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テナガエビ
 〜雄の夏越し個体〜



長い腕を折り曲げて手入れをしているテナガエビの雄。
額角先端から尻尾の先端で9センチの大きな雄です。
交接実験などを多数行なったので、夏過ぎには衰弱死と思いきや、
とくに体調の衰えもなく元気に冬を迎えました。
多くの生き物は、夏よりも冬に死亡の最盛期が来ますが、
エビの場合は夏に世代交代が訪れるので、
水温が低下する時期にも生きていてくれると安心します。

採集時にも「最大級」は感じませんでしたから、
現在2歳の個体であって、来年の夏の繁殖期過ぎが寿命ということだと思います。
テナガエビは雄は3歳の夏過ぎに死亡し、雌は2歳の夏過ぎで死亡するというのが、
現実に近いのではないかと個人的に思います。
つまり、雄は3回繁殖期に加わることが出来、雌は2回の産卵期で死亡。
雌は交尾せずとも「卵を産む事が決まっている」という産卵周期で、
5月頃から産卵を開始。どんどん餌を食べてどんどん大きくなり、どんどん産卵。
そして、9月になると1歳の雌はピタッと卵巣に卵を溜めなくなり、
2歳の雌はピタッと餌を食べなくなって衰弱死。
雄は1歳の3cm程度の個体でも、まるでヌマエビ類のように大きな雌にしがみつき、
自ら腹の下へ入るような方法で交接も出来るようです。
2歳からは大きくなって、縄張りを主張し、他の雄との抗争に加わり、
3歳で王者として君臨するといった感じに思えます。

もちろん5月生まれと9月生まれでは夏の4ヶ月間という、
成長に最も適した時期があるかないかという差が生じるので、
この差が1年に相当するほどの成長差を生んでいる可能性はあるかもしれません。
特に、早産まれが1歳になる5月、6月くらいでは、けっこうな成長差になっていると思います。
この早く生まれた1歳と、遅く生まれた2歳をどう見分けるのか、
ここの評価をきちんと出来ないと、
寿命や成熟については確実に語れない感じがあります。

【♂】孵化0才の夏1才の夏2才の夏3才の夏の終わりに死亡
【♀】孵化0才の夏1才の夏2才の夏の終わりに死亡
今のところ、こんな感じに思えます。
♂の場合は、25cmを越えるロングアームが存在するそうですから、
少数の個体が4回目以降の夏も迎えていると嬉しいのですが、
その差は早産まれの影響や個体差なのかもしれません。
♀は無精卵であっても産み出してしまうという体力の酷使が災いして、
なかなか長生きさせるのは難しそう。(むしろ、極端に餌を控えて産ませないとか)


手前の腕は、脱皮の時に失敗して根元から自切したものが再生して、
ここまで大きくなったものです。
自切後、毎月脱皮をし、この状態で自切から四回目の脱皮を終了しています。
ロックシュリンプ同様、最初の脱皮で、およそ信じ難いマジック的な再生をし、
その後はゆっくり長さを増してきました。
若干短いという印象だけで、大きな違和感はないです。
体に似合わない細い歩脚と挫いてしまいそうな指節はマテナガそのものです。
胸の横のm模様は、ほぼ完全に消滅しています。
参照⇒【テナガエビのm模様の色々
若い時は、どれもm模様を持っています。結構個性的。
それが大型化すると、どんどん薄くなります。


河口域産の個体の「m模様」
一瞬、ミナミテナガかも!と期待させてくれたほど濃い個体。
(ただ、よく見るとm文字の周囲の色抜けの縁取りがない)
汽水産の場合は最大級の個体にも「m」は残っていました。
個人的な印象では、河口域産のm模様は残り易く、
淡水域産の模様は消え易い気がします。(ただの個体差かもしれませんが)
全国的にも同じ傾向であれば、
模様でもそこそこ見当がつくのかもしれません。
参照⇒【ミナミテナガエビのm模様
個人的には“川”という漢字に近い印象もあるミナミテナガのm模様。
とても太くて濃く、しかも透明な抜けで縁取りされていてクッキリです。
ここを比べるだけでもテナガエビとの見分けは格段に楽になります。


サボテンのようなハサミ部分。
河口域産の大型個体には「m模様」が濃く残っている事が多く、
ミナミテナガと混同しやすい印象もありますが、
大きな雄では、この手の先を見ると簡単に分かってしまいます。
北方系のマテナガは毛皮の手袋をはめています。
何に使う毛なのかは良く分かりませんが、異常に生えています。
餌に触れると察知できますから、匂いや味は分かる毛のようです。
細くて深い隙間に落ちた餌も、この長い腕を差し込んで拾い上げて食べます。
闘争のみに役立つだけではなさそうです。

ミナミテナガとマテナガの違いは、この部分よりも、「指節の長さ」がより有効です。
ハサミの毛は小型個体ではどちらも同じ程度の少なさで比較できません。
参照⇒【ミナミテナガエビの指節
ミナミテナガエビは、指節の短さと、眼の立ち方、m模様の太さ濃さで分かります。

参照⇒【テナガエビの指節
テナガエビの指節は折れてしまいそうなほどに長いので、
これが極端に短いヒラテテナガエビ、そして短めのミナミテナガエビとの見分けは容易。


体が大きいだけに、色々な部分が観察できておもしろいです。
このあたりはロックシュリンプに通じるものがあります。
小さなヌマエビとは違った魅力です。
ヌマエビ類は数を楽しむといった感じが強いですが、
テナガエビは個体の存在感そのもの。
※しかし、寿命が短いという事は、ほぼ確実にお別れを迎えるという事。
大型個体はほぼ単独飼いですから、存在感満点の個体がぽっかりと居なくなった水槽になります。

ふだん普通に「エビのしっぽ」と呼んでいる部分は、実は「肢」だというのには驚きます。
第6腹肢が後ろへひっくり返されて固定されているのが尻尾。
御存知だとは思いますが、こうしてあらためて見てみると、
左上にある腹肢とあまり変わらないのが分かります。
尻尾に青い班点が入っていますが、
腹肢にも同じ場所に青い班点があるように見えます。
細かい毛が縁を一周して生えているところなどもソックリです。
上のハサミの写真がありますが、このハサミも、
実は指節とその付近のコブとで構成されているものだそうです。
曲がる側が指節で、この写真に写っている歩脚の爪の部分です。
これに、その付け根部分が変形した突起が対になってハサミ化したという事です。
ハサミを閉じる行動は指節を曲げる行動と一緒ということになると思います。
このあたりの話は、川エビ雑話の「川エビの体」に詳しく解説されています。
エビの各パーツの起源が分かって楽しいです。

◆おすすめリンク

芦田川産テナガエビの成長と寿命
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023521
テナガエビの成長と寿命は、こちらに書かれているのとほぼ同じ印象を覚えました。
一歳の雄は生殖には加わらないとされている部分は、個人的にはやや違った印象を持ちました。
小さな雄がヌマエビ類のように群がることを確認しています。
(どっしりと居座っている大きな雌の横腹にまでは行けるようですが、
交接まで出来ているかは不明です)
雌に相手にされない、他の大型オスから追い出されるなどで、
自然界でも達成されないことは容易に想像できますが、
生殖能力がない訳ではなさそうに思えます。
大きな雄と出会えなかった危急的状態の雌には受け入れられる可能性は大きいとも思えます。
エビの場合、むしろ雄のほうが卵巣という大きな負担がない分、
生殖能力は先に付いてしまうのではないかと思います。(ヌマエビ類は明らかに雄が早熟)
青春時代の一夏を無駄に過ごしているとは考え難い印象があります。

2009/01/04


 


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