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前側角部の棘(その三) 〜皆見ぬ間エビ 知らぬ間エビ〜
レッドチェリーシュリンプとの交雑実験に使った、市販ミナミヌマエビ(シナヌマエビ類)の頭部 残りの3匹


レッドチェリーとの交雑実験に使った“市販ミナミの末裔”の残りの3匹。


●額角は長め。●前側角部の存在が曖昧。しかし、極めて小さい棘がある(写真では見えませんが)。
比較的額角が長めの個体です。が、第一触角柄部先端には達しません。
眼の上あたりの額角上に不規則な歯がたくさん並んでいました。
この独特な風貌の個体に特徴的なのは、前側角部の不確かさ。
喉もとが一直線で、角っぽい部分が明瞭には発見できません。
棘がないタイプと判断しようと思った瞬間に、極めて小さい棘が存在するのを確認しました。


●額角はやや長い。●前側角部が大きく、棘が一本生えている。
顔全体が短めのタイプです。吻もやや上向き。
前側角部が下に大きく張り出しているのが特徴。棘の確認は容易でした。


●額角はやや長め。●前側角部には極めて小さな棘。
2.7cmに育った最大個体。ルーペを覗いただけでは前側角部の棘は無い印象でしたが、
画面上では小さな棘が一個しっかり有りました。

この個体、非常に頭胸甲が盛り上がっており、
風格というか威容が漂う姿です。


レッドチェリーシュリンプの頭部

レッドチェリーとの交雑実験に用いた事が間違いない大型個体は6匹居ました。
その全てには前側角部に棘が存在し、額角は柄部先端には届いていませんでした。
どうも、タイプ別に世代交代していると云うよりは、
本物ミナミヌマエビとシナヌマエビ類の雑種であり、
そのどれかの形質がより多く出たかどうかで、顔つきが変わっているだけという印象です。
“ミナミ水槽”はじっくり見ていないので、さらに変な顔つきの謎エビが誕生しているかもしれません。

参照⇒【前側角部の棘】 ←顔の部品名などもコチラ

参照⇒【
ミナミヌマエビとレッドチェリーシュリンプの交雑実験

参照⇒【レッドチェリー・シュリンプの頭部の拡大写真


「皆見ぬ間エビ」 「知らぬ間エビ」

個人的な観測では、Web上にある“ミナミヌマエビ”の画像は、ほぼ二分している状態です。
一つは輸入シナヌマエビ類と思われる額角が短い種類の写真。
もう一つが国産の本物ミナミヌマエビと思われる額角が長い種類の写真です。

この2つを分けている要因は、単純に「買ったか、捕ったか」だけに思えます。
買ったミナミを掲載しているサイトの“ミナミ”は額角も短く吻も短いタイプが多く、
捕ったミナミを掲載しているサイトの“ミナミ”は鼻先が長い狐顔で精悍な印象。
「捕らない限り飼えない」のが本物ミナミと云っても良さそうなくらいの比率で、
購入派は、本物度で言えば「ほぼ玉砕」、という印象を受けます。
「シナヌマエビである可能性もある」とか、
「シナヌマエビが混ざっている場合もある」というような楽観的な割合ではなさそうです。
9:1とかいう比率でもありません。
あまたある“ミナミヌマエビ・サイト”の中で、
本物ミナミヌマエビと確認できるエビを載せているサイトは十数サイト程度でした。

皆見ぬ間に深く広く浸透している感じです。
2センチ5ミリ程度の生き物ですから、目を近付けてじっくり観察するにも限度があります。
その「誰も見ぬ間」を突いて侵入した一種のニセ商品なのですが、
我が家の水槽にも知らぬ間に入っていた、まさに「知らぬ間エビ」です。

巷の“ミナミヌマエビ”という文字列が示す範囲は極めて広くて曖昧なのでしょう。
こちらの分布図に載っている近縁亜種8種類前後の総称と言ってもいい位かもしれません。
http://www.lbri.go.jp/omia/80/omia80.htm

ざっと調べた感じでは、以下のような“ミナミヌマエビ”が居るようです。

Neocaridina denticulata denticulata・・・・・西日本(ミナミヌマエビ)
Neocaridina denticulata ishigakiensis・・・・石垣島(イシガキヌマエビ)

Neocaridina denticulata koreana・・・・・・・朝鮮半島(コウライヌマエビ)
Neocaridina denticulata keunbaei・・・・・・・済州島

Neocaridina denticulata sinensis・・・・・・・台湾島と中国(シナヌマエビ)
Neocaridina denticulata auhuiensis・・・・・・東中国(zhoushanensis?・・・上海の南、寧波)
Neocaridina denticulata davidi・・・・・・・中国北部
Neocaridina denticulata linfenensis・・・・・・洛陽あたり(黄河北岸)
Neocaridina denticulata luoyangensis・・・・・・洛陽あたり(黄河南岸)

Neocaridina denticulata vitnamensis・・・・・・ベトナム

※広大な中国大陸にこれだけ、ということはないでしょう。
ニュービー以上に未記載・未分類種だらけだと想像されます。

※分布や流通から考えて、最有力はシナヌマエビ、次いでコウライヌマエビか?
鮮度の落ちやすい生き物をわざわざ遠隔地から持って来るとは考え難いので。

ただ、それらも交雑種である可能性も無いとは云えないかも。

※レッドチェリーシュリンプは海外サイトでは、
「Neocaridina denticulata sinensis var. red」で落ち着いています。
台湾島産シナヌマエビの赤色変異。(自然採集個体説は眉唾かも)
これが正しいなら原種の台湾産シナヌマエビは前側角部の棘の有無で識別可能なはず。
琵琶湖に侵入した前側角部に棘の無い種類もsinensisらしいです。
中国大陸産と台湾島産が同一亜種なのかは疑問もありそうに思いますが。

 

エビ道楽に終焉をもたらす伏兵か

販売店や一般にいう“ミナミヌマエビ”が、どの領域を指し、どの種を指しているのか、
これも“ビーシュリンプ”“ニュービーシュリンプ”同様に、個々人が判断していくしかないと思います。
(とりあえず100円ルーペが御手軽)

ペットショップでも、シナヌマエビなら「シナヌマエビ 中国○○省○○水系産」、
ニュービーシュリンプなら「ニュービーシュリンプ ○○国○○水系産」、
と確実に明記されていれば別水槽を立ち上げて「ほお、これが」と御迎えしなくもないのですが、
“ミナミヌマエビ”の一言で8亜種が呼ばれているような状態ではちょっと恐くてこれ以上買えません。
しかもミナミヌマエビの販売水槽は、だいたい常に固定で、
前回入荷の輸入ミナミを、稚エビ一匹残らず売り尽くしてから、あるいは、
魚を使って全部駆逐してから、新たな入荷分を水槽に放すという事はしないでしょう。
たとえ、せっかく本物ミナミヌマエビが入荷したとしても
そういう経緯の水槽なら容易に混ざってしまいます。

水槽内のミナミヌマエビがシナヌマエビであっても人身に直接な被害は出ませんから、
ペットのエビに詳細な原産地や種名の表示義務は望めないと思います。
ただ、それを怠れば早晩「カワリヌマエビ属」としてCRSもレッドチェリーも含む外来ヌマエビ類が
十把一絡げな特定外来生物の指定を受けてしまいそうにも思えます。
※実際、環境省のページで「要注意生物リスト」にさえ載っていない現状が指摘されていますし、
指定への要望はあるようです。各地で定着しているようなので指定は案外早いかも。
※“シナヌマエビを含むカワリヌマエビ属外来個体群”という指定要望にどこまでが含まれることになるのか。
種を明確に指定できない場合は、属の段階で切られそう。
日本では、ほとんどの輸入大卵型ヌマエビ類の学名が“Neocaridina sp.”である事を考えると、
「十把一絡げ」な規制を避ける術は無さそうにも思えます。

この指定を受けると、エビを繁殖させることが出来なくなります。
飼育許可をもらって飼い続けたとしても、エビ自体が一年ちょっとの寿命。
しかもペット用は繁殖禁止ですから、わずか1〜2年で全国から完全に消滅する事になります。
外来種に関しては、事実上の終焉という事になると思います。
http://www.env.go.jp/nature/intro/4qa.html(外来生物法Q&A)
突然“罪人”になっている可能性もありますので、
こういうページは読んでおいたほうが賢明です。

「カダヤシ」や「ウシガエルのおたまじゃくし」は、よく網に入ります。
持ち運んだらアウトです。

シナヌマエビを観賞用のミナミヌマエビとして売ったり、
コウライヌマエビをブツエビと称して釣り餌として売ったりすることによって、
水槽で殖え過ぎたシナヌマエビや残った釣り餌のコウライヌマエビが、
全く疑われずにミナミヌマエビだと思われて、気に咎める事なく放流されたり、
あるいはビオトープに積極的に放されるという例が結構あるのではないかと思います。
「ミナミヌマエビは日本のエビなんだから、べつに放してもいいんじゃない?」と・・・。
参照⇒【エビの放流について

それによって「観賞エビを飼う」というジャンル自体が縮小するならば、なんとも悲しい話。
せっかくのCRSにとっても、とんだ伏兵かもしれません。

観賞魚売り場に国産ヤマトと国産ミナミだけが並んでいる・・・、
ロックシュリンプもCRSも居ないそんなエビコーナーになってしまう日も近いのかも?

Web上の“ミナミヌマエビ”の写真が「捕っても買っても一緒」になるよりはマシか・・・・・・


ミナミヌマエビとシナヌマエビの雑種であるっぽい我が家のミナミ君達。
だからといって何も変わらずツマツマし続けているわけですが。
(雄と雌には分けておいたほうがいいかもなあ)

しかし指定された場合、こんな雑種の扱いはどうなるのか?
見分け方の公式発表なんてあるのだろうか?
期日を切って、いきなりシナヌマエビ飼育者が罪人?
その前に起こる駈け込み放流をどう防ぐのか?
などなど問題山積。
知らぬ間に飼っている場合が多い事を考えると混乱必至ですし、
周知を待っていたら交雑や増殖が進む・・・。相当に厄介(^^;。

 

2006/02/04

 

恐ろしい話「ミナミヌマエビとシナヌマエビ」
http://osampo1.hp.infoseek.co.jp/shrimp/kowai.html

●日本のミナミヌマエビと近縁外来種が交雑の可能性が大きい2009/03/16追加情報
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/L1-11.html
日本のミナミヌマエビとシナヌマエビ類は交雑しないという噂でしたが、
さすがに20種類以上も居ると、そうもいかないようです。
複数の地域で交雑の可能性が高いようです。
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/PA2-605.html
文中にあるheteropodaと、palmataは、見た事のあるエビの筈です。
学名で検索すると面白いです。


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