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ミゾレヌマエビの成長と、色彩の変化

ヌマエビ類では、成長に伴って色合いが変わって行く種類があります。
ヤマトヌマエビ、トゲナシヌマエビ、ヒメヌマエビあたりはあまり変わらないようです。
新ヌマエビ、新ヌカエビあたりは中間的で、模様や体色が濃くなります。
ミナミヌマエビ、シナヌマエビ類、ミゾレヌマエビは大きく変わります。
特にミゾレヌマエビは著しいです。


ほぼ完全に透明な幼エビ。体の向こう側の石が透けます。特有の模様はすでにあります。

ミゾレヌマエビは、商売が関わった情報だとヌマエビに名前を取られてしまい、
本物の情報は隠蔽されたり、他種の埋め合わせに使われる程度で、
まともに種類として紹介される率は極めて低いです。
成長に伴う見た目の色彩の変化が大きい事も災いしてか、一種類として見られる率も低く、
自分の名で呼ばれることがほとんどありません。
1.情報操作による隠蔽
2.成長段階ごとの色彩が、それぞれ他種に振り分けられてしまい、種として語られない
という2つの構造により、一種類の中の変化が理解されないようです。


『スジエビ』と思われてしまう時代

「透明で、腰の曲がりが強くて、眼が飛び出しているエビ=スジエビ」
といった、大変に安易な情報が氾濫している為か、この状態のミゾレヌマエビは、
ほぼ全員が“スジエビ”という名前を賜っています。

参照⇒【スジエビの見分け方

 


『ミゾレヌマエビ』と呼ばれて良さそうな時代

ミゾレヌマエビには当然ながら、そう名付けられただけの白点が多い時期や個体も居ます。
ただ、これは彼等の中では極めて少ない率だと思います。
しかも、白点の大きさも小さい為、肉眼だとあまりミゾレを感じません。
肉眼で確認できるほど大きな白点を安定して持つヌマエビ(種名)に、“ミゾレヌマエビ”の座を奪われています。


商品名の“ミゾレヌマエビ”
本物のミゾレヌマエビはヒメヌマエビ属で、外肢と眼上棘がありません。
商品のミゾレヌマエビはヌマエビ属。眼上棘があり、外肢があります。ヌカエビにも似ています。

この国民的誤認によって、ミゾレヌマエビという種類は「無きもの」という扱いに成り易いです。
成長の各段階を、別のエビとして誤認されてしまいます。

参照⇒【ミゾレヌマエビとヌマエビの見分け方

 


ただの『ヌマエビ』と思われてしまう時代

「ヌマエビ」という四文字からは、地味で半透明で特徴のない、ちょっと汚らしい雰囲気のエビが連想され、
本物のヌマエビよりも、ミゾレヌマエビのこんな時期や個体が、その「四文字」に当てはめられます。

小卵型である事も大きく災いしています。
一般向けの観賞魚雑誌・飼育書などでも、これを「ヌマエビ」としている事が多いです。
参照⇒【透明個体を模様で見分ける
模様が消え切ることはまずありません。

 


特有の模様がくっきり出ている時代・・・・・・・・それにも関わらず『ヌマエビ』や『ミナミヌマエビ』とされる

ミゾレヌマエビは成体になると、独特の模様を有する個体が多くなります。
この模様配列は特殊で、一度憶えてしまえば、忘れないでしょう。
ヤマトヌマエビやヒメヌマエビは模様で簡単・便利に区別されますが、
このミゾレヌマエビも、それらに次ぐ簡単さです。


雌の特徴的な模様配列。


雄には腹節の下側の膨らみがありませんから「〜〜〜〜」はありません。
ですが、涙流れ模様と、その後ろの跳ね上がり模様はあります。
雄エビは大きくなっても、これ以上の色彩の変化は無く、
このままの透明感の高い状態で一生を終えるようです。


この独特の模様配列は、各段階の写真にも見出す事が出来ます。
余程幼いか、余程透明でない限りは、
この配置の部分に、模様が入っています。
うっすらとでも見えれば、一気に難易度が下がる、それくらいの威力があります。


こんな模様が出ていたら、もうそれだけで「ミゾレヌマエビ!」なのですが、
日本のエビ情報でありがちな因習、
「模様は参考にならない。額角でしか見分けられない」
の下だと、

せっかくの独特の模様も⇒こういう扱いになり、
模様満載の個体であっても、種名の表記が「ヌマエビ」だったり、「ミナミヌマエビ」だったりします。
しかも、初心者の方や素人の方ならしかたがない話ですが、
人に教えを授ける職業の方が出す情報にも普通に見られます。
『模様を見ないにも程がある』
淡水エビの世界は、そういう嘆かわしいと言って良い水準にまで下がっています。
標本瓶の中のエビしか見ない中から出た情報を生きたエビに流用してもメリットは有りません。

このあたりの構図は、婚姻色で簡単に種類が見分けられるタナゴ類と比較すると簡単です。
タナゴ類も「同定」という場合は、鰭の条数や側線鱗数、鰓耙,などを比べる事になると思います。
本当の分類学者が模様や色彩だけで判断するなんて事はありません。
でも、普通の飼育者、一般愛好家は色彩や体付きだけで簡単に識別します。
同定の手法とは無縁で、誰もがそんなものは無意識に無視して来ている訳です。でも充分足りますね。
趣味人口が多いので、同定とは別個の識別方法が確立されているのです。
「タナゴの種類は、有孔側線鱗数や鰭の条数を顕微鏡で比較しなければ識別出来ない」
なんていう不便な事は言われない訳です。(よっぽど判断に苦しむ個体だったら見れば良いだけ)

エビもそれと同様で良いと思います。
額角を顕微鏡で見たり、そこに生えた歯の数を数えたり、各所の棘を比較する必要は感じません。
普通に、模様や体形で判断すればよいわけで、せいぜい眼の角度や外肢を含めれば終わります。
エビの場合は、タナゴの♂の婚姻色に相当するものが、大型♀の模様となります。
タナゴの稚魚や若魚、そして♀の色彩が銀色のみで難しいのと一緒で、
若エビや雄エビが透明度が高く、模様が薄めなので、やや難しくなります。
ただそれだけです。
アルコールに浸かっている標本が白いのは当然ですし、論文に模様が描かれていないのは分類学上の習慣です。
生きている個体を採集飼育する場合は、タナゴ類同様に、標本の世界は無視して良いのです。
使えるものは使い、無視できるものはとことん無視して、
簡単便利で、尚且つ、精度が高い識別法を見出せば良いだけです。
川や池を、標本瓶から飛び出したような真っ白なエビが泳いでいるわけではありません。

 


『ミナミヌマエビ』と思われてしまう時代

透明から少し模様が出て来て、色合いが濃くなってくると、
「ミナミヌマエビ」とされることが多くなります。
1.全体の体形。色合い。風貌。
2.やや河川下流域に寄った生息環境。
3.額角が長くて、眼の後ろまでギザギザが並ぶ。
4.外肢が無い。眼上棘が無い。
5.眼が斜め前向き。
といったあたりが共通なので、小卵を抱いていても「ミナミヌマエビ」と判断される率が高いです。


模様の配列は全く違うので、模様さえよく見れば間違う事は無いでしょう。


抱卵体形の個体がよく間違われますから、模様と卵の大きさを比較するだけで充分です。


卵の大きさが目玉よりも明らかに小さいので簡単です。

このような色合いのミゾレヌマエビが『ミナミヌマエビ』とされてしまうのは現在の定番の間違いです。
ミナミヌマエビよりも丸い印象のシナヌマエビ類が今後は増加して、
各地で本物のミナミヌマエビに代わって、“ミナミヌマエビ”の座を得ると思います。

そうなると、本物のミナミヌマエビと、この本物のミゾレヌマエビがどう呼ばれる事になるのか、
これはまた興味深い部分です。

 


『ヒメヌマエビ』と思われてしまう時代

ミゾレヌマエビには赤味の強い時期があり、特に大型の雌には結構な確率であります。
ここまで大きなヒメヌマエビは居ないはずですが、
日本産で赤いエビ=ヒメヌマエビ
という感覚である場合が通常なので、ヒメヌマエビにされてしまいます。

模様自体はミゾレヌマエビに特有の模様です。色に騙されなければ普通に「ミゾレヌマエビ」ですね。
色彩は大きく変わりますが、模様の位置は変わりません。

 


『ミナミヌマエビの黒化個体』と思われてしまう時代

ミゾレヌマエビの最大級のメスの個体に多く見られる色彩です。
体全体が紫色をおびた褐色となり、背中に明色のラインが一本通ります。


濃い色になっても、側面の特有の模様は変化ありません。
赤茶色できちんと入っています。


ミゾレヌマエビという名前からは想像できない為と思われますが、
よく「ミナミヌマエビ」とされる色彩です。
赤茶色の模様をきちんと確認すれば取り違えはありません。


商品名“ミナミヌマエビ”も、大きくなったり、魚が多い環境だと、
このように側面が黒くなり、背面が明色のラインに成り易くなります。
本当のミナミヌマエビにも同じ傾向が見られるようです。
抱卵個体に多いので、卵の大きさと模様を確認すれば簡単です。

 

ここに揚げた写真を上から見て行くと、ほぼそのままが、
ミゾレヌマエビという一種類のエビの成長に伴う色彩の移り変わりとなります。
どの時期でもミゾレヌマエビです。
しかし、世間的には、これらが一種類と思われることはほとんどありません。
横に区切った、各成長段階によって、様々な種類とされて片付けられてしまいます。

1.“ミゾレヌマエビ”という種名がヌマエビ(南部群)に取られている事。
2.その商品を紹介するために、本物の情報の扱いが隠蔽または歪められている事。
3.「色彩は使えない、参考にならない」という、誤解から生じた因習が根強く、エビを教える人にも深く浸透している事。
これらが複合して、ミゾレヌマエビという生き物の認知は大きく妨げられています。

このエビは、このような色彩の変化を持つエビなのだと知っておく事が大事だと思います。
知っていれば、何も怖いものはありません。

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2010/08/16 


2010/08/18 更新


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