
ありませんし、意思は遺伝しませんから、表現形も変わりません。
動物番組なども、「進化」や「自然淘汰」という言葉は使っていても、
全体を占める雰囲気は天動説的な説明が大半です。
進化は「結果」ですから、最先端ではなく最後尾なわけです。
現在の姿が最終結果。
不思議でも神秘でもなく、生存・増殖の確率や数値が高かったという「結果」です。

この、「進化は結果である」という事は、虫やエビ止まりではなく、人間も例外ではありません。
世の男性が概ね若い娘を好きなのも同じ原理です。
そのほうが子孫が残る確率が高かったという結果が、そういう行動をとる個体を創り出すわけですね。
95%以上遺伝子が一緒といわれるのに、これがチンパンジーだと、やはり野生の厳しさでしょうか、
経験豊富な年配のメスザルがモテるのだとか。そのほうが生存確率が高かった結果、オスの好みがそうなる訳です。
若いメスザルを好きなオスザルは、その子孫が残りにくかったため、その好みのオスは現在少ないわけですね。
人間にも年配の女性を好む男性は一定数存在するはずです。
多数派よりも少数派のほうが、たとえ受精率は低くても、独占できる割合が高く、じゅうぶん帳尻が合うわけです。
要は子孫が残る確率なので。

女性のオッパイについても同じ事が云えますね。
人間の先祖が四足だった頃は、男性の鼻先にオシリがくる頻度は高く、男性はしばしばムラムラしたことでしょう。
イヌやネコ、ウマなんかも皆そうでしょう。
大部分の四足の陸上哺乳類にとって、女性のオシリはセックスのシンボルな訳です。
しかし人間が直立するようになるにつれて、顔の前にオシリがくる事は少なくなりますね。
すると対面してても座っていても良く見える部分にシンボルがあったほうが求愛される率が増える事になります。
つまり男性から目立つ体の前面にオシリの模倣物をつくり、男性を「わぁ〜お」と思わせる率が高かった女性が
より多く子孫を残したという結果が女性のオッパイを大きくしてきたわけです。
より大きいほうがオシリを連想させる率が高く、ムラムラした男性から交尾される確率が高かったという結果です。

私達一人一人が持つ異性への好みは、「自分の好み」なつもりでいるものですが、
じつは、「結果が作った好み」を、自分の好みだと思っているに過ぎないのかもしれませんね。
ふと「どうして、このタイプに弱いんだろう?」と自分自身の好みに疑問を持った方もおられると思いますが、
「自分」と思っている中に自分をはるかに超えて自分を操っている「別の主体性」の存在に気がついた生き物は、
人間が初めてでしょうね。
「DNA」「遺伝子」「進化」などと言うと、なにか遠い科学や生物の世界の事のようですが、
実は日頃の行動を左右する極めて身近な存在な訳です。
自分の存在理由そのものでもある訳で、地動説よりも、はるかに一般化されてもおかしくないものですが、
案外、このDNAの意味するものと日常生活の繋がりは意識されていないので、勿体無い限りです。
避妊法の確立程度にとどまらずに、もっと日常生活の中で積極的に利用したいものです。


※ちなみに、「〜したかったから〜した」という天動説的な進化の解釈は、
ひじょうに使いやすく、わかりやすい為、このサイトでも少なからず使用します。
本当は地動説的に「〜したものが結果的により多く残ったため、現在の個体も〜な確率が高い」とするのが
正しいのでしょうが、前を見ながら歩いている感覚を、進行方向はそのままに後を向いて歩く感覚に切りかえる
ような作業となり、ひじょうに煩わしい感じが否めないのは事実なので・・・
生きている当の生物には、時間は常に動き、前を向いて進んでいますから。



メスが逃げていた理由

良いオスのDNAを手に入れたメスにとっては、振り落としたオスたちは、脱皮したばかりで柔らかい体に
キズを付けかねない邪魔者ばかりということになります。
そこでメスはその後のオス達からジャンプをして逃げ回ることになります。
せっかく一番優秀な精子を手に入れ、それを使って産卵するという大仕事が、その後に残っているわけですから、
出来るだけ体力を消耗せずに早くのんびりしたいわけです。

ちょっと天動説的な説明になりすぎてしまいました。
地動説的には、

「一番に駆けつけてきた雄と交接し、
早めに他の雄の無駄な交接行動から逃れて安全な場所で体力を回復し、
その一番優秀な雄の子供を産むことが出来たメスの子孫は生き残り易く増え易かった為、
彼女自身の行動もそのように行なわれている。」

となるのでしょうか。
先祖代々彼女までの間、彼女自身がした行動が最も繁殖の効率が良かった。
つまり、彼女がした行動は彼女自身が存在している理由でもあるわけです。
彼女の母親も祖母も同じ様な行動をしてきた結果の上に彼女が在る訳です。結果が結果を生んでいるんですね。

狭い水槽では、何処へ逃げてもオスにぶつかる状態になってしまいます。
私が今回の観察以前の「抱卵の舞」で気がつく頃の状態が、だいたいこの状態だったわけです。
一番優秀な精子を獲得し終えたメスには、
「あとはその場から速やかに立ち去るように」というスイッチが入っていた訳です。

水槽内から出て遠くに逃げられないメスにとっては、オスのたくさん居過ぎる水槽は死をもたらす場合もあります。
必要以上のオスを水槽に入れっぱなしにするのは避けるべきでしょう。


2003・02・22 


関連【エビの共食いについて

油膜がヒドイ!
CRSが脱皮した途端。。。。。
ミナミやCRSは、雌に選択権を感じない生き物です。
運良くそばに居た雄がもっとも有利なだけ。
ロックシュリンプのような闘争・淘汰は行なわれないエビです。


2003・04・10 「進化は結果」に追記
2004/09/04 写真追加


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