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日本産淡水エビ図鑑

ミゾレヌマエビ

標準和名・・・・・ミゾレヌマエビ
この種名の付けられ方は、やや安易な印象で、多くの他種にも細かい白点状の模様は普通にある。
むしろ、本種のミゾレ模様はあまり目立たない場合も多く、種類の混乱を招く原因になっています。
種名から連想されるエビはヌマエビParatya compressaが圧倒的に多く、
古くから観賞魚店の店頭や通販で“ミゾレヌマエビ”と呼ばれて売られているのはヌマエビ。

※この商品名“ミゾレヌマエビ”の正体はヌマエビParatya compressa。
歩脚の外肢も、眼上棘もある、れっきとしたヌマエビ属の代表です。
ヌマエビの首領でありながら、ヌマエビと呼ばれない歴史が長い。

ミゾレヌマエビの名前の由来となった霙模様は、ヌマエビよりも細かく、
しかも、水槽飼育をすると消え易いものです。
ヌマエビの霙模様は大きく、消えにくい事から、
ヌマエビのほうが商品価値が高かったものと思われます。

ミゾレヌマエビは、額角が長い個体が多く、眼は斜め前を向くので、
顔の印象が、眼が真横に出るヌマエビと随分と異なります。
両者を混同しない為には、霙模様にとらわれ過ぎないことが大切。

学名・・・・・・・・Caridina leucosticta (Stimpson, 1860)
※この同じ学名で、ヌマエビParatya compressaが紹介される事が常態化しているので要注意

分布・・・・・黒潮のルート上の沿岸に分布。
太平洋側は千葉県、東京湾。日本海側は、通常は新潟近辺まで。山形県でも記録があるよう。

生息環境・・・・流れのゆるい中〜下流域。感潮域のやや上に多い印象。
脚が細いので、遡上能力には欠けるようで、大きな堰は超えられないよう。
岸の草が垂れて、水中に浸かった場所などに群れる。
後ろに“ヌマエビ”という名が付きますが、沼では世代交代できない種類で、
海に近い川で暮らすエビ。

体長・・・・・・3cm前後。雌が大きく、4cm近くなる。
体形・・・・腰の曲がりの強い、エビらしい体形。額角長の差が激しい。

眼の角度・長さ・・・・眼は斜め前を向き、眼柄は太い。
飛び出し具合は中程度。雌の大型個体は、眼の角度が幾分開く。
ミナミヌマエビ・シナヌマエビ類あたりと、眼の感じは似る。

鼻先が長く、眼が斜め前向き、体は長い。
多くの人に「ミゾレヌマエビ」として記憶されてしまうヌマエビは、
眼がほぼ真横に出る。
後述する外肢の有無も違い、模様も違うので、区別自体は容易です。

色彩・・・・若い個体と雄は透明。大型の雌は、色合いが豊富。

雌の色合いは個体差や色彩変異といった固定されたものではなく、同一個体内でも大きく変わる。
この種類を少ない枚数の写真で紹介するのは無理なので、こちらを参照下さい⇒色彩の色々

模様・・・・雌雄に共通で特徴的な模様が、眼から下がる涙が流れたような模様。
そして、それが下に達してから、斜め後ろへ短く跳ね上がる模様。
この2つがセットで見られる事が多いです。

雌の抱卵個体には、抱卵部分にも特徴的な模様が出ます。

卵の上を4つの「〜〜〜〜」が走ります。
このように、横に並ぶ波線を持つ種類は他に居ないので、
極めて容易に本種を判別できます。

 

産卵形態・・・小卵型。両側回遊種。孵化したゾエア幼生の発育には海水が必要。
おすすめリンク⇒ミゾレヌマエビの繁殖日記【BREEDING LIFE】

・・・・・・・付着藻類、付着微小生物、生き物の死骸や落ち葉、植物の腐りかかった部分など。

繁殖期・・・低温期以外。

寿命・・・2年半〜3年は充分可能。ヒーターで水温を保つとより長生きする。

性格・・・・極めておとなしい。
ただ、スジエビやテナガエビからの攻撃を回避する術には長けているようで、
複数匹のスジエビとの混泳でも捕食されない事が多い。
ヌマエビParatya compressaの場合は、脱皮ごとにスジエビに捕食されてしまったのとは大きく異なる。
ヒラテテナガエビのような、やや食性が付着生物へ寄っていて、
捕獲が下手なエビであれば、数年間も混泳が可能であった。
ミゾレヌマエビの生息地には、大きなヌマチチブなどの各種ハゼ類が多い上に、
テナガエビも大量に生息するので、これらからの回避は、日常の行動であって、
それが長けているのは、当然とも思える。

遊泳能力・・・オスの追尾遊泳は非常に激しいが、すぐに終わる。あまり泳ぎまわらない種類に思う。
遡上能力・・・遡上能力は低めで、水槽からの脱出で干乾びる確率は低い。(蓋が要らないほど)

識別ポイント・・・・・・・模様が独特なので、まず間違いません。
淡水エビを正基準標本や論文と比較する分類学者の「同定」の場合には、
標本に色斑が残っておらず、論文にも詳細な色柄の記述が無い為に、
識別には額角や棘等しか使えませんが、
模様がはっきり出ている生きたエビでは、固有の模様を見比べるのが簡単です。
「色や模様は使えない」は、この分類学の事情であって、
「模様を見たら間違えてしまう」という意味ではないので要注意です。(世界が違います)
勘違いしている例が非常に多く、多くの方が「顕微鏡で額角を見なければならないので無理だ」と、
エビの識別は簡単に諦められてしまうか、主観でテキトウに呼ばれるのが“常識”になってしまっています。
『色や模様は使えない』は、普通に考えても「アルコール浸けの標本の事」です。
きわめて当然なのですが、世間一般には、生きたエビの事だと思い込まれています。

額角には、
『額角を見ずとも簡単に見分けられる種類は、額角も個性的で、
額角を見なければ難しいのかなと思うような容姿の似た種類ほど、額角もそっくり』
という現実があります。⇒参照参照
1.西日本のヌカエビ
2.ヌマエビ
3.ミゾレヌマエビ
4.ミナミヌマエビ
の4種は、どれも額角が長く、どれも頭にまで棘が並ぶ種類で、種類間違いの多さでは四天王です。
額角のみを見て、色や模様を見ない事が大きな原因です。
ミゾレヌマエビの模様は固有性が極めて高いので、
模様をちらりとでも見ていれば、簡単に回避できます。

よく間違われる種類・・・よく知られていないので、他種へ分散吸収され易いです。⇒参照
・若い個体やオスは、体形や透明度のみを見て「スジエビ」とされる混同が多い傾向です。⇒参照

スジエビとヌマエビ類は背腸の特徴でも簡単に見分けられます
食性と消化管の違いは明確。透明なら尚更よく見えるので、おすすめです。

スジエビの「逆さハの字」との違い

スジエビの逆さハの字は、眼を通らない。
ミゾレヌマエビは、眼から始まる。

そもそも、スジエビはテナガエビ科なので、以下のようにハサミ脚が長いです。

※スジエビはテナガエビ科であるという認識は意外なほど薄く、
しばしば、各種ヌマエビ類との混同の場に登場します。

一方、ヌマエビ科のハサミ脚は、毛束という小さなブラシ状。

口元に小さな手がある程度です。
顎脚より短いほどです。

・雌の地味な個体が、「ミナミヌマエビ」と混同される事が多い。
模様の違いと共に、前側角部の棘の有無をチェックすると簡単。

ミゾレヌマエビの頬の部分には棘がありません。ミナミヌマエビやシナヌマエビ類の多くは棘が出る。

・ヌマエビをミゾレヌマエビとするため、本種がヌマエビとされるのが通常の誤まり(後述)。
・赤くなった雌は「ヒメヌマエビ」とされてしまう誤まりも多い。

同じヒメヌマエビ属ですが、赤いからと云ってヒメヌマエビではありません。⇒参照1参照2

特に注意!
古くからの慣習で、ヌマエビParatya compressaの販売名は“ミゾレヌマエビ”である。⇒参照
Caridina leucostictaというヒメヌマエビ属ミゾレヌマエビの学名まで付けられて紹介されるほどに取り違えは深刻。
「ミゾレヌマエビはタンクメイトとしてアクアリウムでも利用される」と書かれているのは誤まりで、
本当のミゾレヌマエビは歴史的にも一般に流通していないのが普通。
自然の川に縁が無い場合、姿すら見たことがない人の方が多いのが普通。
アクアリウム用に市販されるのは、古くからヌマエビであり、
多くの人がミゾレヌマエビと思ってヌマエビを飼っている。
この種類間違いを頭に植え付けられると、淡水エビの識別に大きな支障が生じるので、
事実はきちんと知っておくのが大事。

ヌカエビの亜種相手であったヌマエビParatya compressa(写真)は、
“ミゾレヌマエビ”という商品名で売られる事が古くからの慣習ではあるが、
ミゾレヌマエビの学名を付けて紹介する書籍が出版されるに至っては、やりすぎ感が否めない。
あくまで、値札に書く商品名であり、“販売水槽名”と云っても良いようなもの(中のエビはなんでも良い)。

模様の傾向に重なる部分が少ないので、簡単に区別できます。

ヌマエビParatya compressaの外肢

ヌマエビの歩脚の付け根には外肢が生えているので、ルーペやマクロ撮影を行なえば容易に区別できます。
ただ、「ミゾレヌマエビ」という擦り込みをされているので、確認をする気も起きないというのが現状のよう。
古くからエビを飼っている(買っている)多くの人にとっては、「ミゾレヌマエビに決まっている」ので、
決まっているものを、わざわざ確認しないわけです。
※青い矢印は腹肢(遊泳肢)から伸びた外肢です。これはミゾレヌマエビにもあります。

ミゾレヌマエビCaridina leucostictaの歩脚の付け根⇒参照

ミゾレヌマエビの歩脚には外肢が生えていません。腹肢から伸びる一本のみが見えます。

外肢の無い種類には眼上棘も有りません。
●ヒメヌマエビ属⇒外肢が無い。眼上棘が無い。眼が斜め前に出る。ヤマト、トゲナシ、ヒメ、ミゾレ。
●ヌマエビ属⇒外肢が有る。眼上棘が有る。眼が真横に出る。ヌマ、ヌカ。
(カワリヌマエビ属も斜め前。ミナミヌマエビ+中国原産の亜種群)

利用・・・・・目立った利用はされていない印象。その為に周知も低いのだと考えられる。
古くからアクアリウムで飼育されているのはヌマエビParatya compressa。
一般的な情報では、名前と容姿を取り違えているのが普通。
一般大衆の間で常識的に“ミゾレヌマエビ”と呼ばれている情報は、まずヌマエビについての評価。

考えられる減少理由・・・・
生活排水の流入。農薬・化学物質の流入。肉食性外来魚の移入増殖。

要注意ポイント・・・・・・・・・・
・兎にも角にも、アクアリウムで御馴染みの“ミゾレヌマエビ”は本種ではなく、ヌマエビである事。

ヌマエビParatya compressaは、金点や白点の目立つ、赤茶色の模様の綺麗なエビなのです。
「ヌマエビは綺麗」なだけなのですが、種名が地味過ぎて、姿とマッチしないようで、
商品になると、ヌマエビが“ミゾレヌマエビ”となり、
雑誌や飼育書等では、ミゾレヌマエビが“ヌマエビ”として紹介されてしまうのが普通。

種類の周知の障壁・・・・・・・・・
1.淡水エビ全般に対して、一部の博物館等から一般向けに出されるWeb情報に、
「額角を顕微鏡で見なければ不可能」、
「識別に模様は使えない、参考にならない」
「どれも酷似していて見分けは困難」など、
大衆の興味を削ぎ、識別をあきらめさせる、誤まった情報の流布が多過ぎる事が第一に上げられる。
これらの注意点は、標本瓶の中の白化したエビに対しての手法を勘違いしたもの。
しかし、一般においては、ヌマエビ類に対して、額角も見ず、模様も見ずに、
雰囲気で種名を断定する習慣として定着している。⇒参照
世の中の九割以上が勘違いしているものと思われます。⇒参照2

2.ヌマエビが“ミゾレヌマエビ”という販売名で周知され切っている事。
雑誌や飼育書でも商品確立の高いヌマエビを、
聞こえの良い商品名“ミゾレヌマエビ”として紹介するため、他種が全体にずれた図鑑となっている。
※ヌマエビ・ヌカエビ・ミゾレヌマエビの3種は、混同・混乱がひどいので、
一度、標準和名から離れて、種類の違いを正確に理解してから戻ってくるのがベスト。
・沼や湖に居ないのがヌマエビ。沼や湖に居るのがヌカエビ。
・ミゾレ模様が目立たないのがミゾレヌマエビ。ミゾレ模様がクッキリ大きいのがヌマエビ。
などなど、種名から連想しても、事実とは逆である事が多く、無駄です。⇒標準和名から離れれば簡単

3.日本のWeb上では、“透明”で、“腰の曲がりが強い”という特徴を持つ多くのエビが、
全てスジエビとされる為、特徴が合致するミゾレヌマエビは、「スジエビ」として処理される例が多い。⇒参照

懸念・不安・・・・・
ミゾレヌマエビの近縁種は、南方のアジア沿岸に広く分布している。
これらが“本物のミゾレヌマエビ”として輸入される可能性は高いと思われる。
欧米諸国には大卵型のCaridina simoni simoniがスリランカから輸入されているよう。

 

2011/05/12 


2011/05/12 更新


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