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エビの共食いについて



カワリヌマエビ属のヌマエビ類、ミナミヌマエビやクリスタルレッドシュリンプなどを
一つの水槽でたくさん飼っていると、「共食い」という場面に出くわす事があります。
彼等は仔エビとして生まれるため、水槽内でどんどん殖えてしまいます。
20匹や30匹飼っている程度では、ほとんど見られませんが、
底床がエビの絨毯と云われるくらいになるまで放っておくと多く発生するようになります。

この「エビの共食い」の原因とそこに至る経過を考えてみました。

エビ肉が特に好きなわけではない
エビ達はエビの肉が大好きで、仲間を見ると居ても立ってもいられずに、噛り付いてしまうのでしょうか?
ザリガニの子供を小さな容器で5、6匹飼っていると、共食いをしてしまい、
最終的に一匹になってしまうというのは何度か経験がありますが、
ヌマエビ類をこの程度の数入れておいても、減ることはまず無いでしょう。
体がやわらかく食べられやすい最大の危険期である脱皮も普通に行なわれ、ふつうに生活していると思われます。
エビ達は生きた仲間を殺してまで食べたいほどにエビ肉が大好物という訳ではないようです。

殺傷能力のある武器は持たない
テナガエビやザリガニが一撃必殺の武器を所持し、やや小さめでもスジエビにも殺傷能力(捕獲能力)
のあるハサミが備わっているのに対し、(参考⇒
スジエビの混泳を考える
ヌマエビ類には、ハサミは有るには有りますが、強力な武器とは成り得ない程度のものしか付いていません。
基質から付着微生物を摘み取る程度の機能しか有しておらず、前述の肉食性のエビが、
自分の体に獲物の反撃が及ばない程度の長いハサミ肢を持っているのに対し、非常に短いです。
この長さでは、大切な口器部分、触角、眼球に反撃が来ますから、活きの良い獲物を捕まえる事は出来ません。
と言うよりも、むしろ生きているモノが大嫌い。魚でもミミズでも自分と同じ位おおきいものには
近付きたくないというのが彼等の本音でしょう。
そもそも元気に生きている生き物を捕まえようという気が無いように思えます。
基本的に、その辺にいくらでも居て手を伸ばせば楽に手に入る付着微生物を主食としている生き物ですから、
あえて、戦いを挑んでまでの食物を得る必要は無く、のん気に暮らすのが彼等の理想なのでしょう。

死んだモノは有り難くいただく
自分と同じ位大きく元気に生きている生き物を捕まえて食べることは無いと思われるエビ君たちですが、
死んだ生き物の遺骸は積極的に御食事のメニューに加えるようです。
メダカの死骸は綺麗な骨格標本と化し、仲間の死骸も殻まで残さずたいらげます。脱皮ガラも同様です。
彼等は動かない(自分に危害が及ばない)もので食べられるものが水槽にあるから「共食い」をしている、
そんな感じのようです。

つまり、水槽内で「死んだモノ」あるいは「死んだも同然のモノ」が出さえすれば、
「共食い」という意識も無く「共食い」は自然に成されるわけです。
逆に言うと、生きている元気な仲間は、つまんでみても相手が避けたり飛び退いたりするから、
単純に「食べるのが不可能」なだけというのに近い部分が有ります。
老衰や病死や脱皮の失敗で死亡した個体は、当然きれいに片付けられてしまいますが、
これは環境が良好に整っている場合なら、ごくまれにしか起こらない出来事です。
餌もあげているし、環境も良いはずなのに「共食い」が頻繁に見られる原因は他に有ります。
どんな攻撃もへっちゃら
煮干のワタの争奪戦。
普段は鉄壁の外骨格ですが・・・


死んだエビがでる理由

老衰や病死や脱皮の失敗以外で共食いに供される個体は、まず100%「♀の成熟個体」です。
共食いは基本的に、雄のみの水槽、雌のみの水槽では起こりません。
オスメスをきっちり分けた水槽では、昨日まで元気だった個体が食べられる、あるいは、
生きながらにして食べられているという光景はほとんど見ません。
共食いが絶えなかった水槽から、判別がつく限りの雄をすべて取り出してしまうと、
その夜からピタッと共食いは無くなります。

朝になって共食いされている個体が見つかるその前夜には、俗に云う「抱卵の舞い」が必ずあります。
ミナミヌマエビの雄の雌探しへの執着は並々ならぬものがあり、
相手を見つけ、交接を終了するまで、探索に使うエネルギーは無限に湧くと思えるほどで、
脱皮を終えたばかりの雌のフェロモンに浮かされ、水槽内のその雌を延々追い続けます。
共食いされる個体が見られるようになった水槽では、産卵前脱皮を行なった雌が雄の集団から逃がれるために
水面の水草の上に飛び出しているのが観察されます。
水面上に横倒しになっている雌に対しても、八方から水上に角を突き出して雄が迫ります。
耐えきれなくなって、ジャンプして飛び込んだ先にも雄はたくさん居り、
雌はそれらの雄からの飛びつき行動をエビジャンプでかわし続け、また水面の草の上に横たわります。
30p水槽でも簡単に3桁に殖えますから、雌が共食いされはじめる頃の雄の数は250〜300は居るはずです。
一晩で脱皮する雌の数はそれほど多くはないのに対し、雄は脱皮した雌が居さえすれば常に準備は整っているため、
それだけの数のオスが、数えるほどのメスに殺到することになります。
メスのフェロモンの放出が止まり、体が固まるまで一晩中続くとすると雌の疲弊はかなりのものと想像されます。
このような状況に陥っている雌には、胸脚の付け根付近に白い綿状に雄の精包が付着している場合が多く、
多数の雄に捕獲される時に肢が無理な方向に曲がってしまったのか、取れてしまっている事も多いです。
このようになってしまった雌は隔離しなければ次の朝には、ほぼ確実に「共食い」という状態に置かれます。
産卵周期の大潮による影響が少ない大卵型のミナミヌマエビは、産卵の準備が整った個体から順番に脱皮するため、
毎日のように雌は減り続け、放置すれば成熟した雌が皆無になるのも時間の問題です。

つまりエビの「共食い」は、「過剰交接」「交接過多」とも呼べる状況からの二次的な出来事であり、
狭い水槽に必要以上の雄が居る事が引き金になっているものと言えると思います。
環境も良いと思われ、餌もたっぷりあげているにもかかわらず起こる「共食い」は、
逆に言うと、雌の卵巣の発育が促進されるのにも良い状態であったために起こった皮肉な事件でもあります。
(もちろん雄の精巣の発育の良さも大きく関わっていると思います。いや、むしろこっちの方が重要かも)


共食いに至る経過

「共食い」は過剰な量の雄による過剰な交接行動がもたらす二次的な災害ですが、
雌を死に至らしめる過程には、ヌマエビ類ならでは、あるいは生き物ならではの行動も関わるようです。
共食いが起こる水槽では、一匹の雄に一度でも捕まってしまうと、その雌には次々と雄が押し寄せてきます。
一匹目の雄は雌の腹側に回り交接を行ないますが、二匹目は雌の背中に捉まっているままになります。
三匹目以降は、その雄の背中に捉まったり、適当に乗っかっている状態となります。
ところが雄のこの一連の交接行動は、ある程度決まった時間内に次々と進んでいかないとならないようです。
雌にまで辿りついたのは良かったが、それ以上に事が進まないと、その時点で雄は放心状態となります。
一匹目の雄以外は全てこの状態になるわけです。
つまり雄の集中力はあまり長続きせず、頓挫すると一度リセットがかかる様なのです。
交接が叶わない雌に執着するよりも、ある程度であきらめて次の雌を探した雄の方が子孫を多く残してきた
という結果がここでも彼の行動を生み出している訳ですね。
やや健忘症の雄の方がより多くの雌との交接に成功する率が高く、子孫を多く残して来れたのでしょう。
リセットされた雄エビは「え〜と、何してたんだっけ?まあ、いいや、とりあえずツマツマ」
と、自分がする行動に再度気付くまでの間、普段の行動である採餌行動を始める場合がしばしばあります。
彼の手の下には、脱皮直後でまだ柔らかい雌が、動けない状態で横たわっている・・・

しかも、多数の雄に押さえ込み状態となっている雌は、ツマツマされても動けないため、
他の脱皮をしていない雌や未成熟な若エビ・仔エビにも、脱皮に失敗して死んだモノと判断され、
その時の行動と同じ採餌行動が体の上でなされます。
ミナミヌマエビには一撃必殺の武器はありませんが、何度も何度もつままれれば、表面は削れるでしょう。
エビには赤い血は無いため、見た目では出血しているかは分かりませんが、
肢も取れてしまうような状態であれば、間違いなく出血しているでしょう。
小さな体ですから、少しの出血も命取りになるはずです。
このような状況が一晩中何度も続けられる事によって、雌は死亡するものと推測されます。


交尾栓が無いからか?
クルマエビには「交尾栓」というものがあって、一度交接した雌は二度と交接出来ないように、
生殖口に蓋がされるそうです。
ヤマトヌマエビやヌカエビの雄は、一度交接が終わったと思われる雌に飛び付いても、
きわめてあっさり飛び退いてしまいます。
このエビたちにも、雄があきらめるしかない交尾栓のような物が存在するのかもしれません。
プールなどでトンボが繋がって飛んでいるのをよく見ますが、
トンボの精子は雌の生殖口の入口付近にあり、他の雄によって容易に掻き出されてしまい、
後から何度でも入れ直しが可能なんだそうです。
ですから、他の雄に雌を奪われないように、卵を産む瞬間まで繋がっているんだとか。
ミナミヌマエビ等のカワリヌマエビ属も、何度でも入れ直しが可能なシステムを採用しているのかもしれません。


 

大きなメスから犠牲になる

「共食い」で犠牲になる個体は、大型の雌からである事が多いです。
大型の雌は動きが緩慢で、掴まれる表面積も大きく、狭い場所に逃げ込むことが出来ないため、
過密な水槽内では雄に捕まる率がきわめて高くなってしまいます。
メスのみで飼育した場合や、オスを少なくした水槽ですと、メスはかなり大型に成長します。
ヒメヌマエビやヒラテテナガエビが混ざりで入っていた、採集個体と思われるショップのミナミヌマエビに、
小ぶりのヤマトヌマエビほどの大型個体を多数見た事がありますので、自然界では相当大きくなるようです。
過剰な交接によって死者が出るほどの過密状態は、自然界では有り得ないでしょうし、
仮に有ったとしても、居心地が良い場所に自由意思で集まっている訳で、
脱皮を控えた雌は、雄の密度の低い場所に容易に移動できるため、共食いの心配など無く、
フルサイズ級にまで大きくなれるのでしょう。
体の大きく動きの遅いメスも、自然界ではその動きに相応しい場所に生息しているはずで、
水槽内と同じ様に仲間に殺されているとは想像できません。

大きく育ったフルサイズ級の雌は餌を食べる量も多く、その分、産卵周期も短く、産卵数も多いため、
たいへん効率良く稚エビを産み出し、水槽内に微笑ましい光景をたくさん創り出してくれます。
無駄な苦痛を与える事や死なせること自体も可哀相ですから出来るだけ共食いは避けたいのは当然ですが、
この観点からも、大きく育った雌を失う事は、かなりの損となります。
共食いが頻繁に起こる水槽では、小さな雌がかろうじて抱卵しているくらいとなり、
当然ながら、稚エビの姿は段々見られなくなっていきます。
抱卵している雌の姿や、稚エビの可愛いらしい仕草を見るのも、エビを飼う上での大きな楽しみの一つですから、
共食いを防ぐことは、観賞上の価値を維持する事にもなります。

大型の雌の生存を保障することは、その後、次々成熟してくる若いメス達の命を保障する事に繋がり、
ひいては、稚エビの誕生を保障する事にも繋がります。
安定した世代交代を継続させるためには、大型の雌が安心して生存できる環境を守る事が大切でしょう。


対策

単純に言うと「雄を全て取り出してしまう」事で、過剰な交接からの流れである場合の共食いは防げます。
別項目の「
エビのオスメスの見分け方」を見て頂ければ、比較的分け易くなると思います。
広大な生息地の河川に比べ、水槽は数十cm四方の世界ですから、雄は数匹いる程度で大丈夫なようです。
メスは卵巣の発達した者から順番に脱皮するのに対し、オスは毎日スタンバイOKですから、
メス10匹〜20匹に対してオス1匹くらいでも十分繁殖できるようです。
あと、特に繁殖を目的としないのであれば、動物性の餌を極力減らして、
藻類中心にすると卵巣の発達や脱皮を遅らせる事が出来ると思います。


※生まれてくるオスメスの比率は、自然界で必要な数ですから、水槽内でそのままの同じ数では良くありません。
オスは自然界でも脱皮したメスを追い求め、よく泳ぎ回っているはずです。
そこには彼等を狙う鳥や魚がたくさん待ち構えているわけです。
フェロモンを出して待っているだけのメス側と探し回るオス側では、天敵に食べられる危険性が全く違いますから、
雄の方が多目に生まれるようになっていると思います。

メスにしても、フェロモンが出尽くすまでにオスが来なくて、体が固まってしまうこともあるでしょう。
自然界ではあまたの危険をかいくぐり、自分の所に駆け付けて来てくれる「白馬の王子」が、
狭い水槽では「血に飢えた暴徒」に化してしまうわけです。

彼等は単純に自然界で生き残るのに必要なエネルギーと同じエネルギーを使って、
水槽内でも生殖活動しているだけの話なのです。
自然界では有り得ない過剰な量の雄が、
全員、持ち得るすべてのパワーで行なう為、雌の疲弊が耐久限度を超えるのでしょう。
本来、自然状態では、一匹ずつ程度の雄が間隔をおいて訪れ、
雌は簡単に「ふる」事が出来る状態であると思います。
同時に複数の雄が雌にしがみ付き、交接に頓挫する状態が起きない雄の密度を
維持する事が大切だと思います。


※なぜ交尾が終わったのに、雌は、いつまでも不必要にフェロモンを出し続けるのでしょうか?
自然界は広いため、単純に出し続けるだけでよく、任意で止められる機構を持つ必要は特になかったのでしょう。
必要の無い機能を維持することは、生存競争にマイナスですから、発達しなかったものと思います。
むしろ、必要十分なくらいに安全確実な精包の授受が行なわれた個体が生き残った結果でしょう。

エビの様に小さくて他の生き物に常食されている生き物は、我が身が常に「明日をも知れない命」なわけですから、
繁殖の成功率は常時高めに維持される設定になっているはずです。
メスが脱皮した後、オスが訪れる事がなく抱卵できなかった場合、次の脱皮までの一ヶ月間、
そのメスに命が続いている保障はないわけです。
ですから確実に交接できるよう、やや安全側に傾く万全な量のフェロモンを出しているでしょう。
出し尽くす間にオスは一匹来ればよいのですが、自然環境では増水や干ばつ等で個体数の変化が生じますから、
オスのきわめて少ない状態でも辿り着く事ができ、生殖行動が成功できるような量の設定になっているのでしょう。
自然環境ではそれだけ長時間出し続けて、ようやく白馬の王子が到着する程度の密度の場所で、
メスは脱皮をし、産卵をしているものと思われます。

CRSでの観察ですが、産卵前脱皮を目前に控えたメスは、フェロモンを出しながらあちこち移動します。
これは生息地においては、脱皮前にメスは密集地から一時的に離れる習性がある事を示しているものと思われます。
つまりフェロモンを止める機構が無い代わりに、メスはオスの密度の低い場所を選択する行動はきちんと
しているはずなのです。
自然界でも水槽内と同じ様に死に続けている生き物が、現在まで生き長らえているはずはありません。
その辺の防衛策は抜かり無く手に入れていることでしょう。
水槽内での行動には、濾過機の吐出口からの水流を遡ろうとする動きが見られる場合も多いため、
基本的な生息地よりもやや上流の場所を、脱皮の場所として目指すのかもしれません。
フェロモンは水の流れに乗って拡散されますから、生息地より下流に流しても意味はありません。
ちゃんと生息地のオス全体に匂いが届くよう、やや上流での脱皮という形になるのでしょう。
この行動はオスの生殖競争を促し、メス探索能力の高いオスを選別する事にも繋がっていると思われますから、
自然環境においては、フェロモンを出し続ける事は、当然、プラスに働いたはずと思います。


2003・07・06 


「エビの交接から共食いへの経過」の写真が撮れました。(少々エグイので御注意下さい)こちら


2003・07・20 「出し続ける」追記
2003・10・15 
「エビの交接から共食いへの経過」追加

 


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