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日本産淡水エビ図鑑

ヌカエビ

標準和名・・・・・ヌカエビ
1994年〜2007年まで、分類の見直し・変更のため、暫定名称「ヌマエビ北部−中部群」。⇒参照
「糠蝦」はアミのことを指し、いずれも小さく細かくたくさん浮遊するエビのことを指している印象。
学名・・・・・・・・Paratya improvisa(未確認)
ヌマエビParatya compressaとは別種と確認され、Paratya compressa improvisaから変更されたよう。⇒参照

分布・・・・・青森県から近畿、山陰地方まで広く分布。(東北・関東限定のエビではない)⇒参照

左が現在の分布図(10タイプほどの地域変異を一つの種とした場合。旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型)
右が額角の棘のみでヌマエビとヌカエビを別亜種としていた時代の分布図。境目は当然混凄が見られた。
西日本ではヌマエビの種内分化・ヌマエビ大卵型と呼ばれていたが、それもヌカエビ。⇒参照
(別種としての詳細な分布が調査されると、もっと南へ広がる可能性あり)

古くからヌカエビとヌマエビを識別するのに用いられて来た、額角上の鋸歯が頭部にまであるか無いかは、
頭部にまでギザギザが並ぶ旧ヌマエビ大卵型が遺伝子的にヌカエビと確認されたので識別には使えない。
頭にまで鋸歯が並ぶ=ヌマエビではなく、西日本のヌカエビには頭にまでギザギザが及ぶ。
逆に言うと、同じ額角を持っていても、ヌマエビとヌカエビいう別種がいるということ。

ヌマエビとヌカエビ。ヌマエビは古くから観賞用に“ミゾレヌマエビ”という名で流通。
派手な色彩なので見分けは容易。
亜種ではなく別種になったが、同属なので体形・外肢・眼上棘など共通点は多い。
模様の派生も共通性が高い。

生息環境・・・・水質の良好な水域であれば渓流部から感潮域まで幅広く分布。
中卵型の陸封種なので、溜め池や沼、湖などにも生息できる。
魚が居ない環境であれば昼間でも川底に広がっている。
水草のない環境でも、堆積した落ち葉の中などに潜んでいる事も多い。
西日本のヌマエビ大卵型Paratya compressa compressa(large egg type)もヌカエビである事が確認されたので、
ヌマエビとは亜種ではなく別種となり、ヌマエビは沼に生息しないのに“ヌマエビ”となった事に注意が必要。
隔離された典型的な低地の沼に棲むのはヌカエビ。ヌマエビは小卵型で降海が必要な為、沼では繁殖できない。

元亜種のヌマエビ。海と隔絶された湖沼では世代交代できない為、河川のみに生息。種名がほぼ意味をなさない。

体長・・・・・・3cm前後。密集飼育では小型化する。自然下ではもっと大型の個体が居る可能性大。
体形・・・・腰の曲がりの強い、エビらしい体形。眼が180度開き、眼柄も長いので離れ目感が強い。

色彩・・・・すりガラス的な黄土色を中心に、大型メスでは茶色や濃緑色など。青や紺色の時もある。

体色の変異というよりは、一時的な変化に近い印象。一匹でも成長や脱皮ごとに変わります。
(殊更に色彩変異が多いといって、色柄を忌み嫌う必要はありません。そういう生き物なだけです。
博物館などでは、やたらとエビの色彩を無意味なものとして攻撃の対象とする風潮がありますが、
標本瓶の中のエビの死骸は褪色して白くなるという分類学上の事情を勘違いした因習であって、
生きた個体の識別に使えない、あるいは使うなというのは、明らかな自然科学からの逸脱行為)

模様・・・・胸の横に葛飾北斎の『波裏富士』の富士山と大波のような模様がセットで配置されている。⇒参照

・・・・・・・付着藻類、付着微小生物、生き物の死骸や落ち葉、植物の腐りかかった部分など。

産卵形態・・・中卵型(浮遊幼生で孵化するが、降海せずに稚エビとなる)

幼生の発育に塩分は不要。純淡水の陸封種。
水系ごとに独自の進化をし、各系統で遺伝子が違う事が知られている。
孵化する段階も違い、完全に逆さまで浮遊するタイプから、ほぼ稚エビで着底に近い段階まで様々。

小卵型に近い小ささのゾエアであった場合でも海水は不要なので要注意。


浮遊幼生が強力な外部フィルターに吸い込まれない水槽では、なんら問題無く様々な大きさの子エビ達が見られる。

繁殖期・・・低温期以外。
世代交代・・・・大型の個体は、産卵を終えた夏に死んでいく率が高い印象。全部は死なず一部は残る。
寿命・・・2年半〜3年は充分可能。

性格・・・・淡水エビの中ではほぼ最弱。極めておとなしく、のんびりした性格。
生息地で網を前に出すと、自分から乗って来て、網の汚れを食べ始めるようなエビ。
魚との混泳水槽では知らない間に消えている事が多い。
ブラックバスやブルーギル、カダヤシなどの外来魚の良い餌となってしまっている可能性が高いと思われる。
遊泳能力・・・オスの追尾遊泳は早いが、普段はふわふわとしたホバリングが中心。
遡上能力・・・遡上能力は低めで、水槽からの脱出で干乾びる確率は低い。(蓋が要らないほど)

識別ポイント・・・・・・・詳しくはこちら⇒【ヌカエビの見分け方
外肢の確認(眼上棘でも可)。

各歩脚の付け根から細い外肢が生えている。眼の付け根の甲羅に眼上棘がある。
ほぼ真横に開いた離れ眼

目が横へ飛び出しているため、スジエビの子供だと思われてしまうことが非常に多い。
第1第2胸脚の長さや構造、使い方の違いで簡単に見分けられる。
『波裏富士』模様。この3点が有効。

淡水エビを標本や論文と比較する場合には、色斑が残っておらず、識別には額角等が重要視されるが、
模様がはっきり出ている生きたエビでは意味が薄いばかりか、種類の識別を誤まる最大の原因になり兼ねない。
特にヌカエビの西日本型は、つい最近までヌマエビとされており、遺伝子比較によって、ようやくヌカエビに納まった。
つまり額角等ではヌマエビと西日本のヌカエビの見分けは極めて困難、あるいは不可能だったということになる。
他種でも、額角以外で簡単に見分けられる種類は額角も似ておらず、容姿が似ている種類は額角も似ている。⇒参照
西日本のヌカエビ、ヌマエビ、ミゾレヌマエビ、ミナミヌマエビの4種がそれにあたり、どれも額角が長く、頭にまで棘が並ぶ。
他に見分け易い部分がたくさんある生きたエビでは、殊更に額角を重視せずとも識別に難儀することはない。

よく間違われる種類・・・体形や透明度、眼の離れ具合が似ている為、スジエビとの混同が多い。
関東・東北では、移入されて急増している外来種シナヌマエビやコウライヌマエビなどとの混同も多い。
参照⇒【スジエビとヌカエビの見分け方】テナガエビ科とヌマエビ科なので識別は本来なら容易
参照⇒【ヌカエビとカワリヌマエビ属外来個体群(商品名ミナミヌマエビ)の見分け方】今後増える誤認
参照⇒【スジエビとヌカエビ・良く似た写真集】実物大ではない世界だと、高度な混同が起きる事がある。
参照⇒【スジエビとヌカエビを背腸の特徴で見分ける】食性と消化管の違いは明確。透明なら尚更見える。

※意外な事に思われるかもしれないが、ヌマエビとヌカエビは一般レベルでは当初からきちんと見分けられている。
それは色彩や模様を観賞するアクアリストにとっては、別種にしか思えないからである。
分類上で液浸して脱色した白化標本のみでの識別だと両種の識別は困難となり、別種を亜種や同種としてしまうだけで、
よく言われる「亜種で識別は困難」は、生きたエビ相手の一般やアクアリストには見掛けない。
ただ、残念な事に、多くのアクアリストにとって、ヌマエビは“ミゾレヌマエビ”という名前での認識である。
古くからの慣習で、ヌマエビの販売名は“ミゾレヌマエビ”である。⇒参照
Caridina leucostictaというヒメヌマエビ属ミゾレヌマエビの学名まで付けられて紹介されるほどに取り違えは深刻。
Web上の百科辞典等でも「ミゾレヌマエビはタンクメイトとしてアクアリウムでも利用される」と書かれている事が多いが、
本当のミゾレヌマエビは歴史的にも一般に流通していないのが普通で、姿すら見たことがない人の方が多い。
市販されるのは、“販売名のミゾレヌマエビ”=ヌマエビであり、ミゾレヌマエビの説明としては明らかな誤まりである。

ヌカエビの亜種相手であったヌマエビParatya compressa(写真)は、
“ミゾレヌマエビ”という商品名で売られる事が古くからの慣習ではあるが、
ミゾレヌマエビの学名を付けて紹介する書籍が出版されるに至っては、やりすぎ感が否めない。
外肢や眼上棘の確認で容易に分かる間違いである。
ヌマエビという名前であるが小卵型・両側回遊種で沼には棲まない。(西日本で沼に棲むヌマエビは頭に棘のあるヌカエビ)

利用・・・・・
・各地の大きな湖では食用に漁がされてきたが、最近は減少傾向。休耕田を利用した養殖が増加傾向。
・農薬や化学物質に敏感なので、毒性検査によく使われている。
検査結果に地域差や耐性の差が生じないよう、常時繁殖させ続けた系統で実験されている。
ヌカエビが水槽でも繁殖できる種類である事は、この方向からも疑う余地が無い。
・観賞用では、メダカ程度の魚と60cm以上の水槽で水草を多く植栽していれば、
浮遊ゾエアの生存が保たれ、累代繁殖が可能。
外部濾過では浮遊ゾエアも除去される可能性が高いので、スポンジフィルターや底面濾過を使用する。
殊更に弱いエビではないが、剛健でもなく、突然に白化して死んでいくことがあるので、
常に幼生が浮いているような状態である事が大切で、寿命以内で殖え続けないと絶えてしまう。

考えられる減少理由・・・・
生活排水の流入。農薬・化学物質の流入。肉食性外来魚の移入増殖。湧水の減少。溜め池の埋めたて。

要注意ポイント・以前の認識との変更点など・・・・・・・・・・
・ヌマエビとは亜種ではなく別種であることが確認された。
・東北・関東だけのエビではなく、西日本のヌマエビ大卵型Paratya compressa compressa(large egg type)もヌカエビ。
・額角上の歯が頭胸甲上にも有る個体と無い個体があり、ヌマエビとヌカエビの区別には使えない。⇒参照
・ゾエア幼生で孵化するが小卵型ではない。塩分耐性は低い可能性が大きいので、間違って塩分を入れない。

種類の周知の障壁・・・・・・・・・
・博物館等から一般向けに出される情報に、「額角を顕微鏡で見なければ不可能」、
「識別に模様は使えない」、「酷似していて見分けは困難」など、
興味を削ぎ、識別をあきらめさせる、後ろ向きな情報の流布が多過ぎる事が第一に上げられる。
標本瓶の中の白化したエビに対しての手法を勘違いした情報の流布がひどく、その為、一般においては、
ヌマエビ類に対して、額角も見ず、模様も見ずに雰囲気で断定する習慣が常態化してしまっている。⇒参照
・過去に亜種とされていたヌマエビが“ミゾレヌマエビ”という販売名で誤まって周知され、
雑誌や飼育書でも商品確立の高いこれを中心に紹介し、他種が全体にずれた図鑑となっている影響。
おなじく、商品確立の高い“ミナミヌマエビ”(正体は輸入外来種シナヌマエビやコウライヌマエビ)の、
商品価値を高める為か、ヌカエビの産卵形態を小卵型で海水が必要、繁殖は困難と説く歴史も長い。
淡水で繁殖できるヌマエビ科は“ミナミヌマエビだけ”という認識が普通になってしまっている。
・Web上で交わされる情報交換では“透明”“腰の曲がりが強い”“眼が離れている”という特徴を持つ多くのエビが、
全てスジエビと誤審される為、全特徴が合致するヌカエビはスジエビとして処理される例が多い。⇒参照
・ヌマエビとは亜種ではなく別種であり、新種発見以上の周知活動が必要だが、これが極めて足らない。
ヌカエビといえば「ヌマエビの亜種」で、「額角上の眼窩より後方に歯がないのがヌカエビで・・・」、
「ヌマエビとは酷似していて色柄では識別不可能」といった一連の誤まりが全く払拭されていない。
・西日本にも生息しているという認識が一般に全くないに等しい。
・各所で語られる情報が滅茶苦茶で、一種類の生き物としての体をなしていない。⇒参照

懸念・不安・・・・・
・「ヌマエビの亜種」という一段低い認識の下で、地域個体群が消滅して行く可能性(特に西日本)。
・外来カワリヌマエビ属との競合で追いやられ、入れ替わってしまう可能性。
・休耕田を利用した養殖が行われているが、種苗の移動と浮遊幼生の流出で、地域性が失われる可能性。

 

参照⇒【淡水エビ各種の写真館・エビギャラリー】ヌカエビの項目

 

 

※ヌカエビに対する現在の個人的知見を図鑑的言い回しで書いてみたもの。

2010/09/23 


2010/09/26 更新
2010/12/27 更新


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