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ただの勘違いが招く、大量の「エビ認知症」

エビ認知症とは(笑)・・・・・
ただの分類学上の事情を、生きたエビにも勘違いして適用してしまい、
種類の識別に模様や色彩は使えない、額角でしか見分けられないと堅く信じ込み、
種類ごとに明確な模様が出ている写真があっても、一切種類が分からなくなってしまう症状。

「模様を見ると間違える」という強迫観念を持っている場合も多い。
素人の方に対しても「模様を見るな!」「額角だけだ!」と勝手な思い込みを教える一方で、
写真に対してはトンチンカンにテキトウな種名を付け、種類間違いだらけの本や雑誌を出版する例も多い。
どこでどう勉強すると発症するのかは不明だが、主に教育に関わる職業や博物館方面に多く見られる症状である。
初心者一般がエビを知ろうとして訪れるような場所には必ず常在しており、強い感染力で見分ける気力や純粋な識別眼を失わせ、
高い伝染力で、次々と同じ症状のエビ認知症患者を作って行く。

 

分類学上の“ぼやき”が誤解されて、淡水エビの常識になったに等しい

1.ヌマエビの仲間は種類が多く、
2.どれも酷似していて、
3.色彩や模様は種類の識別には使えず、
4.額角や棘などを顕微鏡で見なければならない為、
5.同定は極めて困難。

このように語られて、単純に生きたエビの識別が難しいのだと思われている例が多いです。

しかし、日本産の生きたエビに当てはめると、全部が不自然です。
1.ヌマエビの仲間は種類が多く、本土産在来種7種類だけです。
2.どれも酷似していて、ヤマトヌマエビを始め、ヒメヌマ、トゲナシあたりは形も色も全然違います。
3.色彩や模様は種類の識別には使えず、ミゾレ、ヌマ、ヌカ、ミナミ全部独特・特有の模様です。
4.額角や棘などを顕微鏡で見なければならない為、外肢や眼の角度くらいを見れば良いくらいです。微生物じゃあるまいしです。
5.同定は極めて困難。普通の生き物ジャンル程度です。種類数も少ないし、種類ごとに見分けられる個性は充分あります。

それもそのはずで、これは分類学上の標本や論文の世界のエビに対する記述でした。
そう考えると、特に不自然は感じません。

1.ヌマエビの仲間は種類が多く、世界には数千種あるようです。それらと比べる作業が同定です。
2.どれも酷似していて、小さくて、体の作りは、ほぼ一緒ですから、標本や論文だと大変でしょう。
3.色彩や模様は種類の識別には使えず、アルコール浸けでは色は溶け出ます。乾燥標本でも消えてしまうでしょう。
4.額角や棘などを顕微鏡で見なければならない為、エビの部品の違いを、肛門の棘一本まで詳細に見なければなりません。
5.同定は極めて困難。さらに新種の可能性も考えながら、外国語表記の論文や標本との気の遠くなる比較作業です。

標本瓶の中の褪色しきった標本や、外国語表記の論文と比較する分類学上の同定の事情。
生きたエビもこの通りと思って、本気で模様も見ないし、しかも顕微鏡は無いので額角も見ずに、
エビの種類が全く分からなくなる「エビ認知症」に罹る人が非常に多いです。
「透明で腰が曲がり、目が出っ張っていたらスジエビ」という慣習が作られたり、
雑誌書籍で、エビの全身写真では、当てずっぽうで好き勝手な種名が書かれる原因でもあります。
色の抜けた真っ白の標本や、色柄の表記がない論文の話なので、
生きたエビに当てはめる必要はゼロです。

博物館あたりだと、これをそのまま生きたエビにも当てはめた情報を平気で出して来ます。
種類ごとの特有の模様がしっかりと表れている生きたエビにも、疑問を持たずに適用している例が多く、あきれてしまいます。
無理やり目をつぶって、模様を見るな、色彩を参考にするな、額角だけを見るんだ、と大損や種類間違いをしながら、
分類学者の事情に当てはめようとしています。
簡単に分かりそうな勘違いですが、誰にも突っ込まれずに常識として胸を張って行われているのが現状です。
「模様を見てはいけない、見ると間違える」といった怯えた認識に勝手に発展させている例も多いです。
これが一般の方や初心者の方にも簡単に及びます。
淡水エビの説明とか解説なんかを読んでしまうと必ず書いてあるので、
ほとんどの人が実物を見る前に「エビ認知症」になってしまいます。
世界じゅうのエビの標本(簡単に言えば白化したエビの死骸)について語られているものを、
日本の生きていて模様がある僅か数種類に当てはめているのですから、呆れるばかりです。
日本産淡水エビでは「生きたエビ」が語られず、「死んだエビ」の常識のみしか情報発信がない世界ですから、
こういう呆れた因習が、簡単にはびこってしまいます。

生きたエビもよく知っていて、標本や論文での分類も経験が豊富という、
生体・死骸両方に精通している人はなかなか居ないので、こういう勘違いが見破られずに蔓延する訳です。

どちらの事情にも詳しいこちらのサイトの4コマ漫画を見ると、そのあたりが良く解かります。
水際喫茶室 4コマ漫画(おもしろいし解かり易いです)
http://mizugiwa.sakura.ne.jp/4coma/co_0.html
エビの研究室での分類過程が分かる4コマ漫画。
淡水エビの世界で常識のように語られる無意味な規制は、分類上の事情が勘違いされたもの。
ただの小さな事実が、事情を知らない外部に出て、誇大な規制に生まれ変わっています。

 

勘違いなので、ツッコミ所だらけ(効力も事実と逆行している)

そもそもが分類学上の事情の勘違いなのでツッコミどころ満載です。
「額角だけ」を異常に崇めているところが、すでにツッコミどころです。せっかくですから肛門の棘も見ませんか?という感じです。
ヌマエビと西日本のヌカエビは遺伝子比較をするまで、額角では別種である事が分からなかった経緯もあります。
額角だけ見ても、最終的に種類が分からないのです。その程度の価値です。
「ヤマトヌマエビは例外に模様を見ても良い」とかいう、例外の線引きがよく分からない情報も普通にあります。
単純に大きくて模様が見易くて、周知されているだけの話で、
ヒメヌマエビも模様で簡単ですし、ミゾレヌマエビも独特です。

ミゾレヌマエビの模様は、ヤマトヌマエビよりも独特。
そもそも、根拠なく勝手に出来あがった勘違いの産物なので、例外をどんどん作って行くと全部消えます。
一つ一つの種類をよく観察すれば全部違います。
最終的に本当の意味で見分けが困難なのはツノナガヌマエビとミゾレヌマエビあたり。
ヒメヌマエビとコテラヒメヌマエビは同種の可能性が高そうに思えます。


死骸の比較では別種であることが分からなかったヌマエビとヌカエビ(西日本産)も、
生きた状態では、通常、“ミゾレヌマエビ”とヌカエビとして、きちんと見分けられていて、混同は見かけません。
つまり、模様を見て額角など見ないほうが正解でした。
(このヌマエビを商品名ミゾレヌマエビと呼ぶのは、別の大問題ですが。エビ認知症になる三大原因の一つ)


模様を見ていれば、なんら問題なく見分けられるエビ達も、


事実無根のくだらない因習に従うとこうなります。
色も模様も分からないし、額角も小さくて見えません。種類が全く分からなくなる「エビ認知症」です。


種名が分からなかった場合に「酷似していて難しいそうです」と言っておけば間違えた時の免罪符になりますし、
見分けられなかった自分の価値を下げずに済みます。
そういう意味で、この“勘違い”が便利に使われるという側面もあります。
重宝するという面が大きいから、世の中に広まるわけで、損だけなら広まりません。
(テナガ4種、ヌマ7種ごときに免罪符を多用されても困りますが)
ただ、使っている免罪符は事実ではなく”勘違い”ですから、本当に免れる事は不可能です。


本当の分類学者は額角だけを見ませんから、ここだけに偏重しても意味ありません。
折れている事もありますから、模様も含めてバランスよく全体を見る事が大事。

 

およそ自然科学からは程遠い、勘違いの二段重ね

模様は使えない、参考にならないは、標本や論文に対する事情であり、これは単純な事実。
しかし、これを標本の世界から越境させ、生きたエビにも適用し、
色彩は変異が大きいから使えない、模様に個体差が大きいから使えない。
あるいは種類同士が酷似した模様をしているから、模様を見ると間違えるとして広めている例の多さにはあきれます。
エビの色彩や模様は自然科学そのもので、普通に受け入れるしかありません。
ミゾレヌマエビが成長の各段階で色々な種類と誤解されるような色彩になったり、⇒【ミゾレヌマエビの色彩変化
シナヌマエビ類の雌が大型化していくと黒くなって背中に一本明色線が出て別種のような趣になるのも自然の事実です。
これを滅茶苦茶で始末が悪いとか、役に立たない、見たってしかたがない、見るだけ損、見たら間違う、といった、
負の認識一辺倒にしてしまっているあたりが、自然科学の観点から見ると不自然で違和感大きいです。
各生物種の単なる成長過程の変化であって、全ての過程を全部同時に見たら、一見、滅茶苦茶に見えるだけの話。
成長に伴う変化だと思って受け入れ、淡々と整理して、その先に相違点や類似点を見出せば良いだけのことです。
一見似ていて不可能に思えても、整理して良く見て行けば、非常に有効な識別ポイントにしていけるから面白いのです。
それをばっさり切り捨てて、「一瞥もするな!」ですから、これはおかしいと思わざるを得ません。
元々の出所が“勘違い”ですし、それが生きたエビにまで越境して二重に勘違いした、なんら恩恵のない因習です。
およそ科学とは思えないのは当然で、勘違いでしかないのは、このあたりの違和感を診ても分かります。
(真っ先に感じた違和感がここでしたが)
因習には根拠もないですし、そもそもが勘違い起源ですから適用範囲に限度がありません。
最終的には、スジエビというスジ模様を識別のポイントにすれば簡単で間違いない種類からも、スジ模様を盗り上げて、
透明で、腰が曲がっていて、目が飛び出しているからスジエビだ!」という最悪の見間違い方を生む事になる訳です。
(本土産12種類中、最低でも7種類は該当すると思います⇒こちら

●「色柄は使えない・参考にならない」は褪色する標本や記載のない論文との比較を行なう分類学上限定の話。
●各種の生きた個体も規則性ゼロの滅茶苦茶な色柄だとか、消えきったり似きったりして使えないという意味ではない。

スジエビ(左)の模様はスジエビ固有のものであって、それがないミゾレヌマエビ(中)やヌカエビ(右)が、
透明であるからとか、腰が曲がっているからとか、眼が出っ張っているからとかで、
いとも簡単に模様配列の重要性が打ち消されてスジエビにされるのは、あまりにおかしな現象。
「使えない」の意味を勘違いすると、限度のない無意味論となり、ほとんどの種類が混沌に包まれることになる。
スジエビが両腕(第一胸脚も含めて4本)を失って、完全に模様が消失するという確率は極めて低いので、模様で判断が妥当。




透明度以外に、一つも違いがないのであれば、透明度を使うしかないかもしれませんが・・・・・。
個人的には、カワウやカラス、ドバトを“黒さ”で見分けようとするようなものに感じます。
(特にヌカエビとスジエビは、眼の出っ張り具合・離れ具合もそっくり⇒参照


模様も産卵形態も違うヌマエビとヌカエビ(西日本産)が、額角上では同種の種内分化とされていた問題にも、
最終的に遺伝子を比較しなければ結論が出せなかったという異常な額角偏重と模様無意味論が見える。
「額角だけ」と「模様は無意味」という限度のない二極化がなければ、もっと早く(というか普通に)結論は出ていたはず。
ヌマエビは“ミゾレヌマエビ”として販売されるエビで、ヌカエビとは普通に「違う」と思う範囲の生き物です。
よく見かける「ヌマエビとヌカエビは酷似していて模様や色彩では識別不可能」は、ヌカエビの西日本産と東日本産の話。
ヌカエビの中に、頭に棘が多い個体や個体群が居たために、それがヌマエビとされてしまった。同種の見た目が一緒なのは当然。

 

 

エビ認知症にならない為には

エビ認知症にならない為には、くだらない因習を唱えていない正しい情報を探すか、
独自によく観察するかしかありません。
生きたエビと標本のエビの両方に精通していて、どちらの事情にも詳しくないと、
妙な偏重で語られる率が上がります。
淡水エビの情報は、ほとんどがエビ認知症を誘発する情報ばかりです。
まともなものは、Web上に奇跡的に少数ある程度です。
(書店や図書館でも死骸に偏った勘違い情報を元にした話が多く、生体の写真は種類間違いだらけです)

鑑定結果
http://homepage1.nifty.com/~ayuayu/topics0528.html
一般の人には模様で見分けると簡単だと教えている先生。

ミナミやシナは「ハ」が並んでいれば簡単です。
「八」のトゲナシヌマエビとは似ていますが、トゲナシは1個あるだけ。

番匠おさかな館の図鑑・エビ
http://rs-yayoi.com/osakanakan/zukan/shrimpcrub/shrimptop.htm
生体に親しんでもらいたいといった感じの水族館系発信だと、情報は生き生きします。
標本瓶に囲まれているだけである事が多い博物館系発信の情報だと「死骸の見分け方」になります。

ヌマエビとミゾレヌマエビがきちんと区別されています。
模様を見れば簡単です。

川エビ雑話
http://www.geocities.co.jp/Outdoors/7766/kawaebi/kawaebizatuwa.html
こちらも研究室出身の方。
色柄から額角、棘、行動まで全てを見ていて、情報に偏重がないので安心。

胸の横にmの文字を崩したような模様があるテナガエビ。
ミナミテナガエビとの識別も簡単ですし、スジエビと混同する事もありません。
標本だと肝上棘鰓前棘を見ないと「不可能」となるのかもしれません。
参考の為に見ても良いとは思います。
一度見ておけば、安心して模様だけで済ませます。
毎回毎回、全部のエビに見る必要はありません。


模様が少なめの種類というのは決まっており、3、4種類です。
しかも、完全に消えきっていて、微かにも残っていない個体を探す方がむしろ難しいでしょう。
「模様は使えない・参考にならない」は元々が世界レベルの標本や論文での話ですから、
生きていて模様が濃く出ている日本産数種類の区別に、模様を見ないほど馬鹿げた所業はありません。


模様が見えれば簡単に種類は分かります。
たかがテナガエビ科4種に、ヌマエビ科7種ですから、この大きさの画像でも分かるのが本来と思います。
棘が見えないとか、額角の歯が数えられないからと諦める必要はなしです。
見分けたいと思えば、ごく普通に見分けられる程度の大きさと違いを種類ごとが持っています。

1.ヌマエビの仲間は、世界には種類が多く、
2.標本や論文上では、どれも形が酷似していて、
3.標本では色彩や模様が消失している場合が通常で、論文にも色柄については描かれないため、
慣習として色柄を見ての識別は行なわず、種類の識別に模様や色彩は使っていないし、使いたくとも使えない。

4.額角や棘などを顕微鏡で見なければならない為、
5.同定は極めて困難。

少し付け足すと誤解なく読めます。
そして、日本の数種類の生きた状態での識別についてを補足すればOKです。

1.日本の本土には在来のテナガエビ類は4種、ヌマエビ類は7種類程度しか居ない。
2.形や模様に種類ごとの特徴や特有性があり、
3.標本と違って、色彩や模様を見比べて、効率よく識別が可能であり、
4.殊更に額角や棘を顕微鏡で詳細に比較する必要はない。肉眼もしくは虫眼鏡程度で充分である。
5.消去法が活用できる種類数なので、ゾエアや稚エビでもない限りは、識別は比較的容易。

 

2010/10/02 


2010/10/06 更新


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