エビギャラリー目次に戻る


テナガエビの交尾(交接)河川下流域産
その三


前回前々回,そして前々々回とは別のメス個体が脱皮を終えていましたので、
いつものオスの水槽に入れて観察してみました。
メスの状態は、脱皮して間がない印象です。
抜け殻は脱いだ形状をそのままとどめていました。

オス水槽に入れてみると、もうオスの反応が全然違います。
明らかに性的な興味を示しており、攻撃にはなりません。
メス側も当然のようにオスに近づきます。
そしてごく普通に交接。

しかし、このあと、不思議な事に、メスがオスの元を立ち去りません。
前回までの観察では、交接が終了したメスは、オスの再接近を嫌がって、
逃げてしまうのが普通でした。
しかし、その場に留まっています。
留まっているどころか、オスに近付いて行きます。
これはもしかしたら、産卵するまで保護することを要求しているのかもしれないと
期待して見ていましたが、
意に反して、当然のように2度目の交接。


連続で二度も交接するというのは、エビではまず見ない行動なので不思議でした。
この二度目でメス側はオスへの関心を完全に失いました。
しかし、オス側はメスへの関心はそのまま、
さかんに雌を追い、三度目の交接を試みようと一所懸命に、
覆い被さって、ひっくり返そうと努力しています。
しかし、雌側は拒否し続け、
スポンジフィルターの裏に入ってしまいました。


オスの追跡を逃れてくつろぐメス。
この空間には、体が大きくて、しかも不自由なこのオスは入って来れません。
二度交接したように見えたのは、単純に一回目が失敗だったと見て良さそうです。
特にこのオスはやや体が不自由ですから不思議ではないです。
今回の観察でも、「産卵までの保護」という行動は見られませんでした。
普通にヌマエビ類がするような行きずり状態です。
オスは三度目も要求していましたから、「守る」というスイッチに切り替わっていませんでした。
メス側がオスに産卵終了まで護衛させるには、
「交接を誘発させずに興味は持たせる」というフェロモンが欲しいところです。
交接したどのメス個体も、オスを護衛に使う事は出来そうなものですが、
どのメスもオスの元から逃げるのみでした。
脱皮前から保護して、脱皮直後に交接し、まだ歩けないような状態ならば保護するのでしょうか?
しかし、産卵をするのは1時間後くらいと思われますから、
その頃には、今回と同じ程度にメスは硬くなっているはずです。
あるいは周りにメスを害するような仲間が居る場合は守るのでしょうか?
いずれにしても長時間に渡ってオスを拘束するだけの魅力を発しなければならないと思うのですが、
それが特別なフェロモンによるものなのかは現在までの観察では判明しませんでした。
少なくとも「行きずり状態の交接」では交接後の保護行動は片鱗すら見られませんでした。
メスはさっさとオスの元を離れてしまいます。

もう一つ残る疑問としては、ヌマエビ類同様に、
「何がメスに交接完了を伝えているのか」です。
一見、同じように見える交接の状態ですが、
一回目は失敗だった訳です。二回目は成功。
一回目の時、メス側は精包を受け取れていないという判断のままですから、
成功の時との違いが明らかにある訳です。
テナガエビは甲羅の外側に精包を付着させるということですから、
甲羅の外側に「付いた」という程度の感触が成否を分ける事になるのかもしれませんが、
その程度の“感触”で、はたしてスイッチが切り替わるのかは、
やや納得に達するには薄い印象です。
厚い甲羅の外側にふわふわっとした物が付着した程度を瞬時に判断できるのか。
一歩間違えれば無精卵を産む事になりますから、かなり重要な判断です。
ピークを越えるような別の「何か」が必要に思えますが、
今一つ良く解からない部分です。

 

おすすめ参照ページ

テナガエビの産卵行動として有名な、
基本的な流れはこちらに書いてある通りだと思います。
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023423
しかし、現実にはわずか一年目と思われるオス個体達がメスに群がっているのを見ましたし、
今回や前回のように、メスがオスと出会えず単独で脱皮した後に交接という事も有り得ると思います。
必ずしも、こういう順番でなければならないという事でもなさそうです。
水槽内で多数の雌雄が居る中では、そういう順番になるのは想像するのに容易いです。
川の中でも生息数が多ければ同じ状況になるでしょうし、
生息数が少なければ臨機応変にこなしていると思います。
無精卵を産む羽目になるというのは、極めて無駄な行為ですから、
単独で脱皮を終了してしまったメスも、積極的にオスを探すのは当然と思えます。

参照⇒【ロックシュリンプの保護行動
参照⇒【ロックシュリンプの産卵行動
ロックシュリンプが行なう一連の産卵前後の行動とも趣旨はほとんど一緒。

 

2008/07/31


 


エビギャラリー目次に戻る

inserted by FC2 system