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マジックシュリンプ

 

百聞は一見に如かず

偶然寄った観賞魚店とペットコーナーに、
マジックシュリンプが売っていたので観察して来ました。
人気商品なのか、計3匹しか観察できませんでしたが、
それなりに楽しく、十分に観察しました。

大きさはスジエビのSサイズといった感じ。
3cmちょっとあるかないか程度でした。
あまり丈夫そうな印象はなく、
ハサミも細くて非力な印象です。
模様はスジエビとほぼ同じ。
凶模様、逆さハの字です。⇒【スジエビの見分け方
同じ「スジエビ」でも外来種と思われる近縁種には模様の違和感が大きいものですが、
このマジックシュリンプには感じませんでした。
黒筋模様は細いです。黒さも濃くはなく、茶色っぽい黒です。
体色は地味。薄い茶色です。
日本のスジエビだと、けっこう銀と黒といった感じに、
メリハリが効いた個体群もありますが、
そういう精悍な感じはゼロ。
上流域や池や沼にいる陸封型に近い色と柄です。
眼の離れ具合はスジエビそのもの。
このあたりまではスジエビでしかない印象です。
どこから見ても小さいスジエビにしか見えません。
ただ、一箇所違うと思ったのが、腰の厚み。
曲がりや出っ張りがきついのではなく、
腹肢側から背側までの高さがある印象。
「ヘ」ではなく「△」です。
(差は微妙なのでスジエビ側を見慣れていないと分からないかもしれませんが)
そしてその高い厚みが、尾の付け根へ向けて急速に縮まる感じがします。
尾扇の手前の柄の部分が細い。
厚みと細さに落差があるので、
見慣れているスジエビとはちょっと違和感を感じました。

 

スジエビとは思えない特異な行動

見た目には小さなスジエビでしかないマジックシュリンプですが、
その行動は驚きでした。

水草の上を移動しながら、一摘みずつ口に運びます。
つまり、ヌマエビ類の摂餌行動です。
細かく細かくつまんで行きます。
葉っぱの表面のコケなのか汚れなのか、
それを四本のハサミでつまんで、すべて口に持って行きます。
じつに忙しい。
主に葉っぱの表面ですが、裏側にもぶら下がって食べる事も出来ます。
ヌマエビ類と違うのは、そのハサミ捌き。
ハサミの先端はスジエビのものです。⇒【スジエビのハサミ
毛束はないです。
その毛束のない、切れ味良さそうなハサミで葉っぱの表面をつまむ訳ですが、
葉っぱの面にハサミを当てて、葉っぱから出ているであろうコケを刈る感じです。
我が家に居るヒラテテナガエビがベアタンクで見せる行動と一緒です。⇒【ヒラテテナガエビのハサミ
葉っぱの面に直角ではなく、水平にハサミを当てています。
そして、ハサミを前後に動かします。
ヌマエビ類は前後に開いたハサミで摘み上げる感じですが、
マジックシュリンプは左右に開いたハサミで根元を刈る感じです。
葉っぱから一本の長いコケが生えている場合、
ヌマエビ類の前後に開く毛束の付いたハサミでは、取り除き方が想像できませんが、
マジックシュリンプのハサミは極めて単純な動きが想像できます。
生えている根元を普通にチョキチョキ切って行くイメージ。
これなら黒ヒゲ苔を食べるというのは嘘ではなさそうです。
実演をしている水槽には、流木に付いたミクロソリウムの一種が入っていましたが、
付近の水槽の中にある綿帽子を被ったものとは比較にならない綺麗さでした。
水草の状態からして、同時期の物と思いますから、
マジックシュリンプの働きで綺麗になったと思って良さそうです。


房状藻。
これの駆除は、こんなレッドチェリーシュリンプなどの、
ヌマエビ類ではちょっと荷が重いです。

肝心のハサミですが、当然ながら、第一胸脚が小さく、第二胸脚が長いです。
しかし比べれば差がありますが、その動かし方や使い方には大きな差がありません。
このあたりもヌマエビ類に似ています。
太さも細い。
まあ、稚魚くらいなら挟んで逃がさないくらいの感じはありますが、
動くものを狩ろうという意思の強さはほぼ感じません。
ただ、ハサミ自体はスジエビの物を流用して苔刈りに活用していますから、
力強い印象です。
ぐんぐんぐんぐん抜き取るような動きです。
ヌマエビ類が取り除けない種類の厄介なコケも、
この力強さであれば、取れるのではないかと期待が持てます。
スジエビも黒髭コケをハサミで掴んで、顎で直接齧り付くことはあります。
マジックシュリンプが黒髭コケを食べるという話も、
その程度の事なのかと思っていましたが、
実際には摘み取るような行動でした。
観察している間に顎で直接齧りつく行動は見られませんでした。

 

魚食性は極めて低そう

そして、魚食性について。
これはほぼゼロに等しいのではないかと思いました。
同居のグッピーの尾は切れていませんし、
体がエビのヒゲに触れても、マジックシュリンプは魚を襲おうとしません。
グッピーも慣れていて、警戒を全くしません。
長く同居させられて、もし相手が攻撃的な生き物であれば、
警戒して、近付いたら逃げるように学習しますが、
魚側にそういう行動がないのです。

見慣れたスジエビであれば、ヒゲに小魚が触れれば、瞬間的にハサミを出すものですが、
そういう攻撃的な行動は観察されませんでした。
小さなボララスの仲間の入った水槽でも、マジックシュリンプは苔にしか興味がありません。
これも長く同居していると思いますから、
スジエビ的な魚食性の強さを持っていれば、尾ヒレを齧られていて良さそうですが、
完全な尾を維持していました。
尾ヒレを齧られるどころか、捕まったらすぐに口器で噛み砕かれそうな小ささですが、
マジックシュリンプ側にはそういう発想がない印象でした。
近くを通ったり、触角に触れても、飛び掛かる様子はなかったです。

当然、夜中も一緒に寝て居る筈ですが、
寝込みを襲われている事もないと判断できます。

 

販売名「スジエビ」な個体群との違い

日本産淡水魚コーナーにも普通(?)のスジエビが売っていましたので、
マジックシュリンプの記憶が新しいまま観察しました。
このスジエビが「普通」かどうかは、正直なところ不明です。
観賞用であり混泳用ですから、性格がかなりおとなしい個体群と想像できます。
大きさも小さめで、腕も細く、多大な攻撃力はなさそうでした。
実際、混泳販売のタナゴを襲う様子はなかったです。
しかし、脱皮した仲間の肉片はあちこちで食べられていました。
こういう密集させられた水槽では、
脱皮した個体が水面下のガラス付近で、
必死に下へ落ちないように泳いでいるのが悲しいものです。
柔らかくて美味しそうな匂いを出している自分の身が他者のヒゲに触れるたびに、
飛び付かれそうになって、また飛び跳ねて上へ泳いで行きます。
いつまで泳ぎ続ける体力がもつのか、生き地獄です。

スジエビは全国各地で陸封されていますから(別種扱いの下流域群・降海型もあり)、
性格、卵サイズ、色、柄も微妙に違うと考えるのが普通で、
おなじ観賞魚店で買い続けても、毎回ちがう個体群であり、
全く同じタイプに再び巡り合う事はないのではないかと思えるほどです。
近縁の外国種としか思えない形と色模様の商品名「スジエビ」もあって、
このあたりは“ミナミヌマエビ”や“ビーシュリンプ”という名で、
多くの近縁種が売られているのと一緒です。
地域差もある上に、外国種もあれば、
スジエビに「普通」を指定するのが無理です。
このあたり、
売っていたスジエビを飼っている方と、採集したスジエビを飼っている方では、
スジエビの性格に対する認識が随分と違っているのも面白いです。
採集した場合、相当に凶悪な個体にも出くわすもので、
スジエビ、ヨシノボリ、チチブあたりは、可愛いけど持ち帰るのはなぁと躊躇うものです。
混泳された相手を思うと、放さざるを得ません。
しかし、熱帯魚屋さんで購入という場合、
このマジックシュリンプと同様に、魚を攻撃しない個体群がかなり多いようで、
一般的なスジエビの認識は軟化傾向にあります。
同じく繁殖の難易度についても、容易であるという方向に進んでいます。
採集されたスジエビの場合、運がよければ数匹が稚エビになるかも?程度であったものが、
大卵型で簡単に殖えてしまうという感想が多くなっています。
それだけ外国産種が多く輸入されているのかもしれないという危機感のような物も感じて、
この傾向はなんとも微妙です。

そんな普通(?)のスジエビ達を観察しても、
マジックシュリンプのようなツマツマ行動は見られませんでした。
水草の上を歩いている者も、底砂を歩いている者も、
四本のハサミでさすって歩くだけ。
いわゆるごく普通のスジエビの行動です。
マテナガエビとも共通の索餌行動です。


我が家の普通(?)の銀黒スジエビ。採集個体です。
食べる時にたっぷり食べ、
あとは体の掃除をしたり、近付く生き物に地獄突きを食らわせたりしているだけ。
マジックシュリンプのような「働き者」を感じません。

マジックシュリンプはこれら普通のスジエビの値段のほぼ四倍ですが、
性格は別種レベル。
働きも格段に有効っぽいですから、これはそれくらいしても妥当な感じがしました。
よくこんな物をスジエビの中から発見できたものだと感心します。
残念な事に、色柄や体形がスジエビそのものな為に、
なんか購入は馬鹿らしいという印象を持たれるのではないかと思います。
しかし、個人的にはかなり興味を持たされました。
売りである黒髭コケを本当に求められる有効性で駆逐するかどうかは分かりませんが、
そのヌマエビのようなハサミの使い方と、魚への興味の無さには新鮮な驚きがありました。
個人的には、ボルビティスの黒髭苔に悩まされるのは慣れてしまっていて、
シナヌマエビ類の力を借りつつ、照明を暗くする事と適度な水換えで自然消滅するので、
特に困ってはいません。
しかし、このマジックシュリンプが居れば、さらに効率よく取り除けて、
予防にもなるだろうなという感じは十分にします。
それくらいに手応えのあるハサミ捌きと力強さでした。


黒髭ゴケ地獄。
糸状藻というのでしょうか。
流れの強い部分の縁に付く、触るとちょっとブヨブヨした藻類。
写真のシナヌマエビ類では駆除は無理と思います。

実際の所、肉食傾向の強いスジエビが、草食系に移行している最中のグループという感じで、
同じ見た目と作りなのに、中の性格・性質が違うのが非常に興味深く思えます。
姿形はスジエビなのに、そのスジエビの体を操っている脳、そして動かす神経は別の生き物です。
スジエビそのものなのに、中身はヌマエビに近いのです。
「スマエビ」、「ヌジエビ」という感じなのです。
幼時よりクロレラのみを与えて育てたという怪しい宣伝文句よりも、
単純にかなり隔離が進んだ別種なのではないかと普通に思います。
エビの採餌行動や嗜好性が「学習」によって変化するというのは個人的にはちょっと信じ難いです。
元々植物性に依存している個体群だと考えてしまうほうが簡単に思えます。
水生昆虫が少ない世界なのか、小魚が一匹も存在しない世界なのか、
競合するヌマエビ類が一種類も居なくて、ヌマエビ的になる分化が果たせる余地があったのか、
そんな色々なことを考えさせてくれるエビでした。
ただのスジエビに別名を付けて売っているだけという有りがちなものではなく、
きちんと実効性を確認されて吟味された商品に思えます。
買って有効かどうかは、飼育環境や主観に大きく左右されるので、
このあたりには踏み込みませんが、
少なくとも、スジエビという範疇からこぼれるその行動は一見の価値ありと思います。
観察してみて損はないです。

 

残る疑問・懸念

・観察した個体はどれも小さめでした。
8cmになるという情報もありますから、
大きくなって本来の凶暴性が顔を出すなんて事はないのかどうか。
特に、産卵を控えた最大級の雌の個体の食性が変化しないのか。

・偽物と本物の区別が付かないらしい。
普通のスジエビをマジックシュリンプという販売名で売ることもあるとか。
これに関しては、買う前にじっくりと観察すれば良いと思います。
スジエビっぽい行動ではなく、ヌマエビっぽいです。
ツマツマと良く働いていれば本物と思います。
魚と遭遇した時の行動などもよくチェックすると良いと思います。

・100%、同居魚や同居エビを襲わないとは言えないかもしれない。
スジエビから分化しつつあるのかもしれませんが、
区別が付かないくらいですから、分化度は浅そうな感じがどうしてもしてしまいます。
肉食性が100%失われているとは言い切れない姿かたちです。
(どう見てもテナガエビ科スジエビ属スジエビでしかないので^^;)
脱皮最中のヌマエビ類の子供が目の前にあっても手出ししなかったら本物ですが、
絶対に死んでほしくない個体とは、念の為、一緒にはしないと思います。
(個人的には、どうも姿かたちがスジエビ過ぎます)

・スジエビに食べられてしまいそう。
ヌマエビ類と一緒に入れて置くと、ちょっと危険な印象がしてしまいますし、
スジエビだからと、スジエビの中へ入れてしまうと、簡単に食べられてしまいそう。
頑丈で剛健という感じもないですし、
対抗してケンカをしようという気も薄い感じです。
逆に共食いは無さそうな感じ。
マジックシュリンプだけを入れるのが理想と思いますが、
水槽が少ないと、ちょっと入れ場所に困りそうです。

・降海型の繁殖形態ということですから、
幼生が混ざって隔離が難しそうに思えますが、
どこか離島のグループが、少ない食糧事情から進化したのでしょうか。

・初心者の方が初めて出会ったスジエビ系がマジックシュリンプだった場合、
あらゆるスジエビもマジックシュリンプと同様と考え、
他の初心者の方にスジエビとの混泳を薦めてしまったり、
スジエビは安全・問題無しという認識が広がる可能性は大きそうです。
マジックシュリンプはスジエビとは全く別だと考えるのが妥当な種類です。
「マジックシュリンプはマジックシュリンプ」です。
スジエビとの共通点は姿形だけです。(それがすでに元凶になること必至ですが)

・エビの販売名って、単純に「一番売れる名前にするだけ」なので、
ただのスジエビが全部マジックシュリンプで売られる可能性も否定できません。
スジエビの水槽がマジックシュリンプという値札に変わるだけだと困ります。
スジエビの代名詞として名前だけが歩いてしまうかもしれません。
現在でもすでに「マジックシュリンプ(本物)」という表記があります。
元祖マジックシュリンプなんて呼ばれたりもするんでしょうか?
買う側の識別眼がだいじです。

 

スジエビの範囲がさらに一つ広がった

・透明で腰の出っ張った淡水エビの総称に近い⇒【スジエビの範囲
・今回のマジックシュリンプ
・横胸の模様が違う近縁国外外来種と思える個体群
・観賞用のややおとなしいスジエビ
・日本在来種でも、陸封された各地の全個体群が、ある意味別亜種レベルの違い
・10センチ前後あると思われる別種扱いの河川下流域群
巷の「スジエビ」という一言には、実はこれくらいたくさん含まれています。
“ミナミヌマエビ”以上の混沌ぶりです。
スジエビという名前だけでは、もう本当にスジエビを語れなくなってしまいました。
(おぼろにもあったであろう共通認識的スジエビ像は、もはや完全に崩壊しているような・・・・・)

 

短い時間で数匹を観察しただけですが、
なかなかに面白いエビなのではないかと思いました。
ヌマエビの心を持ったスジエビ。
不思議な魔法をかけられているからマジックシュリンプなんでしょうか。
「ただのスジエビ」として切り捨てられてしまう可能性が高そうな生き物ですが、
それではあまりに惜しい気がしました。

 

●マジックシュリンプ・リンク集

捕食情報も多いエビですね。

ZERO-AQUA
http://zerofact.exblog.jp/8378434/
写真が大きくて綺麗。
「せわしなく動きまわる」という部分が、このエビの性格そのもの。
http://zerofact.exblog.jp/i2/10/
ミナミヌマエビを捕食

B-STYLE
http://benworks.exblog.jp/6922717/
関節がオレンジ。白点も多い個体。
http://benworks.exblog.jp/7657579/
スジエビ採集個体

アッキーの気まま日記
http://blog.e-akky.net/kimama/2009/09/
遠目にもスジエビそのもの。

きたろうのつぶやき日記・改
http://blog.goo.ne.jp/kitaroh-c/e/f915ffd207721e4d8c3ee6f400927853
地味なエビ

http://nasu001.naganoblog.jp/e153018.html
剛健ではない印象

http://amanoyama.exblog.jp/9920436/
魚が捕食されたという経験談

 

●スジエビおすすめリンク

スジエビは全国各地、水系ごとに別種くらいなつもりがベストです。
外国種だったら、なおさらです。

特集・琵琶湖のスジエビ
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4.htm

各産地のスジエビの平均卵容積
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4-2.htm

各産地のスジエビの平均 卵容積と平均相対抱卵数の関係
http://www.lberi.jp/root/jp/05seika/omia/06/bkjhOmia6-4-3.htm

 

●参照

スジエビの見分け方
マジックシュリンプを外見だけで見分けたら、ただのスジエビになってしまうと思います。
でも、「お前は今からヌマエビだ!」という魔法が掛かっています(笑)から、
性格はヌマエビ類にかなり近いです。
見た目だけで中身まで判断してはいけませんね。

スジエビの範囲
スジエビの範囲の定義は、他種から別種まで各人各様といった感じ。
ヌカエビ等の誤認から別種的な大型の下流域群まで、
「そのスジエビの素性次第で様々な性格なのではないでしょうか?」
としか、もはや云えませんね。「一抜けたっ」という感じです。

スジエビの混泳を考える
スジエビは他の生き物との混育が100%安全とは、とても言い切れない生き物。
油断は禁物ですし、ある程度の覚悟は必要です。
明らかに弱いであろう生き物、殺されては困る生き物とは、
最初から同居させないことです。

 

2010/06/05


 

 


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